SW2.0(E)番外編

1.蒼い冠の姫君

 ちょっとした話さ、聞いていくかい。何、そう恐ろしいものじゃあない。   とあるグラスランナーの言葉

 黄昏の大陸のとある古城。もう誰も人族はいないけれど、その城の中には住人たちがいた。彼らはかつてそこを奪い取った蛮族の末裔達。戦いが終わって何百年もたったから彼らは知らないけれど、青白い肌と紅い目の彼らにあったならきっと、誰もが恐ろしさに身を震わすだろう。そんな城の中に、二人のお姫様がいた。
 一人は姉のアレグレス。大きな目と残忍な心で、いつも妹をいじめていた。
 一人は妹『オーデュール』。蛮族なのに弱々しい体で優しい心を持っていたから、「がらくた(オーデュール)」と呼ばれていじめられていた。
けれど、妹は不思議な、蒼色の宝石が輝く冠を持っていた。昔その子に仕えていた仮面の蛮族が与えた、城の奥深くにあった呪いの道具。彼女を見た誰もが、心を支配されて彼女を愛するようになる。その光景を見てはいつも、姉は怒って妹をいじめた。『どうしてあんたしかできないの、どうしてあたしじゃないの。』って。けれどいつまでたっても姉にはできないから、姉は妹をに歌を覚えさせ、自分を引き立てるための「道具」にした。

 ある日、姉はえらい蛮族のところへちょっとした旅に出かけた。けれど「道具」は必要なかった。だから帰ってくるまで逃げていかないように、姉は『あのこを牢につなぎなさい。』と言った。そんなことはいつものことで、いつもの通り妹は牢の中に一人ぼっち。そのはずの彼女のところに、一匹のカエルがいつのまにか牢の中にいた。
『あなたはどうしてここにいるの?』 妹がそうカエルに尋ねると、不思議なカエルは、女の人の声で返事をした。
『私の主が頼むから、この城にだれがいるのか見て回っているのさ。お前の名前は?』 妹は答えた、
『わたしには名前がないの、でも「がらくた」ってよばれてる。』 少し考えこんでから、カエルは言った。
『そんなんじゃあ可哀想だ、「エスポワール」って名前はどうだい。』 
カエルが名前をくれた。あの子にとって初めての名前、姉さまが許してくれないと大きな声を出してはいけないのに、嬉しさで声が出てしまいそう。そんな彼女を見て、カエルは言う。
『ところで、その冠は何だい。不思議なものに見えるけれど。』 エスポワールが答える。
『わからないわ、昔々にもらったの。あなたにはわかるの?』 しばらくして、カエルは口を開いた。
『私の目を通して主に見てもらったよ。それはとてつもなく危なくて、エスポワールを不幸にも幸せにもする。』 
カエルがそう言うと、彼女はカエルに尋ねた。『どうすればいいの?』 カエルは言った。
『主に何とかするよう頼むから大丈夫、まずはそこから抜け出さないとね。それとしばらくの間、あなたは誰も見てはいけないよ。』



 そんな光景が魔女の「瞳」に映った。カエルの主の魔女の目には、カエルの見ている風景も映る。それから魔女は手紙を送って、大陸のあちこちから勇者を集めてきた。一人は銃を操るエルフ、一人は両手に盾を持って戦うシャドウ。一人は神官戦士のナイトメアで、もう一人は魔法使いのタビット。そして、賢神の神官の人間。魔女は五人に伝えた、「助けてあげてほしい女の子がいる。」五人はその願いを聞いて、黄昏の大陸に集まった。黄昏の大陸には二人の、魔女の遣わした優秀な御者がいた。(あぁそうとも、僕ともう一人のことだ。僕もあいつも優秀なんだ。本当さ。)御者の力で、勇者たちは姫様のところへひとっ跳び。けれど御者の力では、城の守り人を倒すことはできない。

 だから勇者たちの出番だ。蒼白い肌に紅い大きな目、誰もが震える城の守り人たち。そんな奴らに、すくむことなく勇者たちは挑んだ。けれど守り人たちも必死で戦った、城を失えば、自分たちはどうなる、アレグレス様はどうすればいい。きっとそう考えてね。そんな守り人たちと勇者の激しい戦いの末、勇者たちは守り人を倒した。けれどその時エルフは命を落とした。タビットが言った、「安全なところで、彼女の魂を呼び戻そう。」それは神様のルールを破る行いだけれど、きっとエルフにはまだやりたいことがあるはずだ、そう思ったタビットが魂を天から引き戻すと、彼女は再び息を始めた。彼女はまだ、この世界で生きたかったんだ。ただ、彼女の体には醜くおぞましい『穢れ』の痣と、小さな角ができてしまった。そんなエルフにナイトメアが声をかける、「なに、俺と同じだ、安心していい」彼にも生まれつき穢れの跡がある。その言葉を聞いて、暗くなっていたエルフの顔が少し楽になったように見えた。そして五人は城の中へ、お姫様を助けるために。

城の中は不気味なほど静かだった。なんせ何故かは分からないけど、中には誰一人として生きた蛮族はいなかったんだ、エスポワールを除いてね。城の地下への道を見つけた勇者たちは、探す途中で一冊の本を見つけた。そばには、仮面をつけた蛮族が。彼の残した記録によると、姫様の冠は、ずうっと昔、まだ人族の城だったころのものだったらしい。それが見つかった場所には「我らは王の尖兵なり。」と書かれていたらしい。勇者たちは地下へと向かう。地下には探していた姫様と、牢を守る二体の魔神、カエルはいなくなっていた。魔神達は勇者たちに襲い掛かってきていたね。ま、勇者たちの敵ではなかったけれど。勇者たちはあの子に、魔女の依頼を聞いてやってきたと伝えた。あぁ、そういえば賢神神官の様子はこのころから変だったなぁ。どうやら、あの子に一目ぼれしていたみたいだ。

 勇者たちが来てエスポワールは喜んだ。名前をくれたカエルさんが、今度は自分を幸せにするために勇者たちを連れてきたんだからね。彼女は言いつけ通り目を合わせず、勇者たちに感謝の言葉を言った。すると、ナイトメアが彼女に言った。『わが神の名に懸けて、あなたを無事に魔女のもとへ送り届けましょう。』と。それから彼は、うっかり彼女が目を開けてもいいように、毛布を破って小さなベールを作ってあの子に渡した。そして六人は僕とあいつの馬車に乗って、魔女のところへ出発した。僕とあいつの手にかかればそんじょそこらの蛮族は振り切れたんだけど、魔女との約束のところに行くのに一つ、僕らじゃどうにもならないところがあった。そこはもう少しで人族の領域に入るところにある、蛮族が守るとても大きな石造りの大橋(なんせ百メートル近くの谷の間に架かっているんだ。)。
 最初僕は、馬車二つを勇者たちと姫様が分かれて乗って、蛮族たちを倒していくしかないと思ったんだ。神官も同じ馬車でお姫様を守ると息巻いていたしね。けれど違った、シャドウの戦士は鎧と盾を持ったまま、僕ら馬車より速く走れたし、神官戦士も神に祈ると、あっという間に足が速くなって、僕達を追い抜けるほどになった。結局、その二人が自分の足で、魔法使い達と射手はあいつの馬車に乗って突っ込んでいき、橋を守る蛮族を倒してから、僕と姫様が後を追いかけていくことになったんだ。突入の直前、無事に走り抜けるために互いに魔法をかけあっていたよ。

 それからはなかなか痛快だったよ。まず、橋の入り口には二体のミノタウロスがいたんだけど、こいつらが勢いよく走りだしてきたナイトメアの薙ぎ払いとシャドウの一撃で、何もできずに倒された。馬車が後を追いかけて走る中、馬車に乗っていたエルフの撃った弾丸がその先にいたダークドワーフの神官を倒し、一緒にいた魔動機師もぼろぼろにしたんだ。そのあと生きていた魔動機師が反撃してきて、橋の向こう端にいた魔神も豪弓を放とうとしたんだけど、矢を放つ勢いがあまりにも強すぎたのか、魔神の放った矢は空中で折れてしまったんだ。(あれを見たときは、幸運の神様が僕らに味方しているんだと思ったよ)で、勇者たちはそのあと一分もかからないうちに魔動機師とその先にいた象頭の蛮族を倒したんだ。あぁ、この戦いでシャドウは、一発も攻撃を喰らって無かったよ。それどころか一度、敵の攻撃を完璧に回避して、着ていたスカート(男だけどね)に仕込んだ刃で蛮族を倒して見せたくらいだ。

 蛮族たちを次々に倒して、このままいけると思っていたら突然、橋の向こう側から増援がやってきた。奴らは青白い目に紅い目をした、城にいたのと同じ種族だった。奴らは攻撃しても当たりそうにないシャドウのとこをすり抜けて、奴らはナイトメアと馬車に襲い掛かった。ナイトメアはともかく、馬車が襲われたら戦士じゃないあいつは大変だ。でもね、勇者たちが30秒もしないうちに奴らを片付けたもんだから、あいつもあいつの軍馬も無傷だったんだ。ちょっと貨車に攻撃されたけどね。

 残ったのは、巨大なサソリの下半身を持った蛮族と、50mを射抜いてきた魔神。シャドウが魔神の前に躍り出て、両手に持った盾でシンバルを叩くみたいに魔神の頭を打ち据えた。魔神の頭が朦朧としている間に、シャドウとナイトメアが魔神を倒した。一方、仲間の回復をしていた神官が馬車から降りて、一人で前に出ていった、一体何をするのかと思ったよ。一応彼が攻撃の魔法を使えることは知ってたけど、彼は決して攻撃に耐えられそうには見えなかったからね。彼が何かつぶやくと、それまでこちらを狙っていたサソリ男が、急に青ざめ怯えだしたんだ。明らかに倒せるはずの神官にあいつは攻撃ができなくなって、当たりもしない攻撃を繰り返す。そのまま神官は前に進んで、向こう側の閉ざされた扉を魔法で開いて見せた。あのときの堂々とした姿に、僕の馬車に乗っていた姫様も見惚れていたよ。サソリ男はエルフの銃と神官の魔法で倒して、僕らは人族の領域にたどり着いた。

 約束していた場所で、魔女は僕らを待っていた。魔女は報酬に何がいいかを聞いて、それぞれに渡していった。エルフは自分の使う魔法をもっと学びたいといったから、有名なドワーフのところへの紹介状を渡した。タビットも同じようなことを言ったから、世界のすべてを知るという世界樹の、ある若木のところへ行く方法を教えた。ナイトメアには彼のあこがれていた君主へ仕官するための伝手を紹介してた。シャドウは無欲だったから、魔女にいつか借りを返すよう約束させていたよ。僕ら御者には自分達の馬がもっと力を発揮できる、それこそ伝説になるようなくらいになるようにするために必要な魔法の馬具をくれた。
 最後に、神官に何が欲しいかを聞いた。すると彼は、『守ってきたあの子が欲しい』と言ったんだ。これには魔女も驚いて、本当にいいのか尋ねていたよ。けれど彼の決心は固いように見えたから、魔女は一つ課題を乗り越えたら、あの子と一緒の場所に連れていくと言った。それは何かって?

 【心を支配する冠をつけたあの子を見て、決して心を奪われないこと】だったよ。

 そういうと彼は戸惑いなくあの子の目を見た。姉と同じ輝くルビーのような紅い目を。彼はそのあと、顔色一つ変えずに魔女に言った。
『とっくに、この娘に心を奪われています』と。それを見たあの子もまた、笑顔で魔女に言った『この人はきっと、私を幸せにしてくれます。』って。

魔女は笑って、二人をどこかへ連れて行った。人族と蛮族が一緒にいていい、そんなところに。

そのあと、みんなははどうなったって?聞く必要なんてないだろう。捕われのお姫様を救い出した勇者には、ハッピーエンドが一番似合うのさ。これで話はおしまい。楽しかった?

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最終更新:2014年12月08日 00:21