別れ。それはいつか必ずやってくるもの。
想い。それは誰かに伝えるもの。
――た。それは私が大好きな人の名前。
想い。それは誰かに伝えるもの。
――た。それは私が大好きな人の名前。
だけど、私はそれを全て拒絶することになる。
二月のある日に訪れた出来事によって。
だから、この時の私はまだそれを知らない。
一月一日という時の中を過ごしていた、この時の私は――
二月のある日に訪れた出来事によって。
だから、この時の私はまだそれを知らない。
一月一日という時の中を過ごしていた、この時の私は――
『彼方へと続く未来 プロローグ』
「お姉ちゃん、あけましておめでと~」
「うん、今年もよろしくね~、つかさ」
「うん、今年もよろしくね~、つかさ」
例年通り初詣客でおおいに賑わっている鷹宮神社の
境内の一角で、私はつかさと新年の挨拶を交わしていた。
赤と白に彩られた巫女服を着込んでいつも通りの会話を
続ける私たちは、今年もお母さん達を手伝う為に、受験勉強を
一時中断して境内を巡回していた。
境内の一角で、私はつかさと新年の挨拶を交わしていた。
赤と白に彩られた巫女服を着込んでいつも通りの会話を
続ける私たちは、今年もお母さん達を手伝う為に、受験勉強を
一時中断して境内を巡回していた。
「そういえば、今年はまだ来てないわね、アイツ」
「うん。多分もうすぐ来るんじゃないかなぁ」
「うん。多分もうすぐ来るんじゃないかなぁ」
かじかんだ両手にハァ~ッと息をかけながら、
少し遠回しに呟いた『アイツ』と呼ばれた人物。
少し遠回しに呟いた『アイツ』と呼ばれた人物。
しかし、実を言うと既に私たちのすぐそばで、アイツは
五分近く気づいてくれるまでじ~っと立ち続けていたらしい。
私とつかさがそれに気づかなかった原因は、その本人が
青いニット帽を頭に深々と被っていた為であった。
五分近く気づいてくれるまでじ~っと立ち続けていたらしい。
私とつかさがそれに気づかなかった原因は、その本人が
青いニット帽を頭に深々と被っていた為であった。
「まっ、気長に待ちましょ。ほっとけばすぐに来るわよ」
「そうだね~。じゃあ、一旦お母さんの所に戻ろっか」
「うん。そうしましょ」
「そうだね~。じゃあ、一旦お母さんの所に戻ろっか」
「うん。そうしましょ」
そうして、私とつかさが本殿に向かって歩きだそうとした
まさにその時。『アイツ』はほんの少し口元を緩ませながら、
まさにその時。『アイツ』はほんの少し口元を緩ませながら、
「やふ~。かがみ、つかさ、あけおめ~」
「のわぁっ! こっ、こなたぁ!?」
「こ、こなちゃん!?」
「のわぁっ! こっ、こなたぁ!?」
「こ、こなちゃん!?」
青いニット帽を取って私たちに新年の挨拶をしていた。
こぢんまりとした体格に長く伸びた青い髪。
加えて頭頂部にあるぴょこんと突き出たアホ毛。
色々な意味で特徴のあるオタク少女――こなたの登場だった。
こぢんまりとした体格に長く伸びた青い髪。
加えて頭頂部にあるぴょこんと突き出たアホ毛。
色々な意味で特徴のあるオタク少女――こなたの登場だった。
「まったくもう、また二人とも同じパターンに
引っかかっちゃったね~。去年だって……」
引っかかっちゃったね~。去年だって……」
顔をにやつかせながら、他の初詣客達の喧騒に
負けないくらいの勢いで次々にまくしたててくるこなた。
それに対して、私はいち早く反応し、言い訳をした。
負けないくらいの勢いで次々にまくしたててくるこなた。
それに対して、私はいち早く反応し、言い訳をした。
「しょ、しょうがないでしょ。今日は人でいっぱいだし、
アンタの方もそのアホ毛が見えないとやっぱり見分けが……」
「うん。私も全然分からなかったよ~」
アンタの方もそのアホ毛が見えないとやっぱり見分けが……」
「うん。私も全然分からなかったよ~」
新年早々からこなたに奇襲を受けてたじろいでしまった。
既にこの手のパターンはお馴染みになってきているハズなんだけど、
やっぱり年始の特別な雰囲気の中で油断しちゃったのかな。
……なんか無性に悔しい。
既にこの手のパターンはお馴染みになってきているハズなんだけど、
やっぱり年始の特別な雰囲気の中で油断しちゃったのかな。
……なんか無性に悔しい。
「まっ、それはそうと……。明けましておめでとっ、こなた」
「明けましておめでと~、こなちゃん」
「明けましておめでと~、こなちゃん」
いちはやく気を取り直した私が先陣をきってこなたに
新年の挨拶をし、つかさがそれに続く。 一方、こなたは――
新年の挨拶をし、つかさがそれに続く。 一方、こなたは――
「あい、ことよろ~。それにしても、いつ見ても巫女服ってのはいいねぇ。
この色の組み合わせなんかがもう……」
この色の組み合わせなんかがもう……」
挨拶も早々に私たちの巫女服をまじまじと見つめるこなた。
その光景にあきれる私と軽く笑みを浮かべるつかさ。
やっぱりこなたは、こなただった。
その光景にあきれる私と軽く笑みを浮かべるつかさ。
やっぱりこなたは、こなただった。
「全く、今年は大学受験もあるのに緊張感ゼロね、アンタは。
ていうか、まさかアンタ昨日……」
ていうか、まさかアンタ昨日……」
頭の中によぎった嫌な予感をこなたにぶつけてみる。
だけど、こなたの返答の内容は良い意味で予想に反したものだった。
だけど、こなたの返答の内容は良い意味で予想に反したものだった。
「いや~、流石に今回のコミケは自重したよ。
夏の時はまだ少し余裕あったんだけどさすがにね」
「そうそう。こういう状況の時くらい行くのやめて正解よ」
夏の時はまだ少し余裕あったんだけどさすがにね」
「そうそう。こういう状況の時くらい行くのやめて正解よ」
「コミケ……! はわわっ……」
半ばほっとした感覚にとらわれている私の横で、
何かを思い出しながらブルブルと怯えているつかさがいた。
どうやら、またコミケの『トラウマ』が働いているらしい。
何かを思い出しながらブルブルと怯えているつかさがいた。
どうやら、またコミケの『トラウマ』が働いているらしい。
そんなつかさを慰めると同時に、私は去年の初詣の時とは
何かが違っていることに気づき、こなたに質問した。
何かが違っていることに気づき、こなたに質問した。
「そういえば、おじさんは? 去年は一緒に来てたのに」
「ん~、家でのびてるよ。何せ今回は私の分まで
コミケに行ってきたもんだからクタクタになってたねぇ。
ちなみに、ゆーちゃんはみなみちゃん達と初詣に行ったよ」
「よかった。ゆたかちゃん達は巻き込んでなかったのね。
だけどアンタ、自分の親でも容赦ないな……」
「ん~、家でのびてるよ。何せ今回は私の分まで
コミケに行ってきたもんだからクタクタになってたねぇ。
ちなみに、ゆーちゃんはみなみちゃん達と初詣に行ったよ」
「よかった。ゆたかちゃん達は巻き込んでなかったのね。
だけどアンタ、自分の親でも容赦ないな……」
さっきよりも一段とあきれてこなたをガン見する私。
そんなことよりも勉強はちゃんとしてるのかしら?
私が再びこなたに問いつめようとした矢先――
そんなことよりも勉強はちゃんとしてるのかしら?
私が再びこなたに問いつめようとした矢先――
「ところでこなちゃん。お祈りはもう済ませたの?」
ふと、先程のトラウマからようやく脱出していたつかさが、
何事もなかったかの様にこなたに話しかけていた。
しかし、次のこなたのひと言によって、私の体の動きが
ピタリと止まることになろうとは、想像もしていなかった。
何事もなかったかの様にこなたに話しかけていた。
しかし、次のこなたのひと言によって、私の体の動きが
ピタリと止まることになろうとは、想像もしていなかった。
「うん、もう済ませたよ。これからもつかさやみゆきさんと
仲良く出来ますように~……ってね。それに合格祈願も」
「えっ……?」
仲良く出来ますように~……ってね。それに合格祈願も」
「えっ……?」
最初は、ただの聞き間違いだと思っていた。
だけど、今のこなたの言葉を何度繰り返してみても、
そこに私の名前は無かった。
だけど、今のこなたの言葉を何度繰り返してみても、
そこに私の名前は無かった。
どうして、私の名前だけないんだろう?
今の発言の意図について私がこなたに
食って掛かろうとしたまさにその時、
今の発言の意図について私がこなたに
食って掛かろうとしたまさにその時、
「こ、こなちゃん。お姉ちゃんは?」
と、またもやつかさが先にこなたに質問していた。
これはチャンス、といわんばかりに私がそれに続く。
これはチャンス、といわんばかりに私がそれに続く。
「そうよ! なんで私だけ……」
正直、ちょっぴりショックだった。
こんな気持ち、去年のクラス替えの時以来よ。
……ねぇ、こなたは私のことどう思ってるわけ?
そんなに私とは仲良くできないってことなのかな。
こんな気持ち、去年のクラス替えの時以来よ。
……ねぇ、こなたは私のことどう思ってるわけ?
そんなに私とは仲良くできないってことなのかな。
私のネガティブ思考が頭の中でグルグルと
回転を始めようとした次の瞬間。
回転を始めようとした次の瞬間。
「んっふっふぅ~~!」
こなたの表情が変わった。みんなで海に行った時に浴場で
見たニヤニヤ顔を遥かに上回った表情を浮かべながら、
私とつかさに右手の人差し指をびしっと向けると、
見たニヤニヤ顔を遥かに上回った表情を浮かべながら、
私とつかさに右手の人差し指をびしっと向けると、
「んふふ~、ダメだよ二人ともぉ。特にかがみん。
そこは『へぇ~、アンタも意外にかわいい所あるのね』
って返してくれなきゃあ」
そこは『へぇ~、アンタも意外にかわいい所あるのね』
って返してくれなきゃあ」
と、私の声真似をしながら再び満面のニヤニヤ顔を浮かべるこなた。
一方、いきなり指を差された私たちの方は言葉の意味が分からず、
あたふたしながらこなたに事の真意を問いただすことにした。
一方、いきなり指を差された私たちの方は言葉の意味が分からず、
あたふたしながらこなたに事の真意を問いただすことにした。
「……どういう意味よ、それ」
「忘れちゃったの? 自分が去年ここで何て言ったのかさ」
「忘れちゃったの? 自分が去年ここで何て言ったのかさ」
去年? ここで? 何かあったかしら。
私が去年この場所でこなたに話したことと言えば、
自分の名前の由来とか、おみくじについてとか、
後はつかさのおかげで教えることになっちゃった私の……あ。
私が去年この場所でこなたに話したことと言えば、
自分の名前の由来とか、おみくじについてとか、
後はつかさのおかげで教えることになっちゃった私の……あ。
「どう、そろそろ思い出したでしょ?
あの時のかがみのツンデレぶりには萌えたよ~」
あの時のかがみのツンデレぶりには萌えたよ~」
ええ、思い出しましたとも。あんた、去年の私のお祈りの内容を
少しいじって返してきたってわけね。顔が熱くなってきちゃったわよ。
少しいじって返してきたってわけね。顔が熱くなってきちゃったわよ。
思わず顔を下に向けて恥ずかしがる私。
同時に、吐いた息が白い湯気となって私の顔を覆っていた。
……今年も主導権はこなたにあるようだ。
同時に、吐いた息が白い湯気となって私の顔を覆っていた。
……今年も主導権はこなたにあるようだ。
「あんたねぇ。人をからかってる暇があったら真面目に……あれ?」
巫女服の袖を振り上げて説教しようと顔を上げた時、
既にこなたは本殿の方に向かって歩き始めていた。
しかし、私の声は届いていたらしく、途中で歩くのを止めて
くるりとこちらを向くと、
既にこなたは本殿の方に向かって歩き始めていた。
しかし、私の声は届いていたらしく、途中で歩くのを止めて
くるりとこちらを向くと、
「じゃあ私、これからおみくじ引いてくるからさ。
今年は凶以外のものを引かなきゃね」
「ちょっ、待ちなさいよ。 まだ話は……」
「すぐ戻ってくるからさぁ。 だからっ……、また後でね。
“かがみ”、つかさっ」
「あっ……」
今年は凶以外のものを引かなきゃね」
「ちょっ、待ちなさいよ。 まだ話は……」
「すぐ戻ってくるからさぁ。 だからっ……、また後でね。
“かがみ”、つかさっ」
「あっ……」
もう。そこで名前呼ぶの、反則じゃない。
なんにも言えなくなっちゃうじゃないのよ。
小さな歩幅でおみくじ売り場の方に歩くこなたの
背中めがけて、そう心の中で突っ込んでやった。
一方、つかさの方はというと――
なんにも言えなくなっちゃうじゃないのよ。
小さな歩幅でおみくじ売り場の方に歩くこなたの
背中めがけて、そう心の中で突っ込んでやった。
一方、つかさの方はというと――
「う~ん、どういう意味なのかな。 お姉ちゃんはわかった?」
「え!? ううん、私にもぜんっぜんわからなかったわよ!」
「……? どんだけ~」
「え!? ううん、私にもぜんっぜんわからなかったわよ!」
「……? どんだけ~」
案の定話が理解できてないようだった。
だけど、こんなことを話すわけにはいかないので、
誤魔化すことにした。ごめんね……つかさ。
だけど、こんなことを話すわけにはいかないので、
誤魔化すことにした。ごめんね……つかさ。
「でも、今日のこなちゃんどうしたのかなぁ。どうして……」
「どうしたのよつかさ? また考え事?」
「ううん。何でもない、何でもないよ……」
「どうしたのよつかさ? また考え事?」
「ううん。何でもない、何でもないよ……」
今思うと、この時の私は何も気づいていなかった。
つかさだってちゃんと気づきはじめていたのに。
もしかしたら、気づこうとしなかったのかもしれない。
つかさだってちゃんと気づきはじめていたのに。
もしかしたら、気づこうとしなかったのかもしれない。
――こなたが伝えようとした、別れへのカウントダウンに。
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- GJ!! -- 名無しさん (2023-01-03 22:53:07)