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正義のヒーロー様

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正義のヒーロー様◆4ajyjN4fcU




木々が風に嘶く音のみが響く深い森。
月明りにその中を進む体格のいい男の影が照らし出される。
男の名は葛西剛という。
とある探偵事務所で働く、主に雑用担当である。

「……しっかし、どこなんだここ」

深い森をかき分け進む、葛西がそう言って大きな溜息を洩らした。
唐突に夜深い森の中に放り出されたかと思えば、手がかりになりそうな置手紙に書かれた内容が”殺し合え”である。
ため息もつきたくなるというものである。
渡された地図が正しいのならば、これだけ大きい森が広がるのは南西のドーム周辺に違いないのだが、葛西がつぶやいた意味はもちろんそういう意味ではない。

「まさか国外じゃあるまいな…………?」

足もとの覚束ない深い森を、朧気な月明かりを頼りに進む。
そこは昔取った杵柄。深夜であっても森歩きに不便はないが、本当にここはどこなのだろうか。
肌に感じる気温湿度からして今の時期の日本に近いといえば近いが、地図にあるようなこんな島は少なくとも知らない。
どちらにせよ、あの運動音痴の所長兼相棒ならともかく、まかりなりにも玄人である自分をこうも鮮やかに拉致してくれるとはどこの誰だか知らないが、やってくれる。

しかも、配られた名簿によれば、自分だけでなく知った名もいくつかあった。
所長兼相棒はもとより、過去の依頼人の名もちらほらと見当たった。
それに直接の知り合いではないが、ハリウッド俳優にプロレスラー、極めつけには国賓として来日中の王女様の名まである始末だ。

「まったく……おかしなことに巻き込まれたもんだぜ。そう思うだろアンタも?」

語りかけた言葉に、木の陰から一人の男が姿を現した。
現れたのは夜に溶けるような漆黒のライダースーツ。
首に巻かれた長いマフラーで口元は隠れその素顔はうかがい知れないが、切れ長の三白眼が覗いている。
手には赤い指抜きグローブ。昔特撮で見た様なオールドヒーローとった風貌だ。

「よう。兄ちゃん。けったいな格好してんな。どっかの正義のヒーロー様か?」

「そうだ」

「…………ふーん。あっそ」

まさか肯定されるとは思っていなかったのか、葛西は適当に相槌を打つと残念な人を見る目で相手を見つめた。

「まぁ、いいや。俺は葛西剛ってんだ。あんたは?」

「御子神総司だ。
 ……俺の気配に何時から気付いていた?」

「いつつーか、まぁ割と最初の方から」

わざわざ動きづらい夜森をあえて歩き続けたのはそういうわけである。
尾行の気配を感じ、捲くつもりで森をうろついていたのだが、思いのほか相手がしぶとかったため。
仕方がないので相手の出方をうかがうために声をかけたというのが真相だ。

「……俺の気配に気づいたことといい、先ほどからの動きといい。貴様、一般人ではないな。軍人かなにかか?」

「ま、似たようなところだ、もうやめちまったけどな。今はしがない探偵さ」

御子神の問いに葛西は肩をすくめてそう答えた。

「探偵?」

「ああ、猫探しから殺人事件までなんでもござれの貴方の街の桜井探偵事務所ってな」

こんなときでも営業精神を忘れない従業員の鏡に対して、相手の反応は冷ややかだ。

「殺人事件? そんなのを探偵が解決するのはフィクションだけろう、現実ではそんな職業ではないと聞くが?」

「悪かったな。フィクションみたいな探偵事務所なんだよ、うちは」

「そうか。では探偵、一つ聞きたい。これについて貴様はどう思う?」

そういって御子神が突き出すように取り出したのは、葛西が読んだものと同じ置手紙であった。
念のため内容も一読したがまったく同じ代物のようだ。

「どう、ってのは?」

「ここに書かれた話の真偽についてだ。貴様はこの内容は真実だと思うか?」

そう改めて問われて葛西は一考する。
人間原理?
39人の観測者?
世界の破滅?
無茶苦茶だ。
荒唐無稽にもほどがある。
狂人の妄言だと一蹴していい内容だろう。
考えるまでもなく、信じられる話ではない。


「『考えるまでもないなんて考えはただの思考停止だ。あり得ないなんて先入観を持って物事をとらえるな』」

「? …………何の言葉だ?」

「相棒の受け売りさ。信じがたい話だとは思うがありえないと言いきるにはまだ早い。
 動機はどうあれ、なんにせよ実際俺らはこうして攫われてるわけだし、狂人の妄言だって切り捨てるわけにもいかねぇだろ」

「なるほどな、つまり、可能性は否定しないと?」

「まぁな。肯定もしないがね、どちらにせよ結論の出せる段階じゃないさ。
 とまあ、偉そうにいっても、あいにく俺は肉体労働担当でね、ここらへんの話は相棒の担当だ。
 そいつに聞けば、もうちっとマシな回答をよこしてくれると思うぜ」

「そうか。その相棒とやらもここにいるのか?」

「みたいだな」

「ならその相棒とやらの情報を教えろ。そいつの見解も興味がある」

「その前によ、こっちもひとつ聞きたいんだが」

「……なんだ?」

「その話の真偽ってのを確かめてどうするつもりだ、お前?」

その問いかけに、ふむ。と、御子神は少しだけ考えるようなそぶりをした後、口を開いた。

「そうだな。話の真偽がどちらであろうと首謀者を誅すという方針に変わりはないが。
 虚偽だった場合はこんな遊びにつきあう義理はない。早々にこの首輪をはずし、こんな下らん遊びは終わらせてこの場から離脱する。それでけだ」

簡潔な答えだ。
手紙の内容がまるっきり嘘だったなら、解除や脱出の手段は置いておいておくにしても葛西だってそうする。


「じゃあ、もしこの話が本当だったならどうするんだ?」

葛西が聞きたかったのはそこだ。
問いかけに僅かな沈黙が生まれる。
御子神は答えに窮しているというより、改めて自らの結論を確かめている様にも見える。

「そうだな、本当に生き残るべきが一人だというのならば、やはり俺が生き残るのが世界のためなのだろうな」

それが当然の結論であるように、御子神総司はそう言った。

「…………へぇ。あんたが生き残るのが世界のためになるってのか? そらまた何故?」

どこか挑発めいた葛西の言葉にも、御子神は眉ひとつ動かさない。
迷いなく御子神は結論を告げるべく口を開く。

「俺が『正義』だからだ。正義無くして平穏は訪れない。
 正義を失えばだれが悪から力なきものを守るというのだ?」

「おいおい、最後の一人になるってことは他の39人を見殺しするってことだぜ?
 とても正義のヒーロー様の言葉とは思えねぇな」

「正義のため、多少の犠牲が出るのはしかたあるまい。
 真に平和な世界の礎となれるのならば失われた命も本望だろう」

「……本望ね。多少の犠牲を切り捨てて平和を守る。それがお前の言う正義ってやつか?」

「そうだ。これが『正義』だ」

そう断言する、その言葉に一片の迷いはない。
彼の中では何度考えても当然のようにその結論に帰結するのだろう。

「……くだらねぇ」

己の正義を疑わぬその言葉を受けて、葛西はいつも陽気なこの男には珍しい、感情を押し殺したような声で吐き捨てるように言った。

「お前の言う正義ってのはお前だけの正義だ。お前の正義で救われるのはお前だけだ。
 そんな正義で救えるほど、この世界は簡単じゃねぇ、正義だけじゃ救えないものがあることを俺は知ってる。
 何も知らないテメェみてぇなガキが、正義や平和を語るな」

それは誰に向けての言葉だろうか。
自分勝手な正義を貫く御子神に対してか。
それとも、かつての自分自身か。

「…………たかが『軍人崩れ』ごときが正義を愚弄するつもりか」

空気が凍る。
それまでにない殺気を含んだ冷たい声。
葛西を睨みつける視線にはありありとした敵意が含まれている。
その殺気を受け流し葛西はひょうひょうと答える。

「おう、いくらでも否定してやるよ。
 あと、目上の人間には敬語つかえってんだ、どいつもこいつもクソガキどもが」

そんな声など聞こえていない様子で、誰に聞かせるでもなく独り言のように御子神は呟く。

「正義を否定するならばそれは悪だ。
 悪には正義の鉄槌を。
 いざ――――――正義を執行する」

御子神の体が醜く歪む。
ゴキゴキと音を鳴らし骨格が変貌する。
肌は凹凸のあるモノに変わり、その口は醜く引き裂かれ鋭い牙が覗いた。
その姿、人ではない。
御子神総司は巨大なワニ人間へと変貌を遂げた。

「……………………マジ?」

余りにも予想外の展開に葛西が僅かにたじろく。
そんな様子も気にせず、御子神総司は進む。
ふっきれたのか、気を取り直した葛西が構えを直す。

「まぁいいや。おら来いよ『ヒーロー崩れ』
 教育してやるよ。そのクソつまんねえ正義ごとテメェを粉砕してやる」

【一日目・深夜/C-5 森の中】
【葛西剛】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品、支給品不明
【思考】
1、目の前のバカにお灸を添える
2、桜井暮葉と合流する

【御子神総司】
【状態】健康、ワニ人間化
【装備】なし
【所持品】基本支給品、支給品不明
【思考】
1、悪を滅ぼす
2、話の真偽を見極め方針を決める
真:最後の一人となり生き残る
偽:早々に首輪をはずし脱出する


02:清く正しく 時系列順 04:遭遇
02:清く正しく 投下順 04:遭遇
葛西 剛 :[[]]
御子神 総司 :[[]]


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