一番人気であった紫の錬成魔法にして海鮮パティシエでもあるミツキの心を射止めたのは、やはり蟹の名産地であるスパルタの面々であった。保護者のカルディナも、彼女の手でスパルタの蟹料理の幅が更に広がることを期待して、喜んで送り出すことにしたようである。厳密に言えば、彼女が契約する相手となるレヴィアは今この場にはいないため、彼女をスパルタに連れ帰った上での交渉という形になるが、おそらくレヴィアが反対することはないだろう。
一方、当初はミツキを希望していたマリベルは、最終的には山吹の静動魔法師であるクレハを招き入れることになる(彼女が「山吹」を選んだことに何か特別な意図があったのかは不明)。クレハに対しては、同じ弓使いであるシストゥーラや、「射手」の邪紋使いを同僚を持つスティアリーフからの指名もあったが、最終的には「静動魔法師の先達」がマリベルの下にいることが、「この世界の更なる魔法の習得」を目指すクレハの中では好都合であったらしい。
そんな彼女の宿敵であるヴェルディは(今回の件に付随して生じたカルディナへの不信感はひとまず脇に置いて)「今のウリクルに必要な人材」について冷静に吟味した結果、物品を作り出す技術を持つ浅葱の召喚魔法師が必要と考え、コノハをウリクルへと連れ帰り、ジェロームと契約交渉を結ばせようと考える。コノハの側も、風水術を用いて呉竜府の道具を作り出すことに興味を抱いたようで、前向きな姿勢を示す。おそらくジェロームも反対することはあるまい。
ベアトリアスもまた、最終的には「今のエルマに必要な人材」についてリッカと相談した上で、「飲み過ぎで体調を崩す人々」への対策として、緑の生命魔法師であるカイコウを選んだ。彼女は元の世界では新興宗教の教祖だったらしく、その点では村に招き入れることにやや不安もあったが、もともと今のエルマには「酒の神」を勝手に名乗る男がいることを思えば、それほど大きな問題でもないように思えた。カイコウの側も「漂流図書館」の存在に興味を示し、快諾する。
部外者ながらもどさくさ紛れにこのお披露目会に参加していたヒュースは、狙い通りに常盤の生命魔法師であるカンリュウサイの勧誘に成功する。もともとカンリュウサイは野心家であり、自身の甲州流軍術がこの世界でどこまで通用するかを試してみたいと考えていたため、新興勢力であるグリースへの士官は、彼にとっても願ったりであったらしい。なお、男色家でもある彼はこの時点でヒュース個人にも興味を示していたのだが、当人はまだそのことには気付いていない。
イリアは当初の希望通りに、藍の時空魔法師であるローザリンデと交渉し、彼女を招き入れることを決定する。ローザリンデはもともと異界では「王女」の立場にあり、極めて気位の高い人物ではあったが、それはそれで結果的にイリアとは波長が合ったようである。ただ、端からその二人の交渉を見ていたプロキオンは、この二人が色々な意味で「似た者同士」であるからこそ、いずれどこかで衝突してしまうのではないか、という危惧を抱いていた。
そんなプロキオン自身は、魔境における対混沌戦の主戦力になることを期待した上で、橙の元素魔法師であるルフィーアを、バットへの「お土産」として連れ帰ることに決めた。彼女はローザリンデとは対照的に、あまり自分に自信を持てていなさそうな少女であったが、カルディナ曰く、魔法師としての潜在能力は彼女が最も高いらしい。今は火属性の魔法を得意としているが、いずれは混沌渦を作り出す大型魔法をも習得することが期待出来そうである。
なお、イリアがギリギリまで迷っていたもう一人の候補である夜藍の時空魔法師のマリンは、
レインの元に迎え入れられた。今のマージャに必要なのは「堅物すぎない程度の常識人」であると考えていた
レインにとっては、好奇心と向上心を持ち合わせた多感な年代である彼女こそが、まさに適任に思えたのである(ちなみに、彼女はあくまでも「研修生枠」であり、
レインの正規の契約魔法師に関しては、この時点でも未だに「保留」のままであった)。
その意味では、
レインの中ではスレインもまた有力候補だったのだが、菖蒲の錬成魔法師である彼に対しては、「バルレアの瞳」と対峙しているジークリンデから強い要望があり、彼女の元へ迎えられることになった。ジークリンデは聖印教会の大司教ではあるが、もともと月光修道会寄りの姿勢であるため、「投影体」や「投影装備」を有効活用することには抵抗がない。「エーラムからの試供品」だということについても、ユージーンには黙っておけばいいと考えていた。
12人の中で最も「禍々しい雰囲気」を漂わせていた黄の静動魔法のドーマンを選んだのは、リンドマン夫人であった。海戦を主戦場とする彼女にとって、海に落ちた友軍を引き上げることが出来る静動魔法師はそれだけでも十分に使い道があるのだが、彼女はそれ以上にドーマンの中に秘められた「不気味な気配」が気になっていたらしい。「危険な存在」となりうる可能性を秘めているからこそ、他人に渡すくらいなら自分の手元で管理しておきたいと考えたようである。
これに対して、内心密かに「自力で飛べる人材」としての静動魔法師を望んでいたマルグレーテはまたしても(母相手に競合交渉する度胸もなく)取り逃がしてしまったのだが、「『本』として持ち歩くなら、必ずしも本自身が飛べる必要はない」ということに気付いた彼女は、橙の元素魔法師であるルンデルハウスとの契約に至る。正規の契約魔法師となったヒルダが攻撃魔法を苦手としているからこそ、その穴を埋めるには元素魔法師が最適と考えたようである。
こうして仲間達が次々と赴任先が決まっていく中、あまりの胡散臭さ(に加えてカルディナの「奴のウニはまずい」宣言)故に誰からも指名をもらえなかったチャーランに対しても、救いの手を差し伸べる人物がいた。エストの領主ジンの孫娘フィオナである。彼女はチャーランのことを不憫に思い、ひとまず彼を祖父に会わせるためにエストへと招待する旨を告げ、チャーランは快諾した(ただし、その後、彼がジンに雇ってもらえたかどうかは定かではない)。