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オーダーミッションNo.009
【先取情報抹消】

名器未だ来ず

(投稿者:怨是)


「これでもない。この銃も……おや、これに至っては紛い物ではありませんか! 嘆かわしい! 全くもって嘆かわしい!」

 ガレージに並ぶ銀色の巨大なレーザーライフル“KARASAWA”を眺めるのは、一機の四脚型ACだ。一挺ずつ物色し、ガレージに併設された射撃訓練場――警察映画などによく見られる、ターゲットの居たが吊されている類いの――にて、一発ずつ撃っては、ACの傍らへと放り投げていた。断続的に高出力レーザーの甲高い音が鳴り響き、それから鈍い打撃音がガレージを少しだけ揺らした。そんな不毛な行為が、このガレージでは数十分前から続いていた。

《また慣らし運転と仕分け作業か、フォーシィ》

 “フォーシィ”とは、こうして四脚型ACに乗りながら仕分け作業をしているミグラント、4th-Forcesの愛称だ。傭兵登録に出している名前のままだと長すぎて、呼ぶのに苦労する為に、皆こうして短縮している。ややもすると可憐な印象を抱きかねないあだ名とは裏腹に、当人はコックピットを拡張せねば乗れない程の巨躯の持ち主だが。

「今回掻き集めてきたKARASAWAも、私の眼鏡に適う逸品ではなかった様です。結構苦労したのに」

 フォーシィはそう云って、細かい機械部品を纏ったゴーグルの丸形レンズを回した。どの銃も、第9領域のパーツ流通ショップから通信販売で購入してきたものだ。使えば使うほど、こなれてきて個体毎の持ち味が出て来る。その持ち味を出し切るまで、出撃して武器を使用するのが、フォーシィの云う“慣らし運転”だ。

《そうか。また探し直さねばならんのか。頑張れよ》

「えぇェー! お付き合い頂けませんか! そうですか!」

《お前のその“慣らし運転”は、リスクが多すぎてな。臆病者の私では付き合いきれん》

 フォーシィは機体を傾け、三階に位置する休憩所の、巨大な窓を見やる。あの休憩所からはガレージの内部が一望できる為、此方側からも相手の姿が丸見えだ。
 先程から通信してきているのはフォーシィの所属するチーム『Rumble-Rainbow』のリーダー、Star-Shooterだ。リーダーの割には弱腰で、いまいち主体性に欠ける。フォーシィは正直、彼をリーダーとして認めたくなかった。物分かりも付き合いも悪い、単なるチームメイトの一人であるという以上の認識を持つつもりは無い。

「スターシャ! 許しませんよ私は! さぁ来るのです! 扉を開き、我等は次なる戦場へと旅立たねば為りません! 来なさい、さもなくば撃ちます!」

 フォーシィはKARASAWAを休憩所へ向け、右腕部兵装用のトリガーに軽く触れた。人差し指を少しでも引けば、エネルギーがチャージされ、管制室の安っぽいガラスなど瞬く間に溶けるだろう。無論、その薄皮一枚隔てた彼、糞リーダーのスターシャも無事では済まない。

《銃を下ろせ! そんな物を喰らったら蒸発するだろうが!》

 スターシャはあくまで要求を飲まず、此方の遣り方に意見するらしい。そういう所ばかり、リーダー面をするとは。抑えきれぬ感情が爆発する。

「いいえやめませんよリーダー我がチームは更なる高みを目指す必要がありその為には個々人のポテンシャルを最大限にまで引き上げより高次の連携を取るべく日々精進せねば為りませんという理論からして我等個々人の装備の充実はまずその第一歩として認識していただけならずそれを鑑みるにリーダーは立ち上がり我等を引き連れ次なる戦場へとそう次なる戦場へと旅立たねば為らないという役割があるのですそれをリーダー貴方は私の様にやる気と慈愛に満ち溢れる人材のその成長の芽を摘み未来への道を閉ざすとそう仰るというのかそれはあまりにも傲慢な行為であるからして貴方という御仁は何故そうやっていつも消極的な態度ばかりを取られるのか私にも我慢の限界というものがございましてその最終防衛ラインを超えますといくら温厚な私もドカンと一発ヒュージミサイルという事にもなりかねません貴方はそれを理解なさった上で私にその様な事を仰ったのかよく考えてご覧なさい貴方はリーダーであるにも拘わらずDランク止まりという状況のこの理由を――」

《――わ、解った! 行くから銃を下ろせ!》

 途中でスターシャに通信を割られる。いかんいかん。つい取り乱してしまった。フォーシィはコンソールに飛んだ唾をハンカチで丁寧に拭き取り、それから哄笑した。

「そうです! はははっ、解れば良いのです! 解れば! ファハハハッ!」

《くそったれ……よくもこんなキチガイミグラントを……男爵! 男爵は居るか!》

 男爵とは、このチームにてリーダーであるスターシャを支える参謀役である。老齢の身でありながら未だに耄碌もせず、身体への負担が大きい高機動タイプのACを乗りこなせるというのだから驚きだ。

《我が輩だ。何かね》

 その男爵が、スターシャとは対照的に穏やかな声音で尋ねる。

《ヘリを出してくれ。KARASAWAをありったけ積んで欲しい。フォーシィの奴、またいつもの悪い癖が出た》

《……慣らし運転か。宜しい。今回の依頼は何処からかね?》

《おい、フォーシィ。これとかどうだ》

 コンソールに依頼文が表示される。依頼主は、インレというらしい。何やらAPC――アフター・ペイン・サイクリングだったか。それともアレンジメント・ポーカー・サイエンスだったか。何の略称かが思い出せない――という情報の売買を生業とするミグラントが、同業者のインレにとってあまり面白くない存在らしく、情報を仕入れたAPCのヘリを撃墜して欲しいといった内容だ。護衛にACも連れてくる上、砂嵐もひどいとの事だ。長期戦は必至だろう。
 だが、それがいい。却って好都合だ。長引けばそれだけ弾を撃つ回数も増え、良い慣らし運転ができるに違いない。実弾を使用する武器は持たないので、砂嵐による給弾不良の心配も無用だ。

「重畳なり! それにしましょう!」

《冗談のつもりだったが、本気でこの依頼を受けるのか。インレといえば、あの悪名高い死神ウサギだぞ》

 スターシャが、やや声を潜める。彼も中々に人が悪い。こんな依頼を最初に見せてくるとは。とはいえ負ける気はしなかった。大抵の騙し討ちはこのKARASAWAで退けてきたし、ましてや噛ませ犬の様な類いが騙しに来た時など、逆に相手が尻尾を巻いて逃げる事すらあった。今回とて同じだ。絶対的な火力の差を見せ、そして屠れば良いのだ。

「霊魂の類いも、神も、英知の結晶であり文明の利器でもある銃には勝てますまい。いざ行かん、名器との出会いの場! 皆様、出撃準備は宜しいですかな!」

《……形勢が不利になり次第、私は撤退するぞ。それでもいいな》

 スターシャはやはり、乗り気とは云えない態度を取っている。そちらがそのつもりなら、フォーシィにも考えがあった。もし彼が撤退しようとしたら進路上にKARASAWAのレーザーを撃ち込み、脅かしてやろう。その後は何処へなりとも逃げるが良い。男爵がヘリを出してくれるなら、単機で成し遂げるだけの弾数は確保できる。場面場面で新しくKARASAWAを投下してくれれば良いのだ。

「充分です。はて、時に、TTは?」

《あいつなら別件でお出かけ中だ》

「然様で」

 まぁ、あんなゴロツキなど、どうでも良いだろう。AC二機で充分だ。





 ――砂漠地帯は、数メートル先も見渡せぬ程に砂嵐が吹き荒れていた。情報の通りだ。問題は、数十分が経過しているにも拘わらず、敵のヘリが一向に姿を現さない事だった。
 フォーシィの機体カルテット・Kに搭載されたリコンの残弾数は、既に半分を下回っていた。

「ふむ、来ませんねェ。ヘリ」

《ほらな。だから云っただろう。あの女が持ち込んでくる話は大抵、碌な事が無い》

 スターシャが得意気に何かを語っている間に、リコンが反応した。スターシャの機体に搭載された自機追従型のリコンなど、当てにならない。やはり遠くへ飛ばせる吸着型こそが早期発見の鍵ではないか。この賭け、勝った!

「――否! リコンに敵反応。一機です。という事はですねぇ……行けますよこれ!」

《方角は?》

「貴方とは真逆ですねぇ」

《丁度いい。私はそのまま遠くから見させて貰うぞ。ヘリも索敵せねばならん》

 コンソールに示される距離表示が、徐々にその数値を減らして行く。接近速度からして、MTではなさそうだ。が、残念ながら機体のカメラ性能が只でさえ低いのに、砂嵐のせいで碌に認識もされない。ターゲットガンや空中射出型サブカメラがあればまた話も別だったのかもしれないが、生憎とそんな物を積む余裕など微塵も無かった。
 フォーシィの愛機カルテット・Kは、KARASAWAを搭載し、KARASAWAを扱い、KARASAWAの性能を遺憾なく発揮し、KARASAWAによる勝利をこの手に掴む、その目的のみに特化して構成された機体だ。ENアンプが無ければ十全な性能を発揮できるとは云えず、一挺でも武装を削れば精神の安定が保てなくなる。元よりKARASAWAが積載の半分近くを占めている以上、削ればバランス制御に影響が出てしまうかもしれない。

「まどろっこしい! 接近してくれないとロックオンが出来ないでしょうに!」

《待たれよ、フォーシィ。我が輩がスキャンする》

「ヘリですか!」

《否、随伴のACだ。エンブレムはAPCではないな。傭兵か? 詳細は暫し待たれよ》

「そんな馬の骨など煮込んでスープのダシにしてくれましょうねぇ!」

 KARASAWAを構え、当てずっぽうに撃ってみる。それから、共通回線での挑発を試みた。

「さぁ! 御覚悟どうでしょう!」

 少しして、返答が来た。

《……OK繋がった。上等だバカヤロウ。当ててみな。ご自慢のそいつをよ》

「誰ですか貴方」

 砂煙の向こうから現れたのは、クリーム色に赤のスプリット迷彩で塗装された、軽量二脚型ACだ。何処かで見た配色だと、フォーシィは回想する。
 ――そうだ。オーガクローだ。アリーナ参加選手カタログのランク別項目一覧に載っていた。

「あぁ、思い出しましたよ! 貴方は確かランクEのゴミ傭兵、ジグザグ君ではありませんか! そんな貧相な機体で挑むとは、随分と大見得を切ったものです! 私はアリーナランクBですよ! B、C、D、E! 隔てすぎではありませんかねぇ?! ファハハハッ!」

《そんなバカみてぇな肩書きが何の役に立つってんだバカヤロウ。そんな事よか、お前あれだろ。バカが風呂を浴びてそのまま洗濯機にも使わず下水道に流すみたいに一杯、バカ高いレーザーライフルをバカスカ拾っては撃って捨ててるらしいじゃねぇか。羨ましいよなぁ。ここで出会ったよしみだ。一挺譲ってくんねぇか》

「駄目ですゥ!」

《なんでだお前ぇー、ケチってんじゃねぇよ》

「無理ですゥ! ファハハハッ!」

 スキャンが完了した。武器情報を読み取る。物理ブレードを両腕に、右側のハンガーにパルスマシンガン、左肩の内蔵兵装はHEAT弾頭ロケットか。近距離主体の構成だ。あまり相性は良くない。視界が悪いこの場所では、あの構成はかなり活きるだろう。ならば相手の装甲の薄さを逆手に取り、迎撃ついでに完全破壊を試みるしかあるまい。

《あー、うるせぇ、耳痛ぇから大声で笑うなバカヤロウ。黙らせてやる》

 推進器を点火し、オーガクローが急激に肉薄してくる。定説に従うなら、このまま弾を回避しながら一撃当ててくるに違いない。だが対HEAT弾頭用の複合装甲が施されたこの機体であれば、ロケット程度、単なるこけおどしにもならない。相手もそれを理解しているのか、ロケットは飛んでこなかった。よく見れば右手の武装をパルスマシンガンに持ち替えている。流石にそれは当たりたくない。

「懐に潜ろうというのですか! そうは行きませんねぇ!」

 正面からレーザーライフルを放つ。かすりもしないのは癪だが、脅威は伝えた。

《おう? 落とそうってか》

「流石に駄目ですかね」

《バカヤロウ、そりゃそうだ。当たりゃしねぇよそんな弾。狙いが甘すぎらぁ。ましてやこの砂嵐の中じゃあな。だからこそ、接近戦ってのが生きてくるんだ。次はこっちの番だ。バカみたいに痛ぇぞ》

 今度はオーガクローの物理ブレードが装甲を掠め、乾いた打撃音がコックピット内に木霊する。

「おぉ、恐ろしい」

 二発目を甘んじて受ける訳には行かぬ。フォーシィは自機のブースタを最大出力まで上げ、距離を取る。ジェネレータのエネルギー残量が瞬く間に減り、警報が鳴った。

《ランクBの名が泣くぜ。このレーザーバカが》

「これ以上馬鹿呼ばわりされるのは我慢なりませんねぇ! 男爵、ヘリを此方へ!」

《宜しい。掴まり給え》

《おい待てよ、反則じゃねぇか?》

「生憎と、此処はアリーナではないので!」

 カルテット・Kがヘリを足場に駆け上る。そのままヘリの装甲を蹴って遠くへと跳躍した。自機の放物線を描いて飛ぶ感覚が、自分でもよく判った。これが本当の物理の力だ。攻撃だけに転用するなど、浅はかというものだ。

「ファハハハッ! ご覧なさい! これぞ4th-Forces流、回避術! 力とは即ち、複数の要素を相乗し、それぞれを活かした連携! 孤独の戦場を無様に這いずり回る貴方とは違うのです! そう……何もかもがね」

《お前、俺が友達居ないって事を云いたいんだな?! だがちょっと待って欲しい。俺は変わり者かもしれんが、こう見えて友達は大切にしてるほうだ。お前みたいなバカヤロウこそ、友達居ないだろ絶対! いいんだなお前、見てろよ! 今に友達百人作ってやるからな!》

《全く、おしゃべりな戦場だ。これだから嫌なんだ、こいつと一緒に出撃するのは。おい、フォーシィ。ヘリが来たぞ》

「運命の瞬間ですね?!」

《数がかなり多い。ACの攻撃を躱しながら行けるか?》

「いらっしゃいませ! 此処が戦場です!」

 さぁ、ご対面だ。早くヘリを撃墜して帰還し、鑑定士に武器を見せねば。タンデムローター特有の低く重なり合う羽音が、装甲越しにコックピットへと響く。こんなにもすぐ近くに居たとは。複数居るのは想定外だが、もし今所持しているKARASAWAの残弾を使い切っても男爵が後で投下してくれる。

《あぁ、そのヘリについてなんだがな。残念だが、囮だ。とんだバカヤロウだな》

「何ですとゥ?」

《嘘だと思うなら、ヘリを全部墜として見ろ。APCの面子は、そこにゃあ乗ってねぇぜ》

《男爵、索敵しろ! APCは遠くへ行っていない筈だ!》

《今やっている。少し待ってくれ》

 男爵とスターシャが、この砂漠という名の舞台の裏で、何かコソコソやっている。受信側だけ共通回線に設定しているらしく、此方の会話に混ざってくる様子は無かった。フォーシィはヘリが逃げ切る前に進路上に立ち塞がり、KARASAWAを構える。敵ACのオーガクローはこちらに有効な射撃武器を一つしか持っていないとあらば、さほどの脅威にもならない筈だ。いざとなったらスターシャを盾にしてやろう。それに……

「素晴らしい。これだけの数が居れば、慣らし運転には充分です! うはは!」

《何がおかしい? 騙されてるんだぞお前!》

「笑わずには居られません! 滑稽、そして僥倖! 任務の成否など、私にとっては些末な事。名器との出会いこそ、私の真の目的です。敵が多ければ多いほど、撃てる! 撃てばそれだけ、愛しのこの子達、KARASAWA達が真の姿へと近付くのです! 弾切れを起こしたら補充すれば良いだけの事! ファハハハハッ!!」

 ここまでに、三機目のヘリがレーザーに貫かれ、墜落した。正面からコックピットを狙ってやれば、一発で墜ちる。なるべく多くのヘリを倒すのだ。ここで、二挺が弾切れを起こす。パージし、男爵がパラシュートで投下したKARASAWAを受け取る。

《イカレてる。最高に危険なバカヤロウだよ、お前って奴は! さっさとくたばってくれ》

 画面一杯に敵機の膝関節が映される。思わず自機を傾けて庇おうとするも、衝撃が機体左腕部を襲った。左腕装備の残弾表示が消えている。フォーシィはすぐさまコンソールを操作し、コア左側のサブカメラを起動する。嫌な予感は的中した。

「あぁッ、私のKARASAWAがッ!!」

 ぽっきりとへし折れたKARASAWAが、指の関節からぶら下がっていた。これではもう撃てない。捨てるしかない。

《悪ぃねぇ。まぁこの程度で壊れるって事は、お前の云う名器には程遠いんじゃないか?》

「よくも私の愛しいKARASAWAを! 愛するペットを!」

 ――この男……許さん!
 フォーシィの怒りは頂点に達し、激情に任せてKARASAWAの残骸を投げ付ける。オーガクローにそれが届く事は無かったが、そこは良しとしよう。

《男爵、云ってやれ。“そのペットを撃っては捨てる奴が愛とか抜かすな”って》

《……否。最早、何も語るまいよ》

《そうか》

「来なさい! その貧弱装甲を穴だらけにしてやります!」

《ははっ、穏やかじゃないねぇ! 望み通りそっちへ行ってやるよ、バカヤロウ。但し、後ろからな?》

 オーガクローがビルを蹴って飛び上がり、慣性の法則を用いて上空から飛来する。

「振り向いて撃つ! 壊して殺して育てるゥ!!」

 カルテット・Kの砲撃姿勢制御用アンカーを砂地に打ち込み、その場でブースタを噴かして方向転換を行なう。そのままレーザーを放つ、回転しながらでは狙いが定まらないのか、オーガクローの物理ブレードを溶かす程度だった。

《うるっせぇ》

「回線を切れば良いのでは?」

《あ、じゃあお言葉に甘えて。共通回線開きっぱだったからな。道理で騒がしいと思ったんだよ。これで戦闘に集中できるよな。俺って、ほんとバカ》

 それから暫くは無言の戦闘が続く。スターシャが思いの外頑張ってくれたお陰で、輸送ヘリは残り僅かだ。連射性能に優れるヒートキャノンの賜物か。フォーシィも残存するヘリへ、次々と攻撃を加える。何度かオーガクローの妨害があったが、KARASAWAのレーザーを当てたらそれきり近付いて来なくなった。

《なぁ、聞いてくれよ。さっきから依頼主との通信が取れねぇんだ。俺、騙されたのかな?》

「敵も味方も騙され、掌で踊り続けるとは! いやはや、まさに滑稽そのもの!」

 笑いが止まらない。今日一日だけで何度笑った事か。こちらが騙されるだけならまだ判るが、APCの様な草食動物の如く惰弱な組織すら傭兵を騙し討ちに用い、あまつさえ使い捨ててのけるとは。だが、騙し合いの最中にも、破壊は確かに行なわれた。第9領域の勢力全てをひっくるめた中での物資の消費――それが全体の何割かまでは知る由も無いし、興味も無いが――が起きたという事は、経済にも多少の影響が出ているのだろう。

《男爵、情報はまだか! 早くしないとAPCに逃げられるぞ!》

《敵反応が他に無い》

《何だと! そんな筈があるか! ヘリを全機墜とした私の苦労を無駄にする気か!》

 スターシャはどうにか作戦を成就させようと奮闘している様だが、出撃前に彼が云っていた通り、依頼主が碌でなしなら、どう足掻いてもまともな方向に運ぶ事など無い。せいぜいこの戦場を利用させて貰うまでだ。

《無いものは仕方あるまいよ。どれ、フォーシィは大丈夫かね。スターシャ、他に敵機も居ない。援護へ行き給え》

《援護……必要か?》

《見れば解るさ》

《そうだな》

 何も焦る必要は無い。目の前の敵を倒す。それだけで良いのだ。他のチームメイト同様、フォーシィもこの世界の情勢、その動向に興味は持ってなど居ない。結局、なるようになるのを見届けるしか無いのだ。
 それはそうとして、オーガクローの動きが悪い。果敢に突っ込んできた先程までとは打って変わって、今度は逃げに徹している。

「如何されましたか、ジグザグ君ん! 先程までの勢いは何処へ行ったのです?」

《悪いが俺は撤退するぜ。依頼をすっぽかされた。それに、単機で二機を相手どるのは、ちぃとばかし分が悪い》

 戦場の敵は残らず屠るのが、フォーシィの信条だ。取り逃がすのは嫌だ。

「お待ちになって! 私のペットの餌になりませんか! まだお腹がすいているのです! 私の愛を、この愛を理解して下さい! 愛をぉ!」

《フォーシィ。我々も撤退するぞ》

 ――スターシャ……糞リーダーめ! こんな奴の指示など聞くものか!

「い、嫌だぁぁ! 帰りたくないぃ! あのACを、あのACを倒さねば!!」

 スターシャのAC、イグナイト・Hにがっしりと掴まれる。奴め、いつの間に武装をパージしたというのか。カルテット・Kの様に鈍重な機体では、機動力で振り切る事は出来ない。

《作戦は失敗だ! 駄々をこねるな馬鹿野郎――おっと、口癖が移ってしまった》



「――で、お前等揃って、尻尾巻いて逃げてきたってか? ざまぁねぇな! 俺が居たらそんな奴、ヘリもろとも蜂の巣にしてやったのによぉ!」

 TTことThrone-8∞8は、ぼろぼろになったACを指差しながら破顔する。全く情けない先輩方だ。目の前のスターシャは面白くないのか、肩を怒らせてから、ややあって溜め息をついた。

「全く、何だその云い方は。結局APCは別所にて部隊を展開していたし、作戦領域に居た傭兵もヘリ部隊も、単なる囮だった。依頼は失敗、またあの男の活躍に花を添える結果に終わった」

「あの男?」

イーヴァンだよ。インレが惚れてる傭兵だ」

 そういえば情報誌に載っていたか。イーヴァンというSランクの傭兵が、隠れて低空を飛行していたAPCのヘリを残さず撃墜し、随伴のACごと葬ったとか。護衛に付いていたACは決して雑魚では無かった筈だ。確か、AかBくらいのランクだったと思う。残骸を拾い集めていた回収屋の話に依れば、ACは単機ではなく複数機居たとの事だが……ともかく真相を知るには、まずその場に居合わせねばなるまい。いずれにせよ“錆の悪魔”に拘わると、敵味方問わず死地に追い遣られるともっぱらの評判だ。あまり拘わる気にはなれない。

「なるほどね。美味しいところを全部そっちに独り占めされ――」

 轟音が会話を遮った。

「おい! 何の音だよ、今の!」

 近所迷惑極まりない。TTも己が素行不良のならず者であるという自覚はあったが、それを差し引いても今のは酷い。ガレージの倒壊を危惧する程には、危険な香りの漂う轟音だ。

「“仕分け作業”だな」

「仕分け?」

「KARASAWAのだ。大方、今回仕入れた分も、碌な育ち方をしなかったんだろう。おい、フォーシィ。今回はどうなんだ」

 スターシャがマイクで通信を入れる。ややあってから、窓から見えるガレージにて、四脚型のACが動いた。

《駄目ですねぇ! どれもこれも! 今撃った分はコンデンサの消費量が多すぎます! そのくせターゲットに空いた穴が小さい! ほら、見て下さいよ! 一昨日見せたものより小さいでしょう!》

「そうか? 違いが判らんが。そもそもガレージシステムのスペック判定機能で見れば一目瞭然だろう」

 確かにリーダーの云う通りだ。が、フォーシィは納得行かない様子だった。通信機越しに何か唸っている。

《そんな妥協をするから、貴方はいつまでも二流止まりなのですよ、腰抜けリーダー》

「――ッ、お前、だからってガレージを揺らせば一流になるのか?」

《必要な犠牲です》

 いっそ清々しい程の開き直りだ。夜遊びに没頭し、昼は他のゴロツキ共と鋼と鉛の戯れをしているTTは、あまりガレージ一体型のこの拠点でくつろぐ事は無いが、確かにリーダーの気苦労も窺い知れる。このガレージも、リーダーのスターシャが大枚はたいて建築業者に作らせたものだ。壊されたらその落胆ぶりが目に浮かぶ。

「胃が痛い……今日も碌な事が無さそうだ」

「ガンスミス系のミグラントに四挺纏めてこさえて貰えばいいじゃんよ」

「それじゃ駄目なんだと」

「めんどくせぇな」

 TTは煙草の吸い殻を灰皿に押し込み、仕分け作業に勤しむ四脚ACを眺めた。銃など、撃って当たれば良いのだ。下手な拘り故にチームの足を引っ張っては、それこそ本末転倒ではないか。全く、つくづく曲者揃いのチームだと、TTは頭を抱えた。スターシャもリーダーにしては押しが弱いし、男爵も常識的に見えて何処かズレている。フォーシィに至ってはご覧の通り、自分の武器を強くする事以外に興味を持たず、その目的の為に常識やその他諸々を全部犠牲にしている。

「まともなのは俺だけか」

「黙れゴロツキ、お前が云うな」

「こんな時代だぜ。ゴロツキこそ常識の代名詞だろ」

「その理屈はおかしい」

「なんでよ?! 俺は別に――」

 またしても、ガレージが揺れる。どうやら今しがた撃った一挺も、彼の機械仕掛けのお眼鏡には適わなかったらしい。天井から粉末や埃、塵といった類いの物がぱらぱらとこぼれ落ちる。

「……なぁ、今度から任務から戻る度に、アリーナに出場させてやったらどうよ? 一応、あいつのマネージャーも兼ねてるんだろ、あんた」

「検討してみよう。あんな板きれよりかは満足させてやれるかもしれん」

 でなければ、屋外に射撃訓練場を新設すべきだ。このままではストレスでスターシャの心が潰れるか、チーム諸共物理的に潰れるかのどちらかかもしれない。拾って貰った恩義もあるし、彼らに死なれるのは寝覚めが悪い。



戦後報告一覧(ASSAULT RECORDS)


Jvan's side
PILOT NAME UNIT PROFILE
Star-Shooter AC(2Legs-H) スターシャ。Rumble-Rainbowのリーダー。
フォーシィに今回の依頼を勧めるも、敵機からの通信から依頼成功は絶望的と判断し、撤退。
4th-Forces AC(4Legs) フォーシィ。KARASAWAを育てる*1為に敢えて掌の上で踊らされる事を選択するも、
リーダーのスターシャに引き摺られる形で強制的に帰還させられる。
Baron-Balloon Helicopter 男爵。今回の作戦には文句も云わずに参加、求められた無茶ぶりにも平然と対応していた。
Throne-8∞8 AC(Tank) 別の依頼で雇われていた為、今回の戦闘には参加せず。
Yvain AC(2Legs-H) NO RECORD
Inre Helicopter NO RECORD
APC side
PILOT NAME UNIT PROFILE
Zigzag AC(2Legs-L) APC側に雇われた傭兵。通信に誰も応答しなくなった為に、
自分が捨て駒にされた事に気付き、撤退。以後、同組織に対しては暫くこの件について根に持っていた。


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怨是 読み切り
最終更新:2013年11月18日 02:27

*1 当時は武器を使い込むと性能に変化が現れた為、使い込む行為が“武器育成”と呼称されていた