【side:蓉】
本当はずっと忘れる事なんてなかった。
素気なくも、さり気無い優しさ。
素気なくも、さり気無い優しさ。
誰かに頼ることが苦手だった僕が、唯一掴んだ手。
「……いえ、大丈夫です。」
条件反射のように縋りそうになる自分に気付いて、小さく首を振った。
もう、彼に甘えてはいけない。縋ってはいけない。
いくら昔と同じように差し伸べられる手があったとしても、僕にその手を取る資格等、もうないのだから。
もう、彼に甘えてはいけない。縋ってはいけない。
いくら昔と同じように差し伸べられる手があったとしても、僕にその手を取る資格等、もうないのだから。
「…そうか。」
自身を戒めるように呟いて答えた僕に、聖夜は小さく相槌を打つと部屋へと向かうべく歩き出す。
聖夜の後姿に感じてしまった寂しさから目を逸らして、僕もその後を追ってゆっくりと歩き出した。
聖夜の後姿に感じてしまった寂しさから目を逸らして、僕もその後を追ってゆっくりと歩き出した。
「…ほら」
部屋に着くと鍵と扉を開け中に促す聖夜に、「お邪魔します」と小さく口にして躊躇いつつも部屋へと足を踏み入れた。
痛む右足の靴をいつもより少し時間を掛けて脱いでいる間に、聖夜は僕の隣をすり抜けてトランクを持ったまま廊下の奥へと向かう。
奥はリビングかダイニングになっているのか廊下から一枚隔てられた扉を開くと開けた部屋が見えた。
聖夜を追って後に続くと、いかにも男性の一人暮らしというには少し片付いた部屋。
痛む右足の靴をいつもより少し時間を掛けて脱いでいる間に、聖夜は僕の隣をすり抜けてトランクを持ったまま廊下の奥へと向かう。
奥はリビングかダイニングになっているのか廊下から一枚隔てられた扉を開くと開けた部屋が見えた。
聖夜を追って後に続くと、いかにも男性の一人暮らしというには少し片付いた部屋。
「適当に座ってろ。」
部屋に入ったところで所在なさげに立ち止まっていた僕にそう声を掛けると聖夜は奥にあるキッチンスペースへと足を向けた。
その言葉に従うように、示されたソファへと腰掛ける。
正直立っているのが少し辛かったので、ソファに腰掛けると小さく息を吐いた。
それから手持ち無沙汰に部屋を眺める。
一人暮らしには少し広い部屋。
マンション自体も良い所のようだし、ホストという仕事は収入がいいのだろうかと実もない思考を巡らせていると、不意に目の前に水の入ったペットボトルが差し出された。
その言葉に従うように、示されたソファへと腰掛ける。
正直立っているのが少し辛かったので、ソファに腰掛けると小さく息を吐いた。
それから手持ち無沙汰に部屋を眺める。
一人暮らしには少し広い部屋。
マンション自体も良い所のようだし、ホストという仕事は収入がいいのだろうかと実もない思考を巡らせていると、不意に目の前に水の入ったペットボトルが差し出された。
「水でいいか?」
それに思考を遮り、ペットボトルを差し出す聖夜に視線を向けると礼をいいそれを受け取る。
「はい、ありがとうございます。」
ペットボトルを渡すと聖夜は僕の隣に腰掛けた。
自分の分のペットボトルの蓋を外し、それに口をつける聖夜をちらりと見てから視線を落とした。
自分の分のペットボトルの蓋を外し、それに口をつける聖夜をちらりと見てから視線を落とした。
静かな沈黙が部屋に落ちる。
昔なら苦にはならなかった沈黙。
昔ならもっと近くにあった聖夜との距離。
昔なら苦にはならなかった沈黙。
昔ならもっと近くにあった聖夜との距離。
昔と今の違いの大きさに気付いてしまうと、僕が此処にいるのは酷く場違いな気がして、落ち着かない気分になった。
聖夜から受け取ったペットボトルは、冷蔵庫から出してきたばかりらしくひんやりと冷たい。
その冷たさが、まるで気持ちまで冷やしていくようで。
聖夜から受け取ったペットボトルは、冷蔵庫から出してきたばかりらしくひんやりと冷たい。
その冷たさが、まるで気持ちまで冷やしていくようで。
不意に持ったままだったペットボトルが取り上げられた。
不思議に思いそれを視線で追い、聖夜を見る。
聖夜は僕の視線など意に介した様子もなく、ペットボトルの蓋を外すと再びそれを僕の手に戻す。
不思議に思いそれを視線で追い、聖夜を見る。
聖夜は僕の視線など意に介した様子もなく、ペットボトルの蓋を外すと再びそれを僕の手に戻す。
「あ、ありがとうございます…。」
「いや。」
「いや。」
再び小さな沈黙が落ちる。
何処か気まずいそれを誤魔化す様に、僕はペットボトルの水を口に含んだ。
ひんやりとした冷たさが喉を通って胃に落ちた。
それから沈黙に耐えかねて俯いたまま小さく口を開いた。
何処か気まずいそれを誤魔化す様に、僕はペットボトルの水を口に含んだ。
ひんやりとした冷たさが喉を通って胃に落ちた。
それから沈黙に耐えかねて俯いたまま小さく口を開いた。
「……聖夜。」
「…何だ?」
「…何だ?」
聖夜の視線が此方に向く。
その視線を合わせるのに、心の準備をするように小さく息を一つ吐いて聖夜を見つめる。
その視線を合わせるのに、心の準備をするように小さく息を一つ吐いて聖夜を見つめる。
「…今日は、すみませんでした。」
今日幾度目かの謝罪を口にした僕に聖夜が口を開く前に続ける。
「…私の力が足りないばかりに、聖夜だけでなくお店のほうにまで迷惑をお掛けして…」
わざと事務的な口調で、矢継ぎ早に言葉を続ける。
「今日の損害については此方の責任ですから、きちんと責任を取らせて頂きます。
勿論この怪我の治療費も、明日伺った時に必ず。」
勿論この怪我の治療費も、明日伺った時に必ず。」
きちんと、線を引かなくてはいけない。
まだ目の前の彼のことが忘れられていない自分に気付いてしまったから。
昔のように、彼の優しさに甘えてはいけない。
甘えてしまえば、きっと済し崩しにこの気持ちをとどめることが出来なくなってしまう。
まだ目の前の彼のことが忘れられていない自分に気付いてしまったから。
昔のように、彼の優しさに甘えてはいけない。
甘えてしまえば、きっと済し崩しにこの気持ちをとどめることが出来なくなってしまう。
それは、いけない。
…それじゃ、いけない。
…それじゃ、いけない。
昔のように彼に寄り添いたいという気持ちに、蓋をするにはそうせずにいられなかった。