幼年期
父は工房に勤める鍛冶職人。
主婦であった母は以前は、古代の遺跡を発掘する、いわゆる冒険者をしていた。そのために必要であった知識を持ち、そこから発展して学問と教養を有していた彼女に学んだことが、後の彼の思想に大きな影響を与える。
また、
母の友人が父の腕を見込み、剣の手入れのためにしばしば街を訪れ、彼の家に滞在していた。シャナンはこの人物に剣を習った。
8~9歳にかけて両親を相次いで亡くし、父の仕事のツテによって、同じルザリアの商人に引き取られた。
ルザリア粛正
この時10歳であった彼は、強制労働刑は免れるが二級市民となるという処分を受けた。
彼を引き取っていた夫婦も、比較的高齢であったため同様の処分とされ、財産を没収されたものの、家全体が受けた影響は比較的軽かったといえる。しかし商売の権益をドレクロ街区に奪われて廃業せざるをえなかった。シャナンも、家業を手伝うのではなく、ドレクロの工房に厳しい条件の下で勤めることとなった。
また、二級市民であることを示す焼き印を施される際、彼は、共に焼き印を受ける同居の少女、即ち彼を引き取っていた夫婦の娘を、庇おうと思いながら、果たせなかった経験を持つ。
同い年の少女
シーダは、焼き印を施す場面を見てひどく怯えた。傍らにいたシャナンは「自分が
シーダの代わりに2人分の焼き印を受ける」ことを約束することで彼女を励ましたものの、実際に自身が焼き印を施される段となると、その苦痛により、もう一度それを受けることを申し出ることができなかった。無論、仮にそのような申し出をしたとしても認められることは見込めないが、10歳の少年にとっては真剣な約束であったとみられる。
この出来事を通じて、彼は自身の弱さを知り、強くならなければならないと決意したという。
少年期
ドレクロの工房に入り、二級市民として厳しい条件の下働きに当てられた彼だが、間も無く転機を掴んだ。
街で、暴行を受けていた
黒妖精の少女を目にし、それを助けようとしたことから始まる。
「光の神々」を信仰する文化圏において、黒妖精は忌み嫌われる存在とされている。しかしこの時、少女が、車止めが充分でなかった荷車を見て、そのままでは車が坂を滑り落ちて被害が出るかもしれないことに気付いて車止めを直していたのを、シャナンは見掛けていた。そこに荷車の持ち主が戻り、少女が悪戯か盗難をしようとしていると誤解し、暴力を振るい始めたのである。彼女の顔を隠していたフードが外れ、黒妖精であることが知れると、荷車の主は暴言と共に一層激しく暴力を振るい続けた。周囲の人々も、黒妖精を助けようとはしなかった。
シャナンはそこへ割って入った。少女が荷車をむしろ守ろうとしていたことを話したが、「二級市民が口を出し、更に黒妖精を庇うのか」と荷車の主を激怒させ、殴打を受けた。
そこへ通りがかり、仲裁したのが、
剣の師であった。
ゼーラントで道場を開きながら秘かに「集落」(後に
ゼーラントの黒旗作戦で「討伐」される集落)を支援していた師は、この時のシャナンの行動を高く評価し、道場の弟子として養うことを申し出た。
また、
少女の希望によって彼は集落を訪れ、以後、師と共に彼女等を支援する活動を始めた。
ルザリアを離れ、道場で生活することになったため、
シーダとは次第に疎遠になった。ルザリア粛正時の焼き印の件から、彼は彼女に対して負い目を抱き続けていたことにもよった。
この時、18歳。
志願兵募集の令によって「集落討伐」の計画を知った彼は、直ちに師と集落にその情報を伝えた。
集落の民の多くが留まって討伐隊と戦うことを選択した時点で、彼にとっては意外な事に、師がこの件への関与を止めることを表明。以後、シャナンは1人で集落側に立って戦うことになった。
迎撃の準備を進める最中、集落に潜入して来た
教団の聖職者と交戦。これを排除することに成功したものの負傷し、集落で静養しながら討伐隊の来襲を待つこととなった。
この交戦は彼にとって初めての実戦であり、相手を排除できたのはただ幸運によるものだったと、後に述べている。ただ、ルザリア粛正以降、彼が「強くなる」ことに強い執着を持ち、道場の弟子となってからはほとんどの時間を鍛錬に当てていた、それらの成果であったという見方もされている。
作戦当日は、討伐隊の迎撃に参加。実際に剣を交える段となって、同胞であるはずのゼーラント市民・ルザリア住人、二級市民とされた苦しみを分かちあってきた者達らと殺し合うのだということを強く認識し、動揺したという。
戦闘中、同じくルザリア出身者であり、道場に通う同門の徒でもある親友
フォレスとも剣を交えるが、共に崖を滑落。戦線から外れ、互いに剣を失った状態で殴り合った。
(本文より)
「より弱い者を踏み付けて手にした、そんな幸せで笑えるのか、お前は!?」
「森を切り、家畜を喰らう。支配する者とされる者とを定めて秩序を作り、それぞれが富を自分の手元に集めようとする。そうした人々の営みと、何が違う? どこまでが違う? それを決めるのは貴様ではない!」
「この討伐が失敗したとしても、奴等には今までと変わらない悲惨な暮らしが待っているだけだ。貴様は結局何も守ってなどいない。だが俺達は違う。生き残れば抜け出せる!」
「かつての自分の姿から目を背けてか?」
「苦しんだ者が、なぜ他人のために更に苦しまねばならない!? そんなことはまず、幸せだった者がすればいい!」
「痛みが分かる人間しか、痛む人の気持ちは分からない! あの痛みは人に寄り添うためにあったんだと、なぜ思えない!?」
「その言葉は、貴様が自分の事しか考えていない証だ! 何を犠牲にしてでもこれだけは守りたい、そういうものが無いから、格好のいい理想だけを語れる。だがそれを俺達に押し付けるな!」
「そんなものか!? お前が欲しかったのは、本当にそんなものだったのか!?」
「そんなものも守れないのが、そんなものにも届かないのが、貴様だろうがぁっ!」
フォレスが、かつて自身が守れなかった
シーダと婚約し、彼女のために今回参戦したことを知った際、自分は何のために戦ってきたのかが分からなくなったという。
殴打され気を失った彼は、しばし谷底に倒れていた。
意識を取り戻した時には
フォレスの姿は既に無く、シャナンは集落へ向かった。辿り着いた頃には既に日は落ち、討伐隊は迎撃隊を打ち破り、集落において略奪・暴行・虐殺を繰り広げた後であった。
討伐隊の滞留する集落に忍び込んだ彼は、
フォレスが指揮官から
黒妖精の少女を殺害するよう強いられている場面を発見。指揮官らを殺害して、少女と、命令を拒んで処刑されるところであった親友を救った。
そのまま少女と2人で集落を脱出し、逃亡している。
その後
彼が再び
ゼーラントへ戻ったのは、
エルベル侵攻の際であった。
それまでの2年間の動向、また
黒妖精の少女の消息については、彼が一切語っていないため、不明である。
故郷が他国の侵略に晒された際、彼は街に戻り、この際は
ゼーラント市民と共に戦っている。
エルベル軍に捕らえられた彼は奴隷として売られるところであったが、移送中に船が遭難したことにより、南方の都市同盟の勢力地域に逃れることに成功。その地で「ヴァレリア解放同盟」を組織し、政治活動家として歴史の表舞台へ現れることとなった。
ヴァレリア・
エルベルに代わって建国されたセーレウェリアの共和制移行を成功させた後、一時は共和国の政治に携わったが、
ゼーラントの黒旗作戦において「暗黒勢力」に荷担していた事実が広まると、
教団との関係に配慮して辞職し、以後は私塾を開いて教育者として活動することになる。
最終更新:2010年10月02日 13:28