からん、からん。
地面を二転三転した銀の刃が太陽光で煌めく。
赤黒く染められたソレは、命を刈り取る為の道具。
それを先程まで握っていた少年は、凶器に見合わないほどに華奢で――放っておけば折れてしまいそうな儚い雰囲気を漂わせていた。

「あはは。ボクなんかよりずっとバケモノだね」

掌を翳して己の命を摘み取ろうとする龍人に、クリスは笑う。
バケモノ。クリスが組織内でよく呼ばれていた名前だ。
クリスは圧倒的な強さを有するが、それゆえに誰もが彼を恐れる。
自分たちで少年の肉体を弄んでおきながら情けない話だが、組織内にクリスに匹敵する者は誰一人いなかったのだ。
そんなバケモノに関わろうとする者などいるはずがなく、友達と呼べる存在もいない。
組織が有する最恐の兵器。それがクリスの立ち位置だった。

「けれどまだ、諦めないよ。お姉ちゃんの為に、負けられない」

ゆらりと立ち上がって、二本目のサバイバルナイフを構える。
生憎とチェーンソーは一本しか支給されていない。弾き飛ばされた位置はそこまで遠くないけれど、呑気に拾っている暇はない。
右腕は高度な治療を施さなければ使い物になりそうにないけど――構わない。それでも戦うことは出来るのだから。

「くるなニンゲン。くるな……くるな、くるな、くるな」

満身創痍で立ち上がる少年に龍人が怯える。
雷が肉体を貫通した。
炎で炙られた。
負傷していた右腕に衝撃波が襲い、骨折した。
それでもまだ、クリスは生きている。
常人であればとっくに死んでいてもおかしくないが――――彼は人のまま人類を超越した者ゆえに。

「無理だよ。だって。だって、だって、だってっ!
 ボクは絶対、またお姉ちゃんに会うんだッ!」
「ぼくに近付くなぁぁぁぁッ!」

願望と悲鳴が重なり合う。
龍人はニンゲンがこわい。自分が襲われる前に殺そうと試みたが、相手が悪すぎた。
普通のニンゲンじゃない。バケモノでもない。理解不能な存在は、恐怖心を一層と引き立てる。
ゆえに一瞬だけ現実から逃げるように目を瞑って――サバイバルナイフを片手に駆けるニンゲンに魔術を放った。
これで相手が死んでも悪いのはニンゲンだ。さっきのニンゲンがあんなことをしなければここまでニンゲンを恐れることもなかったのだから、悪いのは自分じゃない。

対するクリスは、何も恐れていなかった。
自分を呑み込まんとする光線を一瞥して、ナイフを握り締める。
これまで幾つもの死線を乗り越えてきた。これまでどんな痛みにも耐えてきた。
すべては姉の為に。失った姉を取り戻す為に我慢を積み重ねてきた。
ゆえに光線程度で彼を止めることは出来ない。そうして一歩踏み出して

「――――間に合った」

黒髪の青年に抱かれていた。
クリスをひょいと抱えた青年は、そのまま光線の範囲外へ走り出す。

「えっと、お兄ちゃんは誰?」
「勇者だ。君を魔族の手から護りにきた」
「勇者?」

きょとんと首を傾げる少女。
その動作が妙に愛らしく、勇者の顔が少しだけ綻んだ。
魔術を躱すことが出来て良かったと、心の底から思う。

「わからないなら、そうだな。魔族を殺して平和を守る者だとでも思ってくれていい。
 ……それにしてもこの負傷、なかなか酷いな。今は怪我が痛むかもしれないが、後で必ず治癒するから少しだけ待っていてくれ」
「へ?」
「君も多少は戦えるようだが、今回ばかりは相手が悪い。
 それに君には姉がいるんだろ? 君が死んでしまえば姉は悲しむだろうし、二度と会うことも出来なくなる」

姉とまた会う。
少女はそう言った。きっとそれは誰かに言ったわけではなく、心の底からの叫び。
カウレスはその願いを、偶然にも聞いてしまった。
姉。その言葉は卑怯だとカウレスは思う。
彼は兄だ。かつて魔族に家族の殆どを奪われた勇者だ。
カウレスは大切なものを喪った時の哀しみを知っている。
今は復讐心に劣る気持ちだが、それでも兄は妹を失いたくないと思っている。

唯一の妹を守りぬくと誓い、これ以上奪われないと力を求めたというのは、建前だ。本心ではない。
それでも。魔族を滅ぼしたいと願う心以外の、唯一の肉親を失いたくないという気持ちもまた、彼の本心である。

「そういうことで僕が相手だ、魔族。二度とこの世界にいられないようにしてやる」

少女を下ろして、堂々と宣戦布告。
龍人を魔族だと決め付けた理由は単純。あの龍人が人間なわけないし、どう見ても魔族であるからだ。
勇者としての宿命と運命を決定づけられた自分がそう思うのだから間違いない。あれは魔族だ。
魔族が口を開こうとするが、弁解の余地を与えるつもりはない。

勇者は聖剣を構えようとして

「しまっ――」

思い切り吹き飛んだ。
それはもう、クリスがぽかんと口を開けるくらいにふっ飛ばされた。
しかも攻撃を喰らう直前に無手のまま剣を構えるような動作をしたものだから、受け身を取る暇もない。
幸いにも魔族の放った魔法は中級の風属性。普段の彼ならダメージはそれほど大きくないはずだが。

(結構効いたな。聖剣なしで魔族の相手をするのは、少し辛いか)

今のカウレスは聖剣に選ばれし勇者ではない。
聖剣は新たな持ち主を選び終えたのだ。カウレスが有していた勇者としての力は消え失せている。


「あああああああああああああ!!」

激痛に耐える勇者へ届いたのは耳を劈く不快音。それは咆哮というより悲鳴に近い。
見れば右目を抑えて絶叫する魔族が暴れていた。その姿は魔族というにはあまりにも無様で、相手が魔族でなければ哀れんでいたかもしれない。
されど、自分と敵対している相手は魔族。であれば同情する余地など微塵もない。

「お兄ちゃん、今のうちに!」

異世界では見たこともない摩訶不思議な物体を構えた少女がカウレスに指示をする。
それを見てカウレスは瞬時に理解した。あの魔族に攻撃を与え、隙を作ったのは少女だ。
仕組みはわからないが、あの鉄の塊が魔族に傷を負わせたのだろう。

「ああ、わかっているッ!」

カウレスは満面の笑みで応えると、無手で疾走する。
速度はなかなかだが、武器がなければあの魔族に有効打を与えることは不可能。
傍から見れば無謀な特攻だ。カウレス自身にも勝敗はわからない。
だがしかし、この機会を逃すわけにはいかない。戦いは出来る限り早く終わらせるに限るし、何よりこれは少女が勇気を振り絞って作ってくれた好機だ。それを見逃す勇者ではない。

「ruBilAcxEッ!」

それは幻か。それとも実体か。
カウレスの手元には、燦然と輝く光の剣が出現していた。
これぞカウレスが生み出した唯一無二の秘術。

「再び僕に力を貸してくれ、エクスカリバーッ!」

そうして一閃――――
横薙ぎに振るわれた剣が、魔族の胴を斬り裂き

「あ、がっ、あああああああああああああッ!」

魔族が血反吐をぶち撒けて倒れ伏した。
即殺するつもりで剣を振るったが、どうやら殺し損ねたようだ。出血こそ凄まじいが、腹を真っ二つに捌くには至らない。
被害者のようにガタガタと怯える魔族を一瞥して、うんざりとため息をつく。
普段の彼ならば激怒して叩き斬っていたかもしれないが、不思議と今は憎悪が薄らいでいる。

「呆れた生命力だ。だが安心しろ、すぐに殺してやる」

とても勇者の台詞とは思えない言葉を吐いて、再度剣を振るう。
迷いなく振り下ろされた剣はそのまま魔族の肉体に迫り

「※■×▲○■――――――!」

魔族が消えた。
標的を見失った剣は空振りに終わる。

「どういうことだ? まさかこの一瞬で逃「※■×▲○■――――――!」

回答。
魔族は逃げてなどいない。

上空から射出された漆黒の闇を眺めて、カウレスは咄嗟に魔術を行使する。
詠唱をしている暇はない。効力は劣るが、詠唱を破棄することで瞬時に光の防壁が生み出された。
今のカウレスが使うことの出来る、最硬度の防御魔術だ。
更にもう一度。同じ魔術を繰り返して、防壁を重ねる。
二重防壁。魔力の消費は著しいが、これで大抵の魔術は無力化出来る。
魔王戦までは出来る限り魔力の消費を抑えておきたいと考えていたが、そんな贅沢を言っていられる状況ではない。

(それにしてもこの暗黒魔術――まるで魔王じゃないか)

魔族の放つ殺気に満ちた闇は、魔王が扱うそれとよく似ている。
この凄まじい殺気は一般的な魔族の比ではない。直撃を受ければガルバイン暗黒騎士も一瞬で消し飛ぶだろう。

(まずい、防壁が――)

破られた。
闇がカウレスの防壁を突き破り、勇者ともども光を呑みこむ。



『人間』は恐ろしい生き物です。凶暴で、自分たちと異なる姿の生物に無条件で襲い掛かる性質を持っています。

かつて召使がそんなことを言っていた。
外の世界へ行こうとした愚か者へ向けられた言葉だ。
人間の恐ろしさを知らない当時のミロは返り討ちにする、下僕にすると意気込んでいたが――この短時間でそんなことは不可能だと思い知らされた。

「ニンゲンは、ころす。ころさないと、ころされる」

FBIは自分と異なる姿というだけで、悪党と決め付けて襲い掛かってきた。
勇者を名乗る男は、自分と異なる姿というだけで魔族と決め付けて襲い掛かってきた。
ミロ・ゴドゴラスⅤ世は龍王族だ。人間に害する魔族でなければ、悪党でもない。
生まれて一度も改造なんてされた覚えはないし、ここにくるまでは人間に害するような行動を起こしたわけでもないのだ。
それなのに。どうしてこうも理不尽に痛い目に遭わなければいけないのか。

「ころす。ころす、ころす、コロスコロスコロス殺す」

恐怖はやがて憎悪へ変わり。
勇者を殺したいと願ったミロは、気付けば本人も知らない未知の魔術を放っていた。
湧き上がる憎悪が。殺意が。ミロに流れる龍王の血を呼び覚ましたのだ。
戦いで負傷した肉体も徐々にではあるが、再生している。

その後すぐにあの場から去って、今に至る。新手がきてまた理不尽に襲われるのは、嫌だったからだ。
勇者と少年の生死はわからないが、きっと今頃死んだだろう。

「もう決めた。ニンゲン共を殺して、うちに帰ってやる」

もう下僕も作らないし、誰も信じない。
今はこの憎悪に任せてニンゲンを皆殺しにしてしまおう。
どうせあいつらは姿形が違うだけで襲ってくるのだから。
そして里に戻って、ニンゲンと関わらずに平和な日々を過ごすんだ。

【F-5 草原/朝】
【ミロ・ゴドゴラスV世】
[状態]:左目完全失明、右目軽傷、左腕損傷、右指数本喪失、ダメージ(極大)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、憎悪、再生中
[装備]:なし
[道具]:ランダムアイテム0~2(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:にんげんを皆殺しにしてうちにかえる
1:にんげんを殺す
[備考]
※悪党商会、ブレイカーズについての情報を知りました。

♂♀♂♀♂♀♂♀

あのまま戦い続けていれば、自分は間違いなく死んでいた。
彼はもうガルバインや暗黒騎士の比ではない。あれはもはや、魔王だ。
魔を統べる者が纏う覇気は微塵も感じられないが、絶大な威力の魔術は魔王に限りなく近い。
肉体の損傷や疲労が幸いして聖剣無くとも戦うことが出来たが、もしも彼が万全の状態であれば二人は今頃木っ端微塵になっていたかもしれない。
二重防壁で威力を軽減出来た今でも、それなりに肉体が痛むのだ。最後の暗黒魔術は本当に危なかった。

(魔王軍二人の死を喜んでいる場合ではない、か)

強敵の暗黒騎士やガルバインが死んだことで少しばかり気が抜けていたが、新たに遭遇した魔族に己の無力さを思い知らされた。
カウレスは決して弱いわけではない。多彩な魔術や優れた剣技を誇る彼は、参加者の中でもそれなりに強い部類に入るだろう。
だが、聖剣がなければ魔王や先の魔族を討伐することは非常に厳しい。それほどまでに今のカウレスと彼らでは絶望的な差が開いているのだ。

「ありがとうございました。えっと……」
「ああ、自己紹介がまだだったな。僕はカウレス・ランファルト。嘘だと思うなら名簿に載っているから確認するといいさ。
 ちなみにお兄ちゃんと呼んでもらっても構わない」
「お兄ちゃんはどうしてボクのことを助けようとしたの?」
「僕は勇者だからな。魔族に襲われている人を助けるのは当然だ。
 それに君は、なんというかその。僕の妹と歳が近いようで、それでちょっとね」

それでミリアを思い出したから――と言おうと思ったのだが、少女にじーっと見つめられて言い淀む。

「ま、まあアレさ。君のような少女まで襲うとは全く、魔族は許せないな!」
「ふぇ? あ、うん?」

きょとんと首を傾げる少女。
タイプはミリアと違うようだが、なんというか兄としての心が燻られる。
彼女が妹で、自分が兄なのだから当然といえば当然なのかもしれないが。

――落ち着けカウレス・ランファルト。これでは勇者が変な誤解をされかねない。

深呼吸。
すぅっと息を吸って吐くと、少しだけ落ち着いた。

「ともかく、だ。今後も僕が君を護る。勇者には幾つか使命があり、その一つが君のような子を護ることだからね。
 まずは総ての魔族を殺して、それから元の居場所へ帰る手段を探す。それをワールドオーダーが妨害するというのなら、彼も討伐しよう。
 もちろん君に魔王と戦えだなんて言わない。デメリットはないから安心してくれ」

「魔族や魔王ってなぁに?」
「さっき君を襲おうとしていた悪いやつ。ああいう人間離れした見た目の種族を魔族というんだ。
 魔王というのは、言葉通りその魔族の王様さ」

そう言い終えて、両手をぱん、と叩く。
クリスがびくっと驚いた。可愛い。

「これで君の回復は済んだと思う。痛みもなければ、骨折も治っただろ?」
「わ、ほんとだっ!」
「勇者は回復魔術もそれなりに扱えるのさ。ミリアと違って自分自身を回復出来ないのが欠点だけど。
 さて、僕も自己紹介をしたことだし君の名前を聞いてもいいかな」

「クリスだよ。ちなみにさっきお兄ちゃんが少女って言ってたけど、ボクはオトコノコだよ?」
「お、オトコノコかっ! そうかそうか、オトコノコか!
 ま、まあ僕も魔族を騙して暗殺する為に魔術で女となることがある。きっと君も何かの事情があって女装しているのだろう? そうに違いない、はっはっはっは!」
「うーん、事情なのかな? お姉ちゃんに近付きたくてこういう格好してるだけだよ?」
「君にとってお姉さんは、それほど大切な人なんだな。僕も亡き父親の――家族の影響を受けているから、その気持ちはよくわかる。笑ってしまって、悪かった」

「気にしてないからへーきだよっ。それよりお兄ちゃん、えっとその、魔術で女になるって?」
「うん? ああ、君には解らないか。つまりこういうことだ。noitCiFlaUxeSsnarT」

――――なんということだろうか。
中肉中背の黒髪野郎が高身長黒髪ロングのお姉さんに!
これまで有ったものが消え、なかったものがぼんっと自己主張している。
さらりさらりと風に揺れる美麗な黒髪は、さながら大和撫子のようである。※異世界人です
黒髪と異世界の服という独特な組み合わせはこれまたどこか変なようでいて、艶やかな雰囲気を見事に醸し出している。
つまりどう見ても美人なお姉さんです。本当にありがとうございました。

「わお。お兄ちゃんがおねーさんに!?」
「はっはっは。驚いたかな? 勇者ならばこんな魔術の一つや二つ、使えて当然だ」

目をキラキラと輝かせるクリスに、カウレスは自慢気に語る。
ちなみに勇者ならば出来て当然なんて大嘘だ。
魔族絶対殺すマンのカウレスもティッシュ片手にお盛んで健全な男子だった時期がある。この魔術はその際に興味本位で習得しただけである。
でもそんなことを言ったら絶対に引かれる。というか激しく格好悪い。だから勇者なら誰でも出来るとか意味不明な嘘をついてしまったわけだ。
もしもこれを他の勇者が聞いたら、さぞ頭が痛くなることだろう。下手をすれば勇者とは美少女にホイホイ変身するアレな性癖を持った人々だと誤解されかねない。
しかも習得した時期は聖剣に選ばれて勇者と化す前だったりする。要するに勇者側は完全に被害者である。

(……天にまします先代勇者達よ。ほんっとうにすいませんッ!)

とりあえず心の中で謝るカウレス。
なんか満面の笑みですっごいどす黒いオーラ纏ってる先代勇者が見えた気がするけど、きっと気のせいだろう。気のせいであってほしい。

「すごいすごーい。えっと、このおっぱいもホンモノかな?」
「もちろん。何なら触っ――ひゃっ!?」

一転攻勢!
先程までのドヤ顔――もとい、自信満々の態度はどこへやら。
勇者カウレスの顔は、素っ頓狂な声と共に、ちょっとだけ女のソレになっていたのだッ!
俗にいうおねショタである。だが元男だ!

「ほんとだぁ。やわらかーい」

そんなカウレスに目もくれず、もみもみと勇者の巨乳を独占するクリス。
彼の表情には一点の曇もない。当然ながらにやけてもない。
だけども手の動きは止まらない。それどころか次第に加速しているような気がする。

「あっ、のっ、クリ……く……ん! んん……っ!」

クリスに悪気はないのだろうが、流石に放置しておくわけにはいかない。
カウレスは気力を振り絞り、なんとか声を発することに成功した。
こんな姿を魔王に見られたら間違いなく笑われるだろう。それはムカつくからなんとかしたい――そう思えば意外と快感に抗えるものだとカウレスは内心、自分を褒め称える。

「あれ? お兄ちゃん?」

喘ぐ勇者に漸く気付いたのか。手を止めたクリスがカウレスの顔を眺めて、首を傾げる。

(故意ではない、か。本能に従ったのなら仕方ない。僕も勇者になる以前、女になった師匠を――ってそんなことを思い出している場合じゃない!)

「僕はまだ処女なんだ。優しくしてくれ」
「ふぇ?」
「……言葉を間違えた。胸から手を離してくれてありがとう。
 僕は触ってもいいと言おうとしたが、揉むのは、その、ほどほどにしてくれ」

再び深呼吸。息を整える。

「ところでクリスくん、君は姉と会いたいと言っていたけれど……巻き込まれているのか?」
「うーん、違うと思うよ。名簿に名前がないもん」
(ということは、姉がいる家に帰りたいということか)
「なるほど。よし。無事に君を姉の元へ届けるよ、約束だ」

魔王や魔族を殺しつつ、クリスを護る。
難易度は高いが、決して不可能なことではない。
それにミリアやオデットもいるのだ。彼らと合流できれば、多少は難易度が下がるだろう。
これでも一応、信用しているのだ。普段は憎悪に塗れているせいであまりそんなことを考えていなかったが、信頼出来る良き仲間である。

(こんな約束をしておきながら、自分だけ死ぬ可能性はあるけれど、僕が魔王や魔族と相討ちになったとしても、ミリアやオデットがいる。彼女たちがいれば、大丈夫だろう)

聖剣を失い、憎しみが和らいでいても、決して消え失せたわけではない。
魔族は殺す。魔王も殺す。なにがなんでも、たとえ自分が死んでも殺す。
あの剣に選ばれた時、カウレスは覚悟を決めたのだ。自分の身がどうなろうと魔王だけは殺す、と。

(肉体は……魔術の性質上、女の状態でも身体能力や力量は変わらない。とりあえずはこのままでいるか。
 僕にクリスくんの姉代わりが務まるとは思えないけれど)

不都合に感じれば、その際に戻ればいい。
この魔術は不可逆ではないし、魔力の消費も全くないのだ。

「改めてよろしく、クリスくん」
「うんっ。よろしくね、えっと」
「ああ、僕のことはお兄ちゃんでもおねーさんでもお姉ちゃんでも、なんと呼んでも構わないよ」
「よろしくね、おねーさん!」

こうして勇者と殺し屋は手を組んだ。
クリスが手を組んだ理由は至って単純。
彼の目的は優勝であり、無差別に誰かを襲うよりは護ってもらう方が都合が良いからである。

(それにこのおねーさん、ちょっとだけ気になる)

そして興味本位。
クリスはカウレスのような人間をあまり知らない。
摩訶不思議な魔術の数々は無垢な少年の心を惹きつけるには充分だった。

(とりあえず魔族を全滅させるまでは、あまり人を殺さないようにしようかな)

むやみに他者を殺して、カウレスと敵対するつもりはない。
それに今回の戦いでよくわかった。魔族は強い。
クリスが優勝するには、まず彼らを全滅させる必要があるのだ。
今は参加者を無差別に襲うのではなく、魔族を殺すことに全力を尽くすべきだとクリスは結論付けた。

【E-5 草原/朝】
【カウレス・ランファルト】
[状態]:ダメージ(大)、魔力消費(中)、女体化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み、カウレスに扱える武器はなし(銃器などが入っている可能性はあります))
[思考・行動]
基本方針:魔王を探しだして、倒す。
1:まずは聖剣を取り戻す。
2:魔王を倒すために危険人物でも勧誘。邪魔する奴は殺す。
3:ミリアやオデットとも合流したいが、あくまで魔王優先。
4:魔族は見つけ次第殺す。
5:クリスを護る。

※聖剣がないことで弱体化しています

【クリス】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、チェーンソー、レミントン・モデル95・ダブルデリンジャー(1/2)
[道具]:基本支給品一式、ティッシュ、41口径弾丸×8、ランダムアイテム1~5、首輪(佐野蓮)、首輪(ミュートス)
[思考・行動]
基本方針:優勝して自分が姉になる
1:とりあえずカウレスと同行。魔族を殺す
2:手口を知ってる馴木沙奈を探し出して殺す
3:ぬいぐるみを探す
4:姉に話す時のために証拠として自分が殺した人間の首輪を回収する
5:魔族を全滅させるまでは馴木沙奈と魔族以外の参加者を殺すことを控える
※佐野蓮からラビットインフルとブレイカーズの情報を知りました


084.それが大事 投下順で読む 086.Red Fraction
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Child's Play クリス acquired designer child project
勇者システム カウレス・ランファルト
正義と悪党と――(Justice Act) ミロ・ゴドゴラスV世 田外さん家の鴉天狗

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最終更新:2015年08月06日 16:06