アットウィキロゴ
Place to stay
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

Place to stay

ash

最終更新:

place0to0stay

- view
メンバー限定 登録/ログイン
【side:Ash】





何とか見つからずに来れたのはやはりというべきか関所の傍までだった。
関所の前に立つ兵士は絶えず周囲を警戒しておりとても隙を伺うことなど出来なかった。

関所まで数メートル、という場所で兵士に見つかりあっという間に囲まれた。
異常に警戒されているのか今の時点で十数人は居るというのに更に援軍を呼んでいる。
応援がつくまでに逃げないと、流石に逃げ切れないだろう。

俺とシャリスはお互いに目を合わせるとすぐさま行動に移った。
最短距離で関所を抜けるため、先手必勝とばかりに立ちふさがる相手に切りかかる。
シャリスもすぐ後に続き、魔法で兵士を倒して道を作っていった。


後、もう少し。
逸る心を抑えながら剣を振るい、体勢を崩し腰をついた兵士に刃を向ける。
暫く動けないようになってもらおうとしたが、兵士は逆に無理な体勢にも関わらず切りかかってこようとした。
自分が死んでも俺を道連れにしようとしているらしい。
…このままだと、逆に致命傷を与えてしまう。
なりふり構わず逃げるためにはそうした方が良いのは分かっていた。


けれど恨みや私欲のためではなく、ただ仕事として働いている相手に大怪我を負わせていいのか…?


戸惑いはそのまま剣に現れて、切っ先が鈍る。
結果として俺の剣は空を切っただけで、何のダメージも与えられないまま取り逃がしてしまった。
その兵士はそのまま詠唱中のシャリスに向かって剣を向けた。

慌てて追いかけて、何とか剣が届くより一瞬早くシャリスを突き飛ばすようにその場から引き離すことが出来た。

しかし、慣れない雪上の戦闘。
足が滑りそうになって、受け止めた剣を弾き返すことが出来なかった。
バランスが崩れたところに何処からか飛んできた矢が左足のふくらはぎに刺さる。
痛みと共に一瞬力が入らず左膝をついた。

ヤバイ…この体勢からだと避けることが出来ない…!


お前の甘さは命取りになりかねない、と何度も忠告された。
忠告される度に、気をつけると笑ったけれど。

さっきの一瞬の躊躇い、戸惑い。
…確かに俺が甘かった。


悪足掻きのように、片膝をついた体勢のままで咄嗟に剣を翳す。
キン、と金属の触れ合う独特の高い音が辺りに響いた。

すぐさま体勢を立て直したにも関わらず驚愕と焦りの混じった表情で止まってしまったシャリスに、思わず「逃げろ」と呟くように口にして。
力の込められない体勢ながらも数秒持ちこたえたが、それが限界だった。
踏ん張りが利かず剣が弾かれ、倒れこむ。
止めをさそうと兵士が振り上げた剣が月明かりに煌いた。


俺は、こんなところで死ぬのか…?


…嫌だ。
俺はまだ死にたくない。
死ねない。
躊躇しなきゃ良かった…。


ほんの数秒の間に心を過ぎっていたのはそんな思い。

特に何かを思ったわけじゃなくて……何かしらの本能だったのか。
俺は咄嗟に右腕を伸ばしていた。
指先が兵士に触れた瞬間に、右手が急激に熱くなった。
教会で「雪の結晶」が現れたときと同じように。
レザーグローブを通して淡く光を発した瞬間、何かが流れ込んできた。



――明るく優しい、思いやりのある妻。
もうすぐ6歳になる可愛い盛りの息子。
明日は休日だから…一日相手をしてやれる。何をして遊ぼうか。

幸せな家族の、何気ない日常――


まるで自分のことのようにそんな情景が脳裏に浮かぶ。
長い間強制的に夢を見せられたような…けれど実際は発せられた光が消えるまでの、ほんの一瞬のことだったのだと思う。

急に力を失って倒れてくる兵士。
異様な光景に、周囲の動きが止まった。

雪の上に剣が落ちる。
今まで俺の命を狙っていた剣が。
…何が起きたんだ?

条件反射的に支えた瞬間に兜が外れて、覗いたのは俺より少し上みたいだけどまだ青年と呼べそうな年代の男の顔。
さっき浮かんだ子供と、何処か似ているかもしれない…。

男は目を閉じ、ピクリとも動かない。
震えを抑えながら左手のグローブを外して、触れる。

伝わってきたのは冷やりとした、氷のような温度。
その温度はこの男が既に生命を失ったモノであることを教えてくる。

「…俺が、殺した…?」

何故だか確信があった。
冷静な部分がそうだと告げていた。

殺してしまった。
ただ職務に忠実だっただけの、幼い子供の父であった兵士を。


人殺し、と誰かが言った。


「ぅ…ぁ、ああッ―――!」

戸惑い、後悔、罪悪感、恐怖――
様々な感情が混ざった混乱のままに、今は戦闘中だということも忘れて悲鳴をあげていた。






最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー