バルタザール・デリージュ。

本名――――セルヴァイン・レクト・ハルトナ。

1999年7の月。
東欧の南端、中東にほど近い内陸に位置する小規模な立憲君主国ハルトナ王国に双子の王子が誕生した。

セルヴァイン・レクト・ハルトナと、グランゼル・ルオ・ハルトナ。
双子の存在は、将来的な王位継承をめぐる問題を早い段階から内包していた。
出生時にわずか十数分早く産声を上げたセルヴァインが兄とされ、以降、王家内では兄が第一王子、弟が第二王子として扱われることになる。

当時の国王グランリード・ハルトナの治世下、王権は象徴としての側面を残しつつも行政や軍に一定の影響力を持ち、王族は依然として国政に関与し得る地位にあった。

両者の性格は幼少期から顕著な対照を見せていた。
兄であるセルヴァインは身体能力に優れ、体格にも恵まれていた。
外向的で主導権を握ることを好む支配的な性質をしており、現場感覚と即応力を備えた天然の指導者として注目された。
自らが先頭に立ち周囲を引っ張っていくその統率力は一種のカリスマとして宮廷内でも一目置かれている程だった。
反面、野心家で感情的。自身に従わぬ者への攻撃性は幼くして顕れていた。

一方、弟であるグランゼルは観察と対話を重んじる思慮深い性格で、制度や文法といった構造的な知識に強く、特に歴史と法制度には早くから関心を示していた。
第二王子である立場をわきまえ、一歩引いた位置から俯瞰した視線で物事を見る視野の広さを持ち合わせていた。

支配的な兄に従順な弟。
後継争いを危惧する宮廷内の噂も余所に、兄弟の仲は驚くほど良好だった。
だが、成長するにつれ、彼らの進む道は明確に分かれていく。

国内において、兄の性格は強引かつ感情的と評価されることが多かったが、一定の層からは「強い指導者」の資質として期待も寄せられた。
セルヴァインは政治の舞台にも早くから関心を示し、14歳の時点で軍学校系の教育機関への進学を自ら希望している。
訓練成績は常に上位にあり、軍部や政治家らの後援を得る下地がこの時期に形成された。

一方のグランゼルは王立大学へと進学し、比較政治学と行政法を専攻。
官僚養成に近いルートを選択し、王族という立場を活かして非公式の外交折衝にも参加するようになる。
彼の学識と穏健な物腰は一部の外交官や若手官僚に太い人脈を築いていく。

その均衡が崩れ始めたのは、父王の病が公となった頃だった。
王位継承の議論が現実味を帯び始め王室内では次代の王をどちらにするかをめぐる非公式な調整が始まっていた。
形式上は第一王子セルヴァインが継承権を持っていたが、内政・外交の安定を重視する勢力は、第二王子グランゼルを推す動きを強めた。

セルヴァインは強硬な指導力で国防や治安に実績を上げていたが、その一方で、命令違反者の左遷や内部粛清といった強権的手法が問題視されはじめていた。
対するグランゼルは欧州評議会での演説経験もあり、外交的信頼と国内支持を同時に得ていた。
この空気に、良好だった兄弟関係にも徐々に亀裂が広がり始めていた。

2020年6月末。
国王グランリード・ハルトナが崩御。
王宮内では非公開の緊急評議が開かれ、遺言が開封される。
そこに記された次期王の名は――第二王子、グランゼル・ルオ・ハルトナ。
第一王子セルヴァインの名は、文書中に一度も記載されていなかった。

この決定がなされた正確な理由は明言されていない。
ただ、王の側近や一部の顧問官らの証言によれば、父王は晩年、セルヴァインの気質を「統治者に不向き」と判断していたとされる。
また、王室と関係の深かった複数の中央省庁幹部も、グランゼルの穏健路線を支持していたことが、後の調査資料から明らかとなっている。

この決定にセルヴァインは激しく反発する。
父王の遺志は偽りだと断じ、グランゼルが王座を奪うために王に取り入ったと確信。
これを弟の自身への裏切りであるとし彼は王宮を去り、そのまま姿を消した。

そこから数日間、公の場に姿を見せなかったが、その間に旧王党派の残存勢力や旧士官学校の縁者を通じて支持基盤を構築。
中央治安庁や情報局の一部を抱き込み、国内安全保障局に勤務していた若手将校らは、彼を「本来あるべき正統な王位継承者」として担ぎ上げた。

同年7月9日深夜、蜂起。
セルヴァイン派の武装部隊は王都中心部を襲撃。
王宮別館、王族警護庁、中央官邸の三施設を同時制圧した。
襲撃部隊は、旧王直属の警備部門に所属していた精鋭で構成されており、武器や通信用機材の一部は正規軍の備品が流用されていた。

だが、襲撃計画の情報は事前に王国軍へと漏れていた。
王宮警護課と情報局がこれを迎撃し、作戦は3時間以内に鎮圧される。
情報の漏洩は副官級の将校の裏切りによるものだったとされるが、詳細は公開されていない。

王宮正門前での小規模な交戦を最後に、セルヴァインは拘束。
クーデターに関与した軍人や王族関係者ら計71名が反逆罪で逮捕され、死者は市民3名を含む12名に及んだ。
グランゼルの即位が翌日に発表され、同時にクーデターの首謀者であるセルヴァインの処刑執行されたと公式に布告される。

だが、実際には処刑は行われなかった。
新王であるグランゼルの嘆願により、セルヴァインの存在を歴史から抹消するという非公開の措置が講じられた。
同日に死亡した反乱兵「バルタザール・デリージュ」の経歴が彼に与えられ、秘密の漏れぬよう素顔は鉄仮面によって封じられた。

そして彼は、国家の深層に位置する特別隔離収容施設へと送られる。
収監と同時に、王室警護課と国家保安局の間で「特別待遇」が協議された。
元王宮付き官吏が監督官として補佐に付き、食事や医療体制も標準とは異なる処遇が施された。
それは暴発防止のための措置であり、同時にかつての王子を刺激しないための静かな軟禁でもあった。

だが、野心的で自尊心の高かった第一王子が地の底に押し込められたこの状況を恥辱と感じていないはずもない。
表面的には極端に反抗的な行動を取ることはなかったが、留まることない彼の野心は水面下で広げられていった。

そのような条件下で、バルタザール――セルヴァインは徐々に獄中での影響力を伸ばしていく。
政治犯、思想犯、反体制派。表に出せぬ囚人たちの中においても、彼は異様な存在感を放った。
正体を明かすことなく、天性のカリスマと統率力を武器に、囚人だけでなく一部の看守までを取り込み始めた。

もちろん本人の手腕だけではなく、王からの特別な便宜もあった。
彼はそれによって得た立場すらも利用し、刑務所内での勢力を巧みに伸ばしていった。

記録によれば、収監からわずか半年で十数名の囚人と勉強会と称する集団を結成。
翌年には看守に対して業務改善案を提出するなど、実質的な収容所の自治を始めていた。

彼は刑務所の秩序を破壊するのではなく、むしろそれを再構築する道を選んだ。
かつての宮廷において編み出していた権力構造と情報制御の手法を、今度は獄中という単純な閉鎖環境で再現したのである。

房ごとの不文律、物資流通経路、看守の勤務表までを把握したうえで、それらを不必要に混乱させることなく、むしろ効率よく合理的に再配置していった。
それが、獄中の秩序を保つという名目のもとに行われたこと、そして彼の行いに掛かる『上』からの圧力により上層部も黙認した。

その結果、施設内には「第三の管理系統」が形成されたという指摘が後に報告書に残されている。
それは、正式な命令系統でも、犯罪者同士の暴力的支配でもなく、緩やかな論理と秩序によって編成された内部ネットワークであった。

そして、収監から約10年後――2030年、人類社会に大きな変動が訪れる。
『開闢の日』と後に呼ばれる全人類が当たらたな力――超力に目覚めた革新の日。

この事態は事前にGPAから各国に対して通達されていたが、予測を遥かに上回る激変だった。
各国政府は対応を迫られ、国際秩序は大きく揺らいだ。

中でも、資源も人材も乏しいハルトナ王国は、いち早く超力の戦略的価値に着目。
制度整備を後回しにし、制御と拡張を目的とした実験を先行させた。
動物実験から始まり、その事件対象を人間とするまでに2年と掛からなかった.
最初に選ばれたのは、国家管理下にあった囚人たちだった。

未知の力である超力の開発は完全な手探りであった。
手術は原始的かつ粗雑で、成功率は著しく低かった。
被験者の多くは手術中または術後に死亡し、生き残った者も精神崩壊を起こし、廃人と化した。
それは死刑執行に等しい非人道的な人体実験だった。

だが、その中にあって、バルタザールと名を変えたセルヴァインは、自ら被験者としての参加を志願する。

当然、彼の名は公式の実験記録には載っていなかった。
王家の庇護下にあり、仮面の存在として歴史から抹消された身である。
故にこそ、これは自らに恥辱の日々を与えた王家の者たちを出し抜くチャンスだった。

この地獄のような監獄で新たな牙を研いでいようとは思うまい。
恥辱に満ちた地下での生活、その延長線上で芽生えた野心は、超力という新たな武器によって具体性を持つ。

――そして、手術は成功する。

彼は唯一の成功例『拡張第一世代(ハイ・オールド)』として、全てを蹂躙できる力を手にした。

以降、獄中での秩序と支配は徐々に歪みを見せ始める。
かつては冷静さと合理性で構築されていた彼の統治が、次第に異様な振る舞いを伴うようになっていく。
セルヴァインは自らの正体を看守や囚人に明かし、王政復古を掲げて第二次クーデターの準備を開始する。

しかし、同時期から彼には深刻な精神的兆候が現れ始めた。
記憶の断裂、感情反応の異常、そして自己同一性の混乱。
監督官が王国政府に提出した報告書には、セルヴァインの言動の細かな矛盾が増えたこと、自発的に「バルタザール」と名乗る発言の増加などが記されている。

一方その頃、ハルトナ王国は国際的孤立と国内の制度疲弊に直面していた。
開闢後、諸外国が法整備と軍事編制を急ぐ中、ハルトナは人的・財政的な制約からそれに遅れをとっていた。
そのため政府は、制度の不備を誤魔化す形で超力開発に集中。
軍部と民間を巻き込み、再生人材の活用と称して、秘密裏に行っていた囚人らを実験対象とする枠組みを合法的に整え始めた。

この制度改正により、セルヴァインの収容区にも外部からの人材が接触するようになる。
その過程で接触した軍人、研究員、補佐官の中には、かつての王政に連なる人間も含まれていた。
すでに死亡したはずの第一王子が今も生きているという事実は、静かに、だが確実に一部の旧王党派へと伝播した。

この再発見は計画的な情報流出という形で流出された。
国外逃亡や失脚により潜伏していた王党残党らは、国外諜報網や密輸経路を活用して再結集を進めていた。
そして、仮面の男「バルタザール」は、再び担ぎ上げる神輿としての価値を帯び始める。

セルヴァイン自身も、それを理解した上で黙認した。
彼にとってもはや王座の簒奪は二の次でしかなかった。
自らをこのような地の底に押し込めた祖国を破壊することこそが本懐だった。

2035年3月――周到な準備期間を経て、第二次クーデターが発動される。
一度目のような電撃的な即時蜂起ではなく、第二次クーデターは、極めて整然とした形で進行した。

周到に練られた分断と制圧。
監獄内での暴動を発端に、施設の通信網と交通インフラの一部が一時的に外部から掌握される。
鎮圧の名目で出動した部隊は、実際には王都周辺の要所を制圧する反乱軍であり、協力者による行政妨害と交通遮断が同時多発的に実行された。

王都では非常警報が発令されることなく、政庁庁舎は内部職員により解放され、王宮も数時間で制圧された。
第二世代の超力保持者すら殆ど存在しなかったこの時代に、ハイ・オールドの力を止められる者など誰一人いなかった。

そうして血のクーデターは執行される。
正確な死者数は今も記録されていないが、民間人を含め数百名に及ぶとも言われている。
その中でも王家の血を引くものはグランゼル王以下、全員がその場で徹底的に粛清された。
他ならぬ、セルヴァインの手によって。

だが、その中でただ一人、生き延びた王族がいた。
当時2歳の末子――エネリット・サンス・ハルトナである。

彼は処刑されることなく、身分を剥奪された上で適当な罪状をでっち上げられ、監獄へと送られた。
それはセルヴァインの強い意志によるものだった。
自分が味わった屈辱と絶望を、弟の血に受け継がせるという私怨による措置だった。

クーデターは成功を収め、王権の簒奪は為された。
だが、クーデター軍にとってセルヴァインはあくまで神輿でしかなかった。
彼らは王座を獲らせるつもりなど最初からなかったのだ。

すでに彼の精神は崩壊していた。
人間を超えた力を得た代償に、嘗てのカリスマと統率力は陰り。
今のバルタザールは妄執と復讐心。本能のみで動く暴力装置でしかなかった。
政を委ねるには、あまりに不安定で、あまりに危険な存在だった。

クーデターの完了の翌日。
反乱軍はその矛先をセルヴァイン自身へと向けた。
超力の過出力による発作で動けなくなっていた彼は、まともな抵抗もできぬまま拘束される。

そして、彼の被る鉄仮面に4名の超力者による封印が施された。

超力の効果を付与すべく『道具に超力を付与する超力』が。
鉄仮面が破壊されぬよう『物質の強度を高める超力』が。
所在を把握するため『武器の所在や状態を把握する超力』が。
そして、記憶と超力を封じるために『対象の脳機能を制御する超力』が。

そうして、彼の記憶の封印と超力の制御が施された。
皮肉なことに、それは彼自身にも抑えきれぬ力の暴走を最も効果的に抑え込む手段でもあった。
その影響で人間的な感情は薄れ、言語機能も著しく退化した。

かくして、ハルトナ王家の血脈は表舞台より根絶され、君主制は瓦解。
新たな民主政体が発足し、王国は名実ともに新国家として生まれ変わった。

そして再び、セルヴァイン――バルタザール・デリージュは監獄へと送られる。
その場所はかつて死者として封じ込められた、特別隔離収容施設ではない。

それは、世界の全ての制御不能な怪物たちを閉じ込める、地の底の最終収容施設。
立場も権力も力も過去も記憶も、人間性すらも剥奪され、彼はすべての終焉を迎える地の底アビスへと堕とされた。

以上。
本レポートは、アビス転所に際し、監督官スヴィアン・ライラプスが所長宛に提出した口述記録をもとに作成されたものである。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――!」

割れた鉄仮面の奥から放たれた地の底を引き裂くような絶叫が鉄と血の焼けた廃墟に響き渡った。
数秒の遅れをもって反響が戻るが、それすらも次の叫びに呑み込まれていく。

それは、悲鳴でもなければ咆哮でもない。
己自身を名乗る、帰還の声だった。

鉄仮面の崩壊と共に、記憶の封印が解けていく。
長らく忘却の淵に沈められていた記憶が、決壊した水門のように奔流となって意識へと流れ込む。
無秩序で無差別、灼熱のような熱量で、彼の精神を焼き尽くす。

焦点の定まらなかった瞳に、光が戻る。
脳内を暴れ狂うのは、燃え盛るような記憶の連鎖。

赤く染まった夜。倒れ伏す王。焦げる王宮と、焼き尽くした王族の面影。
記憶の一枚一枚が、まぶたの裏に張り付き、そしてまた剥がれていく。

誰かの叫び。誰かの嘲笑。誰かの断末魔。
手を下した者も、下せなかった者も、全てが脳裏に蘇る。
破滅の夜を照らしていたのは、自分の笑みだったか――それとも、歪んだ仮面だったのか。

だが、記憶の全てが戻ったわけではない。
鉄仮面による封印は解かれた。だが、張力拡張手術の副作用による損壊は癒えない。
いくつかの記憶は断片的な喪失があり、未だ抜け落ちたまま。
それでも、確かに、胸の奥に残されていた感情がある。

――――憎悪だ。

悔恨。怒り。絶望。怨嗟。そして、どうしようもない渇望。
長らく凍結されていたそれらが、今や毒のように、血液のごとく、彼の内を奔流する。
人格の崩壊を防ぐために封じられていた感情が、瓦礫となって胸を裂いた。

バルタザールの身体が痙攣し、鉄骨の破片を握り潰しながら、地面を爪で抉る。
左腕はすでに無かったが、痛みなど問題ではなかった。
それを凌駕するほどに、強く、濃く、黒い衝動が彼を突き動かしていた。

「……ッ、グ……グランゼル……父上……!」

血に滲む喉から、掠れた呻きが漏れる。
それは嗚咽でもあり、怒声でもある――感情の咆哮だった。
この数十年、何ひとつ心が動かなかったこの身体に、いま確かに怒りを超えた純然たる憎悪が芽吹いている。

――グランゼル。

かつて最も信じ、最も愛していた者。
そして、最も憎む裏切り者。
その最期に何を見たのかさえ、今は思い出せる。

――セルヴァイン。

その名を、忘れていた。
奪われたのではない。
意図的に、自ら封じられていた名前。

かつて王であり、兄であり、人間であった証。
だが、その名すら奪われ、自分はただの「道具」として扱われてきた。

誰によって――――?

同志を装い、土壇場で裏切った者たち。
忠義を口にして王家を踏み台にした者たち。
王家の血を利用し、最後には廃棄した、反乱軍の全て。

殺さねばならない。
報いを与えねばならない。
あの国の、腐り果てた根ごと――皆殺しにせねばならない。

王なき国で、平然と生きる人の皮を被った畜生ども。
一匹たりとも生かしてはおけぬ。
この監獄から脱し、自由を手にし、逆臣すべてを断罪するのだ。
それこそが唯一残ったハルトナ王家の者としての義務である。

仮面の割れ目から露わになった目が、紅蓮の狂気を宿す。
黒く焼け焦げたような光が、地の底に残る全てを射抜いていた。

赦しなど存在しない。
あの日から、ずっとこの怒りを押さえつけてきたのは、自分ではない。
この世界そのものが、この怒りを封じていたのだ。
ならば、その蓋が外された以上、堪える理由などどこにもなかった。

左腕はない。
だが、鎖はまだ残っている。
肉が裂けようと、血が噴き出そうと、敵を打ち砕けるだけの力は、今もなおこの身に残されている。
それが証明された以上、立ちはだかるすべてを、叩き潰すだけだ。

バルタザールは、ゆっくりと立ち上がった。
止血のため左腕に巻き付けられた鎖が、地を這うように垂れ下がり、意志を持つかのように音を鳴らした。

残った右腕。
そこに巻き付くデジタルウォッチを確認する。
改めて確認した刑務作業の参加者名簿の中に、見逃せぬ名前が確かにあった。

――エネリット・サンス・ハルトナ。

血の匂いでわかる。
名の綴りを見ただけでわかる。
記憶の奥深くに焼き付けられた、忘れえぬ因果。

間違いようがなかった。
グランゼルの血を引く者。
自らの手でアビスに墜とした、甥。

よもや、己もまたこの地の底に墜ち、同じ舞台に立つことになるとは。
これもまた血に刻まれた因果の帰結なのだろう。

探さねばならない。
会わねばならない。

同じ王家の血を引く者が、同じ地の底で何を見たのか。
何を失い、何を得たのか。
それを確かめなければならない。

もし彼が、恥辱を味わっているなら共感を。
もし彼が、絶望に沈んでいるのなら愉悦を。
もし彼が、憎悪を燃やしていたなら歓喜を。

だがもし、そうでなかったのなら――――。

どのような結末に辿り着こうとも、
この再会は避けられない。
それが、血に刻まれた宿命なのだから。

【F-3/工場跡地周辺/一日目・午前】
【バルタザール・デリージュ】
[状態]:記憶復活(断片的な喪失あり)、鉄仮面に破損(右頭部)、左腕喪失、脳負荷(中)、疲労(中)、頭部にダメージ(大)、腹部にダメージ(大)、
[道具]:なし
[恩赦P]:100pt
[方針]
基本.恩赦ポイントを手にして自由を得て、逆進どもに報いを
1.エネリットを探す
※記憶を取り戻しましたが、断片的な喪失があります

096.弱き者のための拳 投下順で読む 098.美獣の鱗(りん)
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「Desastre」 バルタザール・デリージュ [[]]

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最終更新:2025年07月12日 18:41