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ゼーラントの黒旗作戦

 「ゼーラントの黒旗作戦」(-こっきさくせん)は、帝国暦247~249年にヴァレリア王国の街ゼーラント周辺で行われた、領主による「暗黒勢力」の掃討活動。
 同時期にヴァレリア王国の各地で行われた黒旗作戦の一つである。
 比較的大規模な戦闘が一度行われたため、特にその戦闘を指して「ゼーラントの黒旗作戦」という場合も有る。

背景

 この街の近郊に「暗黒勢力」が集落を築いていたことは、数年前からゼーラント住民に知られていたようである。
 この「暗黒勢力」を構成していたのは、生まれ付き人間社会から放り出された者達がほとんどだったようである。妖魔の類が人間の女性を暴行した結果、産み落とされた子。隔世遺伝によって人間以外の先祖の特徴を持つ、いわゆる「取替子」。また、自らは人間でありながら、迫害を受けるそれらの子を連れて社会から逃れ出た家族達。
 加えて、人間に捕らえられた後に逃亡した、あるいは捨てられた、人間以外の者達も居たようである。

 当時の領主は、合理的な統治を行うことで知られており、自身の権益に影響が無い限りは、こうした存在を黙認していた。
 「領内の森に狼が居るからといって、一匹残らず狩り出そうとする領主はいない。放っておけば出ない死人が、狩りをすれば出るかもしれない」というように語っていたと伝えられている。

(要加筆)

 二級市民の身分は、多くの場合、罪人やその家族への懲罰として発せられていたものであり、報奨に替えてそれを取り消すことは、広く行われていた。権力者にとっては、自らの懐を痛めるわけでもなく、ある程度の期間、罪人を二級市民に置くだけで充分に制裁の効果は得られるばかりか、救済の可能性を示すことで、二級市民が社会から完全に脱落したり反乱を起こしたりすることを抑制することができた。
 この作戦から8年前、ゼーラントでは一つの街区の全住民が処罰される事件が有り、二級市民とされながらも街に残って生活することを許されていた若年層が、戦闘に参加可能な年代に達していた。この計画は、明らかにこの街区の若者達をある程度の戦力として想定していたと見られ、実際に、多くが討伐隊に志願した。また、そうして一般市民身分となった者と結婚することでも事実上、身分を脱することができたことから、若年層の婚姻が促進された。被処罰者達の社会復帰が進み、ゼーラント全体の情勢にも好ましい影響が見込まれた。
 討伐作戦後も、領内における「暗黒勢力」の排除政策は続き、個別に討伐を成した場合に対しても報奨が与えられた。国内の他の地域と同様、妖魔や黒妖精を探し出して狩ることが、エルベルの侵攻直前まで続いた。

討伐作戦

 施策の中心となったのが、近郊の「暗黒勢力」集落への討伐隊の投入であった。
 作戦実行の3日前に、施策を広告する札が市中の各所に設置され、役人の口頭による通達も為された。
 二級市民の居住する街区では重点的に志願が呼び掛けられた。

 討伐隊に参加したのは主に次のような者達であった。

 領内の騎士。
 領主との主従契約に従い、また名誉や恩賞、あるいは信仰上の正義を求めて参加し、戦闘の専門家として討伐隊の運営や指揮を行なった。彼等には、街での通達に先んじて命令が下っており、戦の支度を整えて領内各所から参集した。その従者達も当然、参加した。

 報奨を目的とした一般住民。
 ゼーラント市街の他、近郊の農村からも、情報を聞き付けた者達の参加が有った。この地域の「暗黒勢力」に対する認識は、せいぜい獣の群れというようなものであり、また、ことさら一方的な駆除であるかのように宣伝されたこともあり、多くは狩猟に参加する程度の感覚で志願したと見られる。

 二級市民。
 身分からの解放を求めて参加した。

 傭兵や冒険者。
 既に国王からの黒旗作戦の令が発せられ、それに応じて各所で同様の施策が計画・実施されていた。ゼーラントにも、この状況を見越して、金銭を得て戦闘に従事する者達が訪れており、募集に応じた。

 聖職者等。
 「暗黒勢力」を討つことで信仰心を顕すために参加した。前述の各立場の者達の内にも、金銭や身分以上に信仰上の充実を動機とした者達は含まれていた。また、教団も、公の派兵こそしなかったものの、自主的な信仰活動を行う個人という建前で聖職者をヴァレリア国内へ送り込んでいた。教団の聖職者達は、自身が掃討活動に参加するだけでなく、ヴァレリアの民衆を煽動して活動の拡大を図った。また、ヴァレリアの情勢を教団に伝えた。このような教団の動向はヴァレリア側も承知しており、同盟の強化を狙って積極的な「暗黒勢力」掃討の姿勢を取り続けた。

 参加者達の装備や食糧は原則として自弁であったが、有志による提供も行われた。ゼーラントは製鉄と鍛冶で知られた街であった。

 一方、集落の側は、討伐隊編成の動きを知り、対応を取っていた。
 ゼーラントの住人でありながら集落を支援する者によって討伐計画の存在が伝えられ、集落の住民達は、まず、集落を捨てて逃げるか、留まって戦うか、という選択を迫られた。
 多くの者が留まることを選択した。黒旗作戦令下のヴァレリア国内を移動することよりも、討伐隊を撃退することに賭けたといえるが、自暴自棄に近い状態の者も少なくなかった。
 集落を離れることを選択した者もいたが、少なくない人数が待ち伏せていた聖職者らによって秘かに殺害された。
 抗戦を選択した住人達は、ゼーラントからの経路に罠を仕掛ける等の準備をして、討伐隊を迎え撃つことになった。

 一般に知られている戦闘行動は、討伐隊が集落を襲撃した当日のもののみである。しかし、小規模ではあるが、事前に諜報・工作合戦が行われていた。
 ゼーラント住民でありながら集落を支援していた青年シャナンは、街と集落を行き来して討伐隊の戦力や行動について情報を集め、集落へと提供した。また、彼と共に集落の住人達は、討伐隊の予想経路に罠を仕掛けたり、迎撃し易い場所に予め矢や石等を準備するなどの事前工作を行った。
 一方、教団から秘かに派遣されていたリーゼロッテは、討伐隊の行動を待たず秘かに集落に接近し、戦闘行動を開始していた。彼女は、まず、周辺を偵察して地理的情報を把握した。そして、集落住人が逃亡することとその経路を予想して待ち伏せし、少なくない人数を殺害した。この者達の最期を、集落側は最後まで知ることはなかった。また、集落側が設置した罠や物資も多くが彼女によって破壊・撤去された。更に彼女は夜間、集落に潜入して諜報活動を行おうとした。
 討伐隊襲来の前夜、シャナンは、集落に潜入中のリーゼロッテを発見し、両者は交戦した。



 草むらの中に、それは居た。
 夜の闇に覆われても、臆することなくその中で目を見開いて。土と泥と這い回る虫が、服と肌とそして粘膜を侵しても、微動だにせずに。自身が草むらに棲む虫の様に体を曲げ、土に張り付き、首と目だけを上げていた。
 そんな所にそんな状態で、人間が居るはずがない。シャナンの常識はそう告げていたので、目や髪や顔や服を見ても、それが何なのか分からなかった。
 視線がぶつかってから、おそらくは一瞬の後だろう。彼女の手に現れた刃物を見て初めて、シャナンはそれが人間なのだと理解した。



 間違い無く剣は、彼女の服と肌を切り裂き、肩の骨に達していた。手はその感触を覚えている。刃には血肉が付いている。
 ではなぜ、あの腕は動くのか?
「お前達は、胴を刺されれば終わり。腱を切られれば終わり。骨を折られれば終わり。こうして一対一ならそのまま殺されるし、助けられても、傷によっては、再び剣を振るうことはできない。でも私達はそうではない。神々がお守りくださるから」
「使徒(プリーステス)……本当にいるのか」
 笑っている。自らの血に半身を染めながら、彼女の目と口は歓喜に歪んでいた。
 おそらく顔の火傷も、戦闘に影響が無いまでには治癒しているのだろう。そしてやがて完治する。赤黒く醜く変質した顔の中で、白目が爛々と彼を睨(ね)め付けている。女性でありながら、整った容姿を失ったという悲壮感など、微塵も無い。
「化け物め……!」
「神々の御力(おちから)の体現である。愚弄は許さない。必ず懺悔(ざんげ)を聴聞(ちょうもん)する」



 リーゼロッテの能力も無尽蔵ではなく、シャナンは彼女を排除することに辛くも成功した。
 これにより、彼女の得ていた情報は討伐隊には伝わらなかった。
 一方、集落側は、シャナンが傷を負った上、リーゼロッテによって無力化された事前工作を元通りにする時間はもはや無かった。

 作戦当日、討伐隊と集落側は、経路上の狭い谷間で交戦した。
 討伐隊は予想外の損害を出しながらも、守備を突破して集落へ到達し、以後は戦闘というより一方的な略取が行われた。
 皮肉にも、集落側の守備における善戦が、討伐隊に恐怖と興奮を与え、それが後の残虐行為に拍車をかけた。
 男や、容姿の悪いと思われた者達は、殺害された。彼等を殺害することが討伐隊志願者が報償等を得る条件ではあったが、不必要に残酷に、苦痛を与えて死に至らしめることが多数、行われた。
 人間から見て容姿の良いと思われた女性は、暴行を受けた後、捕らえられた。特に黒妖精は美しい容姿を持つ種族であるため、所有、あるいは売却する目的で、騎士達によって連行された。無論、暴行の最中に殺される者も少なくなかった。

 集落は壊滅し、討伐隊は目的を果たした。

その後

 討伐隊に参加した者達は、報償等を手に入れた。二級市民達は、戦死した者の家族も含めて、その身分から解放された。

 集落への襲撃時における残虐行為は、教団側や、同盟を進めるヴァレリア上層部にとってはむしろ好ましく捉えられ、黒旗作戦の手本として、領主の名声を高めた。
 これにより領主は地位を高めたが、このことは、後のエルベルの侵攻時に、ゼーラントが見捨てられるという皮肉な結果を生んだ。

 また、後にシャナン・アクイレイアは、この出来事に多大な影響を受けたと語っている。つまり、リエージュ大陸初の共和制国家の建国に関わった事件であるという見方もできる。


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最終更新:2010年11月05日 22:48
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