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 大きな大きなクジラ型のポケモンが、ゆっくりと海を進んでいる。
 その背に一人、黒髪をたなびかせたナイスバディを水着に包んだトレーナーが乗っていた。
 いわゆるビキニ姿の美女――ビキニのおねえさんのヘンリーは、美貌をゆがめた険しい顔で島を睨んでいた。
 彼女は怒っていた。

「ふざけないで欲しいわね……!」

 見渡す限りまっ平な海。雲のないからっからの空。
 謎の説明のあと起き上がってみれば、彼女は大海原にひとりきりだった。憤慨だ。
 自由といえばそうなのかもしれない。
 支給されたホエルオーに乗って浮いていればしばらくは誰にも見られず、
 探されず、意識されることもなく、何も起きず平和に過ごすことができたかもしれない。
 だがいまヘンリーの首には首輪が付けられていてとても自由とは言えなかったし、

「どうして私を……! この世界レベルの美貌と魅力、そして強さを兼ね備えた私をッ!
 こんな地図の端のヘンピなところからスタートさせるの! 全くもって分かっていないわ!
 これじゃあ! 私の至高のビキニ姿が! 誰にも見られていないじゃないの!」

 それよりなによりヘンリーは、
 自分が誰にも見られていないなどという状況が死ぬほど嫌だった。

 人に見られ、賞賛や羨望の気持ちを向けられるときこそが、ヘンリーが最も生を実感できる瞬間だ。
 そして、自分にはそんな視線を向けられるに値するだけのものがあると、少なくともヘンリーは思っていた。

「――そう、私こそが主役。私がステージに上がらなければ幕は決して上がらない」

 つまるところヘンリー……ビキニのおねえさんのヘンリーは、

「なぜならいずれ世界は、私が席巻するのだから。私は彼が造り出した……アイドルモンスターなのだから!
 さっさと島に向かいなさい、ホエルオー! 世界の幕を上げに行くわよ!!」

 超が付くほどの大言壮語家で、そして目立ちたがり屋だったのだ。


 ▼


 ただし。先に言ってしまうと、そんな彼女は、無事には島に付けなかった。
 当初A-1の海原へと放り出されたヘンリーがこうして島へとたどり着こうとしたのとほぼ同時に、
 A-1にほんの少しだけ飛び出た高台の地形部分では以下のような戦いが行われていたのだから。

「私の狙いはこっちだーーーっ! シャババーーーーっ!!」
「……地面が、崩れ――――?」

 尋常ならざるカラテを持つからておうのガンマによる、かいパンやろうビリーとの戦い。
 トレーナーサーチによる先手必勝を見事に決めたガンマは勝負の〆を、
 じわれからの震脚による大きな地形崩しによって決めた。
 そして、A-1の一部の陸と海の境界線が崩れさり……

 ――新しい崖が生まれた。

 無論、いわなだれどころではない土砂崩れを海に降らせながら。

「んな――――ッ!!??」

 そう、島へと辿り着いたヘンリーは間の悪いことに、その土砂崩れの真下に居たのだった。
 岩、岩、砂、岩。
 砂、岩、岩、岩。
 一つの岩の大きさだけでもゴローニャやギガイアスを大きく上回るだろうものが、面となって降ってきたのだ!
 まるでアクション映画の爆破演出のようだった。スケールが大きすぎて現実感がない。


「わ、私に黙って……こんな派手なVFXを!! どこの演出家の仕業!?」

 ヘンリーは自分より派手な効果演出を見せつけられて憤慨した。
 いやそこに憤慨している場合じゃないだろう、
 そもそもこれは本物だ! と思う人もいるかもしれない、ただこれは仕方がないことだった。

 ポケウッドのスター女優を目指してアイドル稼業をしていた彼女にとって、
 まだこの瞬間までは、この催しは自分の優れた演技力を買ったどこかの番組が企画し、
 様々なエキストラと大量のお金を掛けて実行した何かのドッキリかもしれないという甘すぎる考えがあったのだ。
 しかしそれも、岩が自分のそばに落ち、ホエルオーの背に刺さったことで否定される。

『エ゛ル……オ~ッ!!』

 ホエルオーの背から血が滲んだのを見て、ヘンリーは一気に現実に引き戻された。

「……嘘!? な、なんでッ!? ちょ、ちょっとシンボラー出なさい! 私を護りながら“コスモパワー!”」

 そこからのヘンリーの行動は早かった。
 もう一匹与えられていた手持ち、とりもどきポケモンのシンボラーを自分の頭上に召喚し、
 宇宙レベルの神秘の力で防御力・特殊防御力を上げるコスモパワーを使って耐久力を上昇させる。

「“コスモパワー”! “コスモパワー”! そして、……“アシストパワー”っ!!」
『……くてゅ、るっ、きゅー!!!!』

 そのまま続けて数回指示したあと、頃合いを見計らってアシストパワーを指示。
 アシストパワーは自らにかかっている能力上昇のぶんだけ威力を上げるエスパー技だ。
 通常のバトルでは専用の構成でなければまずお目にかかれない技ではあるが、
 コスモパワーを3度使っているシンボラーが使えば、サイコキネシスを上回る威力へと変貌する。

 不思議な鳥っぽいポケモン・シンボラーがいまいち言語化しづらい鳴き声で叫ぶと、
 その姿が光輝き、溜めこまれていた宇宙レベルの力の波動が球状に放たれる。
 あわやヘンリーに降り注ぐかと思われた尖った大岩や石礫は、その大いなる力でほぼ無力化された。

 だがもちろんそれはヘンリーのそばに限った話だ。ホエルオーには直撃する。

「ぎゃ、あああああッ!!」
『ゥエ゛ルオ~ッ!!!』

 立っているホエルオーの背が揺れる。ヘンリーも揺れ、バランスを崩して倒れる。
 地平線の代わりに見えたホエルオーの青い体躯には斑に赤の水たまりが出来つつあった。
 “これはまずい”、そう思ったヘンリーの目の前でホエルオーの頭上にひときわ大きい岩が降ってきた。
 ホエルオーは世界レベルのヘンリーにふさわしい大きさのポケモンだが、防御は低い。
 あのレベルの岩がぶつかれば死んでもおかしくない。
 ヘンリーは青ざめ、一瞬思考が遅れ、そしてそれゆえに次に起きた出来事への対応が出来なかった。

 急だった。巨岩があわやぶつかるかと思われたわずか数コンマ前。
 ホエルオーの身体が赤光に包まれ、モンスターボールの中へと突然戻ったのだ。

「な……」

 感じる重力、浮かんで疑問、 
 宙に放り出されたと脳が解決するまで一秒、
  ホエルオーが入ったモンスターボールが腰から離れて同じく宙に浮いているのを視認するまで二秒、
   シンボラーが慌てつつもヘンリーを覆い隠すようになけなしの翼で包み込むまで三秒、
    弾き損ねた追加土砂の層にすべてが飲みこまれるまでにおよそ四秒、
 繋  いでいた意識が途切れるまで、五秒、



 ▼


「起きて、おねえさん。もう終わったよ」
「……!?」

 ヘンリーが目覚めるとそこはリーグ会場のバトルコート、
 ポケモンが戦うフィールドの両サイドに設置されたトレーナー用の立台の上だった。
 仰向けに気絶していたらしいヘンリーに手を伸ばしてきた少年がいて、ヘンリーはこの少年を知っていた。
 忘れるわけがない。
 この少年は数年前、ヘンリーをこの会場で完膚なきまでに負かし、
 リーグチャンピオンになって有名になるというヘンリーの夢を醒まさせた張本人だ。

「な、なんでアナタがここに!」
「ほら、次の試合もあるから早く起きて。綺麗な衣装に汚れが付いちゃうよ」
「ちょっと!?」
「さてと。僕は次はあのクレイジー・アーサーさんかあ。勝てるかな、勝てるといいなあ」
「ま、待ちなさ…………いえ……、これ、って……」
「じゃあね。いやあ、強かったよおねえさん。また戦おうね!」

 ヘンリーの呼びかけに応じることなく通路の向こうへと消えていく少年の姿を、
 数年前と同じポーズで自分が見送っていることに、さすがのヘンリーもここで気づいた。
 さきほどの少年のセリフは。
 ――自分の記憶の中の少年のセリフとまったく同じだった。
 さらに舞台も同じとなれば。……導き出させる答えはたったひとつだ。

「過去の夢、追体験……。それもずいぶん、意識レベルが高い……」

 走馬灯なのか、それともただの夢なのか。
 懐かしいような不安なような不思議な気持ちになりつつ、呆然とヘンリーは歩き出した。
 歩き出そうと思って歩き出したわけではない、視界と思考以外が勝手に過去をなぞっていく。

 選手控え室とステージを繋ぐ暗い通路。

 かつてのヘンリーはこの通路をどんな気持ちで歩いていただろうか。
 いやそんなのは決まっている。周囲に大口を叩いておいてぶざまに負け、
 みじめに気絶し、助け起こされての退場なんて、
 悪目立ちなんてヘンリーにとっては心臓を握りつぶされるレベルの苦痛にほかならなかった。
 忘れたいほどの感情だった。

 それでも追体験が止まらないのは、
 ヘンリーにとって、あの少年に負けたのと同じくらいの人生の転機がこのあと訪れるからだ。
 ――そして今、それを彼女は――特に強く思い出さなければいけなかった。

「あー……試合お疲れ様です。エリートトレーナーのヘンリーさん」
「ねぇ、どういうことなのかしら……」
「落ち込まないことです。彼は天性だ。あれはいずれ、ポケモンマスターになる逸材です。
 現実というものは残酷だ、どれだけ頑張っても努力しても、頂点には成れる者しか成れない。
 そして彼は成れる人間で、貴女は成れない人間だった、それだけの話ですよ」
「……あなたのこの言葉は、嘘だったの?」

 通路の途中、ヘンリーを待ち構えている男に向かって、ヘンリーは問いかける。
 かつてはこの男のこの言葉に、ヘンリーは強く激昂したものだ。
 しかしその一方で、才能が無かっただけというこの言葉に、ある種の納得をしてしまっている自分がいたことも事実だった。
 それほどにヘンリーの戦った少年は、圧倒的だった。

「落ちついてください。貴女に能力がないと言っているわけではないんです。
 ただ単純に……ポケモンバトルという土俵では、貴女はここが限界だったというだけ。
 貴女は、自分が一番輝くべきだと思っている人だから。貴女にとって、ポケモンは目立つための道具だから。
 トレーナーとポケモンの絆が生む力には勝てない。個人の力では、勝てないのです」


 この男の指摘も筋が通っていた。自分が目立つことを1に置くヘンリーと比べれば、
 自分を負かした少年はポケモンと一緒にチームで戦おうとしている意識があった。
 ヘンリーの指示が独りよがりだった訳ではない。
 ヘンリーは的確な指示を出した。それでも、意識の差が、あった。
 そう言われればそう思わされた。一対多。勝てない道理としてこれ以上があるだろうか?
 だからこのときヘンリーは、何も言い返せなかった。

「そうして口をつぐんだ私に、あなたは名刺を差し出した」
「ああ……申し遅れましたね。私はこういうものです」
「芸能事務所の、プロデューサー……驚く私に、あなたはさらに畳みかけて来たわね」
「……ポケモンリーグでチャンピオンになっても、所詮は地方レベルですよ、ヘンリーさん。
 こちらの土俵では負けましたが、私は貴女の中に、世界レベルのポテンシャルを感じました。
 私が貴女が輝くお手伝いをします。世界に貴女を知らしめることが、貴女の何よりの望みである限り」

 そして男は言った。
 芸能界に、来ませんか、と。

「この言葉は。この世界で目立つならポケモンだと安易に考えていた私にとって、衝撃的だったわ。
 だからこそ強く惹かれたし、素性も分からぬあなたに付いて行った。
 そしてアイドル……確かにトレーナーより私に合っていたし、楽しい仕事だった。
 それを与えてくれたあなた、折れかけた私を救ってくれたあなたには、感謝していたのよ、P(プロデューサー)」

 でも……。
 ヘンリーは、目の前に立つ男の姿を、
 暗い廊下でこちらに向かって笑いかける男の、服装を見る。

「ねえ、P……あなたのPは……プロデューサーじゃ、なかったってことなの?」


 男は深緑色のスーツを着ていた。
 胸と肩に、「P」と書かれたワッペンを付けていた。


 名刺に書かれた男の名は、サカモト。
 このコロシアイの参加者にルールを説明した男もまた、サカモト。
 ――これが、ヘンリーがこのコロシアイを番組だと誤解した何より大きな理由だった。

「私はあなたに……利用されたの?」

 瞼の裏にうつる過去のサカモトはヘンリーの問いには答えない。
 ただ、輝かしいはずだった思い出だけが黒くくすんでいって、そして見えなくなっていった。


 ▼


 目が覚めた。

 砂埃と潮が混ざったひどく泥くさいにおいが鼻を刺す。
 崖下の海に新たに作られた浅い岩場の上に、ヘンリーは倒れていた。

 げほっ、と口に入った泥水を吐いてからよろりと起き上がった。
 悪夢を見たあとのような倦怠感がどっと体を襲って、自分を勇気づけるための言葉も浮かばない。

 ビキニの無事を確認した。とりあえず、身体にも酷い外傷は無かった。
 ホエルオーのボールはどこかへ流されてしまったようだ。探すにも海は広すぎた。
 立ち止まっているのは怖かったので、どこへなりとなく歩き出す。
 羽根に傷を受けてふらふらと飛ぶシンボラーが、所在なさそうにヘンリーの周りを舞っていた。

 そして見つけた。少し歩いた岩場で見つけた。
 ねじまがった人間の腕と、脚。
 その近くの水面に浮かぶモンスターボール、2つ。

「……」


 人の死体。
 ヘンリーの前に突き付けられた、それが現実だ。
 もはや信じざるを得なかった。VFXやドッキリではない、これは本物のコロシアイ。
 ここはコロシアイ実験を行うためだけに占有された島。
 サカモトはそこにヘンリーを放り込んだ。
 おそらくは資金稼ぎの一環としてのヘンリーが、用済みになったがゆえに。
 あるいは最初から、ヘンリーをこれへ放り込むところまで、決まっていたのかもしれない。

 どうあれヘンリーはここではアイドルではない。
 ただのビキニのおねえさんで、ひとりの参加者でしかないのだ。

「……急がなきゃ」

 ――戦いは常に、先に行動できる者が有利である。
 ポケモンバトルにおいても、バトルロワイアルにおいてもだ――

 彼に言われたこの言葉がヘンリーにそれを言わせたと、ヘンリーは気付いていただろうか。
 ヘンリーは死体のそばからモンスターボールを奪い取って、崖上へと上がった。
 こころもまだ、きまっていないのに。

「大丈、夫。このくらいの逆境で、こんなちっぽけな島で、私が終わるわけ、ないじゃない。
 だって……だって、私が世界レベルだってことだけは、誰にも否定できないんだから……」


 ▼


 いつだって わたしは じぶんのつよさを しんじて きた
 きっとそれが わたしの つよさだったんだと おもうの
 でも もし わたしが じぶんのつよさだけしか しんじられなく なってしまったら…


【A-1/崖下/一日目/日中】

【ビキニのおねえさんのヘンリー 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、軽傷
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1~2
[行動方針]こんなちっぽけな島で終わらないために、
1:私こそが世界レベル

▽手持ちポケモン
◆【シンボラー♀/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:かえんだま
能力値:????
《もっているわざ》
サイコシフト/はねやすめ/コスモパワー/アシストパワー
※残りHP30%ほどです。
※ぼうぎょ、とくぼうが3ランクアップしています(ボールに戻せば元に戻ります)

◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
※かいパンやろうのビリーによってある程度調整されています
※ビリー好みのポケモンではなかったようです


◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
※かいパンやろうのビリーによってある程度調整されています
※ビリー好みのポケモンではなかったようです

※A-1崖下にかいパンやろうのビリーのデイパックは埋まってしまったようです


 ▼ 



「……いきなりすげえもんが釣れたな」

 一方つりびとのサエグサは、ホエルオーの入ったヒビ入りのモンスターボールを手に驚いた顔をしていた。


【A-2/低地/一日目/日中】

【つりびとのサエグサ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ボロのつりざお(手製)
[行動方針]釣り
1:釣りをする
2:その間に方針を決める
3:誰かが罠にかかったら見かけと雰囲気で判断する。
4:殺し合いに乗っていると判断したら殺す

※周囲に糸がはかれました


◆【ミカルゲ/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:いのちのたま
能力値:防御、素早さ特化
《もっているわざ》
のろい/さいみんじゅつ/かげうち/ギガインパクト

◆【ウルガモス/Lv50】
とくせい:ほのおのからだ
もちもの:もくたん
能力値:特攻、素早さ特化
《もっているわざ》
ちょうのまい/だいもんじ/むしのさざめき/ギガドレイン

◆【ホエルオー/Lv50】
とくせい:????
もちもの:????
能力値:????
《もっているわざ》
????

第26話 過去と未来の再会 第27話 私の世界に私だけ 第28話 ひこうポケモンの戦い!スカイバトル

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最終更新:2014年12月07日 00:46