料理のことでよくお世話になっています。
頭はよく切れるし、『変身』すれば一騎当千。
ハンターと並ぶ文武両道の見本だね。
たまに変なこと言うのが玉に傷だけど、部下の扱いも中々。
人望や統率能力は身内に優しいハンターのが上手いけどね。
ただ、彼女はハンターと違って冷徹そのものだ。
悪党に相応しい狡猾さを備え、飴と鞭を使い分けることにも長けている。
そして何より悪党商会の理念にも従順。
個人的にはああいう子が悪党商会を受け継いでくれると嬉しいかな。
それに彼女、もしかしたら幹部の中で一番強いかもしれないし。
元々はブレイカーズの人間だしね。
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宵闇に包まれていた世界は徐々に明るさを取り戻している。
夜明けの空に少しずつ光が灯る中、スーツ姿の女性は森付近の草原を歩いている。
女性は放送で伝えられた内容を脳内で咀嚼していた。
彼女の名は近藤・ジョーイ・恵理子。悪党商会幹部の一角を担う存在である。
(此処まで死体発見ならず…私も殺人に成功していない。
つまるところ運良く生存。やれやれ、これでは幹部の名が泣きますねー)
ふぅ、と溜め息を吐きながら内心そんなことを思う。
ここまで出会ってきた参加者は4人。
田外勇二。馴木沙奈。
大神官ミュートス。
ディウス。
うち三人は殺害に失敗。うち一人は殺害対象ではなく別離。
「6時間
ルールによる首輪爆破を避ける為、善悪のどちらでも無い参加者を一人殺害する」。
掲げた目標を達成出来ぬまま放送の時間を超えてしまったのだ。
(結構踏ん張って歩いたつもりだったんですが、まぁこんなこともありますかね)
尤も、彼女自身さほど悲観している訳ではない。
呼ばれた死者は24人。想像以上のペースだった。
聞き覚えの無い名。悪党商会のリストに記載されている名。巷で聞き覚えのある名。
たった6時間で、数多くの参加者が散っているのだ。
とはいえ、第一回放送を経てリミットが3時間にまで短縮されている。
死体を確認するまで、念のために参加者の殺害は行うべきだろう。
(それにしても…主水さん、お亡くなりになられたんですね)
内心でそう呟き、憂いを帯びたような表情を浮かべる
半田主水。自身と同じ悪党商会幹部の一人。
恵理子の姉は主水の妻であり、義理の兄に当たる。
そして悪党商会次期社長と目されていた二人の幹部の片割れである。
もう一人の候補は恵理子だ。社内における派閥争い一歩手前のいざこざも最早懐かしく感じられる。
(…はぁ、姉さん悲しむかな。夫婦仲、良かったみたいですからねー…)
再び溜め息を吐き、内心呟く。
主水はもう帰ってこない。姉は間違いなく悲しむだろう。
恵理子もまた、彼の死を悔やんでいた。
その実力は認めていたし、悪党商会の幹部に相応しい人物であると思っていた。
それに、主水は実姉の夫なのだ。
主水とは姉の家族を通じてプライベートでもある程度の交流を持っている。
そんな彼が死んだことに対し、少なからず悲しみを覚えていた。
(ま…安らかに眠って下さい、主水さん。次期社長は『私が』きっちり引き受けますので)
しかし、彼女の憂鬱な表情はすぐに不敵な笑みへと変わる。
主水が死んだ。そのことに関して悲しみを感じているのは確かである。
だが、あくまで重要なのは現状だ。少なくとも社長、ユキ、鵜院は生存している。
ならば目的を変える必要は無い。
悪党商会の理念を貫き通す。この会場で生存する。首輪の解除方法を探す。
それらを遂行する、ただそれだけだ。
一時の感傷を引き摺り続けるつもりはない。
感情を割り切るなど、彼女にとっては余りにも容易いことだった。
それに、彼が死んだことで悪党商会次期社長の座は自分に決まったも同然だ。
義兄が最期に遺してくれた「プレゼント」には感謝をしなくては。
恵理子はそう考えていた。
(あぁ、そういえば茜ヶ久保くんも呼ばれてましたね。まあ彼が死んだのは妥当でしょうけど)
因みに、幹部の名前はもう一人呼ばれている。
茜ヶ久保一。悪党商会きっての武闘派幹部。
組織で最も過激かつ残忍な性格であり、社長からも悪そのものと評されていた。
しかし幹部としては末席。所詮は鉄砲玉上がりであり、自らの能力を過信していた狂犬に過ぎない。
よって彼の死は大した損失ではないと判断した。
さて、生存者での要警戒対象はどうか。
まずはブレイカーズの
剣神龍次郎、大神官ミュートス。
彼らは一応保護対象なのだが、組織力で言えば悪党商会を上回る存在。
制御の面で困難。ブレイカーズもこちらを警戒しており、事実上の敵対関係だ。
現在は互いに牽制しつつ睨み合いの状態が続いているが、いつ戦争になってもおかしくはない。
それに、ミュートスはやはりこちらを強く敵視している。当然といえば当然ではあるが。
ミュートスとはブレイカーズ離反時から因縁があり、過去に何度も戦っているのだ。
ある意味腐れ縁のような関係と言えるのかもしれない。
とはいえ、ライバル意識があるというわけではない。
むしろ自分としてはこんな悪縁まっぴら御免である。
大首領共々始末して、とっとと面倒な因縁を終わらせたい所である。
そして、ヒーローのシルバースレイヤーとボンバーガール。
ナハト・リッターこそ散ったものの、彼らは変わらず殺し合いに反抗するだろう。
更に悪党商会を敵視している。彼らは警戒すべきだろう。
(そう言えば
りんご飴ちゃんも彼らと協力関係でしたね。
戦闘力こそシルバースレイヤーに劣りますが、あの子は何かと油断出来ませんからねー。
そういえば主水さんがあの子を男の娘メイドにしたいとか言ってたっけ)
ともかく、現状の確認はこんな所だろうか。
一先ず南方の町へと移動してくる参加者との接触を果たしたいものだが。
爆破までの猶予が三時間となれば、危険を承知で街へ向かうことも――――
瞬間。
突然の殺気。
一瞬の風切り音。
即座に回避行動を取る恵理子。
しかし、その強襲はまさに一瞬の出来事だった。
故に躱し切れず、投げナイフが命中した左肩より鮮血が噴き出した。
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アサシンとの接触で得られたものは無かった。
それどころか組織の有り方について踏み込まれ、隙を伺われた始末だ。
『彼女』のことも探られかけたが、受け流すことは出来た。
不快感を抱いてないと言えば嘘になる。
だが、その程度で判断を見誤ることはない。
思考と感情を割り切ってこその殺し屋なのだから。
しかし、先の放送で伝えられた事実には少なからず衝撃を与えられた。
ヴァイザー。
『組織』の鬼札として恐れられる最凶の殺し屋。
サイパスが育て上げた最高傑作とも言える狂人。
あの男と殺し合って生き延びた者など、それこそりんご飴のように“気に入られた”者くらいだ。
その名は裏社会で恐れられ、組織内の殺し屋達からも恐れられていた。
そんな逸材が、たったの6時間の内に命を落とした。
奴は“偶然の可能性”で殺せるような男ではない。
ヴァイザーは卓越した戦闘と暗殺の技術に加え、驚異的な殺気感知能力を持つ。
敵意、悪意、殺意――――――自身に向けられたそれらを即座に察知し、あらゆる攻撃を回避する技能。
例え遠方からの狙撃だろうと、完全な不意打ちだろうと、奴を傷付けることは不可能に近い。
奴を殺せるとすれば、アサシンのような最高峰の殺し屋。
あるいは、人智を超えた怪物の類い。
これほどの緊迫感を抱いたのは数十年振りだろう。
文字通り、自分が真の死地にいることを改めて認識したのだ。
(裏切り者の亦紅。遠山と呼ばれていたあの剣士。獣人の小僧。ケンショウ。アサシン。
敵は数多、人外の類いすら混ざっている…)
敵はいずれも油断ならぬ戦士揃い。
亦紅は『ルカ』の頃と比べれば日和っている。しかし腕そのものは衰えていない。
遠山と呼ばれた剣士は足を負傷させたが、仕損じたのは確かだ。
獣人の小僧も技量こそ未熟だったが、そのパワーと装甲は侮れない。
ケンショウは間違いなく強敵だ。あの年齢であれ程の体術と精神力を身に付けているのだから。
死をも恐れず突き進む武術家。殺し屋として引き入れたい程の逸材だ。
そして、アサシン。ヴァイザーと唯一互角に渡り合えるであろう実力を持つ『暗殺者』。
体術、技術、判断力、精神力――――――全てにおいて隙が無い。
現状で最も警戒すべき敵だ。
(敵を始末する…イヴァンとの合流を図る…骨の折れる任務だ)
問題は敵だけではない。幹部である
イヴァン・デ・ベルナルディのこともある。
イヴァンは殺し屋ではない為、暗殺や戦闘の技術は備えていない。
だが、それでも若くして死線をくぐり抜けている男だ。
そう簡単に死ぬ筈は無いが――――やはり彼との合流、そして危険因子の排除は徹底的に行うべきだろう。
バラッド、
アザレア、ピーターらとの合流も図るべきかもしれない。
思考と共に移動を続けていたサイパス。
彼の視界に、次第に草原の光景が映り始める。
森の出口へと辿り着いたようだ。
だが、サイパスは即座に木陰へと隠れる。
森の外部の草原で人の姿を見つけたのだ。
(…女か)
気配を殺し、木陰から覗き見る。
草原を歩いているのはスーツを身に纏った長身の女だ。
何か思考を重ねているようであり、不用心に歩いている風にさえ見える。
どうやらこちらの存在には気付いていないようだ。
暗殺者であるサイパスにとっての、好機。
ここで仕留める。
懐から取り出したのはサバイバルナイフ。
瞬時にナイフを構え、女の頭部へと狙いを定める。
牽制は必要ない――――この一撃で確実に仕留める。
瞬時に腕を振るう。
そして、凶刃が女の頭部目掛けて放たれた。
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銃弾は森の方角から飛んできた。
あの位置から投げナイフによる狙い撃ちをしたというのか。
左肩を負傷した恵理子はそんな思考を重ねる。
だが、今はそれよりも敵が優先事項だ。
苦痛を省みず、肩に刺さったナイフを引き抜き、即座に方向転換。
森の方角から姿を現したのは、漆黒の暴風――――サイパス・キルラ。
荒れ狂う嵐のように派手な動きと共に、凄まじいスピードで恵理子へと迫る。
恵理子は懐からイングラムを取り出そうとする。
しかし、サイパスは恵理子が銃器を取り出そうとする一瞬の隙を見逃さない。
隠し持っていた拳銃を瞬時に構え、早撃ちの如く発砲する。
「くッ…!」
恵理子が右腕を弾丸で貫かれ、怯んだ隙にサイパスは至近距離へと接近。
怯んだ恵理子の右手に握り締められたイングラムを裏拳で吹き飛ばす。
銃器を失い、接近戦へと持ち込まれた。
草原を転がっていくイングラムを回収する暇等無い。
恵理子は咄嗟に握り締めた左拳を放つも、サイパスはそれを右手を添えるように構えて受け流す。
直後、恵理子の腹部に強烈な衝撃が叩き込まれる。
サイパスが左手で掌打を放ったのだ。
がはっ、と声を漏らしながら恵理子の身体が吹き飛ばされた。
そのまま咽びながら草原に俯せに倒れる。
サイパスは再び銃を構え、草原に倒れ込む恵理子へと発砲。
しかし恵理子は咄嗟に地面を転がって銃弾を回避し、軽い身のこなしで立ち上がる。
「いたたた…おや?…あー、確か…『組織』の…サイパス・キルラさんですねー。
これはまた随分と大物に狙われてしまいました、怖い怖い」
立ち上がった恵理子は、銃を握るサイパスと相対する。
距離は10m程。その気になれば互いに一瞬で詰められる距離だろう。
戯けたような口調で軽口を叩く恵理子に対し、サイパスは無言を貫き通す。
「あぁ、自己紹介忘れちゃってた。私は悪党商会の近藤・ジョーイ・恵理子ですよー」
「……悪党商会…日本で活動している犯罪組織か」
「一応はそうですねえ。ただ、私達の方針に従うと貴方達はあくまで『保護対象』なんですよねー。
だから、この際だから見逃してくれませんかー?」
サイパスは口を開かない。
返答はその身から剥き出しにする殺気のみ。
やっぱりか、と言わんばかりに恵理子は肩をがっくりと落とす。
「やっぱり殺し屋は性に合いませんね。こう、会話が上手く続かないというか…」
そんな彼女の言葉を気に留めることも無く、サイパスは即座に銃を構えた。
冗談も軽口も通じない相手に恵理子は一瞬つまらない表情を浮かべる。
面倒なことになった。はぁ、と溜め息を吐いた後。
「ま、別にいいですけどね。命を狙われているのならば自衛するだけですし」
恵理子の表情は、次第に不敵な笑みへと変貌していく。
「余り使いたくなかったんですけど…『肩ならし』には丁度いい機会ですからねー。
折角なので、ちょっとばかし本気で喧嘩しちゃいましょう」
聖母の微笑とも、悪女の笑みとも取れるような表情。
不気味な気配を感じたサイパスは恵理子の行動を警戒し、様子見の体勢に入る。
無防備な体勢のまま笑みを浮かべる恵理子。
そして、彼女はゆっくりと両腕を動かした。
「トランスフォーム」
[Authentication Ready…]
恵理子が取ったのは往年のヒーローのようなポーズ。
直後に無機質な機械音が鳴り響き、恵理子の身体は眩き光に包まれる。
金色の輝きは、流動するかのように彼女の全身を包み込んでいく。
危機を察知したサイパスは咄嗟に発砲するも、弾丸は光によって弾かれる。
[Transform Completion]
サイパスにそれを止めることは出来ない。
それはまるで闇夜を裂く閃光の如く。
全身に迸るエネルギーと共に恵理子の肉体は変化を遂げていく。
彼女の切り札である『変身能力』が解き放たれる。
「さ、お見せしましょうかぁ」
ただの人間に過ぎなかった恵理子は、『金色の異人』へと姿を変える。
それは光の宇宙人にも、或いは正義を司るヒーローにすら見える異様な姿。
生粋の人間を素体に進化させた『改造人間』としての容貌。
仮面のような顔の下で不敵な笑みを浮かべ、待ち構えるように両腕を広げた。
「悪党商会幹部、『黄金の歓喜』の力を」
[Go! ―――――Golden Joy]
【H-5 草原(森の近辺)/朝】
【サイパス・キルラ】
[状態]:健康、疲労(小)
[装備]:S&W M10(3/6) 、サバイバルナイフ
[道具]:基本支給品一式、38スペシャル弾×18、ランダムアイテム0~1
[思考・行動]
基本方針:組織のメンバーを除く参加者を殺す
1:近藤・ジョーイ・恵理子を殺す。
2:亦紅、
遠山春奈との決着をつける
3:
新田拳正を殺す
4:イヴァンと合流して彼の指示に従う。バラッド、アザレア、ピーターとの合流も視野に入れる。
5:決して油断はしない。全力を以て敵を仕留める。
※F-4のどこかにサバイバルナイフが1本落ちてます
【近藤・ジョーイ・恵理子】
[状態]:変身中、胴体にダメージ(小)、左肩に刺傷(中)、右腕に銃創、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:イングラムの予備弾薬、ランダムアイテム0~3(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:悪党商会の理念に従って行動する
1:サイパス・キルラを殺す。
2:正義でも悪でもない参加者を一人殺害し、首輪の爆破を回避する。確実に死亡している死体を発見した場合は保留
3:首輪を外す手段を確保する
4:南の街へ移動してくる参加者を待つ
※改造人間です。詳しい能力、制限に関しては後の書き手さんにお任せします。
※『イングラムM10(22/32)』『サバイバルナイフ×1』はH-5 草原(森の近辺)に転がっています。
最終更新:2016年03月02日 17:40