「オレ、生き残れるのかな…」

砂漠を1人でとぼとぼ歩きながら穴掘り少年、掘下進はそんな弱音が口に出た。

彼が思い出浮かべるのは先ほど望遠鏡越しに見た光景、2人の男によるドラゴン狩りであった。
一人は溺れた自分を助けた命の恩人で、もう一人は初めて見る男だった。
その男たちが追い詰めていたドラゴンは、おそらく自分が出会った大男が変化したものと同じであろう。
掘下は最初その恩人を助けるつもりだった。
大男は自分の命を狙っていたためその大男を圧倒するほど恩人が強かったのならそれはそれで安心できる事柄のはずだった。
だが、そんなことは全くなかった。

それはきっと、その戦いがあまりにも一方的なものであったからであろう。
戦いの間はまるでドラゴンが自分と同じくらいの年齢の子供のように見えた気がした。
男たちはそんな子供相手に虐めているように見えた。
だから片方は命の恩人であっても彼らがとても恐ろしいものだと感じたのだろうか。
近づかず望遠鏡越しで様子を見たのは正解だったかもしれない。

彼らに出くわしたら自分はどうなってしまうのだろう。
対話の余地はあるのか、問答無用で殺されてしまうのか。
自分を助けた男は、自分が感謝の一つもせずに逃げ出したことを理由に見つけたらすぐ殺すつもりかもしれない。
考えていくうちにだんだん不安になっていく。

攻撃や防御の手段がほぼ皆無の自分では彼らに勝利することは難しいだろう。
せいぜい、穴掘りスキルで地中に逃げるので精一杯だ。

元々、掘下は戦うつもりでアバターを作っていない。
突然殺しあえだとか言われても彼に実感は全然わかなかった。
アバター設定の時は「ん?穴掘りスキルってのがある。えっ!?Sランクだと地中を自由に進めるの!?やったー!!」といったことしか考えていなかった。
今思えば、これは浅はかな考えだっただろう。

舞台に降ろされてすぐ、大男に追い掛け回された時、初めて命の危機を感じた。
オアシスで溺れて、この世界では実際に苦しみの感覚があることが分かった。
さっき目撃した戦いで、人間でありながらとんでもなく強くそして恐ろしい奴が何人もいることを知った。

「…これからどうしよう」

そう呟いてしまう。
これからの行動方針について悩みが生じる。
自分はこの場から生還できるのか、もはやどこへ行っても危険人物しかいないのでは、そんなことを考えてしまう。

ふと、メールがあったことを思い出し、新しい情報が入っていないかと確認してみる。

「お宝!?」

新しく届いていたメールには自分が今いる砂漠エリアにて宝探しイベントが始まったと書いてあった。
これは地下世界好きの掘下にはとても興味をそそられる内容であった。
それだけでなく、お宝にはGPや強力なアイテムがあると書いてあった。

(それがあればオレでも戦えるかもしれない)

そのアイテムがあれば今まで出会ったり目撃した人物が襲ってきても身を守れるかもしれない。
そう考えるとこのメールは吉報だと言える。

(…ん?待てよ)

そういえば、と掘下は前にこの砂漠の地中で見つけた宝箱のことを思い出す。

(もしかしてあれもこのイベントのお宝ってこと?)

掘下はアイテム欄からその時見つけた黄金の宝石を取り出す。
これがとても貴重なものだということは見て分かる。
だがメールには宝は強力なアイテムとあった。

(これ、何に使うんだ?)

つまり、これはただの黄金の塊という訳ではなく何らかの力を持つ特殊なアイテムだとも考えられる。
それが分かれば自分が生き残れる確率を上げられるかもしれない。
だが説明書といったものはついてなく使い方を知る方法がなかった。

掘下にできるのはこれを隅々まで観察することだけだ。
上下左右あらゆる角度から隅々まで見て、ようやく一つ他と違うところを見つけた。

「これは…」

一か所だけ小さな円状の溝がある部分を見つけた。
試しにそこに指を置いてみると、指は少し沈み『カチリ』と音が鳴った。
どうやらこれは何かのスイッチのようだった。

次の瞬間、黄金は発光した。

「うわっ!」

あまりもの光量に掘下の目が眩む。
黄金から出た光は彼の体を包んでいった。

(な、何が起きたんだ?)

おそるおそる目を開けてみると、黄金は既に手の中になかった。

「あれ?」

そして自らの手を見てみると人間のものでなくなっていた。
爪は長く鋭くなり、肌はまるで爬虫類のもののようになっていた。
目線を地面に向けてみると明らかに前よりも高い場所から見下ろしていた。

掘下進の体は龍に変化していた。

「なんでオレがドラゴンに!?」

思わず驚いて叫んでしまう。
よく体を見てみるとドラゴンの肌は黄色であった。

(この体、ひょっとしてあのドラゴンと同じもの?)

掘下が思い浮かべるのはまたまたあの大男(ドラゴン)。
今の掘下は彼が変化したドラゴンとそっくりな姿をしていた。

(あいつと同じスキルを手に入れたってことなのか?)

今の状況からはそうとしか考えられない。
きっとあの黄金の効果であろう。
いきなり変化させられるとは予測できなかったが。

(だけどこれ、役に立てられるかなあ…)

掘下にとっては正直なところ龍にあまり強いイメージを持てなかった。
まず最初に自分に攻撃したときは自分を殺しきれなかった。
そして先ほど見たように2人の男たちがドラゴンを追い詰めていた。
だから自分が変化しても同じ結果になるのではないのか?

(とりあえず元に戻ろう。えっと、念じればいいのかな?)

(戻れー戻れー)と心の中で念じることで龍の体は縮んでいき本来の人型になっていく。
本来の姿に戻った掘下は手元から黄金が完全になくなっていることを確認する。
どうやらあれは消費アイテムであったようだ。

(龍になれるようになっただけじゃまだ不安だ。他のお宝も探さないと)

改めて宝探しをする決意をした掘下は穴掘りスキルで地中を掘り進むことにした。
宝は特定ポイントに到達でLUKの確率で発見できるとメールにあった。
だが掘下のLUKはEであためこれで見つけることはできないかもしれない。
そのため地上からでなく地中から探索することに決めた。
それに、前にもこの方法で見つけられた。

「さてと、また見つけ出してやるぞ…お宝!」

この砂漠でどんな宝が待っているのか期待が高まる。

[A-2/大砂漠/1日目・早朝]
[掘下 進]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:疲労(小)、地中潜行中
[アイテム]:忍びの籠手(E)、神速のブローチ(E)、単眼望遠鏡
[GP]:20pt
[プロセス]:
基本行動方針:死にたくない。
1.砂漠のお宝さがしに参加する。
2.何かあったら地中に逃げる。
3.地下世界、まだ何かあるかも。砂漠以外の地下も掘ってみたい。
4.ドラゴン狩りをしていた人たち(酉糸琲汰とシャ)には警戒しよう。
※神速のブローチの充電が切れたことに気付いていません。
※探索系スキルはありませんが真っ直ぐ進めば砂の塔に辿り着けると信じています。
※変化(黄龍):Aを習得しました。

【黄龍の宝玉(黄金の宝石)】
宝箱から出てきた黄金の宝石の正体。
スイッチを押すことで使用者にランクAの変化(黄龍)スキルを付与する。
使用後は消滅する。

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Dragon Slayers 掘下 進 お宝争奪戦

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最終更新:2021年01月11日 00:33