【side:Chal】
……暖かな暖炉のある部屋から、降り積もる雪を眺める。
『シャル…』
優しい声が自分の愛称をそっと呼ぶ。
『…母様…?』
『何をしているの?』
『何をしているの?』
振り返った僕に母は膝を折って穏やかに問い掛けた。
『雪を、見ていたの』
『…そう。』
『…そう。』
嬉しそうに答えた僕に、母は優しく目を細めて微笑んだ。
空から舞い降りる雪は、魔石の齎す幸せの象徴。
その穢れ無き白は何者にも染められる、全てを感受する優しい幸福。
その穢れ無き白は何者にも染められる、全てを感受する優しい幸福。
…母に読んでもらった童話の一説。
私たちは幸せに囲まれているのよと、そう優しく微笑んだ母に白い雪を重ねた。
私たちは幸せに囲まれているのよと、そう優しく微笑んだ母に白い雪を重ねた。
暖かく柔らかな綺麗なモノ。
『メディシア』
不意に低く落ち着いた声が母を呼んだ。
父だ。
父だ。
『シヴィーズ、どうしたの?』
母は立ち上がり父に歩み寄る。
父が僕をちらりと見てから、母に小声で何かを話した。
僕には聞こえなくてのけ者にされたようで二人に歩み寄る。
父が僕をちらりと見てから、母に小声で何かを話した。
僕には聞こえなくてのけ者にされたようで二人に歩み寄る。
『父様…?母様…?』
二人は僕に気付くと優しく微笑、膝を折る。
『すまないな、シャル。僕たち少し出かけなきゃいけないんだ』
『シャルはいい子ですもの。お留守番できるわね?』
『シャルはいい子ですもの。お留守番できるわね?』
頭をくしゃりと撫でる父と、優しく頬にキスする母。
僕は言い知れぬ不安を感じた。
僕は言い知れぬ不安を感じた。
『…僕も行っちゃダメなの…?』
『ダメなのよ、シャル』
『聞き分けてくれるね?』
『聞き分けてくれるね?』
二人の声が遠くなる。
置いていかれる。
無条件の恐怖に僕は二人を追って駆け出した。
しかし、二人の姿は白い雪の中に見えなくなる。
それでも追いつきたくて、方向もわからないままただただ前に進みつづける。
置いていかれる。
無条件の恐怖に僕は二人を追って駆け出した。
しかし、二人の姿は白い雪の中に見えなくなる。
それでも追いつきたくて、方向もわからないままただただ前に進みつづける。
――不意に紅が大きく広がった。
雪の上に二人が倒れ、其処を中心に紅く染まる。
段々と白を浸食していく紅。
段々と白を浸食していく紅。
………それが血の色なのだと、僕はやっと気がついた。
「……っ!」
無意識に目の前の色を振り払うように手が動いた。
手に硬い何かが当たって、ガシャンとかばさばさという音が続いた。
手に硬い何かが当たって、ガシャンとかばさばさという音が続いた。
「……ぁ…」
立ち上がった僕の肩から毛布が落ちる。
先ほどの音は、僕が寝ぼけて机の上のものを振り払った結果らしい。
いまだ夢の中から抜け出せず、呆然と机の横に散乱する落ちたカップや本を見詰める。
先ほどの音は、僕が寝ぼけて机の上のものを振り払った結果らしい。
いまだ夢の中から抜け出せず、呆然と机の横に散乱する落ちたカップや本を見詰める。
…あんな夢、久し振りに見た。
両親の……僕が幼いころの夢なんて最近になって殆ど見ることはなかったのに。
こんな場所にいるせい、なのだろうか。
両親の……僕が幼いころの夢なんて最近になって殆ど見ることはなかったのに。
こんな場所にいるせい、なのだろうか。
「…シャリス?今の音何…」
「なんでもない」
「なんでもない」
不意に本棚の向こうのドアが開き、アッシュが顔を出した。
先ほどの物音に気付いたのだろう。
僕は考えるまもなく、アッシュの言葉を遮るように言っていた。
先ほどの物音に気付いたのだろう。
僕は考えるまもなく、アッシュの言葉を遮るように言っていた。
「…そっか。でも起きたんなら丁度いいや、メシ作ったからこっちこいよ。」
僕の言葉の余裕の無さを感じ取ったのか頷くに留めたアッシュの続けた言葉に僕は首を傾げる。
「……めし?」
「ああ。朝飯…にはちょっと遅いか?ちょっと早い昼食でもいいけど。
とりあえず冷める前にこいよ」
「ああ。朝飯…にはちょっと遅いか?ちょっと早い昼食でもいいけど。
とりあえず冷める前にこいよ」
言ってドアから顔を引っ込めるアッシュに、戸惑ったまま開け放たれたままの戸を見つめた。
…微かにいい匂いがする。
どうやら本当に食事を作ったらしい。
床下にあった保存食かなんかだろうか…?
それにアッシュは起きたなら丁度いいと言った。
ということは、僕が寝ていたということを知っていたということでこの部屋に入ったのだろうか?
だとしたら不覚だ。彼の前で無防備に寝るだなんて。
どうやら本当に食事を作ったらしい。
床下にあった保存食かなんかだろうか…?
それにアッシュは起きたなら丁度いいと言った。
ということは、僕が寝ていたということを知っていたということでこの部屋に入ったのだろうか?
だとしたら不覚だ。彼の前で無防備に寝るだなんて。
ふと、床に落ちた毛布が視界に入った。
…そういえば、起きた時毛布がかかっていた。
僕はこの部屋に毛布なんて持ち込んではいない。
となれば、アッシュが持ってきたのだとしか考えられない。
…そういえば、起きた時毛布がかかっていた。
僕はこの部屋に毛布なんて持ち込んではいない。
となれば、アッシュが持ってきたのだとしか考えられない。
………わざわざなんでこんなこと?
根付いてしまった猜疑心に戸惑いが浮かぶ。
でも、ほんの短い時間を共にした僕にでも、裏がないならそれは彼の気遣いなのかもしれないとわかる。
根付いてしまった猜疑心に戸惑いが浮かぶ。
でも、ほんの短い時間を共にした僕にでも、裏がないならそれは彼の気遣いなのかもしれないとわかる。
「おい、シャリスー?」
戸惑いぼんやりとしていると向こうの部屋からアッシュの急かすような声。
それに、一つ息を吐き出してとりあえずそちらに向かった。
それに、一つ息を吐き出してとりあえずそちらに向かった。
暖かい部屋ではアッシュが丁度暖炉の上から鍋を持ち上げたところだった。
いい匂いの発信源は其処らしい。
それにしても材料や道具は何処に…と、周囲を見回すと先程と部屋の配置が大分変わっていることに気付く。否、片付いているのか…。
疑問の視線をアッシュに投げかければ、それを咎めるものだとでも思ったらしいアッシュは罰の悪そうな顔になった。
いい匂いの発信源は其処らしい。
それにしても材料や道具は何処に…と、周囲を見回すと先程と部屋の配置が大分変わっていることに気付く。否、片付いているのか…。
疑問の視線をアッシュに投げかければ、それを咎めるものだとでも思ったらしいアッシュは罰の悪そうな顔になった。
「…悪かったよ。いろいろ勝手に動かして。
でも腹も減ってたし何かあるかな、って…」
「…器具や材料も?」
「水と米と…後は色々調味料っぽいのとかはあった。
悪くなってもないようだし、腹も減ってたから…」
「……そう」
でも腹も減ってたし何かあるかな、って…」
「…器具や材料も?」
「水と米と…後は色々調味料っぽいのとかはあった。
悪くなってもないようだし、腹も減ってたから…」
「……そう」
答えるアッシュに小さく返事を返す。
確かに丸一日ほど何も口にしていない。
それどころではなくて、空腹感を認識していなかったから。
アッシュにしても似たようなものだろう。
確かに丸一日ほど何も口にしていない。
それどころではなくて、空腹感を認識していなかったから。
アッシュにしても似たようなものだろう。
「とりあえず食おうぜ。
まぁまぁ食えると思うし。」
まぁまぁ食えると思うし。」
そういってアッシュは鍋をテーブルに置いて僕をソファに座らせ自分も座る。
受け皿は既に用意されていて、どうやら僕を待っていたらしいことがわかる。
受け皿は既に用意されていて、どうやら僕を待っていたらしいことがわかる。
自分だけで食べてればいいのにと、やっぱり深く根付いた猜疑心に戸惑いを感じながら、それでも二度目のそれにやっぱりよくわからない奴だと結論にもならない結論へと結びつけた。
そんなことを考えるのもよそにアッシュは手を合わせると食べ始める。
僕はしばらくその様子を眺めていた。
僕はしばらくその様子を眺めていた。
「…シャリス?食わないの?」
不思議そうに首を傾げて言うアッシュに少し迷う。
丸一日近く食べてない上、動き回ったのでお腹がすいていないわけじゃない。
けど、先刻感じたアッシュの気遣いとも思われるソレに裏があるのならば、と一瞬過った思考に内心で呆れた。
ここで僕を害すことに、アッシュにメリットはあるはずもない。
丸一日近く食べてない上、動き回ったのでお腹がすいていないわけじゃない。
けど、先刻感じたアッシュの気遣いとも思われるソレに裏があるのならば、と一瞬過った思考に内心で呆れた。
ここで僕を害すことに、アッシュにメリットはあるはずもない。
「大丈夫だって、毒なんか入っちゃいないし。
味もまぁまぁだし」
味もまぁまぁだし」
そういって再び食べ始めるアッシュに、僕もおずおずと器に手を伸ばした。