火輪珠美には師匠と呼び、慕っていた女が居た。
複数の怪人や幹部を相手にたった一人で無双する程に強く、戦闘面に限ればどのヒーローよりも高い実力を有すると称されていた最強の戦士。
その強さゆえに様々な組織から命を狙われていたが、どんな者が相手でもその須らくを返り討ちにしてしまう。
そんな彼女が命を落とした戦場は、実力に見合わないほど小規模で。
けれども、師匠が命を散らすにはこれ以上なく映える最高の祭り舞台。
彼女一人であれば余裕で切り抜けられる場面であったが、それでも師匠は弟子の未来を選んだ。

「なんでアンタが死んで、あたしが生きンだよ。どうしてアンタが死んだ瞬間に力が湧き上がるんだよッ!
 まったく世の中、本当にままならねェことばかりだなァ、オイ―――アンタもそう思うだろ、ブレイカーズの大幹部さんよォッ!」

珠美の感情に呼応するように、極大の花火が爆ぜる。
それは師匠が死んだ哀しみゆえか。師匠が殺される原因を作った自分の弱さに対する怒りゆえか。
もしも自分がいなければ、師匠が死ぬことはなかっただろう。彼女は珠美を庇い、その結果として命を散らせたのだから。

「貴様、何者だ?」

今の珠美は喧嘩に明け暮れていた荒くれ者とは少しばかり纏う雰囲気が違い。
鬼神の如き威力で放たれた爆炎は、怪人の右腕を跡形もなく消し飛ばすほどに強力無比。
ゆえに途轍もない力を秘める新たな戦士に、何者だと敵は問うた。

『ほう、お前は花火が好きなのか。それなら、お前がヒーローになったら名前はボンバーガールだな』
『そんなべらぼうにダサい名前を名乗りたかねーよ。それに、あたしはヒーローなんてガラじゃねーっつの』
『どうだか。意外とお前みたいなヤツが次の世代を担うヒーローになると思うよ、私は』

珠美は数瞬だけ、過去のやりとりを思い返す。
それは特にこれといった特徴のない、どこにでもある普通のやり取り。
当時の珠美はヒーローになるつもりなんて毛頭なかったし、ボンバーガールという名前も恰好悪いと思っていた。
だというのに。
そんな他愛のない会話が今ではとても懐かしく―――そして、その名が誇らしく感じられる。

「耳かっぽじって聞きやがれ。そして地獄で親玉様に報告しろや。
 あたしの名は―――ボンバーガール。ヒーローでもなんでもねェけど、テメェの都合であんたを血祭りにあげてやらァッ!」

ゆえに自分を残して逝った師匠まで届くように―――珠美は大きな声を張り上げて吼える。
同時に放たれるは、極大の花火。
空高く打ち上げられた手向けの花は、怪人の肉体を飲み込み、壮大な鎮魂歌を伴って爆ぜた。
果たしてこの花火を、師匠の元まで届いただろうか?
今の珠美の視界は少しぼやけているし、何故か頬に冷たい液体が伝っているが。

「もう一緒に祭りは出来ねェけどよ、これからはあたしがあんたの場所まで花火打ち上げてやっから」

――――だからこれから暫く力を借してくれ、師匠。
特にやりたいことはない。これからも多分、今までと同じように他人と喧嘩をするだけだろう。
だけど、少しだけ。ほんの少しだけ、他人を守ってやってもいいと思った。
別に正義感や罪悪感があるわけじゃない。ただ少し自分が師匠に命を救われて、考えが変わっただけだ。


戦の直後、不快な声が再び流れる。
そいつはまるであたし達を嘲笑うように死者の名前を呼び始めた。
茜ヶ久保一ヴァイザー、剣正一、ルピナス――――。

この短時間で死んだ奴らは案外多いらしい。
りんご飴のお気に入りが数人死んでるのが気になるトコだが―――ま、あいつなら自力でなんとかするだろ。
あいつは宿敵が死んだからって暴走したり極端に意気消沈するようなタマじゃねえ。むしろそれでこそ燃えるとか、強敵を倒したヤツの面を拝もうとするとか、そういうタイプだと思う。
幻術を操る敵にあたしやヴァイザーがバタバタ死んでく夢を見せられてもピンピンして倒しちまったこともあるし、それに何よりあたしが認めた益荒男だ。あいつにそういう心配をするだけ無駄ってもんだろ。
それよか心配すべきはリクの方か。あいつもあいつで正義感だけは強いから暴走するこたぁねえと思うけど、仲間の正一が死んだとなると多少は堪えるはずだ。
精神操作や幻術系の能力が全く効かないりんご飴と違って、リクは毎回餌食になって人質にされることもある始末。そういや、以前JGOEのメンバーが戦死した時は怒りが有頂天で暴走してた気がする。
ま、あいつがどうにかなった時はあたしやりんご飴が殴って目を覚ましてやりゃいいか。それにヒーローヒーローうるさいあいつなら自力でなんとかする可能性も微粒子レベルくらいはあるだろ。
そんなことよか今ヤバいのは―――

「ルピナスがそんな簡単に死ぬだなんて、ワールドオーダーも悪い冗談を言いますね。
 彼女の物語はそう簡単に終わりませんよ。私と博士とルピナス―――皆で物語を歩むって約束したこと、覚えてますから」

亦紅の精神状態だ。
放送が終わってから、どうにも調子がおかしい。
言葉に覇気がないし、ついさっきまで希望に燃えていた瞳に生気がない。態度だけは取り繕って平気な素振りをしてるが、強がりだってバレバレだぜ。
どうして無理して強がるのか――なんて、そんな野暮なこたぁ聞かねェ。どうせこいつはあたし達に心配させたくないとか、そんなことを考えてるに違いない。

「落ち着け、亦紅」

遠山が亦紅を静止しようと声を掛けるが、こいつもこいつで覇気が感じられない。
相手がガキだからあまり強く言えないのか? 悲しんでる亦紅を見るのが辛いのか?
そうだとしたら、バカバカしいこった。
師匠曰く、間違った道に進もうとするガキを止めるのも大人の役割だぜ。悲しんで現実から目を逸らしてるヤツに柔らかい物腰で落ち着けなんて言っても何も変わりゃしねーよ。

「ワールドオーダーの言葉は現実で、冗談なんかじゃないぜ。死んでないヤツの名前呼んでも、実は生きてましたーってバレた時にあいつが実は大したことない嘘吐きだって思われるだけだろ。
 最初にテメェの能力誇示するようなヤツが、そんなリスク負ってまで死んだヤツの発表程度で嘘吐くかよ」

「やめろ、珠美。亦紅はまだ少女だ」
「それがどうしたよ。相手がガキだからって手加減出来るほど、あたしは出来た人間じゃないってわかんだろ。
 おい、亦紅。あんたが今言ってることは、ダチへの侮辱と変わらないぜ」

「侮辱? デタラメ言わないでください。ルピナスのことを知らないボンガルさんが、どうしてそんなことわかるんですかッ!」

「ああ、あたしは全くこれっぽっちも知らねェよ。以前にりんご飴からルピナスって名前は聞いたことあるけど、精々そんくらいだ。
 だけどよ、ダチはあんたに何かを託して逝ったかもしれない。勇気を振り絞って悲劇に立ち向かったかもしれないんだぜ?
 そんなダチを見捨てて、あんた独りでくだらねえ幻想に逃げるっていうのかよッ!」

あたしはルピナスのことあまり知らないけどよ、あんたのダチはそういうヤツなんだろ。
それならどうして、そんな悲観的なことばかり考えてんだよ。
こいつはまだガキだし、ダチが死んで泣くなって言うつもりはない。涙ならいくらでも受け止めてやるさ。
でもよ―――ダチの死から目を逸らして冗談呼ばわりするのはダメだろ。
それはダチの存在を否定してるようなモンだ。どんな生き様をしても、どれだけ胸を張って最期を迎えても冗談なんて安い言葉で一蹴されるだなんて、死んだヤツが報われないだろうがよ。
本当にダチを信じてるなら、あんたがやるべきこたぁ主人公が死んで自慰に耽る悲劇のヒロインごっこなんかじゃないはずだぜ。

そんなことにも気付けないくらい悪夢にうなされてるなら―――この火輪珠美様が直々にあんたの目を醒ましてやらなきゃなァッ!

「幻想なんかじゃ、ない。ルピナスは生きてます。今もどこかで、笑っているはずです。彼女はこんなところで死んだら、いけないんだッ!」
「いいや、ルピナスは死んだ。これは冗談なんかじゃねえ、事実だ」

現実から目を背けても、意味なんざない。一時的に幻想に逃げても、死体でも見て真実を知らしめられた時に後悔するだけだ。
真実を突き付けられて反論しようとする亦紅の口を強引に塞いで、あたしは言葉を続ける。

「だけどよ―――身体は死んでも、想いは生きてるはずだぜ。
 それなのに、ダチのあんたがその想いまで殺してどうするんだよ。誰もあいつの遺志を受け継ぐヤツがいないんじゃ、本当に無駄死じゃねーか。
 本当にルピナスを大切なダチだと思ってるなら、想いの一つや二つ背負ってやれよ。何が原因で散ったのかは知らねーが、戦死したヤツの最期を冗談で済ませるなんて最大級の侮辱だって言ってるんだよ」

「想いを背負えなんて、無茶言わないでくださいッ! 私はルピナスみたいに優しくないし、元は殺し屋なんです。
 そんな私が誰かを守ろだなんて、博士やルピナスを守ろうだなんて―――それ自体が間違えだった。感情さえなければこんな哀しい想いをしなくても「―――ざッけんな!」

ふざけたことを言い始めた亦紅の頬を、すべて言い終える前に引っ叩く。
亦紅と遠山は呆然とした表情であたしを眺めてるが、そんなことで引き下がるつもりはない。

「感情があるからあたしとあんたは拳を交えることが出来たんだろうがッ!
 それによォ、あんたに感情がなかったら、誰がルピナスの死を哀しんでやれるんだよ。
 誰があいつの想いを継いでやれるんだよッ! ミルとかいう博士は、誰が守るんだッ!」

「それは、わからないです。わからないけど、でも、この感情を――溢れ出る哀しみを私はどうすればいいんですかッ!」

「もう幻想に逃げるのはやめにしようや。何も独りで無茶してルピナスの想い全部を背負え、なんて言わないからよ。
 あんた独りで辛いならあたしが居る。遠山もいる。だから分けろよ、あたし達は拳で語り合った仲だろ? 一緒に強敵に立ち向かった仲間(ダチ)だろッ!
 哀しいことがあって泣きたいなら、あんたの涙くらいあたしが受け止めてやっからよ。だから独りで溜め込むなよ。泣きたいくらい悔しくて、哀しいなら、豪快に泣け。
 互いに感情を隠すことなく接するのがダチって――」

そこまで言い掛けて―――

「拳で、語り合った、仲間(ダチ)、ですか」

気付けば大粒の涙を流して泣いている亦紅がいた。
気取らず、強がらないこいつの姿は、どことなく可愛いと思わないでもない。

「おう、それでいいんだよ。ガキが強がって泣くのを我慢したりするもんじゃないぜ」

涙は明日の為に流すもんで、恥ずかしがるようなモンじゃない。
生き物は泣いて成長するもんだ。悔し涙、嬉し涙、感涙、号泣―――種類は色々あるけど、そのどれもが欠かせない、らしい。
いつしかあたしにそんなコトを言ってた師匠(バカ)は死んじまったけど、その魂は今もあたしの中に生きている。
そして、きっと、いつか―――

「ハッ。あんたの気持ち、今になってようやくわかった気がするぜ」

泣き喚く亦紅の頭をぐりぐり撫で回しつつ、そんなことを独りごちる。
師匠が弟子を好きになることに、理由なんざない。
当時は意味不明だった師匠の言葉が、ようやくわかった。あのバカはこんな気持ちであたしを見てたのか。

「亦紅、ちょっと手出せ」
「こうですか?」

亦紅の手に、あたしの手を重ねる。
思いのほか小さな掌に、やっぱりこいつは強がっていてもガキなんだと実感する。
こんなコトをするのは生まれて初めてだが、亦紅が相手なら悪かない。むしろ最高だ。

「あたしのはでかいぜ。気合い入れて受け止めろよ、亦紅―――ッ!」


「すごく、大きいです……。って何するんですかボンガルさん!」

目を覚ました私の第一声は、そんな他愛のないツッコミだった。
掌が少し暖かい。私が起きたことに気付いたのか、未だに手を握っていたボンガルさんがさっと手を退ける。

「お、おうっ! いい夢見れたかい、亦紅」
「巫女服の人が私の手をぎゅっとしてる夢を見ました」
「それは夢じゃないぞ、亦紅。吸血鬼部分だけ死んだという言葉から珠美はお前の心配をしたのか、薬草を使ったり、ずっと手を握って「言うなっつったろバカ!」
「何故恥じる。亦紅を弟子にすると言っていたが、下心でもあったのか?」

そんなことを真顔で話す遠山さん。
悪気はないんだろうけど、それはかなり危うい発言だと思いますよ。
それにしてもこの人、たまに天然でさらっとすごいことを言うから油断出来ない。
っていうかボンガルさんの弟子になるなんて初耳ですよ!

「そんなんじゃねーよバカ! ただ、こういうのはちょいとあたしのキャラに合ってないっつーか!
 つーかだっ! そんなことよりっ! 亦紅、あんたちょいと線香花火を作るように念じてみろ」

そう言い終えて、すごい勢いで水を飲み始めるボンガルさん。
とりあえず指示に従い線香花火を思い浮かべ、それを現実に創造するよう念じてみる。
力の説明書は手元にないし、力の条件、使用法、詳細なんかまったく知らない。
それでも、魂で理解出来る。もしかしたら、私は既にボンガルさんの弟子になっていたのかもしれない。

刹那――小さな線香花火が、私たちの絆を祝福するように気高く咲き誇っていた。

「綺麗な線香花火だ。戦場に咲く花とは、かくも美しきものなのか」
「契約成功。これで亦紅はあたしの弟子だぜ。ある条件を満たすまでは全力の花火は無理だが、ないよかマシだろ」
 つーか遠山、あんたはポエマーか何かか」

弟子、か。さっきボンガルさんに言った夢の内容は当然、嘘だ。
本当はルピナスと少しだけ会話をする夢を見ていた。夢の中でもルピナスは相変わらずで、私に物語の続きと彼女の想いを託してくれた。

これから続く物語の結末はわからない。
この先に更なる悲劇が待ち受けているかもしれない。博士を守り切れるという保証もない。
だけども―――自分がハッピーエンドを目指さなくちゃ、幸せな結末なんて訪れるハズはない。
だから私はルピナスに託された物語を紡いで、ハッピーエンドを目指すんだ。この先にどんな困難が待ち受けていても、遠山さんとボンガルさんが一緒なら絶対に切り抜けられると信じているから。

線香花火を眺めて感心している遠山さんと、どこか勝ち誇ったような表情をしているボンガルさんに、私は問いを投げかける。

「遠山さん、ボンガルさん―――私と一緒に幸福な結末(ハッピーエンド)を目指してくれますか?」
「たりめぇだろ。平和になんざ興味ないけど、アンタが望むならアタシはいつまでも一緒に戦ってやるよ。
 だから遠慮せずに地獄の果てだろうが、なんだろうが、好きに連れてけや。あたしはあんたの師匠なんだぜ」

―――亦紅は見込みのある女だ。こいつは口だけの臆病者(ざこ)と違って、強敵が相手でも堂々と対峙出来る勇気の持ち主だ。
遠山や亦紅本人は知らないだろうけどよ、森茂と対峙してまともに戦えたヒーローってあまり居ないんだぜ。どいつもこいつも本人を目の前にするとビビって逃げ帰るらしい。
口では人を助けるとか平和の為とか言ってる連中が、敵前逃亡なんて笑える話だ。田外甲二とかいう才能だけのヘタレはジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンの癖に小便漏らして帰ってきて、ありゃもう最高のギャグだったな。
ま、あいつはりんご飴にオカマのレッテル貼ってタイマン挑んだ癖に惨敗してるようなヤツだから一種のギャグキャラみたいなもんか。
あたしにはヒーローってのがよくわかんねえけど、天才だとか神童って、そんなくだらねえ御託を並べてデカく見せようとしてる田外甲二(かませいぬ)よかりんご飴や亦紅、遠山の方があたし的にゃよっぽどヒーローしてるぜ。

「ま、そういうこったから改めてよろしく頼むぜ。ヒーロー見習い」

宇宙人、機人、悪党、怪人、魔王、邪神。
上等じゃねえか。弟子が望むならそいつら全員ブッ倒してあのガキと祭りの主催者を殴り飛ばしてやるよ。
元からあたしは祭りを愉しむつもりなんだ。それに弟子の頼みが加わっても負担になるわきゃねーだろ。

―――少女の覚悟を見届けたヒーローは、ニッと笑って拳を突き出す。

「無論だ。亦紅、お前が未来を望むのならば―――俺はお前の未来を切り拓く剣となろう」

現代最強であり続けることを望んだ剣術家は、少女の未来を切り拓くことを誓った。
その願いは容易に叶うものではない。現に亦紅の親友、ルピナスを初め多くの犠牲者が出ている。
されど、その道が困難を極めるものであっても、不可能ではない。
そこに1%でも可能性があるのならば、それを無理矢理こじ開ければいい。可能性が無くとも、作り出せばいい。
今の自分には希望を灯した少女と肝の座った益荒女がいる。背中を預け、共に戦う仲間がいる。

ゆえに不可能という言葉は存在しない。そんな戯言は、己が剣で斬る為に存在するのだ―――ッ!
我ながらなんとも滅茶苦茶な理論だと苦笑したくなる気持ちを抑え、遠山も拳を突き出す。

「後はあんただけだぜ、亦紅」

「決まってるじゃないですか。ワールドオーダーが絶望の物語(バッドエンド)を作り出そうとしているなら、私はこの手で望む物語(ハッピーエンド)を切り拓きます。
 それは独りでは難しいことかもしれないけど、仲間と一緒なら、神や悪魔が相手でも戦えるはずですから」

遠山と珠美の顔を一瞬眺めた後、ぐっと力強く拳を突き出す。
そうして鳴り響くは、友情賛歌。この絶望的な状況でも諦めない三人が生み出した、勇気の音色。
これからも終わることがない無限の未来を心に抱き、少女は巨悪に立ち向かうことを改めて誓う。
気付けば亦紅の瞳には、希望の光が先よりも強く、凛と輝いていた。

「一本の矢で打破出来ない状況でも、互いに信じる者が束になればそれは忽ち強固な矢となり、どんな絶望をも撃ち抜く武器と成り得る。
 現に俺たちは三人の力で森茂を退けた。そして一度束ねられた矢が離れることは二度とない」

彼らが森茂に勝つことは出来たのは、三人の力が合わさった結果だ。
遠山が活路を見出し、亦紅の存在を肯定した。
亦紅が遠山の意志を継ぎ、森茂に決定打を加えた。
珠美が絶望的な状況をひっくり返し、亦紅に助力することで決定打を与えることに成功した。

「手を貸してくれるかとか、今更そんな水くせぇこと聞くなよ。嫌だと言われても勝手に追いかけるつもりだったぜ、あたしは」
「その通りだ。先のやり取りで珠美が仲間と言っていたのを、忘れたわけではあるまい」

皆の瞳に迷いはない。
この場にいる三人、その誰もが未来を見据え、幸福な結末(ハッピーエンド)を目指している。
ワールドオーダーに彼我の圧倒的な差を見せ付けられても、彼らの剣(こころ)は折れたりしない。
いや―――何度折れても、そこから不屈の精神で立ち上がることだろう。
サイパスに惨敗した遠山春奈が現代最強の剣術家として蘇ったように。
亦紅がルピナスの死を乗り越え、より一層決意を固めたように。
珠美に至っては、強者と出会うことで闘争心を燃え上がらせている程だ。

「三人でワールドオーダーぶっ飛ばして、祭りにでも行こうや。遠山の奢りでっ!」
「うわー。やけに遠山さんの奢りを強調しましたよ、この師匠」
「うむ。珠美は少々欲望に忠実すぎるな。亦紅はこんな下品な女にならないように」
「おい、丸聞こえだぜ。自称現代最強と自称元男!」
「自称ではない。俺は現代最強の剣術家だ。それを此度の戦で証明する」
「私も自称じゃないですよ。本気と書いてマジってやつです」
「いや、亦紅が元男だというのは俺も自称だとしか思えないのだが……」

皆の希望が未来を切り拓き、深淵の闇をも特大の花火で打ち砕くことが出来ると信じて三人は歩き始める。
天から見守る太陽が、亦紅たちを元気付けるように燦々と照り輝いていた。

【I-4 泉周辺/朝】
【亦紅】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、マインゴーシュ、風切、適当な量の丸太
[道具]:基本支給品一式、銀の食器セット
[思考・行動]
基本方針:ワールドオーダーを倒し、幸福な物語(ハッピーエンド)を目指す
1:博士を探す
2:サイパスら殺し屋組織を打破して過去の因縁と決着をつける
3:首輪を解除するための道具を探す。ただし本格的な解析は博士に頼みたい
※少しだけ花火を生み出すことが出来るようになりました

【遠山春奈】
[状態]:手首にダメージ(中)
[装備]:霞切
[道具]:基本支給品一式、ニンニク(10/10)、壱与の式神(残り1回)
[思考・行動]
基本方針:現代最強の剣術家として、未来を切り拓く
1:現代最強の剣術家であり続けたい
2:亦紅を保護する
3:サイパス、主催者とはいつか決着をつけ、借りを返す
4:亦紅の人探しに協力する
※亦紅が元男だということを未だに信じていません

【火輪珠美】
状態:ダメージ(中)全身火傷(小)能力消耗(中)
装備:なし
道具:基本支給品一式、ヒーロー雑誌、禁断の同人誌、適当な量の丸太
[思考・行動]
基本方針:祭りを愉しみつつ、亦紅の成長を見届ける
1:亦紅、遠山春奈としばらく一緒に行動。
2:祭りに乗っている強い参加者と戦いを愉しむ
3:祭りに乗っていない参加者なら協力してもいい
4:会場にいるほうの主催者をいつかぶっ倒す
※りんご飴をヒーローに勧誘していました
※亦紅に与えた能力が完全に開花する条件は珠美が死ぬことです


078.ミルファミリー壊滅!魔王襲来 投下順で読む 080.氷柱割
時系列順で読む 081.Night Lights
vsジョーカー 亦紅 Talking Head
遠山春奈
火輪珠美

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最終更新:2015年07月20日 01:40