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オーダーミッションNo.002【奇襲残存機掃討】CASE1 「ルージュ・メッセージ」



難易度: D
依頼主: カストリカ・ガード
作戦領域: HUGE CANYON
敵対勢力: バンガード
敵戦力: AC×4(残存機数不明)
作戦目標: 敵ACの撃破
特記事項: -
概要:
「バンガード」AC部隊への奇襲攻撃を敢行する。ついては傭兵諸君の協力を仰ぐ。我々はさる筋より入手した情報をもとに待ち伏せを行い、長距離狙撃にて奴等を輸送ヘリごと撃ち落す。
諸君は墜落予測地点で待機し、死に損ないの後始末をお願いしたい。
なお報酬は撃破数に応じた歩合制とする。
墜落した時点で全滅していれば報酬はない。
ミグラントらしく奴等の残骸でも売りさばいて腹の足しにしてくれ。

 輸送ヘリが撃たれた。
 長距離輸送用に大型のコンテナを腹に抱えた輸送ヘリは、数秒前まで夕方の赤い空の遙か、遙か下、そびえたつ岩山の、高く、高く上を何の問題もなく順調に飛び続けていた。
 それがあっさりと、遠くから飛来した弾に横っ腹を打ち抜かれた。機体を右に傾けたかと思うと火に包まれて、煙をまき散らして、螺旋を描くように、

                         グ

                    ル

                           リ
                       グ
                            ル
                     リ
                      グ
                        ル
                      リ

 と落ちていく。
 少し離れて、朽ち果てた通信設備が残っていた。いつできたのかも、いつ壊れたのかも、どれだけ放置されていたのかも、誰かが生活を営んでいたのか、それともずっと無人だったのか、誰も知らないだろう。気にもとめもしない。
 いつこうなったのか。
 だれがこうしたのか。
 あまりにもあふれた人工物。
 朽ち果てていく人工物。
 考えたところできりがない。
 そんなことを考える者もいないだろう。
 大多数の人々が、その日を生きて終わるだけで精一杯のこんな世の中では。
 廃墟の物陰に1つの塊が座っている。破れた壁、むき出しのさびた鉄筋の間から、落ちていくヘリを見上げるACだった。世界の各地から、これでもかというほど発掘されて、これでもかというほど戦場を駆けて活躍し、これでもかというほど破壊される汎用陸戦兵器。そんなACの一機が見つめている。

「なんだよ。相手さん、ダイビングが趣味だなんて聞いてないぞ」

 コックピットの中で特に気構える様子もなくジグザグが呟く。落ちていくヘリの行く先は、ちょうど川の上だ。
 落ちていくヘリはバンガードのもので、コンテナにはACが四機も入っていているという情報だ。操縦士や整備士や通信士なんかを含めれば何人死んだことになるのか。だが、いちいちそんなことを気にはしない。
 よくあるのだ。この程度のこと。

「パーツはご自由にお持ちくださいって、水中か。どうすっかな」

 依頼では撃墜したものを勝手に奪って、売り払っても良いという条件だ。そのために、わざわざパーツを乗せるためのトレーラーをリースしてきている。だが、水中に沈んでしまえば、ACでの回収は難しい。だが、パーツが手に入らないとなると、この任務では報酬はゼロ、諸経費を引けば赤字だ。
 ヘリを撃って、堕として、はい終わりましたとなると、ACをわざわざ出す必要がないので、出撃に関する報酬は支払われない契約だ。何もなければ、何もなし。こうなってくると、何とも馬鹿馬鹿しくケチくさい依頼だ。カリトリカ・ガードの依頼はけちくさいと彼が改めて頭の中のメモ帳に書き込もうとしたとき、ヘリから何かが飛び出してくる。炎と煙をまとって、弧を描くように廃墟の上へと着地をする。着地の直後、ヘリが水中に突っ込み、大きな爆発を起こして巨大な水柱をあげる。
 着地し、周囲を伺っているのは、バンガードで広く使われている「ストライカー」と称されるACだ。そして、水柱の陰からストライカーに狙いを定めたジグザグと彼の操るAC「オーガクロー」がブースターをふかして、水面をかけて向かってくる。

「生き残っててくれて、ありがとさん」


 ☆


「バカにみたいに安すぎるだろ。なんだこれ? バカなガキみたいにバカな面してバカなストリートでバカなレモネードをバカ売りするほうがまだましじゃねぇか」

 カストリカ・ガードへの報告と一機分撃破の報酬をもらって、立ち寄ったのはカストリカにあるジャンク王だった。ジャンク王はACパーツの売買を専門に行っているミグラントの1つで、CMもよくやっているのでジグザグも名前だけならよく知っていた。

「大げさな、にいちゃんだな」

 中年のつなぎを着た店員がそう言いながら電卓を叩き。

「なら、これでどうだ?」

 と再びジグザグに見せる。先ほどよりも、一割ほど金額が上がっている。その数字にジグザグは眉をひそめ、勝手に店員が持ったままの電卓を打ち直す。今度は、それを見た店員が眉をひそめる。

「俺としては、これぐらいはいくだろと踏んでいたんだ。装甲はレア程度に焼けてるだけで、関節系はちょっと傷んでいるだけだ。軽い痛風程度に痛いぐらいなもんだ。操縦席は、そうだな、バカでかいハンバーグを作っている最中に嵐のような夫婦喧嘩でも始めちまったみたいなってるが、集めて丸めて焼けば、ほら、旦那も入ってさらにバカでかいハンバーグのできあがりだ」

 と言いながら、天井からクレーンでつり下げられたストライカーを指さす。コア部分のちょうどコックピットのあたりの装甲が割れている。そのあたりだけ、よく見ればどす黒い赤で汚れている。

「その例えはよくわからんが、コックピットが無事ならもっと良かったんだぜ? 精密機械の塊なんだ。きれいに残っていれば、あそこだけでだいぶ違うぞ。まったく、あんな殺し方できるなら、ホールドアップで投降させればいいんだぞ。なんだ、にいちゃん、えらく腹に据えかねて殺っちまったのか? 」

 うーんとジグザグがうなり、ストライカーのコックピットを見つめる。
 むしろ、俺様の金のために生き残っててくれてベリーサンクスグッバイであって、相手は親を殺したわけでもなく、恋人を犯したわけでもなく、親友を侮辱したわけでもない。性別年齢趣味特技その他を全く知らない人間だ。何一つの関係すらない。今後出会うことも一生ないようなぐらいに関係がない。だから、出会うことがないなら、生きていても死んでいてもどちらでもいい。どちらでもいいのに奪ったのは、ただ、そういう戦いばかりしてきたからだ。
 彼、ジグザグは、つい先日まではバンガードにいて、ACパイロットをしていた。バンガードにいた頃は、パイロットを一人でも多く殺し、戦力を減らせ、機体は一機でも多く回収し、戦力を増やせ。足し算と引き算を同時にやれば、一度に二倍の戦果となる。そう教育され、戦場を渡り歩いてきた。だから、相手のストライカー相手に搭乗者を含んだ最低限の破壊だけをしたつもりだ。コックピットの惨状はその結果だ。

「そういうわけじゃねぇな。なんだ、成り行きってところだな。バーで飲んでいて、色っぽいねえちゃんが隣に座ってくりゃ、次の日の朝には、自分だけがベッドの上でスッポンポンになって寝ていてよ、鏡にルージュで「昨日は忘れない」って書かれた上で、財布がなくなってるだろ? 」
「だから例えがわからんが……にいちゃん、傭兵やるならそのへんも考えねぇとただの能無しで終わるぞ? 戦うだけじゃなくてだ、生き延び続けるのミグラントってもんだ」
「能無しか。バカやるのは十八番だけどな」

 戦い方次第では、相手は勝手に脱出しただろうし、こちらも、より多くの金が手に入る。双方にとってのウィンウィンだ。機体を失った兵士が、どんな処罰を受けるかまでは引き算するとしてだが。

「ただ、引き金引くだけじゃ駄目ってことか。なるほどね。」

 そのことに気がつき、納得した様子で、ジグザグが頷きながら呟く。そういった価値観は新鮮で、脳が興奮してきているのがわかる。

「そうだそうだ。上の命令だけ聞いてドンパチやる頭空っぽの正規兵様と違ってな、殺し回るだけじゃ駄目だ。頭を使わないといけない」店員が自分の頭を指さす「ただ強い奴なんてごまんといるが、そんなもんいざとなれば袋だたきにしちまえば良いだけの話だ。そして、袋だたきに遭うように敵ばっかり作っているなんて大馬鹿野郎だ。敵だろうと相手も生きていれば、そいつが次の仕事を作り出すんだ。飯の種の戦場がなくならないように考えておかねぇとな」

 店員は、楽しそうに言う。そう言う世界だということを新参の傭兵に教え、その傭兵がまた自分たちの飯の種を作り出して、巡り巡っていくことにひとつの縁を感じ取っているからだろうか。
 店員はもう一度電卓を叩き直して、掲げる。そこには、ジグザグの提示額より多少引かれた数字が並んでいる。

「にいちゃんは、まだミグラント歴が短いからサービスだ。へへ、その代わりにうちをご贔屓してくれよ。万一にもオーバードウェポンを手に入れたら、絶対にうちにもってきてくれ」
「ああ。わかったわかった。その値段で手続きを頼む」

 と交渉成立したところで一台のトレーラーがジャンク王に入ってきた。コンテナに所々塗装がはげた女神か天使のようなものが描かれていて、ジグザグには見覚えがあった。先ほどの戦場で自分が去っていった後に、頃合いを見計らったかのように現れた回収屋のトレーラーの1つだ。どうせ自分では水中での回収もできないので、さほど気にとめていなかったが。

「やぁ。景気はどうです? 一台分の査定をたのみます」とトレーラーから若い男が店員に声をかける。
「景気はいいが、どうした? たったそんだけか? 今朝は、めい一杯もってくるなんて言ってくせに」

 店員が不満そうにトレーラーを眺める。

「それが、ACを4機も積んでるなんてガセでしてたよ。せっかく水の中に潜ったのに、予備パーツぐらいしか残ってなかった」
「なんだよ。ガードの連中、まーた騙されたのか」
「ええ。何でもヘリを撃った部隊の方はバンガードの傭兵にやられたって噂ですよ。そっちではってれば良かったよ」
「まんまと誘き寄せられたってわけか。やっぱり、バンガードの方が一枚上手だな。やっぱ、ジャベスだしな。おーい、こっちの査定してやってくれー!」

 店員が店の奥に声をかける。
 そんな光景を見ながらジグザグは杖をついて左足を引きずるように歩く。数ヶ月前までは普通に歩けたが、こうなってはバンガードに居場所はなかった。居場所を奪ったからと言って恨んでいるわけでもない。自分のバカでこうなった、自業自得に過ぎない。
 再び、自分が倒して持ってきたストライカーを見る。店員と話しているうちにクレーンからおろされて、足を伸ばす格好で鎮座している。
 かつての自分も、あのヘリに乗っていたかもしれない。このストライカーに乗っていて、戦いもできずにヘリごと撃ち落とされていたかもしれない。こうして死んでいたかもしれない。感傷に浸るほど知った人間ではないけれど。
 かといって、バンガードに与してやろうという意識もない。愛着も恨みもない。あるのは懐かしさだけ。新たに傭兵となってからは、全部をゼロにしたつもりだ。新しい人生を開いたつもりだ。
 傭兵は、これまでとは違う。戦うのではなく、生き残っていかなくてはならない。それに、軍ではお目にかかれないような面白いことをしている連中も大勢いるようだ。

「ヒヒッ。なかなか面白いぞ、傭兵」

 思わず嗤った。
 今日は十分に稼いで、新たな世界を知って、良いことだらけだ。
 ジグザグの心は躍っていた。
 そして、その日の夜は飲みに行き、偶然であった二人組の美女に財布をすられた。


fin.

投稿者:ug
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最終更新:2013年11月18日 22:24