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スリル

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スリル◆xEL5sNpos2



「そんなこと言ったってさぁ、毎日が平和すぎて退屈なんだもん」

目の前で口を尖らせてみせた女の子が、祝伴内がこの会場で最初に出会った人間だった。



表向きはどこにでもいるような高校の教師。
しかし、その裏では夜な夜な犯罪と闘う正義の(非合法)ヒーロー・ブラックマスク。
それが祝伴内の正体だ。

一口に正義と言っても、その方向性は様々である。
祝の信条は、罪人に天誅を下すことではなかった。
あくまで、罪人を裁くのは自分ではなく、法律であるという信念。
罪を憎んで人を憎まず、その更生に向けて力を尽くしているのだ。
そんな彼が、普段の職場では生徒指導の役目を仰せつかっているのはある意味で必然であろう。

だからこそ、彼は名簿を見て愕然とした思いを抱くことになる。
神楽、加藤、鍔隠、芳賀……実に4人もの教え子が自分と同じ境遇に巻き込まれていたのだから。
追い討ちをかけるように、名簿の先頭には同僚である相澤の名まであった。
非合法とはいえ、ヒーローである自分なら狙われる心当たりも無いことは無い。
だが、自分の知る限りでは教え子たちや同僚にはこの殺し合いに参加させられた道理が分からない。
自分を含め、その誰かが世界の創造者だなどと、信じられるはずも無かった。

とはいえ、知り合いが巻き込まれていることで祝の行動方針はハッキリした。
教え子たちを全力で守る、出来ることなら同僚も、だ。
その為に自分が命を散らしてしまっては元も子もないが、修羅場なら数え切れないほど潜ってきた。
デイパックを覗いてみれば武器になりそうなものは無かったが、元より自分の体が武器だ、特に支障は無い。

一通り中身を確認した後デイパックを担いで森を歩くこと数分、早くも別の参加者と遭遇することになったのだ。
見慣れない制服を来た、見たところ高校生の少女。
もちろん祝の学校の制服でもなければ、近所の他の高校のものでも無いようだった。
教え子を守ることを誓って動き出した祝だったが、かと言って他の者の命がどうでもいいというわけではない。
まして、守りたい教え子と同じくらいの年頃の少女だったが為に、祝は少女に教え子の姿をダブらせていた。
守れる限りは誰でも守ってやりたい、そうした思いから何の躊躇いも無く祝は少女に声をかけたのだった。

がっしりした体格の男にいきなり話しかけられ、少女は最初こそ戸惑ったような素振りを見せた。
祝が敵意の無いことを示し、さらには得意の話術で和ませたことでそこからはあっという間に打ち解けることが出来た。
少女は名を真田伊澄といい、なんでもギャンブラーの兄にくっついてあちこちを旅しているらしい。
学校をほっぽり出してあちこち旅をしていることに祝が眉をひそめたところ、返ってきたのが冒頭の発言というわけだった。

「ハッハッハ、まぁ俺も若い頃は色々無茶をしたもんだがなぁ」

体格に似合わない柔和な笑顔を見せた後、祝はすぐに真顔に戻った。

「だからと言って、学校はサボったらいかんぞ? 君らの本分はなによりまず勉強することなんだからなぁ」
「そりゃ分かってるけど……そんな学校のセンセみたいなこと言わないでよ」
「ん、言ってなかったか? 俺は高校で先生をしているんだぞ?」
「げ、マジで!?」

一瞬露骨に嫌そうな表情を見せた伊澄に対して、祝はもう一度柔和な笑顔を見せて伊澄の頭をワシワシと撫で回した。
伊澄とて同じ年頃の女の子と比べれば決して背の低い方ではないが、がっしりした体格の祝に比べるとさすがにサイズは小さい。
男勝りの性格故に、こうして子ども扱いされることも少なかった伊澄はぷぅっと膨れっ面をしてみせる。

「ハッハッハ、そうむくれなくてもいいじゃないか。
 さっきも言ったろ? 俺だって君くらいの年にはスリルを求めて色々無茶はしたさ。
 それで色々と痛い目にもあったし、沢山の人に迷惑をかけてきたんだ。
 若いっつーのは素晴らしいことだが、若気の至りなんて言葉もあることだ。
 経験を元に君らが道を踏み外さんようにしてやるのが大人の役目なんだからな」

ひとしきり諭したところで、伊澄はぷいっとそっぽを向いてしまった。
最も、祝にはこんな子供の扱いはもう慣れっこであった。
食って掛かってこないところを見ると、多少なりとも後ろめたさを感じていることは間違いなさそうだ。
大丈夫、この子はまっすぐな子だ、そう確信してまたしても口元をニカッと上げるのだった。

「それで? 君はこれからいったいどうするつもりなんだ?」
「どうするったって……決まってるでしょ?」

そっぽを向いていた伊澄が、並んで歩く祝に再び視線を向けた。

「私は兄さんを捜すわ、それでまた一緒についていかせてもらう」

殺し合いという現実をいまいち把握していなかった伊澄に、殺し合いに乗るという選択肢は当然のことながら存在しない。
デイパックに入っていた名簿を見ると、見知った名前は兄の伸行だけ。
ならば、この場が殺し合いであろうとそうでなかろうと、まずは兄に会いたい、その一念であった。

「殺し合いとか言われてもピンとこないけどさ……兄さんだったら絶対に死なないと思う。
 なんたって、今までどんな死のギャンブルだって涼しい顔をして潜り抜けていったんだから」

兄の話になると伊澄の顔が輝きを増す。
伊澄は今まで兄にくっついて行って様々な裏の世界を垣間見てきた。
平凡な日常をただ消費するだけでは、決して出会うことのなかったスリル満点の世界。
一言で言ってしまえばヤバい、そんな裏社会の荒波を悠々と泳ぐ兄と過ごすうちに伊澄は死というものへの現実感を喪いつつあった。

そんな伊澄の心中を察したのか、柔和な表情を見せていた祝の脳裏に不安がよぎる。
祝、いやブラックマスク自身は決して相手を殺めることはなかった。
だがしかし、向かってくる相手は決してそうではない。
極力説得を試みるのだが、時にそれが叶わぬ相手にも遭遇することはあった。
そうなれば瞬時に死の危険がのしかかってくる、そんな日々を過ごしてきたのだ。
目の前の少女は死を恐れていない、それもどちらかといえば勇敢というわけでなく、無知という悪い意味で。
このまま野放しにすることは出来ない、そこで……

「そうか、ならここは一つ、先生も君の人捜しを手伝うとしようかな」
「えぇっ!? そんな、別にいいよ、私は一人で大丈夫だからさ」
「そうは言ってもなぁ、こんな真夜中に女の子を一人で歩かせるなんて教師として、なにより男として出来ない」

もう一つ、ヒーローとして出来ないというのを祝は心中で付け加える。

「だからって……」

伊澄が口を挟もうとしたその時だった。
横の茂みからガサガサと何かが分け入って進んでくるような音が聞こえてきた。
思わず足を止めた二人は、茂みから出てくる何かを待つ。

時間にしてほんの数秒、茂みから出てきたのはヒョロッとした細身の青年だった。
そして、その右手にはなにやら刃物が握られているのが見えた。
青年も二人に気づいたらしく、慌てたような素振りで刃物を構えて二人を威嚇してきた。

「君は下がってなさい」

祝は伊澄を手で制して後ろへ下がらせた。
でも、と伊澄が言おうとしたところで、大丈夫だからと諭す。
一瞬の間を置いて、青年が奇声を上げて祝に襲い掛かってきた。
青年の右手から大振りの軌道を描いて繰り出されるその刃を、祝は易々とかわしてみせる。

(おおかた殺し合いの恐怖に縮み上がって、混乱しちまったってとこか)

祝はそう結論付けた。
普段対峙する悪人と比べれば、この青年は力量的に見てグッと落ちることが最初の一太刀で容易に読み取れる。
ならば、ひとまず武器を奪って無力化してしまえば説得も容易いだろう、そう考えた。

「うわああぁぁっっ!!」

最初の攻撃をかわされた青年が、再び奇声を上げながら切りつけてくる。
祝はそんな青年をキッと見据え、身じろぎすることなく振り下ろされてくる右の手首を左手でがっしりと掴んだ。
そのまま軽く一ひねりしてやると、ぐっ、と青年が小さく呻き声を上げながら手にした刃物を取り落とす。
ブレードが地面に当たってカシャッと乾いた音を立てた。
間髪いれずに、祝は出足払いの要領で青年の足を軽く刈った。
足を払われた青年はあっけなくすっ転んでしまった。

その間、実に二秒!!

あまりの早業に、祝の後ろで見守っていた伊澄も思わず目を丸くする。

「すっ、すご~い!! 先生、カッコイイじゃん!!」

一瞬身の危険を感じたが、一緒に行動していた先生の強さにいつの間にか恐怖はどこへやら。
まるでヒーローショーを見た子供のように目を輝かせ、手を叩いて喜ぶのだった。
一方、祝も褒められて悪い気はしない。
何せ、普段は決して正体を知られてはならぬ身、夜の闇に紛れて人知れず悪を更生させてきたのだ。
こうして黄色い声援が飛ぶことなどめったに無いことだったために、すっかり気を良くしてしまった。

「ま、思いっきり投げ飛ばすことも出来たんだけどな。
 ここは柔道場みたいに畳じゃなくて硬い硬い地面だからなぁ」

どうだといわんばかりの満面の笑みを伊澄に見せつける。
そして、地面に這いつくばった青年に視線を落とす。
必死に這って祝のもとから逃れようとする青年に対し、こう声をかけた。

「さ、もう武器はないぞ。おとなしく話を……お?」

数m離れたところでようやく立ち上がった青年は、懐からもう一本刃物を取り出した。
切っ先をこちらに向けるとともに、敵意を前面に押し出し、息も荒げているようだった。
祝はやれやれ、といった表情を浮かべるとこう吐き捨てるのだった。

「すっかり錯乱しちまってんな……こいつは説得するのも骨だな」

仕方ない、と小さく呟いて両の手首をゴキリ、首をゴキリと鳴らして仁王立ちをする。

「親御さんか学校の先生に、人を殺しちゃいけませんよって教わらなかったかねぇ……
 ま、いいか……それじゃ、いっちょ教育的指導といくか、あまり手荒な真似はしたくないがな」
「行っけ~!! 先生、やっちゃえ~!!」

すっかり盛り上がった様子の伊澄が暢気に声援を飛ばす。
それに応えようと、祝がグッと親指を立てようとした。



その時だった。



カチリ、と小さい音が辺りに響き渡った、そんな気がした。



一瞬の間を置いて、祝の大きな体が尻餅をつくかのように後ろへとゆっくり倒れていった。
伊澄は何が起こったのか全く把握することが出来ずにいた。
仰向けに倒れた祝の腹には、ナイフのブレードが深々と突き刺さっていた。
息を荒げたままの青年の手元には、ナイフの柄だけが握られている。

スペツナズ・ナイフ。
かつて旧ソ連の特殊部隊が使用していたとされるナイフ。
円柱型の特徴的な柄を持ち、鞘を被せれば警棒の様に鈍器としても活用が可能。
もちろん、普通のナイフと同様に切りつけることも可能だが、最大の特徴は別にある。
それは、柄の中に仕込んだ強力なスプリングを利用してナイフのブレードを飛ばすことが出来ること。
射程10m程度と、銃ほどの遠距離攻撃は出来ないが、意表を突くには十分な距離だ。
少なくともそれを只のナイフと思う相手からすれば、間合いの外から急に攻撃を仕掛けられるのだから。

呼吸をゆっくり整えた青年が、一歩、また一歩と倒れた祝へと歩み寄る。
そして屈むと、刺さったブレードを力任せに引き抜いた。
がっ、と祝が苦悶の表情を浮かべながら呻き声をあげ、それと同時に傷口から血が噴き出した。

ただ呆然とそれを眺めるしか出来なかった伊澄を尻目に、青年は抜き取ったブレードを茂みに向かって放り投げた。
手が空いたところで、次に先程取り落としたスペツナズ・ナイフを拾い上げる。
そしてギラリとした視線を伊澄に投げかけると、こんどは伊澄に向かって一歩一歩近づいてきた。

「え……嘘……」

蛇に睨まれた蛙のごとく、伊澄はその場を動くことが出来ない。
まだ現実を受け入れることが出来ずに、自分が死ぬかもしれないということに頭が回っていなかった。
困惑する伊澄を青年は無表情で見据え、右手にナイフを握って大きく振りかぶった。

「ひっ……!」

伊澄は思わず目を瞑ってしまった……が、一向に切りつけられるような痛みを感じない。
少し間を置いて先程聞いたのと同じ音、ナイフのブレードが地面に落ちて乾いた音を立てるのを聞いた。
伊澄が恐る恐るゆっくりと目を開けると……そこには青年の背後から裸絞めの要領で首を締め付けている祝の姿があった。

「せ、先生……!?」

祝の口元からは血が滴り落ち、腹からもドクドクと脈打つように血が流れ出していた。
呼吸も荒くなっていて、誰が見ても危険な状態だった。

「早く……早くここから逃げるんだ……」

数分前と比べてすっかり力が失われた声で、祝が伊澄に逃げるよう促す。

「で、でも……先生が……」
「……早くしろっ!!」

祝が力を振り絞って一喝する。
伊澄は不安げな表情を見せながら二、三歩と後ずさりして、そのまま祝と青年に背を向けて森の中に走って姿を消した。

「ぐっ……どこに、そんな力が……」

苦悶の表情を浮かべながら青年が苦々しげに吐き捨てる。

「わ……悪いな……あと数cmズレてたらヤバかったが……生憎、こ……こちとら普通じゃ……ないもんでな」
「!? ど、どういうことだ……!?」
「夜の街を……悪の手から守るヒーロー……ブラックマスクとは……お、俺のことだ……!」
「ヒ、ヒーロー……!? ブラック……ぐぅっ……!?」

振りほどこうと暴れる青年だが、祝は決して首を締め上げる力を緩めない。

「おっと……暴れたって……む、無駄だ……か、完全に決まった裸締めからは……絶対に逃げられないんだからな……!」
「くっ……は……離せっ……!」

気管を圧迫され、徐々に青年の声も弱々しくなっていく。

「へ……俺としたことが……あの嬢ちゃんにつられて……ついつい緊張の糸を……き、切らしちまったぜ……
 だがな……こうすることは……ほ、本当なら俺の主義に……反するんだぜ……?」

一言喋るたびに、口から血があふれ出してくる。
少しずつ目も霞んできたことで、祝はいよいよ最期を覚悟した。

「お前みたいな奴は……本当なら……ほ、法の下に裁いてもらうんだがな……
 こ、ここが法の及ばないようなとこだって事はよ……お前のおかげで……よ、よ~く分かった……
 なら、他の誰かの脅威になる前に……お、お前には……み、道連れになってもらう……!」

もう祝の声が青年の耳に届いているかどうか、知る術はなかった。
首にかかった腕のロックを外そうとする青年の手の力も、少しずつ抜けていくようだった。

「お、俺は……死ぬまで……この腕を離さん……
 ……お、お前がオチるのが先か……俺が死ぬのが先か……が、ガマン比べと……いこうじゃねぇか……!」

(教え子達よ、そして相澤先生よ、すまない……
 俺はコイツを食い止めるだけで精一杯だ……ドジ……踏んじまったなぁ……)

脳裏に知人の顔を焼き付け、祝は最後の力を込めた。






後ろを振り返ることなく、伊澄は走り続けた。
走ることには自信があったが、そんな自尊心は失われようとしていた。

死線を軽々と潜り抜けていく兄と共に過ごすうちに、知らず知らず失われていた死というものへのリアリティー。
突然見知らぬ土地に放り込まれたとはいえ、見知らぬ土地は慣れっこだったから恐怖感もさほど無かった。
それに加え、いつしかそう簡単に人は死なないものだと決め付けていた自分は、この殺し合いの場であまりにも暢気すぎた。

自分をすんでのところで助けてくれた先生だけど、あの様子を見る限りもう長く無いことは伊澄にも分かっていた。
だが、あの場に残ったところで伊澄に出来ることなど何も無かった。
故に、先生に言われるがままに逃げることしか出来なかった。

スリルを求めて兄と共に行動するうちに何時しか自分の危機意識が麻痺していたことを思い知らされた。
死線を潜ったのは自分ではなく兄だったのに、まるで自分の力でなんとかしてきた、そんな勘違いをしていたのだ、と。
後悔した、もし私があそこで先生を煽っていなければ、最初から一緒に逃げようと言っていれば……
だが、どれだけ後悔しても過去は戻ってこず、失われた命は戻ってこない。

後悔と恐怖、負の感情に支配され、いつしか瞳に涙を浮かべながら伊澄は走る。
一人では何も出来ない、その事実に否応無しに気づかされた今、目指す当ては一つしかなかった。

「兄さん……! どこにいるの……?」


【一日目・深夜/A-5 森】

真田 伊澄
【状態】自信喪失、恐怖
【装備】なし
【所持品】基本支給品、ランダム支給品
【思考】
1.青年(丹波 琉弦)から逃げる
2.兄(萩原 伸行)を捜して合流する
3.死ぬことへの強烈な恐怖

※開始直後に祝 伴内と遭遇したため、まだ支給品の確認を済ませていません。名簿だけは目を通しています。





「はぁっ……はぁっ……ゲホッ……ゲホッ……」

縛めから解かれた青年――丹波琉弦――はひとしきり大きく咳込んでいた。
憎々しげに後ろを振り返ると、力尽きた祝の亡骸が横たわっていた。
ガマン比べに勝ったのは丹波の方だったが、もしあと数cmナイフがズレていたら……そう考えて丹波は胸をなでおろす。

最初の一撃で仕留めたと思ったのが間違いだったと痛感した丹波は、力尽きた祝の裸締めから抜け出すと、数回ナイフを突き立てた。
念には念を入れた方がいいということを身をもって学んだのである。
息を整えたが、そのまま大の字になってその場に倒れこんでしまう。

「や、やっぱり……慣れないことはするもんじゃない……」

見た目はどこにでもいる平凡な大学生でしかない丹波。
裏の顔として人体改造を請け負うサークルに所属しているとはいえ、身体能力はやはりどこにでもいる平凡な大学生そのもの。
自分が手を加えたヴィスペルヴィッチや、上奏院彩華とは比べ物にならないくらい弱っちいのだ。
そんな自分が期せずしてヒーローを討ち取って見せたのだ、これは大金星である。
ブラックマスクなどという名前は聞いたことは無いが、大方最近増えている非合法の自称・ヒーローの連中だろう。
それにしたって、これが大番狂わせであることに代わりは無いのだけど、と丹波は思う。

「ヒーローの体……どうなっているのか気になるところだけど……」

改造ジャンキーとしての血が疼くところではあったがそれをグッとこらえる。
むくりと起き上がって、これからやることを整理する。

「とにかく、このまま僕が無闇に殺しに回ってたんじゃ、僕の方が持たないってことはよ~く分かった。
 となると、様子を見ながらうまく立ち回るしかないけれど……」

知り合いといえばヴィスペルヴィッチと上奏院ぐらいのものだが、どうにもこのあたりは信用に値しない。
ヴィスペルヴィッチは何を考えているのかよく分からないような奴だし、上奏院もサークルの勧誘を断るあたり相容れないものがあるのだろう。

「ま、もしこの二人が殺しに回ってくれればこっちとしては大助かりなんだけどね。
 ヒーローがコイツだけとも限らないから、そういうのを潰してくれりゃなぁ」

そう呟きながら、足下にある祝の亡骸を一度足蹴にして、もう一度思索の海に飛び込む。
一人でいるのは心許ないところだから誰かの庇護に置いてもらうのが一番手っ取り早い、そう考えた。
こういう時に見た目は冴えない大学生という自分の外見は大いに役立ちそうではあったのだが……

「なんにせよ、さっきの娘には顔を見られちゃったからねぇ……
 下手なことを吹いて回られる前に追いついて殺さないと、僕の計画に支障をきたしちゃうよね。
 あぁ、それからコイツの返り血に塗れたシャツもなんとか替えを見つけないと」

つくづく、興奮状態のまま襲い掛かった自分の先刻の行動を恨めしく思う。
おまけに、貴重なスペツナズ・ナイフを一本消費してしまった。
射出した刃を戻そうとしてもスプリングが強力すぎて戻すことが出来なかった。
一回使ってしまえばそれまでだ、ということも丹波は理解した。

「ま、それはこのオッサンの武器でもパクっちゃえば済むかもしれないんだけどね」

そう言いながら、さっき取り落としていたナイフを鞘に収めた。
そして服の土埃をパンパンと叩きながらゆっくりと立ち上がる。

「さて、行くとしますか。
 あぁ、こんな合法的に他人の体の中を覗けるだなんて……僕はなんて幸運なんだろう!」

丹波は人を殺めたとは思えないような清々しい表情を浮かべていた。
改造ジャンキー・丹波琉弦にとって、この殺し合いはスリリングなイベントでしかなかった。


【一日目・深夜/A-5 森】

【丹波 琉弦】
【状態】軽度の打撲、中程度の疲労
【装備】スペツナズ・ナイフ
【所持品】基本支給品、スペツナズ・ナイフ、スペツナズ・ナイフの柄、祝伴内のデイパック(武器は無いようです)
【思考】
1.女(真田 伊澄)を追いかけて殺す
2.返り血に汚れた服を着替えたい
3.1と2を完了させ次第、強者の庇護の下でステルスマーダーとして動く
4.ヴィスペルヴィッチと上奏院彩華は一応警戒

※丹波の支給品はスペツナズ・ナイフ3本セットでした。
※一度発射したスペツナズ・ナイフの刃は、一般人には戻せません。よほどの怪力ならあるいは……?
※祝は改造手術を施されたわけではありませんので、解剖しても丹波の望むような結果が得られないでしょう。


【祝 伴内】死亡確認



12:テンカウントです、王女様。 時系列順 14:よくわかる 地方自治のしくみ
12:テンカウントです、王女様。 投下順 14:よくわかる 地方自治のしくみ
真田 伊澄 :[[]]
丹波 琉弦 :[[]]
祝 伴内 死亡


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