第五話「永生の少女」
1、里の守護者
オデット村を後にした
アーデルハイト達は、童人族(バンビーノ)の指輪の継承者が住むといわれるニーブラの里へと向かう。だが、地図によれば、それはハイデルランドから見て南西に位置するトラシア王国の内地に存在する小さな集落であり、オデット村(ケルファーレン北部)から陸路で辿り着くには極めて困難な場所であった。
そこで、彼らはひとまず西進した上で、ケルファーレン北西部の港町から海路でトラシアへと渡る道を選択する。その途上、慣れない船の揺れに苦しみながらも、どうにかトラシアに上陸した彼等は、初めての土地ながらも地図と人聞きの情報を頼りに、なんとか内陸部の森の中に潜むニーブラの里の位置を突き止めた。
こうして彼等がその里へと向かおうとした時、彼等の前に、一人の少女が現れる。彼女は、見た目にはただの小柄な少女のような姿であるが、童人族にしては、やや背が高い。顔付きも、どちらかというと通常の人間のように見えた。
彼女の名は、
エファ・シュワルツレーヴェ(ゲストPC)。神聖騎士団の指南役にして、100年以上の時を生きてきた永世者である。彼女は故あって(詳細は
外伝1参照)、
アーデルハイトと同型の機械人形の少女を助けるために、12個の指輪型印章を探して旅をしていた。そして、このニーブラの里に童人族の指輪があることを知って訪問したところ、里長から「危険な者達が指輪を狙っているらしい」という話を聞き、この里の護衛のために逗留していたのである(なお、彼女が救おうとしている機械人形は、現在、機能停止した状態で神聖騎士団の所蔵する倉庫に保管されている)。
そんな
エファに対して、いつものごとく
カープが口説き文句で語りかける。当初はそんな彼等に対して、やや警戒した面持ちで臨んだ
エファであったが、一通りの事情を彼等から聞いた上で、ひとまず彼等が「里に害を成そうとする者達」ではなさそうだという判断に至る。その上で、より詳しい事情を聞く必要があると考えた
エファは、自分の素性は黙して語らぬまま、ひとまず5人を里の中へと案内し、小さな食堂へと連れていく。そこで腰を落ち着けた上で、
エファは彼等の「覚悟」を確かめようと考えていた。
2、覚悟と資質
「あなたはこのまま生き続けるために、指輪を集めるのですね。その結果、『大いなる力』を手に入れたらどうします? あなたが望まなくても、指輪が揃えば、その力を得ることになります。その覚悟はありますか?」
エファはアーデルハイトに対してそう問いかける。アーデルハイトとしては「大いなる力」自体が必要だと思っている訳ではなく、その覚悟があるかと言われると、まだ微妙に心は揺らいでいた。実際、「もしかしたら、自分は再び封印された方が良いのかもしれない」という思いもある。ただ、彼女の中でも、この旅を続ける過程において、少しずつ心境の変化が生じていた。
「これ以上、指輪のせいで罪なき人が殺されるのは嫌です。だから、このまま何もしない訳にはいかない。昔の仲間の償いくらいは、させて欲しい」
彼女が言うところの「昔の仲間」とは、おそらくレオのことであろう。救世主陣営のみならず、かつての友までもが世の中に災厄を振りまいている今のこの状況を放ったまま、自分だけがこの戦場から退場する訳にはいかない、というのが今の彼女の心境のようである。そして、その「償い」のために必要なのであれば「大いなる力」を得ることも厭わぬという覚悟が(徐々にではあるが)彼女の中で固まりつつあった。
「他の皆さんは、どうですか? 彼女と共にその力を持つ覚悟はありますか? それとも、ただ彼女について来ているだけなのですか?」
やや煽るようにエファがそう問いかけると、それまであえて黙っていたサリアが、「本音」を口にする。
「私が彼女について来ている理由は、復讐を達成しやすそうだから。あと、この指輪の本来の持ち主にも出会えそうだから」
「復讐」という言葉を聞き、エファの表情が一瞬歪む。エファの目には、今のところ、サリアの心が完全に闇に堕ちているようには見えないが、一歩間違えばその道に足を踏み入れかねない危険性が宿っていることは、十分に感じ取れた。
不穏な空気が広がる中、その雰囲気をかき消すように、今度はオリバーが口を開く。
「俺は、自分の血が必要だから、ついてきている。この戦いに身を置くのは、父親を殺した救世主が許せないから、というのが主な理由だ。その上で、もし、アーデルハイトが大きな力を手に入れても、彼女はその力を正しく使えると信じている」
オリバーがアーデルハイトと出会ってから、まだ数週間程度しか経っていない。だが、それでもこれまでの彼女の言動を間近で見続けてきたオリバーの中では、それは明確な確信であった。そして、そんなオリバーの力強い言葉を聞いたエファは少し安堵しつつ、彼等に対して、自分もまたアーデルハイトと同型の「機械人形の少女」を救うために、彼等の持つ指輪を求めていることを告げる。
「もし、私が救おうとしている機械人形の少女に、皆さんの印章を捺印してくれと言ったら、皆さんは捺してくれますか?」
そう言われた(アーデルハイト以外の)四人のうち、サリアは「これは預かり物だから」と言って、回答を避ける。その一方で、既にアーデルハイトに捺印しているアイルーは、それなりに前向きな姿勢を示しつつ、もっともな疑問を投げかけた。
「とりあえず、その少女のことを教えてほしい」
そう言われたエファであったが、実際のところ、彼女もその「機械人形の少女」については、偶然に巡り合っただけの関係であり、実は名前すらも知らない。ただ、エファがその特徴をアーデルハイトに伝えると、彼女はその機械人形が、「サビーネ」という名の「回復・補助型の機械人形」であろうと推測する(もっとも、他の五体の現状は現時点で概ね把握しているので、そもそも消去法でサビーネ以外にありえなかった訳だが)。アーデルハイトの記憶にある限り、サビーネは(レオとは対照的に)穏やかで心優しい性格であり、およそ殺戮者になるような危険のある少女とは思えなかった(実際には、その優しさ故にサビーネは既に一度闇に堕ちた過去があるのだが、エファはあえてそのことは黙っていた)。
アーデルハイトがその旨を伝えると、アイルーは改めて前向きな姿勢を示す。とはいえ、いまの時点で既にサビーネは休止状態であり、エファとしても、それほど急いで復活させる必要があるとも考えていない。あくまでもこの点については「救世主」や「レオ」の問題が片付いてから改めて話し合う、という方針で一致した上で、エファは再び話を本題に戻す。
3、実戦演習
その上で、オリバー達が救世主達に奪われないように指輪を確保して回っているという話を聞いたエファは、彼等を里の郊外まで連れ出した上で、彼等に「指輪を守る実力」があるかどうかを確かめるために、実戦演習を申し出る。
「私を『獲物』だと思って、かかってきなさい」
素手の少女を相手に5対1という条件を提示されたことで、さすがに五人は躊躇するものの、エファの勢いに押される形で、それぞれに武器を構えて臨戦態勢を整える。まず最初に放たれたのはアイルーの攻撃魔法であった。しかし、エファはあっさりとそれを弾き返す。
「こんなものですか?」
エファがそう言って挑発すると、それに続いて今度はアーデルハイトが渾身の弓矢を放つが、それも全くエファには歯が立たない。エファは「他人を守る能力」に特化した聖痕者であり、並大抵の力では敵わない相手だということを、この時点で5人は痛感する。
その上で、今度はサリアが、オリバーの支援を受けた上で本気の一撃をエファに向けて叩き込む。魔神の力を得た今のサリアの剛剣を目の当たりにしたエファは、これは奇跡の力を使わなければ防ぎきれないと判断するが、それよりも一瞬早く、カープが放った防護魔法により、その剣の斬撃は軽減され、かろうじてエファは(奇跡の力を使うことなく)踏み止まる。
ひとまず彼等の実力については納得したエファは、改めて自分が「神聖騎士団の指南役」であることを明かした上で、彼等のことを「信頼出来る者達」として認める。ただ、その中でも「魔神の花押」を刻み込んだサリアの圧倒的な力と、その原動力となっている彼女の強烈な「復讐心」に対しては、どうしてもそこに「危うさ」を感じざるを得なかった。
4、卑劣なる女傑
こうして、ひとまず鍛錬を終えて一服していた彼等の耳に、今度は里の外から、物々しい数の足音と不穏な気配を感じる。オリバー達がその物音のする方へと向かうと、そこにいたのは、一人の女将軍(下図)に率いられた、不気味な雰囲気を漂わせる謎の兵団であった。
その女将軍の左手には手綱が握られ、その先には、縛られた童人族の少女が悲壮な表情で連行されている。女将軍は手綱を揺らしながら、その少女に向かって罵声を浴びせた。
「さぁ、とっとと案内するんだよ、アンタらの里にね!」
この明らかに禍々しい様相を見て、さすがに黙っていられなくなったカープが、彼女達の前に姿を現わす。一応、「女性」が相手ということで、女将軍に対しても当初は物腰柔らかに対応しようとしたカープであったが、話を聞いてみたところ、彼女達が「童人族の指輪」を力づくで奪おうとする者達であることを確信する。その上で、カープは女将軍に対して、こう言い放った。
「この世には、二種類の女性しかいません。『美しい美女』と『美しくない美女』です。そして、残念ながらあなたは、『美しくない美女』のようだ」
カープはそう言いながら、後方で控えていたアイルーに対して「合図」を送る。すると、アイルーは自身の聖痕の中に秘められた「大破壊」の奇跡を、女将軍が率いる部隊全体に向かって叩き込んだ。
その圧倒的な爆撃によって兵達が四散する中、女将軍と共に吹き飛ばされた童人族の少女をカープが華麗に抱き抱え、そして重傷を負った女将軍は、あっさりと降伏する。彼女の名は、オロンジョ。救世主の四天王の筆頭Dr.エベロの五虎将軍の一人であった。
エファとも合流した上で、改めてオロンジョを詰問してみたところ、このトラシアに来ているのは彼女の軍隊だけだが、五虎将軍の中でも別格の強さを持つと言われる残りの二人(ルパートとケッセル)は、現在、ハイデルランド南部のカリスト村に住むと言われる樹人族(エント)の長老の持つ指輪を奪いに向かっているらしい。だが、カリスト村には幾人もの優れた聖痕者がいることを知るエファは、彼等であれば容易に撃退出来ると確信していた。
5、疑惑の対立
その後、エファの口利きによってアーデルハイト達はニーブラの里長と謁見する。里長は、童人族の指輪型印章の継承者でもある。彼は、卑劣な襲撃者を撃退してくれたアイルー達に心から感謝し、アーデルハイトへの捺印に対しても前向きな姿勢を示すが、そんな彼等の前に、今度は遠方から「奇妙な凶報」が届いた。
その知らせをもたらしたのは、フェイエンという名の、この里出身の童人族の聖痕者である(下図)。見た目は少女のような姿であるが、実年齢は(さすがにエファよりは若いが)オリバー達よりも年上であった。

フェイエンは「指輪を集めている悪しき者達」の動向を探るため、ハイデルランド各地の異種族の継承者達の元を転々としていたのだが、ミンネゼンガーと北狄(豚人族)の国境線近くに位置する、翼人族(オオカミワシ)の指輪を受け継ぐ者達の集落を訪れようとした時、突然、神聖騎士団の襲撃を受けている場面に遭遇したらしい。今ひとつ事態が掴めぬまま、ひとまず彼女はこの状況を伝えるために、「神移」の奇跡を用いてハイデルランドから急遽帰還したという。
元来、翼人族は人間族とは友好関係であり、神聖騎士団との関係においても、「北狄」という共通の敵と戦うために何度も手を携えたことがある「戦友」の筈である。その両者が対立するという事態は、明らかに「ただ事ではない状況」であった。その原因が、指輪型印章にあるのだとしたら、神聖騎士団もまた、アーデルハイト達が持つ「世界を揺るがす力」を欲している可能性が高い、ということになる。
だが、エファが知る限り、神聖騎士団は「7人の機械人形」のことは知らない筈であるし(少なくとも、エファは団長のアレクシアには伝えていない)、仮に何らかの事情でそのことを知ったとしても、力づくで翼人族から奪うなどという暴挙に出るとは思えない。いずれにしても、この状況を確認しなければならないと判断したエファは、自身の(「神移」の力を模した)「永遠」の奇跡の力で、現地に展開されている神聖騎士団の駐屯地へと向かうことを決意する(100年以上の時をハイデルランドで生きて来た彼女は、フェイエンの話を聞いただけで、その位置を正確に把握することが可能であった)。
一方、翼人族の継承者の所在地を知らないアーデルハイト達は、自分達も一緒に連れて行ってくれるようエファに懇願する。当初は「これは神聖騎士団の問題だから」と言って断ろうとしたエファであったが、アイルーの説得(「真名」の奇跡)に応じる形で、渋々彼等の同行を認めることになった。
エファは童人族の者達に、護衛の約束を途中で放棄することを謝るが、里長達としても、同胞である翼人族の危機を放っておく訳にもいかないと考えていたため、エファを止めるつもりはなかった。その上で、エファと共に再びハイデルランドへと戻ることになったアーデルハイトの身体に、(次にいつ彼女達がこの地に来れるかも分からない、ということもあり)この場でオリバーの血を用いて「捺印」を施す。こうして、彼女の身体に「第四の刻印」が刻まれることになった。
6、錯綜する戦場
エファの奇跡の力で再びハイデルランドへと戻った5人は、彼女と共に、ひとまず神聖騎士団の駐屯地へと向かう。
「師範!? どうしてここに?」
エファの姿を見て、彼女が休暇中だと聞かされていた団員達は驚くが、エファはその問いに答えることなく、アレクシアの元へ連れていくように命じる。団員達が言われるがままにエファを天幕の奥へと案内していくと、アーデルハイト達もその後に続き、やがて彼女達は、神聖騎士団の団長にしてミンネゼンガー公国の公女である(そして、ハイデルランドの次期国王候補でもある)アレクシア・フォーゲルヴァイデ(下図)に謁見することになる。
アレクシア曰く、現在、彼女の弟にしてミンネゼンガー公爵であるレナーテ・フォーゲルヴァイデ(下図)が行方不明となっているらしい。そして、翼人族が彼を拉致監禁している、というのが彼女の主張である。
「翼人族達がレナーテさえ引き渡せば、我等はいつでも兵を収める。だが、奴等はあくまでも『知らぬ存ぜぬ』の一点張り。奴等がその気なら、力づくで奪い返すしかない」
怒りに燃えた瞳で彼女はそう語る。だが、果たして本当に翼人族達がレナーテを攫ったのだろうか。アレクシアの話を聞く限り、彼女がそう考える理由はいずれも伝聞情報ばかりで、そう確信するに足るだけの理由があるとは、エファやアーデルハイト達には思えなかった。
そんな中、アレクシアの天幕に、一人の魔術師風の男が現れる(下図)。
「騎士団長殿、どうなさいましたか?」
エファは、その男に見覚えはなかった。アレクシア曰く、彼はレナーテの側近とのことだが、ミンネゼンガー公女に仕えるエファが、彼女の弟である公爵の側近の顔を見たことがないというのは、いささか妙な話である。
この「謎の男」に対する疑惑が広がる中、今度は天幕の外から激しい喧騒が聞こえてきた。どうやら、翼人族達が神聖騎士団に対して、奇襲をかけてきたらしい。エファやアーデルハイト達が天幕の外に出ると、そこでは既に激しい両軍による戦闘が始まっていた。
「殺戮者と化したアレクシアよ、これ以上、お前の好きにはさせない!」
翼人族達はそう言って神聖騎士団の兵士達に対して牙を剝く。どうやら彼等は、アレクシアや神聖騎士団が「闇」に堕ちたと判断しているらしい。だが、エファ達が見る限り、アレクシアも神聖騎士団の者達も、人としての尊厳そのものを失っているようには見えない。そして、それは翼人族達もまた同様であるようにも見えた。
そんな中、アーデルハイト達は、翼人族達の軍勢の奥に、一人の人間族の女性の姿を発見する。それは、エレシス村でレオと共にいた女魔術師セリーナであった。どうやら翼人族達は、彼女に煽動される形で神聖騎士団に襲いかかっているように見える。
真相は未だ不明であるものの、明らかにこの状況が「不毛な戦場」となってしまっていると考えたサリアは、ひとまず「制裁」の奇跡の力で翼人族達を押さえ込み、一方で神聖騎士団に対しては、アーデルハイトが「戦鬼」の奇跡でその力を再現して彼等の動きを封じることで、どうにか両軍の衝突を止めることに成功する。
7、兄より優れた弟
こうして、一時的に戦場を沈静化させた上で、アレクシアから改めて真相を確認しようとしたエファであったが、そのアレクシアの傍に立つ「レナーテの側近」として紹介されたあの男が、アーデルハイト達に向かって、余裕と悪意に満ちた声で語りかける。
「どうやら、私の『出来損ないの兄』を倒した人々のようですね。まさか、こんなに早く嗅ぎつけて来るとは。これ以上、邪魔はさせませんよ」
彼の名はアクエリアス。救世主の四天王の一人オピュクスの弟である。だが、彼はアーデルハイト達にその事実を説明してやる気はなかった。これから死にゆく者に、自らの名を名乗る必要も、詳しい素性を明かす必要もないと考えていたのである。
彼は「兄の仇」である五人(正確に言えば、カープは違うのだが)に対して、自らの中に秘めた「爆破」の奇跡を四連発で叩き込む。と言っても、それは兄を殺されたことへの復讐心が理由ではない。自分よりも実力では劣っていたにもかかわらず、自分よりも先に「救世主」に仕えていたが故に「四天王」扱いされていた兄よりも、自分の方が優れているということを、この五人を倒すことで証明したかったのである。
だが、この怒涛の攻撃に対しても、五人は耐え抜いた。正確に言えば、彼等を救うためにエファが間に割って入ったこともあって、どうにか全員が一命を取り留めたのである。そして、彼は確かにオピュクスよりも優れた魔術師ではあったが、対オピュクス戦以降のこれまでの旅を通じて急成長していたアーデルハイト達からの怒涛の反撃を耐えられるほどの肉体の持ち主ではなかった。サリアの魔神の力を発揮するまでもなく、アイルー、オリバー、アーデルハイトの遠方からの息の合った連携攻撃によって、アクエリアスはあっさりとその場に倒れる。「四天王と同等以上の実力を持った救世主の忠臣」としての殺戮者アクエリアスは、静かにその魂ごとこの世界から消え去っていったのであった。
8、休戦協定
その後、改めて各自の証言を確認した結果、「レナーテが翼人族に誘拐された」というのは、アクエリアスが巧妙に流布させた虚偽情報であったことが発覚する(彼の持つ「真名」の奇跡の力で、アレクシアまでもが騙されていたらしい)。おそらく彼は、神聖騎士団を利用して翼人族を襲撃し、その混乱に乗じて「指輪型印章」を奪おうと企んでいたのであろう。
一方、この戦いの最中、いつの間にかセリーナは姿を消していた。彼女はアクエリアスの企みを察知した上で、あえてその流れに乗って翼人族達を対神聖騎士団戦へと誘導することで、彼女達と敵対する救世主の手下であるアクエリアスを倒し、その上で翼人族に恩義を売ることで、レオへの捺印を認めさせようと考えていたのである(なお、話がまとまる前にレオが絡むと、まとまる話もまとまらなくなる可能性があったため、ひとまず今回は彼とは別行動を取っていた)。だが、想定外のアーデルハイト達の参戦によって、その目論見が外れてしまったようである。
こうして、互いに「外部勢力」に利用される形で戦争を引き起こしてしまっていたことを知った両陣営は、それぞれに忸怩たる思いを抱きながらも、粛々と休戦協定を締結するに至る。特にアレクシアにしてみれば、レナーテの行方が未だに不明のままである以上、どうしても割り切れない気持ちは残っていたが、現状ではもはや手がかりが完全に無くなった以上、おとなしく兵を率いて帰還するしかなかった。
そしてエファもまた、今後再び同じような状況が起きぬよう、当面はアレクシアの傍に自分がいる必要があると考え、ひとまず神聖騎士団と共に彼女達の本拠地へと去って行った(なお、神移のドサクサに紛れる形でこの地に連れて来てしまっていたオロンジョに関しては、神聖騎士団の捕虜という扱いで、そのまま連行されることになった)。
一方、翼人族を率いる“白翼王”レアス・デア・ヴォルフ(下図)は、無益な戦いを止めてくれたアーデルハイト達に感謝しつつ、指輪型刻印は今後も自分達で保管するということを前提に、オリバーの血を用いて彼女に捺印する。

この時点で、アーデルハイトの身体に刻まれた刻印の数は、五つ(猫人族、森人族、岩人族、童人族、翼人族)。そして未捺印の七つの指輪のうち、三つ(獣人族、河人族、白鳥人族)は既に手元にある。残りの四つの中で、豚人族の指輪はおそらく今もレオが所有していると思われるが、鬼人族と蛇人族の指輪に関しては、今のところ全く手がかりがない。
従って、現時点において唯一その所在が分かっているのは、ハイデルランド南部のカリスト村にいると言われる樹人族の長老の持つ指輪のみである。実はエファに頼めば、彼女の神移の力でカリスト村へと一瞬で辿り着くことも出来たのだが、そのことを頼む前に彼女は神聖騎士団と共に去ってしまっていた。やむなく彼等は、樹人族の長老とその仲間達が救世主からの刺客を撃退していることを祈りつつ、カリスト村へ向かって街道を南進していくことになるのであった。
最終更新:2016年07月06日 23:27