「あ、あの……あそこに、人がいますね」
「みたいだね」
モカとエイジの前方にいるのは、白いTシャツに白いハーフパンツを履いた男と、体操服にランドセルを背負った少年の二人。
間抜けそうな面構えをした男と、年相応の幼い顔立ちをした少年のコンビである。
人に遭遇するのは市街地に入ってからだと思っていたエイジだったが、これはこれでチャンスだろうと思考を切り替える。
――なにせ相手は間抜け面と年端もゆかぬ子供、これほど騙しやすい相手はそう簡単に出会えはしないだろうからだ。
「よし、まずはあの二人からにしよう。君はいつも通りに振舞って、余計なことは喋らないように。いいね?」
「は、はい……」
警戒はしておくに越したことはない。この場合は問題はないであろうが、それでも万が一ということは起こり得る。
人は見かけによらないと言うし、あの何も考えていなさそうな面構えの男が、実は天才肌のポケモントレーナーという可能性もある。
子供の方にしたって、無邪気な振りをしていて実は腹黒いという可能性だって有り得るのだし、用心はするべきだろう――さすがにあんな年齢の少年が、そうであるとは考えたくないが……
そんなことを考えながら前方の二人の方へ向けて歩いていくと、どうやら向こうも自分たちに気付いたようで、
「あ、あそこに人がいるゾ!」
「ほんとだ、お兄さん!」
間抜け面の男は何の警戒もすることなく、コチラを指差しながら大きな声で、自分たちの存在を隣にいる小学生に教える。
少年も無邪気にコチラに大きく手を振り、おーいとやはり大きな声で呼びかけてきていた。
殺し合いの場であるという緊張感を彼らは持ち合わせていないのか、あるいは純粋に誰かに遭遇できたことが喜ばしいことであるのか。
どちらにしても大した違いなどはないが、どちらにしても自分たちには好都合だ。
「すみません、貴方たちは殺し合いには乗っていないと見受けますが……」
「もちろん! 殺し合いをするなんてとんでもないですよ! ね?」
「そうだよ。当たり前だよなぁ?」
傍から見たら、一回り上の男が子供の発言に便乗したという風に見えるが、間抜け面の男は男で確固たる意思を持っているようである。
間違いなくこの男は殺し合い反対派で、確固たる意思とは対主催であろう。
成る程――面白い冗談だ。本人の戦闘能力すら皆無そうで、しかもポケモンバトルの知識すらロクに無さそうな――何なら機械についても付け足そうか、そんな間抜け面が対主催とは実に笑わせる。
ポケモンバトルに関しては自身が言えることではないにしろ、この程度の男が何かできるとは到底思えない。
これはポケモンに期待するしかない。ポケモンが使えるのであれば、まだこの男の価値はマシだったといえるだろう。
「それはよかった。僕の名前はエイジ。かいじゅうマニアのエイジです。コチラはオカルトマニアのモカ」
「モ、モカです……よろしく、お願いします」
隣にいるモカがお辞儀すると、慌てて間抜け面の男もお辞儀をした。
それを見て子供もお辞儀をする。ぎこちなさを感じる男よりも、自然な動作で少年はお辞儀をした。
――その動作にほんの僅かであるが、エイジは違和感を感じる。
格好からしてじゅくがえりで間違いないであろうこの少年は、しかし年齢と態度とは裏腹に、しっかりとしたお辞儀ができることに違和感を感じたのだ。
そういった子供はいないことはないであろうが、それにしたってお辞儀に入るまでの動作があまりにも冷静すぎやしないだろうか。
慌ててお辞儀をするのではなく、ゆっくりと体をこちらへ向け、正面を向いて相手を見据え、腕を横にしっかりと置いて、首を真っ直ぐに体を曲げ、数秒の間静止して、元の態勢に戻る。
はたして、ここまで完璧にできるものであろうか。
だがその違和感はエイジにとってほんの僅かで、少し気になった程度のことだったので、そんな子もいるだろうとエイジは片付けてしまった。
「ぼくひで。じゅくがえりのひでだよ」
「俺はからておうのミウラだゾ。よろしく頼むゾ」
少年の方は予想通りだとしても、ミウラが発した肩書きをエイジは頭の中で反芻し、虚を衝かれた面持ちでミウラの全身を見回した。
どこからどう見てもポケモンコレクターみたいな容姿――いや、それはポケモンコレクターに失礼だろう、だがそれくらいに、からておうに見えない服装をミウラはしていた。
とするならば、彼自身に戦闘能力は多少あるということなのか。
人は見かけによらないものだ――エイジはそう、心の中で呟いた。
◇◇
ミウラが指摘をする以前より、ヒデは二人の存在に気が付いていた。
黒のドレスを着た女性と、不健康な見た目と服装の男性の二人。前者はオカルトマニアだろうが、後者は――どの肩書きか服装からは掴めないので、トレーナーと仮称する。
現時点で分かることは、トレーナーの男がオカルトマニアの女をリードしているということだけだった。
ヒデは思案する――果たしてコイツらのスタンスは一体何であるのか、殺すならばどちらを先に殺すべきか。
後者は簡単な問いであるから抜きにするとして、はてさて彼らは利用価値のある駒であるのか、それとも愚かな人間であるのか、それが問題だ。
ミウラがどういう人間であるかを確認した時と同じく、どこかへ隠れて観察したかったのだが、残念ながらここいらに身を隠す場所は無かった。
それに身を隠す場所があったとしても、ミウラが疑問に思って行動が遅れるかもしれないので、どの道無理な話なのだが。
ならば取るべき行動は会話しかない。ミウラも気付いたようだし、あの二人と接触して観察をする――
「へぇ、からておう……ってことはそれなりに戦えるってことですかね」
「そうだゾ! その代り、ポケモンバトルは全く駄目だけど……」
どうやらトレーナーの男――かいじゅうマニアのエイジは愚かな人間だったようだ……オカルトマニアのモカはその愚かな人間に付き従う、奴隷のような存在であったが。
さっきから僕らが持っている情報を尽く引き出そうとしていて、現にミウラが正直に何もかも話してしまった。
といっても自分の情報は全く出してないので、実質ミウラの情報を引き出しているだけである――その情報も、役に立つ可能性は皆無のものばかりだ。
彼らにとって役に立つであろう情報は、ミウラが持つポケモン、ミウラの超がつくほどのバトル下手、そしてミウラ自体の戦闘能力、この三点だけだった。
特にミウラが話した中で――役に立たない話、例えば生い立ちとかを除く――1番深く掘り下げられたのはバトル下手に関することで、自身がどれ程下手糞かを事細かに語っていた。
本来ならば失敗談なぞ人に語るものではないだろうが、エイジが相槌を打ったり共感したりするお蔭で、ミウラはべらべらと自分の弱点を曝け出してしまった。
ミウラは友好を深める為に話をしているつもりなので、エイジの思惑に全く気付かない。
彼が、僕ら二人を殺そうとしていることに、気付かない。
(うーん、これすごくまずいぞ。さて、さてさてどうするべきかな……)
「俺とポッチャマは凄く仲良しなんだゾ!」
「そうなんですか。是非、見てみたいです。ミウラさんとポッチャマの友情」
そんな思考をしている内に、ミウラはエイジの口車に乗せられてポッチャマを召喚しようとしていた。
エイジの狙いはポッチャマを召喚した後に自身もポケモンを召喚し、強制的にバトルに持ち込むことであろう。
例えエイジもポケモンバトルは苦手というタイプの人間であろうと、それを下回る凄まじいバトル下手なので負けることはまずない。
加えてミウラの手持ちはハズレも良いところで、いや使い方が良ければ活躍するかもしれないが、ミウラの実力では到底不可能な話なので、勝つことはまずない。
ポケモンコンバータの使い方すら知らなかった程の男なのだ。僕が懇切丁寧に教えたから何とか使えるようになったものの、そうでなければ一体この男はどう生き残っていくつもりだったのか。
余談だが口出ししたらミウラの脳がパンクする恐れがあったので、どういう調整をしたら良いかについてまでは言わなかった。恐らく技の構成は、彼の趣味による物が多いだろう。
それはさておき、このままではミウラは負けるのはほぼ確定で、盾としての役目を果たすどころか果たす前に死んでしまう。
それはまずいだろう。コイツのような間抜けで使いやすくて、しかも戦闘能力がある人間など、この先会えるわけがない。
何としてでも死守しなければ――だがすでにミウラはポッチャマを召喚すべく、モンスターボールを地面に叩きつけようとしていた。
ちなみに僕の扱いはどうなるのかというと、まあミウラとバトルする前に殺されるだろう。とりあえずそれは、さておくべきことだ。
「だ、だめ! おにいさん!」
「あっ、おい!」
叩きつけられる前にヒデはミウラの手を掴み阻止。
ミウラは訝しげにヒデを見つめる。
「どうした? 急に腕を掴むなんて……」
「お兄さん、マズいよ。この人たちは僕らを殺そうとしてるよ。ポケモンは出しちゃ駄目だよ」
「そんなわけないゾ。もしそのつもりだったら、とっくにポケモンバトルが始まってるゾ」
「そうですよ。ミウラさんの言う通り、僕もその立場だったらそうします」
妙なところで正論を吐く男だ。だが、この男は普通ポケモンバトルのことしか考えていないのだろう、ヒデは溜め息を吐きたくなるが何とか堪える。
トレーナー同士は目と目が合えばバトルを開始しなければならないのが暗黙の了解だが、それはあくまでも暗黙の了解なだけで、ここでそんな
ルールなどは存在しない。
ポケモンを使った不意打ちだってあろうに、トレーナー全員がきっちりバトルの形式に則って勝負をするとでも思っているのか?
仮にとっくにポケモンバトルが発生したとしても、やはり普通のポケモンバトルではありえない、トレーナーを狙う技、不意打ちが発生するのは目に見えているだろうに。
頭を抱えたくなるヒデであったが、ともかく何としてでもポケモンバトルは避けたい。
どうにかして、どうにかやって、何としてでも、阻止しなければならない。
「大体会って僅か数分だよ? 数分の間にここまで根掘り葉掘り人のことなんか聞くわけないよ! 普通は今後どうしようとか、対策を練るんじゃないの?」
「言われてみれば、そうだな……?」
いやそうだろうよ。人の生い立ち何て聞いたところで、何にも役に立たないんだから、聞くわけないだろうに。
まあ、出会って数分で即会議も珍しいだろうが。それでもここまで友好的に接してはこないだろう。
というか、エイジ側からはまだ肩書きだけしか提示されてはいないではないか。
ともあれ僕の言葉を信用し始めたミウラであるが、しかし間抜けなこの男が話を理解するのには、かなり時間を有するであろう。
あまり悠長に物事を進めていたら、シビレを切らしてエイジが攻撃を仕掛けてくれるかもしれないので、ここいらで決めに入るとしよう。
「ねえ、危ないから早く何処かへ行こうよ……僕恐いよ……」
「あっ、泣くなよ、泣くなって……」
ここいらで泣けば子供っぽいだろうし、話を強引に進めることができると思ったヒデは泣く演技へと入る。
予想通りミウラはおろおろしはじめ、どうしたものかとエイジと僕を交互に見やり始めた。
この状態でエイジが不自然な行動をとれば、自分の言っていたことが虚構ではないということがミウラでも直ぐに分かるだろう。
そうでなければミウラは僕の意見を尊重し、彼ら二人から放れてくれるだろう。
「あ、あの……ヒデくん?」
「……う?」
しかし、全く眼中になかった方向から、予想だにしなかった発言が僕の耳に入ってきた。
この話には絶対混ざらないと思っていた、エイジに脅されて付き従うだけの存在だと思っていた彼女――オカルトマニアのモカが発言をした。
カモフラ程度の存在だろうと思っていた、なのに発言をしたというのは僕の中で衝撃であった。
良心の呵責に耐えきれなかったのか、エイジのための行動なのか、判断はできない。
「大丈夫ですよ……、そんな泣かなくても。エイジさんはそんなことをする人じゃないです」
泣く子を宥めるような声。僕からしれみれば、それは人を惑わす声でしかなかったが。
とはいえ、完全に目論見が外れてしまい、さてどうしたものかとヒデは思案する。
泣くのを止めて人を信じ始める言動にするべきか、泣き続けてその言葉を否定する言動をすべきか、ヒデは悩みに悩む。
ヒデが思考する間にも、モカは笑顔で言葉の続きを言う。
「だから、安心してください。私たちは貴方たちを殺したりはしませんから……」
「……ほんとう?」
悩んだ末にヒデがとった演技は、泣くのを止めて人を信じ始めるという演技だった。
恐らくエイジには不自然がられただろうし、警戒もされるであろう。だが、モカは気付いていない。
物事に少しだけ懐疑的だけれど、ただそれだけの年相応のメンタルの少年、その程度にしか思っていないであろう。
ここがつけ入る隙となるであろうし、この関係性は大切にしたいものだ。
それに、だ。
駒が二人も増えるというチャンスを、みすみす逃すほど僕も馬鹿ではない。
ミウラより思考できるという点では厄介だが、ミウラよりも信用できないのは駄目だが、いざとなればエイジだけを殺せば済む話で、そして負けるビジョンは思いつかない。
何故ならば、自身は選ばれたもの。主人公はストーリーを成し終えるまで死ぬわけがないからだ。
まあ本当のところ、よく考えたら背を向ければミウラはまだしも、僕が殺されるかもしれないという可能性に行き当たったから、仕方なくそうしたというだけなのだが。
◇◇
目論見が大きく外れたことに、エイジは心の中で憤慨していた。
ミウラがポッチャマを召喚したら、即座に自分もポケモンを召喚して、先に子供を殺して死体を回収してから、ミウラとポケモンバトルをするつもりであった。
ミウラの手持ちのもう一体はニョロボン、戦うにはさして問題ないポケモンだ。
だからポケモンバトルに持ち込んでしまえば、味方を無くしてやれば、勝てると思っていたのだが、まさか邪魔が入ってくるとは予想していなかった。
モカの咄嗟のフォローのお蔭で、何とか逃がさずに済んだからいいものの、逃がしていたら謂れのない悪評を流されていたかもしれない。そうならない可能性もあるが。
勘が良いのか、不安からくる妄想からなのか。子供だからという理由ならば後者で話は通るが、最初に感じていたほんの僅かな違和感が、形になって表れ始ているとエイジは感じた。
――まさかそんな可能性が現実に現れ始めるとは思っていなかったが。
からておうである男ではなく年端もゆかぬ子供に警戒をしなければいけないというのは、何ともおかしな話だが、この違和感を拭えない以上そうするしかない。
モカは気付いていないようだし、指摘しても意味はないだろう。
変に意識されてミウラに気付かれたら、それこそ本末転倒だ。
(……仕方ないミウラは利用するだけ利用して切り捨てる。ヒデは……早く殺さないと手遅れになるかもしれない)
まるで得体の知れない何かを相手しているようで、このままでは危険だと感覚が告げている。野放しにしていれば自分にデメリットしかもたらさないだろう。
どうやら引き寄せたのはチャンスではなく、災いの元であったらしい。
元である本人は、無邪気に笑うばかりだった。
【B-4/はらっぱ/一日目/日中】
【オカルトマニアのモカ 生存確認】
[ステータス]:精神疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:死にたくない
1:エイジの指示に従う
※交換でエイジにオーダイルを渡しました
▽手持ちポケモン
◆【オーロット/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
【かいじゅうマニアのエイジ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:優勝する
1:無害な参加者を装いながら殺せそうな奴を殺していく
2:モカは一応守る。殺害も自身が主に行なって行く
3:できれば卵グループが怪獣のポケモンで手持ちを固めたい
4:ヒデを何とかしないとこの先マズいかもしれない
※交換でモカにオーロットを渡しました
▽手持ちポケモン
◆【オーダイル/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【カブトプス/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
【からておうのミウラ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:対主催
1:サカモトに立ち向かう
2:ヒデを家に送り届ける
3:エイジとモカと同行する
▽手持ちポケモン
◆【ポッチャマ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【ニョロボン/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
※技の構成は自身の趣味によるものが大きいです
【じゅくがえりのヒデ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:マーダー
1:ゲームに優勝する。
2:ミウラをとことん利用する
3:殺されない為に二人と同行
4:いざとなればエイジを殺す
▽手持ちポケモン
◆【ラティオス/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【エンテイ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
最終更新:2015年02月17日 18:55