【side:蓉】
聖夜の手が僕の肩に掛かったのと、ほぼ同時。
フロア内は痛いほどに冷たい空気に満たされた。
フロア内は痛いほどに冷たい空気に満たされた。
「…っ…」
僕の横を通り過ぎようとしていた聖夜の身体が傾ぐ。
慌ててそちらを見ると、聖夜が軽く額を押さえるようにして膝を付いていた。
慌ててそちらを見ると、聖夜が軽く額を押さえるようにして膝を付いていた。
「……大丈夫ですか?」
聖夜に手を伸ばしかけて止めた。
この現況の理由が『彼女』なのなら、下手に刺激してはいけない。
この現況の理由が『彼女』なのなら、下手に刺激してはいけない。
営業時間中、従業員であるホストやオーナーから話しを聞き、そして改めてこの場所に留まる気配を追えば、今回の騒動はやはり聖夜の客であっただろう女性であることがわかった。
恐らく理由は、焦がれた聖夜への執着と嫉妬。
今此処で聖夜に触れるのは得策ではない。
恐らく理由は、焦がれた聖夜への執着と嫉妬。
今此処で聖夜に触れるのは得策ではない。
小さく頷いた聖夜を確認すると、『彼女』を探し周囲に視線をやる。
気配を追えばそれは視線を動かすだけですぐ見つかった。
バーカウンターの前で、まっすぐと僕を睨むように立つ女性の姿。
一見すれば普通に生きている人と変わりがないように見える姿は、集中すればその姿の向こうにうっすらとカウンターが見え、その姿が透けていることがわかる。
…彼女がもうここに居るべきではないことの証拠。
気配を追えばそれは視線を動かすだけですぐ見つかった。
バーカウンターの前で、まっすぐと僕を睨むように立つ女性の姿。
一見すれば普通に生きている人と変わりがないように見える姿は、集中すればその姿の向こうにうっすらとカウンターが見え、その姿が透けていることがわかる。
…彼女がもうここに居るべきではないことの証拠。
『彼に触れないで…』
細く高い声が響いた。
それは酷く弱々しく嘆いているように聞こえた。
それは酷く弱々しく嘆いているように聞こえた。
『…何故、貴方達だけ…。
私は彼に触れることも話すことも出来ないのに…』
私は彼に触れることも話すことも出来ないのに…』
彼女に答える言葉を考えながら、ちらりと聖夜を見れば、彼女の姿だけでなく声も聞こえていないのか、何とか立ち上がって不思議そうにこちらを見ている視線と目が合った。
「伊佐…?」
「平気ですか?」
「まだ少し耳鳴りするけど…」
「では、控え室に…っ」
「平気ですか?」
「まだ少し耳鳴りするけど…」
「では、控え室に…っ」
戻ってください、と言う前に少し離れた位置に置かれたグラスがパンッと破裂するように割れる。
驚いたようにそちらを見る聖夜から視線を離し、彼女の居るカウンターの方を見る。
驚いたようにそちらを見る聖夜から視線を離し、彼女の居るカウンターの方を見る。
「……落ち着いてください。」
殊更丁寧に柔らかい口調で『彼女』に話し掛ける。
しかし、今彼女は冷静ではない。
此方の声を聞く気がないのか、自分の気持ちすら御せないのか。
彼女が放つ『力』に、周囲にラップ音が響く。
しかし、今彼女は冷静ではない。
此方の声を聞く気がないのか、自分の気持ちすら御せないのか。
彼女が放つ『力』に、周囲にラップ音が響く。
『どうして?私は彼と話せればそれでよかったのに。
それだけで幸せだったのに…!』
それだけで幸せだったのに…!』
何も聞きたくない。そうできない事実を受け入れたくはない。
耳を塞ぐようにして首を振る彼女のそんな想いだけが力となって放たれる。
どうして。何故。…そう一方的に放たれる想いに、僕の言葉は届かない。
……本当は、彼女に納得してもらえるのが一番いい。
そうでなければ、彼女を浄化させることは出来ない。
溢れる力に、僕はスーツの内ポケットに入れていた護符を出す。
出来れば、これを使って強制的に消すようなことしたくない。
耳を塞ぐようにして首を振る彼女のそんな想いだけが力となって放たれる。
どうして。何故。…そう一方的に放たれる想いに、僕の言葉は届かない。
……本当は、彼女に納得してもらえるのが一番いい。
そうでなければ、彼女を浄化させることは出来ない。
溢れる力に、僕はスーツの内ポケットに入れていた護符を出す。
出来れば、これを使って強制的に消すようなことしたくない。
「……辛いことだとわかります。
でも、彼を傷つけることは貴女も本望ではないでしょう?」
『貴方になんかわからないわ!』
でも、彼を傷つけることは貴女も本望ではないでしょう?」
『貴方になんかわからないわ!』
宥めるような言葉に悲憤の混じった声が返る。
『傍にいても触れられない、気づいてもらえない。
そんな辛い思いをするなら…!』
そんな辛い思いをするなら…!』
彼女の睨め付けるようなキツイ視線が聖夜に移った。
まずい、そう思うと同時に頭上からパリン、と何かの弾ける音。
それに慌てて上を見れば、豪奢なシャンデリア調の装飾が揺れている。
あのまま落ちれば、その真下に居る聖夜は怪我なんかでは済まないだろう。
聖夜は今の状況が掴めていないのか、訝しげな表情で周囲を見回している。
まずい、そう思うと同時に頭上からパリン、と何かの弾ける音。
それに慌てて上を見れば、豪奢なシャンデリア調の装飾が揺れている。
あのまま落ちれば、その真下に居る聖夜は怪我なんかでは済まないだろう。
聖夜は今の状況が掴めていないのか、訝しげな表情で周囲を見回している。
「…っ、聖夜!」
ダメだとそう思ったときには身体が動いていた。
口に出した名が、距離を置く為の呼び方なんて忘れた昔の呼び方だと気づいたのは、聖夜の腕を強引に引いた後。
持ったままだった護符を聖夜に押し付けるように勢いをつけてそのまま押し放す。
突き飛ばされた聖夜は予測していないことに数歩後ずさると、その勢いに後ろに倒れこむ。
僕もそれの勢いに数歩進むも、不意に右足が動かなくなる。
動かない足を取られるように、転ぶように前に倒れた。
口に出した名が、距離を置く為の呼び方なんて忘れた昔の呼び方だと気づいたのは、聖夜の腕を強引に引いた後。
持ったままだった護符を聖夜に押し付けるように勢いをつけてそのまま押し放す。
突き飛ばされた聖夜は予測していないことに数歩後ずさると、その勢いに後ろに倒れこむ。
僕もそれの勢いに数歩進むも、不意に右足が動かなくなる。
動かない足を取られるように、転ぶように前に倒れた。
……身構える暇もないまま、頭上の装飾が落ちた。
「……ッ!」
右足に走る衝撃と右手に走った熱さに、それが痛みだと気づいたのは一瞬後のことだった。