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「人間の脳は、眼に見えるものを正確に映し出しているわけではないんです。
 例えば眼球のレンズは、本来、世界を逆さに映し出しています。
 しかしそれを脳がそれをひっくり返して認識するため、正しくものが見えるのです」
「何をおっしゃりたいのでしょうか、リョウ先生」
「キョウコさんの場合、認識がエラーを起こしたまま、完全に定着してしまったと言う事です。
 あなたの育て方……娘さんをポケモンと同じように育てた事が、幼少期の彼女の精神に過大なストレスを与えたのです。
 自分がポケモンなのか人間なのか……その悩みから解放するべく、彼女の脳が都合のよい解釈をおこないました。
 『あらゆる物体や生物は、本当はポケモンなのだ』、『自分も本当はポケモンなのだ』と。
 幼少期という脳の成長が最も高まる時期にその認識が定着し、結果として幻覚を見続けていると言う事です」
「……キョウコを普通の子のように、スクールに通わせる事は出来ないのですか?」
「普通の子に戻すのは困難でしょう。物心着く以前から見えていた幻覚は、彼女にとっては認識する世界そのものです。
 それを無理やりに引き剥がしてしまえば、発狂する事も考えられます」
「成程。……そうですね、もうしばらくは様子を見たいと思います。
 なぜなら最近はどうしても外せない用事が立て込んでいますから……。
 この後も、ポケモンコンテストの審査に出席しなくてはいけません」



扉が閉じた後。看護婦はドクターに言った。

「ポケモン大好きクラブの支部長で、ポケモン育成のカリスマ、か……。
 どうして自分の子どもは、ありのままに愛してやれなかったんでしょうね」



 ◆


ポケモンごっこのキョウコが登場する。
彼女はお腹が空いていた。

「お腹が空いたな」

そう言って、赤さびだらけの扉に手を掛ける。
ギギギィッ……といやなおとが鼓膜を響かせた。
この扉は実はハガネールで、眠っていたところを邪魔されて怒ったのだ。

ごめんね、と一言詫びる。

タイルの剥がれた階段を、タンタンタンと駆けあがっていく。
一段一段登る時の上下運動で、ピカ耳のフードがずり落ちて、茶色のストレートヘアーが見えた。
キョウコはそれを神速の速さで被り直す。

「お腹が空いたな」

お腹の中でコロボーシがさざめいた。
……もう三つめのビルだ、思ったよりもここには誰も居ない。
街中なのだから、ギッシリと人間がつまってるくらいに考えていたが、そんなことはなかった。

意外と人間を皆殺しにしなくても、暮らしていけるかも、と思った。

がらんどうの大部屋を回り、今は小部屋に居る。
小部屋というか、女子トイレだ。
カラッカラに乾燥していて、壁も床もベージュ色だ。
蛇口を回しても何も出てこない。キョウコは洗面台に腰かけた。
ため息交じりに呟く。

「お腹が空いたな」
「わがままを言ってはいけません」

TOTO、とトイレのフリをしたネイティオがたしなめてきた。

「でもお昼の時間はとっくに過ぎてるし、なんなら今はおやつの時間だ。
 空腹なのは当然だし、その事実を述べる事がどうしてダメなんだい?」

別に誰かに向けて不平をこぼしたのではない。
単に事実が言葉となって口から出ただけだ。

「うるさいんじゃい! さっきからブツブツブツブツよぉ!」
「キョウコ殿wwwwwww幼女みたいな言い訳やめなwwwwっシャイセwwwwww
 でもwwwww幼女ならwwww拙者大wwwww歓wwww喜wwwwwwwwwwwwwwww」

腰元で二体のニドランが喚きだす。
キョウコは顔をぷくっと膨らませた。

「うるさいな、僕は君たちと違って食べなきゃ死んじゃうんだよ」
「携帯食料がwwwwあるジャマワルダナプラコwっうぇwwwwwうぇwwwwwwww」
「そうだよ(便乗)」
「わかってないな。キャンディーにチョコレート、ショートケーキにキャラメル。
 プリンにマシュマロにババロアにグミにアイスクリームにようかん。
 宝石のようにきらびやかで、甘い匂いを漂わせる、そんなものが食べたいな。
 サカモトは気が利かない」

キョウコのわがままには応えられないが、一応甘いモノ自体は支給されている。
ナッツをベースにしたクッキー(高カロリー)と、ピタミン豊富なゼリー飲料(3秒で摂取可能)がそれだ。
それ以外にはパンの缶詰と、塩漬け肉の缶詰が支給されている。

余談だが、チョコレートやキャンディーは携行食として有用されている品だったりする。
一般的に携行食としてイメージされるのは、乾パンや缶詰などの保存の効く食品だが、それらは重量が掛かってしまう難点がある。
さらに言うとそれらは飲み込むために水分を必要とするため、飲料の負担も大きくなってしまう。

その点、チョコレートやキャンディーならば水無しで摂取可能、高カロリー、そして重量も低い。
お菓子と言えども、軍隊のレーションにも入ってるくらいに重要な食品なのである!

「まったく、サカモトは気が効かないな」
「だったらキョウコ、街の外を探した方がいいんじゃないかな。
 宝石にようなお菓子は無いけれど、甘いきのみなら見つかるかもしれない」

成程、ペラップの言うとおりだ。
ビルの屋上から見渡した時、巨大なドダイトスがそびえていたのを思い出す。
あの沢山の植物の中に、実のなる木の一本があっても不思議ではない。

「そうだね、僕も街中は落ち着かないと思ってたんだ。
 ポケモンだからかな、きっと森の方がリラックスできる」

キョウコは窓から配管をつたって、地上へするするっと降りた。
そして、山がそびえていた方向へと歩き出す。

「そう言えばキョウコ、君はまだ手持ちポケモンと顔合わせが済んでないんじゃないかな。
 いざという時のために、なるべく早く済ませておいた方がいいよ」
「それもそうだね。まだテッポウオしか挨拶してないや」

二体のニドランに加えて、メイドから借りたカラサリスとマユルドを投げた。
それらがパカっと口を開くと、四体のポケモンが周囲に出揃った。

「水をくれ」

テッポウオはぐったりしている。

「突然失礼します。宜しければ殺し合いませんか?」

カイリキーは紳士的な態度で、両拳をガンガンと打ち付けた。

「わたしは一向に……構わん!」

エビワラーがシャドーボクシングをしながら、挑発する。

「ふぇぇ……ハッチールだよぉ……」

パッチールは泥酔していた。

「みんなよろしくね」
「「「「よろしくねキョウコちゃん」」」」

そんな感じ。以上。
挨拶を済ませたので、三体のポケモンを戻した。
テッポウオだけは武器として装備しておいた。

「さ、行こうか」
「……み、水……」

路上を颯爽と歩くキョウコを、ビルのフリをしたポケモンたちが手を振る。
カビゴンにサイドン、トリデプスにパラセクト、みんなとても大きい。
彼らに対し、キョウコは笑顔を振りまいて応えた。

この世界は本当にポケモンたちで溢れている。


 ◆


黒づくめの男、タスクは拍子抜けした。
彼は手近に見えた街の、ゲートの中でじっと佇んでいた。
ゲートとは、街と道路をつなぐ施設。
人通りが多く、尚且つ不意打ちされる危険が少ない。待ち伏せには最適と言えよう。

しかし、最初に出会ったのが、ピカチュウの着ぐるみパジャマを着た少女とは。

「……なんだお前は。いい年こいてポケモンごっこか?
 まぁいい、手始めにお前のポケモンを頂かせてもらうぞ!
 いけっガラガラ! あいつをぶち「オクタンほう」……」

タスクは反射的に、側方へと身を転がせた。
案の定、後ろで激しい音が弾けた。

少女の手に握られたテッポウオ、その口から墨がボタボタと垂れている。
その目線の先の壁は、黒のペンキをぶちまけたようになっている。
中央には強烈なヘコミが生じている……オクタンほうの水圧を物語っていた。

「てめぇ……俺を直接狙ったな……! 生意気な野郎め……」

危険を感じた時、咄嗟に身を伏せる事は、長年のクセになっていた。
植木鉢が置いてあったため、そこに思い切り腰をぶつけたが、あれに撃ち抜かれるよりも遥かに良い。
さて、長考している場合ではない。
この瞬間にも銃口は、俺の眉間へと向けられている。

「ガラガラ、ホネブーメラン!」

少女の頭部を指差した。
そうだ、初めからわかりきっていた事じゃないか。
殺し合いなのだから、人間を直接狙う方が効率的かつ迅速だと。

悪の組織に身を置きながら、どこかでそれを躊躇っていた事。
加えてこんな小娘に、その覚悟を先を越された事に、非常に恥ずかしくなった。

「だが、同じ間違いは犯さねぇ……容赦無く、ためらいなく殺ってやる!」

回転するホネこんぼうが小娘に目掛けて放たれる。
しかし少女はそれをテッポウオで受け止めた。

「うわ……っと、ゴメンねテッポウオ」

盾にされたテッポウオはピャーっと悲鳴をあげ、床に落ちた。
すぐさまボールへと戻し、少女は一目散に引き返していく。

「追えガラガラ! あの小娘を逃がすな、ぶっ潰せ!」

腰をさすりながら立ち上がり、ピカチュウそっくりの背中を追いかける。
ロケット団たるその牙は、獲物を確実に仕留めねばならない――



【A-5/はいきょのまち その1/一日目/午後】

【ロケットだんのしたっぱのタスク 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、メガリング
[行動方針]皆殺し
1:手頃な参加者に「かみつく」
2:勝つためなら「だましうち」も「ふいうち」も辞さない
3:機会があればメガシンカが行えるか確かめる

▽手持ちポケモン
◆【ギャラドス(色違い)/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:ギャラドスナイト
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
たきのぼり
りゅうのまい
かみつく
じしん

▽手持ちポケモン
◆【ガラガラ/Lv50】
とくせい:ひらいしん
もちもの:ふといホネ
能力値:HP、攻撃振り
《もっているわざ》
ホネブーメラン
ストーンエッジ
はらだいこ
つばめがえし


【ポケモンごっこのキョウコ 生存確認】
[ステータス]:良好、空腹
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×6
[行動方針]マーダー
1:テッポウオで殺される前に狙撃する
2:甘いきのみを探しにいく


◆【テッポウオ/Lv50】
とくせい:スナイパー
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
ロックオン
オクタンほう
????
????

◆【パッチール/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????

◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????

◆【エビワラー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????



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最終更新:2015年04月10日 09:37