ロバート・キャンベルは顔をしかめた。
名簿に載っていたのは、自分の宿敵ヴァイザー
その他にも、ブレイカーズ、悪徳商会、そしてあの裏の殺し屋組織。
さらには鴉、案山子といった凶悪犯。
犯罪者のオールスターズがこの場に呼ばれているのだ。
「やれやれ、酷いことをするな『革命狂い』」
思わず舌打ちをする。これだけ悪人を呼んでおいて、自分の仲間は一人もいないのだ。
強いて言うなら日本の警察官で何回か一緒に仕事をしたことがある榊だが、彼は榊のことがあまり好きではなかった。
「どうにも彼は頼りにならない。警察官でありながら、案山子に憧れているなんて、私には理解できない。まだ探偵連中のほうがましだ」
榊とロバートの違いはその正義の心。彼の心は依然として燃え続けている。


なぜ、ロバートがここまで正義感の強い男になったのか。
「やはり、父の影響でしょうね」
彼の父親も優秀なFBI捜査官だった。
ロバートが7歳の時のことだった。
彼は父が大事にしている高級な皿を割ってしまった。
父に怒られることを恐れたロバートは、とっさに飼っていたロアルドという犬のせいにした。
もちろん、7歳の浅い考えなど父にはすぐ見抜かれ、強く顔面をひっぱたかれた。
その時、父はこう言ったのだ。
「私が怒ったのはお前が皿を割ったことじゃない。お前が嘘をついたことに怒っているのだ」
よくある、ベタな話だがこの時ロバートの心に炎が灯った。正義の炎だ。
彼は自分が嘘をついたことを恥じ、自分も父のような正義の味方―捜査官になる、と固く決意したのだ。
しかし、父親は殺された。ロバートの父は優秀すぎたのだ。
彼は上層部とある組織に繋がりがあることを知ってしまった。普通の人間なら、そこで命の危険を感じで引き下がっただろう。
だが、ロバートの父親はさらに踏み込んだ。その組織を白日の下に晒し、断罪しようとした。
そして、彼は組織の刺客によって殺された。
「ここにいるんだろ、ヴァイザー。」
ロバートの顔が獰猛に歪む。ハンサムでハリウッドの俳優のような顔立ち、既婚者にも関わらず、捜査局の中で一定の女性ファンを獲得しているロバートだが、この瞬間の彼の顔を見たら、全員悲鳴をあげて逃げ出すだろう。
逃げ出していない女性が一人いたとしたら、それは彼の妻だ。

「苦労したんだぜ。親父と同じ失敗をしないように、じっくりじっくり探したさ。お前に辿り着くまで、なげえ時間がかかった」
次第に口調も荒くなるロバート。
彼は認めたがらないが、ロバートは父親を遥かに超える優秀な捜査官だ。
裏の殺し屋組織、悪徳商会、ブレイカーズの全容を明らかにし、幹部クラスにいたっては名前や顔、性格までおおよそ掴んでいる。
あの『革命狂い』にしても、ある程度の情報を掴んでいるのだ。
もっとも、上層部の圧力によって世間に好評されず、警察の中でもタブーとされたが。
鴉と案山子についても彼はあともう少しで把握できたはずだった。
おそらくこの殺し合いに招かれなければ、数ヶ月の間に解明できた。
「まあこれだけ調べたわりには、父のように刺客は来なかったが」
舐められてるんだろうな、とロバートはため息をつく。
「来てくれたらことは単純なんだぜ、ヴァイザー。俺がお前を返り討ちにして死刑台にしょっ引けばいいんだからよ」

そのための訓練は積んできた。奴の強さは充分分かっているが、負けるつもりはない。
「いいぜ、ここで決着つけようじゃねえかヴァイザー。ついでにお前の仲間もみんな拘束してやるよ。餓鬼だろうと容赦しねえぜ、俺は」

とりあえず、洞窟を目指そう。悪人ならば逮捕し、一般市民なら保護。


「ああ、ついでにこんな首輪もさっさとはずして、『革命狂い』も捕まえるか。私はテロリストも大嫌いだからな」



やあ、ようこそ僕の庭へ。
僕の名前はリヴェイラ。邪神だよ。
君の名前は?
ああ、ごめん。喋ろうと思っても無理だよね。
今僕の魔術で口が開けないもんね。っていうか動けないないもんね。
ははは、そんなににらまないでよ、嬉しくなってきちゃうじゃないか。
ああ、勘違いしないでね。君に睨まれたのが嬉しいわけじゃないよ。
可愛い子供ならともかく、君みたいなおっさんに睨まれても気持ち悪いだけだよ。
僕が嬉しかったのは、怒ってる君の顔をこれから恐怖と絶望で塗りつぶすのが楽しみだったからさ。
ああ、もっと怒ったね。いいよ、その顔すごくいい。
でも、むかつくから死ね。

おっと、悪いねえ。つい右腕を千切り取っちゃったよ。うわー、血がいっぱい出てるねえ。
これだけ血を流したら、きっと君失血で死んじゃうね。どんまいどんまい、運がなかったよ。
いきなり僕に出会うなんて君も不運だね。
まあ、この洞窟に入ったことが君の失敗だったね。

君すごいね、顔色一つ変えないんだ。痛みを感じてないのかな?
いやー、たいしたもんだよ本当ー。
そうだね、君が失血死するまで僕の話を聞いてくれない。人間と喋るの久しぶりなんだ、僕。
ああ、気まぐれで君の体に悪戯するからよろしく。
僕はね、自分がいつ生まれたのか分からないんだ。気がついたら魔界にいて、邪神だった。
で、邪神として僕は大暴れしたわけ。
魔界の一国を滅ばしたり、戯れで人間界に行って適当な大陸を沈めたりしてたんだけど、ちょっとやりすぎてね。
他の神に封印されちゃったんだ。今から10万年前かな?
いやー、まああれはしょうがないと思うんだ。
当時の僕ってほら、なんていうか慢心状態っていうか、「敗北を知りたい」ってドヤ顔で言っちゃってたみたいな。
すっごい調子にのってたんだ。
本気出したらいつでも世界滅ぼせたしね。
でまあ、その結果他の神に封印されて長い眠りについたんだ。
あ、今度は右足千切るね。なるべくゆっくり筋繊維一本一本丁寧に壊すから、いい悲鳴を聞かせてね。

わお、まじで君痛覚ないの?近頃の人間ってみんなそうなの?
まあいいや、でさ、つい最近蘇ったわけ。
ディウスだったかな、そう名乗った小僧がさ、僕を封印から解き放ったんだ。
まあその後はディウスを見守る守り神として、魔界で楽しく暮らしてたのさ。
適当に魔王軍の何人かと遊んだりしてね。
そしたらこの殺し合いだよ、もうね、ふざけてるよね。
いや、僕も封印される前はこういうのちょくちょく開催してたから、あんまり強く言えないけどさ。
あ、鼻削ぐのはさすがに痛かった?それともそろそろ意識が朦朧としてきたのかな?
できれば、もうちょっと生きてて欲しいんだけど。

さて、いよいよ本題だ。僕はこの殺し合いでどう動くべきか。
最初はディウスも合わせて、全員さっさと殺して帰ろうかと思ったんだけど、ちょっと違うかなって思ってさ。
ほら、僕って邪神じゃん?神が人間ばっかりの殺し合いで本気出すってどうかなって思ってさ。
いや、地上では僕の力は数千分の一に落ちるから、瞬殺は無理だけどね。
ここが魔界だったら一撃で全部終わらせれるんだけど。ああ、その目、本気にしてないな!
罰として小腸見せてもらうね。

へえ、こんなの中に着てたんだ。硬い服だねえ、これなら僕のパンチくらいなら防げるんじゃない?
あ、ごめん破いちゃった。
まあ、それでね。僕はこの殺し合いで悪を育てることにしたんだ。
僕本人は率先して殺し回ったりはしない。ただ、常に悪が有利になるように立ち回って、正義側の人間がなるべく苦しむように細工をしまくる。
裏方に回るのさ。邪神らしくね。

さて、ここで提案だ。名も無き生贄くん。君はここで死にたいかい?
こんなところで死んで満足かい?
助かりたいだろう?なあ、そうだろ?
ここまで痛みを我慢した報酬だ。君のその体、治してやろうか?
別に僕に忠誠を誓う必要もない。そんなのは、魔王みたいな格下がやらせることだ。
ただ、悪になってくれればいい。この殺し合いで悪として振舞ってくれればいいんだ。
そうだ、さらにサービスとして君の願いを叶えてやろう。
首輪を外せ、とかはちょっとズルするみたいで嫌だけど。
……復讐を手伝え、でもいい。
……愛すべき人にもう一度会いたい、でもいい。
さあ、僕に縋れ。僕に甘えろ。僕を信じろ!死の淵に立たされて、君は何を望むんだい!?

「そうですね。では、私の願いを一つ。……人間を、正義を舐めんなよ、死ねや糞餓鬼」
「残念だよ、愚かな人間さん」

リヴェイラの手刀がロバートの首に触れる瞬間、彼は奥歯を強く噛み締めた。
カチリ、と小さな音が聞こえ、洞窟内は爆炎に包まれた。

ロバート・キャンベルは邪神を巻き添えにこの世を去った。


「ふう、ひどい目にあったな、『私』」
草原を歩く、中年のハンサムな男がいた。
彼の名はロバート・キャンベル。
FBI捜査官で、先ほど邪神に殺される前に自爆した男である。

「まあこれに命拾いしたな」
彼がポッケから取り出したのは、一本のサバイバルナイフ。
これはただのナイフではない。
その名前は『サバイバルナイフ・裂』
「斬った相手を分裂させるナイフ……か。まさか、こんなのがあるなんてな」
このナイフに斬られた人間は『二人』になる。
そう説明書に書いてあった。
三回しか使用できないが、最初は性能を信じていなかったロバートだが、F-1にある洞窟の前まで来た時、嫌な予感がしたのだ。
長年の経験から生まれる勘というやつだが、この時彼はこの洞窟に何かがいると感じ取った。
この時、彼の脳裏に浮かんだのは二つの選択肢だった。
一つは洞窟の中の危険な相手を無力化するために中に侵入する。
もう一つは洞窟の中に入らず、軍事要塞跡へ向かう。
普段なら思い悩まず即座に行動するロバートだが、この非常事態では僅かな判断ミスは命取りになる。
僅かに考え込んだロバートが取った手段とは、自分を二人にすることだった。

ナイフで小指を僅かに斬った結果、確かに自分は二人になった。
互いに名前や誕生日、妻のほくろの位置を言い合い、本人であることを確認すると、自分(ロバートA)は洞窟に入らず、灯台へ向かって歩き、もう一人の自分(ロバートB)は洞窟へと入っていった。
なお、バックは分裂しなかったため、二人の長い討論の末、ナイフと基本支給品はロバートAが、ロバートBは支給された超小型爆弾を歯に仕込み、同じく支給された防弾チョッキを着込んで洞窟内へ入っていった。
ちなみに鞄はロバートAが持った。
そして、しばらくした後、ロバートBの記憶が頭の中に流れてきた。
どうやら、洞窟の中にいた怪物になすすべもなく甚振られ、最後は自爆したらしい。
我ながら情けない死に様だ。
どうやらどちらかが死んだ場合、もう一方に記憶が戻ってくる仕組みのようだ。
当然、リヴェイラよって行われた凄惨な拷問の痛みも体感したのだが、ロバートの表情に変化は無かった。
「しかし、『私』の犠牲は無駄にはしません。『私』のおかげでずいぶん情報が手に入った」
洞窟の中をしばらく進んだロバートBは、リヴェイラを発見した。
しかし、彼(彼女?)が何かを呟いた途端、ロバートBは動けなくなった。
「おそらくあれが『魔法』か……。やっかいな能力だが発動の前に何かを呟いていた―『呪文』というやつか。だったら、奴が『呪文』を唱える前に遠距離から狙撃するなりなんなりで対処は可能」
そして、動けなくなったロバートBは一方的に甚振られることになった。
「私の腕をたやすく千切ったあの怪力は驚異だな。接近戦は不利……か」
やっぱ狙撃かな、とロバートは思う。
500メートルくらい離れて狙撃すれば、勝てるだろ。
むしろそれに対処出来る奴がいるとは思えない。さすがにそんな奴を倒すのは『骨が折れる』。
「しかし、私を拘束している間、奴の顔からわずかに汗が流れていた。発汗機能は人間と変わらない。あの『魔法』も体力を消耗するようだな。ふむ、突ける穴はいくらでもある」
そしてなにより、とロバートの目が鋭く輝いた。
「あいつが自分が封印された話をした際、僅かに顔の表情がためらった。『神々に封印された』。これは奴を攻略するヒントになるかもしれんな」
邪神リヴェイラ。能力は驚異的、おそらくまだ明かしてない力をいくつも持っているだろう。
先ほどの自爆攻撃でもおそらく生きている。そう思わせるほどの威圧感を感じた。
だが、決して無敵ではない。
「その前にヴァイザーだ。弱っているはずのリヴェイラよりあいつのほうが危険だ」
第一方針はヴァイザーを探して捕らえる。依然変わらずだ。
「なあリヴェイラ。お前は悪の味方をするといったな。けどよ、お前が味方する悪がこの島にいつまでものさばってるとは限らないぞ」
すでにロバートは決めていた。邪神には、人間の法律は適用されない。
彼は、悪人はなるべく殺さず、一緒に脱出して法の裁きを受けさせるつもりだ。
しかし、リヴェイラはこの場で殺すつもりだった。
FBI捜査官ロバート・キャンベルは軍事要塞跡に向かって進む。

【E―2 草原/深夜】

【ロバート・キャンベル】
状態:健康
装備:サバイバルナイフ・裂(使用回数:残り2回)
道具:基本支給品
[思考・状況]
基本思考:ヴァイザーの逮捕
1:軍事要塞跡へ向かう。
2:悪人は見つけ次第逮捕。
3:リヴェイラは殺す。ディウスも警戒。
※このロワに参加している悪人や探偵達の顔と名前、性格を知っています。



「ふー、びっくりした」
自分が甚振っていた男が突如爆発した。
その結果、洞窟は崩れ、リヴェイラは生き埋めになった。
なんとか這い出した彼(彼女?)は、月を眺める。
「あー、なんか萎えた。しばらくここで休憩しよっと」
月に映える美しい体には、ほとんど傷は無かった。



【F―1 洞窟の外/深夜】

【リヴェイラ】
状態:ダメージ(小)(回復中)、少しテンションダウン
装備:なし
道具:不明
[思考・状況]
基本思考:邪神として振舞う。
1:悪人は支援。善人は拷問した末に、悪に改宗させる。
※ロバート・キャンベルの名前を知りました。
※リヴェイラのバックや支給品、ロバートBの死体、防弾チョッキも全て燃え尽きました。
※洞窟の一部は崩落しました。



【サバイバルナイフ・裂】
斬った相手を『分裂』させるナイフ。使用回数は三回で、使い切るとただのナイフになる。
『分裂』した対象は、持ち物までは分裂せず、どちらかの手元に残る。

【小型爆弾】
ブレイカーズの科学者、藤堂兇次郎 が作った超小型爆弾。歯の裏側や、指の隙間に仕込めるほどの小ささだが、威力は半径100メートルを焼き尽くし、学校一つを半壊させるほどの威力を持つ。

【防弾チョッキ】
普通の防弾チョッキ。ショットガン撃たれると結構痛いくらいの防御力。

025.殺し屋二人とどうしようもない悪党(戦闘員) 投下順で読む 027.You should be SARTRE than that
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GAME START リヴェイラ 邪神、歓ぶ

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最終更新:2015年07月12日 02:26