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Place to stay

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さすがに降りつづける雪の中を歩き続けるのは辛い。
足先や手先が冷えて、既に冷たさすら感じなくなった。
生まれてこの方ここで過ごしてきた僕はまだいいけれど…他国から来た雪に慣れないアッシュには尚のこと辛いかもしれない。

次第に言葉数が少なくなり出した頃、ようやく目的の場所についた。
地下道を抜けて、城を背に更に歩み進めること数十分。
もう遠くの空は白々明けてきている。
とはいっても、空は雲に覆われているから黒い雲が段々白くなっていくように見えるだけ、だけど。



「……此処か?」

僕が足を止めると隣に並ぶようにアッシュも足を止めた。
その声には訝しさが潜んでいた。

…見上げるのは古びた屋敷。
まるで幽霊屋敷かと思えるほど酷く寂れてはいるが、造りは豪奢で価値のあるものだ。
他に建物もない城の世界では異質なほど目立つ。
しかし、この目立つ建物が目的地ではない。

「…此方だ」

その建物を回りこむように歩み出せば、アッシュも訝しみながらもついてくる。
本当は屋敷の中を抜けた方が早いのだが、僕はどうしてもそんな気分にはなれなかったから。

建物を回りこむようにして進めば、庭へと出た。
広い庭の中央に今は壊れてしまってる子供用の遊具があって、その横を通り過ぎると屋敷の壁に沿うよう歩く。
壁に手をついて魔力の残骸を探せば、それはすぐ見つかった。



「……ここだ。」
「…って、何もないじゃん」

僕が指したのはただの壁で。
アッシュの言葉に答えずに親指の皮を噛み切ると、滲み出る血を魔力の微弱に残る壁に押し付け小さな陣を描き呪文を紡ぐ。
久しく使わなかった陣と呪文は、けれど思い出す努力を要さなかった。

「……この血統に於いて命じる。
 隠されし扉を、隠されし空間を…我が前に顕現させよ。」

小さく呟いた呪文に応えるように、壁が一瞬青白い光に包まれ、そして光が消えると其処に溶け込むように扉が現れた。

…簡単な結界魔法だ。
父の血を媒介に母が作成したものなのだろう。
強い魔力と父の血統…王族に連なるもの…の血を必要とする限られた者しか開けることの出来ない扉。
そして今となってはこの扉を知っているのは多分僕だけで、扉の開閉方法を知っているのも僕だけだ。

「…へぇ…」

後ろでアッシュが感心したような声を漏らすのに、扉を開けながら中に入るように促した。
扉の奥の暗がりには、地下に伸びる階段が続く。

「早く入って。扉を閉じるから。」
「閉じる?」
「…外から扉が見えないようにさっきと逆の方法で隠す。」

アッシュが中に入ったのを確認して、自分も扉の内側へと入り込めば、扉を閉めると先ほどと同じように血で陣を描き呪文を紡ぎ入り口の扉を見えないように隠した。
魔力が消えたのを確認して、先立って歩き出せば先ほどの地下道と同じように魔石が足元を照らす。
階段は木で出来ていて、古い為か歩く度にぎしという軋んだ音を響かせた。
階段はそう長くは続かず、少し進めば木で作られた扉が見えた。

同じく木で作られた古い扉を開ければ、その奥はそう広くない部屋になっていて、暖炉と簡易のソファとテーブルが置かれている。
部屋の奥には、更に奥の部屋に続く扉。
それ以外にはあちこちに書物や書類が重ねられ、お世辞にも片付いているとは言えない。
室内に入るとまずは冷えた体を温める為、真直ぐ暖炉に向かい薪を確認する。
古くはあるが十分の量のある薪は、多少湿っているが使えないことはないと確認すると後ろに立つアッシュを振り返った。
生憎炎関係の術は僕は専門外で。
どこにあるかもわからない火打石やマッチや、奥の部屋にならあるだあろう炎系のコアを探すよりは、旅人であるアッシュならば火元になるものを持っているだろうし、先刻炎のコアを使っていたはず。
そちらの方が早いだろうと声を掛けた。

「…悪いけど、火を頼める?」
「ああ。」

軽く頷いたアッシュは慣れた様子でくべた薪へ所有していたコアで火をつける。
室内の凍てついた空気がそれだけで変わり、次第に冷たくなっていた体に熱が灯る。
疲れたようにソファに腰掛けるアッシュを横目に、僕はローブのフードを払い、腰につけていたポーチを外すと再び暖炉へ向かう。
持っていたコアで水を顕現させ、暖炉の上に置かれた鍋にそれを入れると、暖炉の火を使って温める。

「…なぁ、結局此処ってなんなんだ?」
「……父が使っていた隠れ部屋。」

部屋を見回しながら問うアッシュに僕は意図して簡潔に答えた。

父は『秘密基地』だといっていたけれど。
遠い記憶のなかに未だ残る父は、『秘密基地』やら『秘密の抜け道』やら…怪しげなことやくだらないことの好きな人だった。
……そのくだらないことが今役に立っているのだから感謝はするけれど。

「…じゃああの古いでかい屋敷は?」
「………」

次いだ質問に言葉に詰まった。

あの屋敷は幼いころ…まだ両親が生きていたころに住んでいた屋敷で。
父が死んだ為、僕のものになったが幼く管理できなかったことを理由に伯母に権利が渡り、今となっては伯母のものだ。
忌まわしいこの場所の所有権など欲しいとは思わなかったのだからこれでいいのだけれど…。

「…シャリス?」

黙った僕に訝しげに名を呼ぶアッシュ。
それを不快そうに視線で制すと、言葉を詰まらせてしまった失態に溜息を吐きながら答える。

「…僕が幼いころ住んでいた場所だ。」
「ふぅん…」

予想はついていたのか、興味がないのかそう頷くに留めたアッシュを背に沸騰した湯でお茶を入れる。
同じく暖炉の傍に置かれたままだった茶葉は、少し古いが大丈夫だろう。
二人分茶をカップへ移すと、一つをテーブルに置く。

「…とりあえずベッドなんてないから、其処のソファで休んで。
 牢の中よりマシの筈だから。」

そう告げると、僕は自分の分のお茶を持ったまま奥の部屋に続く戸に手をかける。

「ああ…さんきゅ」

そう答え、ひらひら手を振るアッシュを尻目に戸を閉めた。





その部屋は先ほどの部屋よりは広いものの、天井につく高さの本棚の犇く書物だらけの部屋。
先ほどの部屋に積み重ねられていた大量の本たちもこの一角に過ぎない。
その一番奥に椅子と書き物机だけが置かれている。
書斎というには雑多過ぎる部屋。

ここには割りに珍しい本や貴重な資料があったはず…。
もしかしたら魔石に関連する資料があるかもしれない。
いまだ読み尽くせていない本の数は膨大だが、隣にいるアッシュのことを考えるとそう簡単に眠りに落ちる気にもなれなかった。
魔石については気にはなっていたし、気も紛れるだろう。

持っていたお茶を机に置くと、僕は大量の本に歩み寄った。






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