第560話:ペイン(私の人生)(後編) 作:◆eUaeu3dols
「君はまだ望んでいる。
自らのした事が多くの過ちに満ちていた事を知っても、最後のあの『選択』は正しかったのだと。
もし間違っていたとしてもあの『選択』がもたらした結果だけは知りたいと」
「う………………」
顔が歪む。視界が歪む。
もう手を握り締めても歯を噛み締めても堪える事なんて出来はしない。
見たくない。聞きたくない。思い出したくない。
知りたくない!
(それなのに…………どうして。どうしてよ!?)
自らのした事が多くの過ちに満ちていた事を知っても、最後のあの『選択』は正しかったのだと。
もし間違っていたとしてもあの『選択』がもたらした結果だけは知りたいと」
「う………………」
顔が歪む。視界が歪む。
もう手を握り締めても歯を噛み締めても堪える事なんて出来はしない。
見たくない。聞きたくない。思い出したくない。
知りたくない!
(それなのに…………どうして。どうしてよ!?)
……神野の言葉に、抗えない。
シャナは心の奥底で真実を求めている。
自らの罪に対する罰として襲い来る真実を否定できない。
砕けたはずの心までが更に蹂躙しつくされると判っているのに……立ち止まれない。
心が激痛に焼き尽くされる事は判っているのに、断崖に進む足が止まらない!
「敢えて怨敵である絶対破壊者を生かしてまで『生かすために殺す』。
それは確かにあらゆる人間にとっての真理の一つなのだよ。
人間は生きる為に獣や植物を、時には同族さえも殺して生きていくのだからね」
「………………」
「それなら君の選んだ『物語』はどんな結末を迎えたのだろうね?」
「もう……見たくない………………もう……い……」
「君の選んだ“望み”だ。最後まで受け取りたまえ」
神野はただ笑って、シャナの“望み”を叶え続けた。
シャナは心の奥底で真実を求めている。
自らの罪に対する罰として襲い来る真実を否定できない。
砕けたはずの心までが更に蹂躙しつくされると判っているのに……立ち止まれない。
心が激痛に焼き尽くされる事は判っているのに、断崖に進む足が止まらない!
「敢えて怨敵である絶対破壊者を生かしてまで『生かすために殺す』。
それは確かにあらゆる人間にとっての真理の一つなのだよ。
人間は生きる為に獣や植物を、時には同族さえも殺して生きていくのだからね」
「………………」
「それなら君の選んだ『物語』はどんな結末を迎えたのだろうね?」
「もう……見たくない………………もう……い……」
「君の選んだ“望み”だ。最後まで受け取りたまえ」
神野はただ笑って、シャナの“望み”を叶え続けた。
シャナの選んだ選択の、シャナの知らなかった結末が、シャナの眼前に映し出された。
     * * *
「今度こそ……シャナを…………救う!」
(え――――!!)
シャナはその言葉に思わず息を呑んだ。
映った情景の中にはダウゲ・ベルガーが居た。
ベルガーは胸を押さえながら走り、走りながら話していた。
ベルガーと、その首に掛けられたコキュートスが言葉を交わす。
『だがあの子は……もう完全に、吸血鬼となってしまった』
「人を喰らう……かい?」
『それは無い。あの子の最後の矜持だ』
「なら一つは解決だ。ヒビだらけにはなっていても……魂は、死んじゃいないさ」
ベルガーは誇りと自信を持って宣言していた。シャナを救うと。
ある種の諦めを秘めたアラストールの言葉が零れる。
『フレイムヘイズである事も、我と共に往く事も捨てたというのに?』
ベルガーは荒い息で笑い、溜め込んでいた息を使って、その言葉を切り捨てる。
「全てを失ったってだけなら、また一から取り戻せば良い。それだけの事だろ」
その言葉はとても温かくて、力強かった。
「それには心を救うって条件が有るけどな。皇女の次は俺が約束する。
……シャナの心を、救う。俺は世界で二番目に粘る男だぜ?」
(え――――!!)
シャナはその言葉に思わず息を呑んだ。
映った情景の中にはダウゲ・ベルガーが居た。
ベルガーは胸を押さえながら走り、走りながら話していた。
ベルガーと、その首に掛けられたコキュートスが言葉を交わす。
『だがあの子は……もう完全に、吸血鬼となってしまった』
「人を喰らう……かい?」
『それは無い。あの子の最後の矜持だ』
「なら一つは解決だ。ヒビだらけにはなっていても……魂は、死んじゃいないさ」
ベルガーは誇りと自信を持って宣言していた。シャナを救うと。
ある種の諦めを秘めたアラストールの言葉が零れる。
『フレイムヘイズである事も、我と共に往く事も捨てたというのに?』
ベルガーは荒い息で笑い、溜め込んでいた息を使って、その言葉を切り捨てる。
「全てを失ったってだけなら、また一から取り戻せば良い。それだけの事だろ」
その言葉はとても温かくて、力強かった。
「それには心を救うって条件が有るけどな。皇女の次は俺が約束する。
……シャナの心を、救う。俺は世界で二番目に粘る男だぜ?」
(ベルガー……)
彼はシャナを救おうとしてくれていたのだ。
完全に吸血鬼化し、アラストールにさえ別れを告げたシャナを救おうとしてくれていたのだ。
その事が傷付ききった心に温かく染み込んでいく。
地獄の中で干上がった心に一滴の喜びが染み込んでいく。
だけど、気づいた。
彼はシャナを救おうとしてくれていたのだ。
完全に吸血鬼化し、アラストールにさえ別れを告げたシャナを救おうとしてくれていたのだ。
その事が傷付ききった心に温かく染み込んでいく。
地獄の中で干上がった心に一滴の喜びが染み込んでいく。
だけど、気づいた。
(これは……何時なの……?)
アラストールの言葉からして、これはシャナがあの選択をした後だ。
ダナティアの死に出会い、フリウを使い全ての敵を殲滅すると決めた後。
その後にベルガーはシャナを追いかけてきた。
(ベルガーが辿り着く前にわたしは死んだ……という事よね?)
そう考える。
いや、そうあってほしいと必死に祈る。
だが。
ダナティアの死に出会い、フリウを使い全ての敵を殲滅すると決めた後。
その後にベルガーはシャナを追いかけてきた。
(ベルガーが辿り着く前にわたしは死んだ……という事よね?)
そう考える。
いや、そうあってほしいと必死に祈る。
だが。
「見えた、あそこだ」
ベルガーの先を走っていた誰かが遠くを指差した。
「さっきの巨人!」
少年の声が聞こえた。何故か、とても聞き覚えのある声が。
(うそ…………よね……?)
全身が凍り付く。
恐怖と不安のもたらす緊張はシャナの魂さえをも縛り付ける。
「なんであんなに居るんだよ!?」
「知るか!」
少年の声と、それからベルガーの声がして。
「敵は!」
彼らの走る先に居た“その時のシャナ”が叫びと共に踏み込んだ。
「全部!」
フリウの叫びと共に破壊精霊が拳を振り上げて。
「殺す!」
「壊す!」
振り下ろされた死の間に飛び込んだ二人が。
「させねえ!」
「もちろんだとも」
シャナとフリウの攻撃を堰き止めた。
ベルガーの先を走っていた誰かが遠くを指差した。
「さっきの巨人!」
少年の声が聞こえた。何故か、とても聞き覚えのある声が。
(うそ…………よね……?)
全身が凍り付く。
恐怖と不安のもたらす緊張はシャナの魂さえをも縛り付ける。
「なんであんなに居るんだよ!?」
「知るか!」
少年の声と、それからベルガーの声がして。
「敵は!」
彼らの走る先に居た“その時のシャナ”が叫びと共に踏み込んだ。
「全部!」
フリウの叫びと共に破壊精霊が拳を振り上げて。
「殺す!」
「壊す!」
振り下ろされた死の間に飛び込んだ二人が。
「させねえ!」
「もちろんだとも」
シャナとフリウの攻撃を堰き止めた。
(うそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだうそだ
ウソだ嘘だうそだ嘘だうそだウソだウソうそうそ嘘ウソ嘘嘘嘘ウソ嘘ウソウソ嘘嘘うそウソ!!
だってあの時あの場所にベルガーは来なかった来ていなかった会ってなかった!
わたしはベルガーを見ていないベルガーの声を聴いていないだから――!!)
フリウが、振り返った。
「…………ぁ」
破壊精霊は常にフリウの視界の中に現れる。
現れた破壊精霊がベルガーへと拳を――!
「やめ――――!!」
だがその拳が直撃する直前、ベルガーの姿は掻き消えた。
「……え?」
「そう、それこそが最も数奇な偶然だったのだよ」
神野の声が聞こえた。
「彼は天人の緊急避難装置を支給され、身につけていた。
自動的な転移、それが彼自身すら気づいていなかったその機能だ」
「緊急避難装置? それじゃベルガーは……」
「あの場所から転移した」
「生きて――!」
一瞬の歓喜がシャナの全てを埋め尽くし。
「そして――」
「……………………え?」
景色が、移る。
転移した先で、ベルガーが破壊精霊に振り下ろそうとした黒い刃がリナを。
リナが保胤に突きつけようとした光の刃がベルガーを貫いていた。
シャナを満たした一瞬の歓喜の全てが絶望へと置き換わる。
「………………そん……な…………」
声が言葉にならない。
体がおこりのように震える。
目が動かせない。視線を揺らす事さえも。
目の前の地獄は、続く。
臨也は保胤に不死の酒を、片方だけに使うのだと唆す。
保胤は悩み苦しみ、リナがそれを遮った。
リナは臨也が志摩子を殺した事を見破り、奴の言う事など聞く必要は無いと言って。
(リ……リナァッ!!)
叫ぼうとした声も響かない。
リナは光の剣で――自らの命を絶った。
それでもまた。
目の前の地獄は尚も続く。
臨也が保胤を、ウォッカに着けた火で火だるまにしてしまった。
臨也は周囲の状況を盾に悠々と逃げ出した。
そして保胤は……徐々に燃え尽きて…………いく………………
「……イヤ…………もう……イヤ…………」
「では次に移ろう」
光景の全ては、闇に呑まれた。
ウソだ嘘だうそだ嘘だうそだウソだウソうそうそ嘘ウソ嘘嘘嘘ウソ嘘ウソウソ嘘嘘うそウソ!!
だってあの時あの場所にベルガーは来なかった来ていなかった会ってなかった!
わたしはベルガーを見ていないベルガーの声を聴いていないだから――!!)
フリウが、振り返った。
「…………ぁ」
破壊精霊は常にフリウの視界の中に現れる。
現れた破壊精霊がベルガーへと拳を――!
「やめ――――!!」
だがその拳が直撃する直前、ベルガーの姿は掻き消えた。
「……え?」
「そう、それこそが最も数奇な偶然だったのだよ」
神野の声が聞こえた。
「彼は天人の緊急避難装置を支給され、身につけていた。
自動的な転移、それが彼自身すら気づいていなかったその機能だ」
「緊急避難装置? それじゃベルガーは……」
「あの場所から転移した」
「生きて――!」
一瞬の歓喜がシャナの全てを埋め尽くし。
「そして――」
「……………………え?」
景色が、移る。
転移した先で、ベルガーが破壊精霊に振り下ろそうとした黒い刃がリナを。
リナが保胤に突きつけようとした光の刃がベルガーを貫いていた。
シャナを満たした一瞬の歓喜の全てが絶望へと置き換わる。
「………………そん……な…………」
声が言葉にならない。
体がおこりのように震える。
目が動かせない。視線を揺らす事さえも。
目の前の地獄は、続く。
臨也は保胤に不死の酒を、片方だけに使うのだと唆す。
保胤は悩み苦しみ、リナがそれを遮った。
リナは臨也が志摩子を殺した事を見破り、奴の言う事など聞く必要は無いと言って。
(リ……リナァッ!!)
叫ぼうとした声も響かない。
リナは光の剣で――自らの命を絶った。
それでもまた。
目の前の地獄は尚も続く。
臨也が保胤を、ウォッカに着けた火で火だるまにしてしまった。
臨也は周囲の状況を盾に悠々と逃げ出した。
そして保胤は……徐々に燃え尽きて…………いく………………
「……イヤ…………もう……イヤ…………」
「では次に移ろう」
光景の全ては、闇に呑まれた。
(まだ……有るんだ……)
もう、聞くまでもなかった。
シャナは理解した。自分がフリウを使って襲った内の二人が何者なのかを。
胴体を両断した少年や、フリウと共に殺戮と破壊の合撃で滅ぼした男が誰なのかを。
あの二人はそう……ベルガーの仲間だ。
「でも……どうしようもないじゃない。…………あの二人の事なんて知らなかった。
ベルガーが来ていた事に気付く間も無かった。だから、だからあの二人は……!!」
あの二人がダナティア達の仲間だった事に気づく機会なんて無かった、だからどうしようもない。
シャナは自分で言いながらも判っていた。
それはただの誤魔化しだ。
あの二人に気づけなかったからって、短絡的な思考で敵と決めつけ殺してしまった事実は変わらない。
ダナティア達の仲間を殺してしまった事には変わりない。
だからこそその罪に怯えて、せめて誤魔化して痛みを和らげようとして。
もう、聞くまでもなかった。
シャナは理解した。自分がフリウを使って襲った内の二人が何者なのかを。
胴体を両断した少年や、フリウと共に殺戮と破壊の合撃で滅ぼした男が誰なのかを。
あの二人はそう……ベルガーの仲間だ。
「でも……どうしようもないじゃない。…………あの二人の事なんて知らなかった。
ベルガーが来ていた事に気付く間も無かった。だから、だからあの二人は……!!」
あの二人がダナティア達の仲間だった事に気づく機会なんて無かった、だからどうしようもない。
シャナは自分で言いながらも判っていた。
それはただの誤魔化しだ。
あの二人に気づけなかったからって、短絡的な思考で敵と決めつけ殺してしまった事実は変わらない。
ダナティア達の仲間を殺してしまった事には変わりない。
だからこそその罪に怯えて、せめて誤魔化して痛みを和らげようとして。
「過ちを犯した者として告げましょう。悔い改めて進みなさい」
(――――!!)
シャナは、思い出した。
「喪われた者達の想いから目を逸らしてはいけません。
彼らはあなたや誰かを赦さないかもしれません。
最早、何も考え想う事は無いかもしれません。
それでも尚、道を見失う事は愚かです」
それはダナティアの力強い演説。
シャナの心を救うには足りず、それでも前に進む力を与えてくれた言葉。
「そして――」
その時、演説の途中で銃声が響き。
「ダナティア!!」
“少年の声”が、響いていた。
「そして、進む者として告げましょう」
ダナティアが強靱な意志をもって演説を再開する中で。
「ダナティア、やめろよ! あんたまで殺されちまう!
――茉理ちゃんの時みたいに!!」
島の何処にいても、彼の声は聞こえていた。
「焦らなくてもいいわ、あたくしは大丈夫」
風が逆巻く音や銃声も響いていた。
だけど聞こえなかった筈はない。ダナティアの演説は聞こえていたのだから。
「あそこよ、行きなさい」
「~~っ。くそ……絶対だからな! もう、あんなに大きな悲鳴なんて聞きたくない!」
だからシャナが気づく機会は、有った。
そう、幾らでも有ったはずなのだ。それなのに――。
(――――!!)
シャナは、思い出した。
「喪われた者達の想いから目を逸らしてはいけません。
彼らはあなたや誰かを赦さないかもしれません。
最早、何も考え想う事は無いかもしれません。
それでも尚、道を見失う事は愚かです」
それはダナティアの力強い演説。
シャナの心を救うには足りず、それでも前に進む力を与えてくれた言葉。
「そして――」
その時、演説の途中で銃声が響き。
「ダナティア!!」
“少年の声”が、響いていた。
「そして、進む者として告げましょう」
ダナティアが強靱な意志をもって演説を再開する中で。
「ダナティア、やめろよ! あんたまで殺されちまう!
――茉理ちゃんの時みたいに!!」
島の何処にいても、彼の声は聞こえていた。
「焦らなくてもいいわ、あたくしは大丈夫」
風が逆巻く音や銃声も響いていた。
だけど聞こえなかった筈はない。ダナティアの演説は聞こえていたのだから。
「あそこよ、行きなさい」
「~~っ。くそ……絶対だからな! もう、あんなに大きな悲鳴なんて聞きたくない!」
だからシャナが気づく機会は、有った。
そう、幾らでも有ったはずなのだ。それなのに――。
あの石段の戦いで、少年が消え去ったベルガーや破壊精霊の相手をするメフィストを気にした時に、
ただそれを“隙が出来た”としか考えようとせず。
「シャナ、違う、オレ達はダナティアの――」
シャナは『敵』の言葉に耳を貸さずに彼の胴を両断したのだ。
ただそれを“隙が出来た”としか考えようとせず。
「シャナ、違う、オレ達はダナティアの――」
シャナは『敵』の言葉に耳を貸さずに彼の胴を両断したのだ。
「…………あ……う…………ぁ…………………」
心が微塵に砕け散る。
その中で情景は尚も進む。
メフィストと呼ばれた美しい男が、戦いの合間に見る見るうちに竜堂終を治療していく。
それは神速の神業だ。……だが。
メフィストが抜けた穴を突いてシャナはフリウと共に必殺の一撃を投げ放つ。
メフィストは直前に竜堂終を投げて避難させ、他の者達も救うために直撃を受けた。
(それなら……投げられた方は?)
生きているのではないか? 一瞬だけそう思い、しかし。
移り変わった次の情景で、あの古泉という男が竜堂終に襲い掛かっていた。
終は善戦した。本来は古泉が終を殺せる勝ち目は無きに等しかった。
事実、負傷していてもなお終は古泉に勝ちかけた。
だがそれでも傷の差が勝負を変えた。
シャナが両断し、それでもメフィストが治そうとした傷を、古泉が再び切り開く。
それによって竜堂終は、死んだ。
心が微塵に砕け散る。
その中で情景は尚も進む。
メフィストと呼ばれた美しい男が、戦いの合間に見る見るうちに竜堂終を治療していく。
それは神速の神業だ。……だが。
メフィストが抜けた穴を突いてシャナはフリウと共に必殺の一撃を投げ放つ。
メフィストは直前に竜堂終を投げて避難させ、他の者達も救うために直撃を受けた。
(それなら……投げられた方は?)
生きているのではないか? 一瞬だけそう思い、しかし。
移り変わった次の情景で、あの古泉という男が竜堂終に襲い掛かっていた。
終は善戦した。本来は古泉が終を殺せる勝ち目は無きに等しかった。
事実、負傷していてもなお終は古泉に勝ちかけた。
だがそれでも傷の差が勝負を変えた。
シャナが両断し、それでもメフィストが治そうとした傷を、古泉が再び切り開く。
それによって竜堂終は、死んだ。
「……………………………いぇ……ぁ………………」
心が、壊れていく。
耐えようの無い激痛が心の負い目に突き刺さり、罪悪感が擦り込まれ、絶望が全てを灼いていく。
シャナがフリウとの合撃により生みだした殺戮と破壊の渦。
その中でさえメフィストは……彼女達を助けていた。
火乃香を。ヘイズを。コミクロンを。
……パイフウを。
「え…………?」
理解できない。敵じゃないのか。彼女達は敵じゃないのか?
「彼にそれを問うのは過ちと言えるだろうね。彼は医者なのだから」
(だからって敵まで助けるなんて……)
「彼も最初はパイフウを安楽死させようと考えていた。解り合えないのならね。
だがパイフウが偶然にもあの場所で出会っていた他の三人は……
その中の一人は、彼女にとってなによりも大切な存在だった」
(偶……然……? それじゃ……パイフウ以外の三人は……)
「そう、パイフウと会ったのはこの島ではあの時が初めてだ」
(………………)
判っていた。
シャナは味方の筈の存在すらも敵だと誤認して命を奪ってしまった。
だからそれ以外の敵だって……全てが敵では無かったのかもしれない。
「話を戻そう。パイフウはあの出会いにより、既に殺し合いと言う選択肢を失っていた。
それ故にメフィストは彼女を助けたというわけだ」
「………………」
「そして彼は死んでいった。自らと、そして君を治療出来なかった事を悔いながら。
ダナティアに頼まれた君の治療は出来なかったわけだから、なるほど無念だったのだろうね。
それでも彼の『物語』は一人の医者の『物語』として綴じられた。
最後の瞬間まで誰かを救い続ける事によって」
「そんな…………」
彼もシャナを救おうとしていたのだ。
彼の気高い意志はダナティアの宣言したルールに従い数分前の敵さえも救った。
憎悪に拘らず信念をもってして。
――シャナは何も気づかずにそれを踏み躙ろうとし、メフィストとパイフウを、殺した。
心が、壊れていく。
耐えようの無い激痛が心の負い目に突き刺さり、罪悪感が擦り込まれ、絶望が全てを灼いていく。
シャナがフリウとの合撃により生みだした殺戮と破壊の渦。
その中でさえメフィストは……彼女達を助けていた。
火乃香を。ヘイズを。コミクロンを。
……パイフウを。
「え…………?」
理解できない。敵じゃないのか。彼女達は敵じゃないのか?
「彼にそれを問うのは過ちと言えるだろうね。彼は医者なのだから」
(だからって敵まで助けるなんて……)
「彼も最初はパイフウを安楽死させようと考えていた。解り合えないのならね。
だがパイフウが偶然にもあの場所で出会っていた他の三人は……
その中の一人は、彼女にとってなによりも大切な存在だった」
(偶……然……? それじゃ……パイフウ以外の三人は……)
「そう、パイフウと会ったのはこの島ではあの時が初めてだ」
(………………)
判っていた。
シャナは味方の筈の存在すらも敵だと誤認して命を奪ってしまった。
だからそれ以外の敵だって……全てが敵では無かったのかもしれない。
「話を戻そう。パイフウはあの出会いにより、既に殺し合いと言う選択肢を失っていた。
それ故にメフィストは彼女を助けたというわけだ」
「………………」
「そして彼は死んでいった。自らと、そして君を治療出来なかった事を悔いながら。
ダナティアに頼まれた君の治療は出来なかったわけだから、なるほど無念だったのだろうね。
それでも彼の『物語』は一人の医者の『物語』として綴じられた。
最後の瞬間まで誰かを救い続ける事によって」
「そんな…………」
彼もシャナを救おうとしていたのだ。
彼の気高い意志はダナティアの宣言したルールに従い数分前の敵さえも救った。
憎悪に拘らず信念をもってして。
――シャナは何も気づかずにそれを踏み躙ろうとし、メフィストとパイフウを、殺した。
「そして君の殺意がフリウ=ハリスコーを生かしたのを最後に、君の『物語』は終わる」
「……………」
「その後、偶然にも彼女は変革を迎える事になるがこれは君の救いとは言えないだろうね」
シャナが最も近しくなっていた少女の名前。
互いに理解し合った少女の名前。
溶け合った少女の名前。
それはただ一人、最後には絶対に殺さなければならなかった筈の名前。
その彼女が、生き残った。
例え彼女が改心したとしても、それが偶然であるのならシャナがした事は変わらない。
敵さえも失って一人になったという結論が加わるだけだ。
シャナの罪は一つさえも赦されず、償えず、謝る事さえもできない。
「わたしは……何も為せなかったんじゃない……」
シャナは自らを定義する。
何も出来なかったわけじゃない。
何も為せなかったわけじゃない。
惨めに無様に何も為せずに死ぬ。
「……………」
「その後、偶然にも彼女は変革を迎える事になるがこれは君の救いとは言えないだろうね」
シャナが最も近しくなっていた少女の名前。
互いに理解し合った少女の名前。
溶け合った少女の名前。
それはただ一人、最後には絶対に殺さなければならなかった筈の名前。
その彼女が、生き残った。
例え彼女が改心したとしても、それが偶然であるのならシャナがした事は変わらない。
敵さえも失って一人になったという結論が加わるだけだ。
シャナの罪は一つさえも赦されず、償えず、謝る事さえもできない。
「わたしは……何も為せなかったんじゃない……」
シャナは自らを定義する。
何も出来なかったわけじゃない。
何も為せなかったわけじゃない。
惨めに無様に何も為せずに死ぬ。
――そうあれば良かった。
「わたしは……何も出来ずに無様に殺されていればよかったんだ…………。
…………早く。もっと早くに!
だってわたしがした事は間違いばかりだったんだから!!
間違いを犯す前に殺されていればよかった!
みんな死んでしまった。みんなみんな死なせてしまった!
わたしを助けようとしてくれた人もわたしが助けようとした人も!
わたしを護ろうとしてくれた人もわたしが護ろうとした人も!
みんな死んで、死なせて、誰も居なくなった!
わたしがもたらしたのは破滅で、間違いで、死で、絶望だけだった!
わたしが死んでいれば良かったんだ!
そうすればきっとみんな死ななかった!
ダナティアのしていた事が全部台無しになる事なんてなかった!
みんな違う結果になって、テッサも死ななくて、セルティも静雄と再会出来て、
リナが死を選ぶ理由も、保胤が焼き殺される事も、終が負けたりもしなくて、
メフィストは死ななくて、ダナティアも死ななくて、ベルガーも死ななくて、
そこには悠二だって殺人鬼に会わずに生きていて!
こんな殺し合いなんてすぐに止めて、おまえ達なんか倒されて、みんな幸せに……みんな…………生きて」
…………早く。もっと早くに!
だってわたしがした事は間違いばかりだったんだから!!
間違いを犯す前に殺されていればよかった!
みんな死んでしまった。みんなみんな死なせてしまった!
わたしを助けようとしてくれた人もわたしが助けようとした人も!
わたしを護ろうとしてくれた人もわたしが護ろうとした人も!
みんな死んで、死なせて、誰も居なくなった!
わたしがもたらしたのは破滅で、間違いで、死で、絶望だけだった!
わたしが死んでいれば良かったんだ!
そうすればきっとみんな死ななかった!
ダナティアのしていた事が全部台無しになる事なんてなかった!
みんな違う結果になって、テッサも死ななくて、セルティも静雄と再会出来て、
リナが死を選ぶ理由も、保胤が焼き殺される事も、終が負けたりもしなくて、
メフィストは死ななくて、ダナティアも死ななくて、ベルガーも死ななくて、
そこには悠二だって殺人鬼に会わずに生きていて!
こんな殺し合いなんてすぐに止めて、おまえ達なんか倒されて、みんな幸せに……みんな…………生きて」
引き裂かれそうな程に悲しかった。
凍てつくように辛かった。
押し潰されるように苦しかった。
我を忘れる程に罪が恐かった。
凍てつくように辛かった。
押し潰されるように苦しかった。
我を忘れる程に罪が恐かった。
そして。
そんな自分が憎くて、怨めしくて、死んでもなお許せなかった。
激しい怒りが燃え上がっていた。
自分自身を薪にして紅い劫火が吹き上げていた。
激しい怒りが燃え上がっていた。
自分自身を薪にして紅い劫火が吹き上げていた。
「ほう。君はどうするつもりかな?」
「私の全てをおまえにぶつけてやる!
死んだ私の存在の力の全て。
そして私と共に砕けたタリスマンから溢れた力。
その両方がここに満ちている。
その全てでおまえの時間を焼いてやる!!
悠二が今もおまえ達を焼く炎で在り続けるように!
悠二と共におまえ達を焼き続けてやるんだ!!」
「私の全てをおまえにぶつけてやる!
死んだ私の存在の力の全て。
そして私と共に砕けたタリスマンから溢れた力。
その両方がここに満ちている。
その全てでおまえの時間を焼いてやる!!
悠二が今もおまえ達を焼く炎で在り続けるように!
悠二と共におまえ達を焼き続けてやるんだ!!」
神野は、笑った。
「なるほど、君の“望み”は実に強いものだ。
そして満ちる力に指向性を与える事は“望み”を持たない『私』には出来ないことだ。
刻印さえも終わりを覚悟した行為を阻むには足りないだろう。
……だが」
そして満ちる力に指向性を与える事は“望み”を持たない『私』には出来ないことだ。
刻印さえも終わりを覚悟した行為を阻むには足りないだろう。
……だが」
神野は、嗤った。
「君にはできない」
――その通りだった。
「…………どう……して……?」
力は一欠片さえも動かなかった。
引き裂かれた空間に呑まれてシャナの意志はここに在った。
シャナという存在の全ても、身につけていた全てもここに在った。
タリスマンに秘められた強大な力は解放され、ここに満ちていた。
ここは指向性を持たない強大な力に満ちていた。
それに向きを与えるだけだ。
神野に向けてぶつける事で、神野という存在そのものを削り取る。
例え滅ぼせなくとも、僅かな時間でも彼らを抑え込む。
それだけだ。
たったそれだけの事なのに――!
引き裂かれた空間に呑まれてシャナの意志はここに在った。
シャナという存在の全ても、身につけていた全てもここに在った。
タリスマンに秘められた強大な力は解放され、ここに満ちていた。
ここは指向性を持たない強大な力に満ちていた。
それに向きを与えるだけだ。
神野に向けてぶつける事で、神野という存在そのものを削り取る。
例え滅ぼせなくとも、僅かな時間でも彼らを抑え込む。
それだけだ。
たったそれだけの事なのに――!
「この島において、死者の黄泉返りは許されない」
神野は宣った。
「話すこと、伝えることは特例においてのみ許される。
しかしそれだけだ。
この島において、死者の側から為せる事は何も無い」
神野は繰り返し、告げた。
「判っているだろう?
君はもう死んでいる。君が為せる事は、もう何も無い」
神野は宣った。
「話すこと、伝えることは特例においてのみ許される。
しかしそれだけだ。
この島において、死者の側から為せる事は何も無い」
神野は繰り返し、告げた。
「判っているだろう?
君はもう死んでいる。君が為せる事は、もう何も無い」
シャナの最後の怒りさえ、何も果たす事はなかった。
「…………わた……しの……」
シャナにできた事は一つだけだった。
「わたしの……やってきたことは…………
……わたしの人生は…………なんだった…の…………?」
未来に向けて為せる事は何もなく。
「フレイムヘイズとして……世界の安定の為に誇りを持って戦って……いた…………」
今この瞬間に出来る事は何もなく。
「…………でも…この島でわたしは……私の全部を否定して…踏み躙ってしまった……」
ただ過去を繰り返し。
「……誇りも…………使命も………………意志も…………」
嘆き。
「…………悠二も……この島で出会ったたくさんの大切な…………失って……」
自責するだけ。
「……わたしの…………すべて……過ち…………なってしまった……」
それが何処までも閉塞していく足掻く事すら叶わないシャナの終わり。
ゆっくりを全身が透けて消えゆく中で、その繰り返しだけがたった一つの真実だった。
シャナにできた事は一つだけだった。
「わたしの……やってきたことは…………
……わたしの人生は…………なんだった…の…………?」
未来に向けて為せる事は何もなく。
「フレイムヘイズとして……世界の安定の為に誇りを持って戦って……いた…………」
今この瞬間に出来る事は何もなく。
「…………でも…この島でわたしは……私の全部を否定して…踏み躙ってしまった……」
ただ過去を繰り返し。
「……誇りも…………使命も………………意志も…………」
嘆き。
「…………悠二も……この島で出会ったたくさんの大切な…………失って……」
自責するだけ。
「……わたしの…………すべて……過ち…………なってしまった……」
それが何処までも閉塞していく足掻く事すら叶わないシャナの終わり。
ゆっくりを全身が透けて消えゆく中で、その繰り返しだけがたった一つの真実だった。
「バカ。…………間違いなんて……誰でもするだろ……」
『顔を上げよ…………シャナ』
その二つの声が響くまでは。
「……………………………………………………え?」
『顔を上げよ…………シャナ』
その二つの声が響くまでは。
「……………………………………………………え?」
茫然と顔を上げた。
視界に声の主が映った。事実を見た。
それでもまだ理解できなかった。
だってそんな事あるはずがないのだから。
有り得ない姿と声を、頭が拒絶していた。
「経緯はどうあれ、生身でこの場所に立つ者が現れたようだね」
神野の楽しげな声はそれが否定できない事実であると言っていた。
それでもまだ信じられなかった。
シャナはただ茫然としていた。
「…………どう……して……?」
その問いに対して彼は笑みを作ってみせる。
やや弱りつつも確かな生気を秘めて、確固たる肉体から言葉を紡いでみせる。
視界に声の主が映った。事実を見た。
それでもまだ理解できなかった。
だってそんな事あるはずがないのだから。
有り得ない姿と声を、頭が拒絶していた。
「経緯はどうあれ、生身でこの場所に立つ者が現れたようだね」
神野の楽しげな声はそれが否定できない事実であると言っていた。
それでもまだ信じられなかった。
シャナはただ茫然としていた。
「…………どう……して……?」
その問いに対して彼は笑みを作ってみせる。
やや弱りつつも確かな生気を秘めて、確固たる肉体から言葉を紡いでみせる。
「俺は世界で二番目に生き意地が悪い男なんでな」
ダウゲ・ベルガーは生きてシャナの前に立って見せた。
「………なさい…………」
それでもまだ涙まで止まる事はなくて。
「ごめ……さい……………なさい………めんなさ……………ごめんなさい…………っ」
ぼろぼろと涙を流して、だけど赦してと乞うことすらできない。
ただ謝るだけ。
『何を謝る、シャナ』
「ごめんなさ……ひっく……ベルガー……ごめ、うっく……ごめんなさいアラストール!
わたしが、えっぐ……ぜんぶ台無しにしてしまったの。
ダナティアの意志も、全ての道も、みんなの命も、ぜんぶ、ぜんぶ!!
ベルガーは、生きていた、けど……ひっく……そんなひどい傷を負わせて、リナを死なせて!
ぜんぶわたしのやった…………結果、なんだっ…………」
『………………』
アラストールは、これほどに泣くシャナを初めて見た。
シャナの強さも弱さもずっと見てきた。
気高き強さと使命感で傷を恐れず敢然と悪に立ち向かう姿を知っている。
慣れない感情に翻弄され、僅かな喪失に泣く姿だって知っている。
かつては幾度傷付いても最後には立ち上がってきた。
だけど今は……もう、立ち上がれまい。
(シャナ…………)
「……わたしは……えぐっ…………アラストールの言葉も……聞かずに……」
泣き続けるシャナにベルガーはゆっくりと歩み寄り、手を上げた。
叩かれるのだと思い身を強張らせるシャナの頭に。
それでもまだ涙まで止まる事はなくて。
「ごめ……さい……………なさい………めんなさ……………ごめんなさい…………っ」
ぼろぼろと涙を流して、だけど赦してと乞うことすらできない。
ただ謝るだけ。
『何を謝る、シャナ』
「ごめんなさ……ひっく……ベルガー……ごめ、うっく……ごめんなさいアラストール!
わたしが、えっぐ……ぜんぶ台無しにしてしまったの。
ダナティアの意志も、全ての道も、みんなの命も、ぜんぶ、ぜんぶ!!
ベルガーは、生きていた、けど……ひっく……そんなひどい傷を負わせて、リナを死なせて!
ぜんぶわたしのやった…………結果、なんだっ…………」
『………………』
アラストールは、これほどに泣くシャナを初めて見た。
シャナの強さも弱さもずっと見てきた。
気高き強さと使命感で傷を恐れず敢然と悪に立ち向かう姿を知っている。
慣れない感情に翻弄され、僅かな喪失に泣く姿だって知っている。
かつては幾度傷付いても最後には立ち上がってきた。
だけど今は……もう、立ち上がれまい。
(シャナ…………)
「……わたしは……えぐっ…………アラストールの言葉も……聞かずに……」
泣き続けるシャナにベルガーはゆっくりと歩み寄り、手を上げた。
叩かれるのだと思い身を強張らせるシャナの頭に。
ぽん、と。
優しい手が乗せられる。
実体を失いつつあるその体に、うっすらと温かいものが伝えられる。
実体を失いつつあるその体に、うっすらと温かいものが伝えられる。
「もういい、シャナ。…………休め」
『誰がおまえを責められるものか……』
「でも! ぜんぶ、わたしのせいだった。
わたしが自分を見失って、間違って、失敗して、過ちを繰り返して!
そうして…………わたしが止めようとした人も、わたしが助けようとした人も、
わたしの事を大切に想ってくれた人達も、みんな……みんな…………」
脳裏に全ての悪夢が甦る。
幾つもの死。幾つもの悲劇。幾つもの罪。
それはどうしようもない程の悪夢。
『誰がおまえを責められるものか……』
「でも! ぜんぶ、わたしのせいだった。
わたしが自分を見失って、間違って、失敗して、過ちを繰り返して!
そうして…………わたしが止めようとした人も、わたしが助けようとした人も、
わたしの事を大切に想ってくれた人達も、みんな……みんな…………」
脳裏に全ての悪夢が甦る。
幾つもの死。幾つもの悲劇。幾つもの罪。
それはどうしようもない程の悪夢。
『だがおまえは、一度たりとも自分のための選択をしなかった』
「そ、そんな事ない。わたしは吸血鬼の衝動に呑まれもした……。
吸血鬼を羨んで……それを選んで…………
滅ぼしても自分の吸血鬼が治らないからって、敵を敵と……忘れた……」
『欲望に任せて罪無き者を襲いはしなかった』
「零崎を襲った時、わたしはきっと怒りじゃなくて吸血鬼の欲望で……」
「あれはおまえの怒りだ、シャナ。欲望とは違う」
ベルガーが言う。
「おまえはその後も欲望の手綱を握り続けた。辛うじて、だろうとな。
現に俺達はおまえに襲われはしなかった」
「……わた…し…………」
「おまえはおまえを保ったんだ」
続けてアラストールが宣う。
『何より、おまえはやり方はどうあれ最初から最後まで坂井悠二や仲間の事を想い続けた。
例え如何なる苦境に立たされ如何なる選択をする時もだ。
シャナ。我はおまえを誇りに思える』
吸血鬼を羨んで……それを選んで…………
滅ぼしても自分の吸血鬼が治らないからって、敵を敵と……忘れた……」
『欲望に任せて罪無き者を襲いはしなかった』
「零崎を襲った時、わたしはきっと怒りじゃなくて吸血鬼の欲望で……」
「あれはおまえの怒りだ、シャナ。欲望とは違う」
ベルガーが言う。
「おまえはその後も欲望の手綱を握り続けた。辛うじて、だろうとな。
現に俺達はおまえに襲われはしなかった」
「……わた…し…………」
「おまえはおまえを保ったんだ」
続けてアラストールが宣う。
『何より、おまえはやり方はどうあれ最初から最後まで坂井悠二や仲間の事を想い続けた。
例え如何なる苦境に立たされ如何なる選択をする時もだ。
シャナ。我はおまえを誇りに思える』
アラストールは聞いて、見た。
大集団の者達に、シャナがどのような経緯を辿ったかを聞いた。
そして――神野陰之の見せた悪夢も、ほんの一部だけれど脇から見ていた。
シャナの気づかぬ内から、ベルガーとコキュートスはこの無名の庵に現れていたのだ。
何度も声を上げようと思った。
シャナが見る悪夢に静止の声を上げようとした。
だが出来なかった。
ダウゲ・ベルガーが重傷を受けて死に瀕していたからだ。
今は不死の酒の力が優り回復に向かいつつあるが、先程はそれさえも危うかった。
もし彼が死ぬとすれば、絶対にシャナには見せたくなかった。
結果としてダウゲ・ベルガーは生き残った以上それは過ちだったのかもしれない。
シャナと同じように、誰もがする判断の過ち。
「でも、わたしがっ、選択を誤ったせいで……なにも、かもが……」
「選択する前に選択の結果が判るかよ」
だからベルガーはシャナの罪を一蹴した。
大集団の者達に、シャナがどのような経緯を辿ったかを聞いた。
そして――神野陰之の見せた悪夢も、ほんの一部だけれど脇から見ていた。
シャナの気づかぬ内から、ベルガーとコキュートスはこの無名の庵に現れていたのだ。
何度も声を上げようと思った。
シャナが見る悪夢に静止の声を上げようとした。
だが出来なかった。
ダウゲ・ベルガーが重傷を受けて死に瀕していたからだ。
今は不死の酒の力が優り回復に向かいつつあるが、先程はそれさえも危うかった。
もし彼が死ぬとすれば、絶対にシャナには見せたくなかった。
結果としてダウゲ・ベルガーは生き残った以上それは過ちだったのかもしれない。
シャナと同じように、誰もがする判断の過ち。
「でも、わたしがっ、選択を誤ったせいで……なにも、かもが……」
「選択する前に選択の結果が判るかよ」
だからベルガーはシャナの罪を一蹴した。
――もうシャナに残された時間は殆ど無い。
徐々に透けて消えゆくシャナに言葉が届けられる。
ダウゲ・ベルガーとアラストールは、シャナへの想いを届け続ける。
徐々に透けて消えゆくシャナに言葉が届けられる。
ダウゲ・ベルガーとアラストールは、シャナへの想いを届け続ける。
「おまえはこんな未来を知りはしなかった。
当然だ、未来ってのはまだ生まれちゃいないんだからな。
生まれる前の中身なんて誰にも判りやしない。
おまえは誰しもがするように最善の未来を望んで選択を続けた。
その想いを否定出来るものなど居るものか。
居たら、俺が殴り飛ばしてやる」
『それでもまだ自らに罪が有るというならば……我が赦す。
紅世において審判と断罪を司る天罰神“天壌の劫火”アラストールがおまえを赦そう。
我が誇り高き契約者よ、おまえの生きた証は我らの心に刻まれた。
おまえの想いはその一欠片までもが無駄では無かったのだ。
だから、シャナ』
当然だ、未来ってのはまだ生まれちゃいないんだからな。
生まれる前の中身なんて誰にも判りやしない。
おまえは誰しもがするように最善の未来を望んで選択を続けた。
その想いを否定出来るものなど居るものか。
居たら、俺が殴り飛ばしてやる」
『それでもまだ自らに罪が有るというならば……我が赦す。
紅世において審判と断罪を司る天罰神“天壌の劫火”アラストールがおまえを赦そう。
我が誇り高き契約者よ、おまえの生きた証は我らの心に刻まれた。
おまえの想いはその一欠片までもが無駄では無かったのだ。
だから、シャナ』
二人の言葉はシャナの終わりに間に合った。
想いはシャナに伝えられた。
想いはシャナに伝えられた。
「後は俺達に任せな。俺は世界で二番目に頼れる男だぜ」
『安らかに眠れ………………我が、娘よ』
『安らかに眠れ………………我が、娘よ』
「――――――」
シャナはもう声を出す事も出来なかった。
その身で伸ばした手は届く前に燃え尽きた。
消え去る瞬間に浮かんだ表情は誰にも見えない。
最期に流した涙が拭いきれない悲しみの涙なのか、救われた涙だったのかも判らない。
シャナは自らの想いを伝える事すらできなかったのだ。
だから、シャナが救われた証拠は何処にもない。
ただ一つ言える事は、シャナの命がここで最期を迎えたという事。
痛みに満ちた全てがここで途絶えたという事。
シャナはもう声を出す事も出来なかった。
その身で伸ばした手は届く前に燃え尽きた。
消え去る瞬間に浮かんだ表情は誰にも見えない。
最期に流した涙が拭いきれない悲しみの涙なのか、救われた涙だったのかも判らない。
シャナは自らの想いを伝える事すらできなかったのだ。
だから、シャナが救われた証拠は何処にもない。
ただ一つ言える事は、シャナの命がここで最期を迎えたという事。
痛みに満ちた全てがここで途絶えたという事。
――シャナの痛みは終わった。
     * * *
「…………なあ、アラストール」
『なんだ』
「俺やダナティアは……“約束”を果たせたか?」
その問いに、アラストールは答えた。
『聞くまでもない』
『なんだ』
「俺やダナティアは……“約束”を果たせたか?」
その問いに、アラストールは答えた。
『聞くまでもない』
証拠は何一つ無かった。
シャナに最後の言葉を届ける事はできた。
それでもあそこまで無惨に引き裂かれた心を救えた確証など何も無い。
むしろ誰もが思うかも知れない。
命は失われ、魂は穢され、心は砕かれ、何一つ戻りはしなかった。
無惨に引き裂かれたシャナに届く救いなど何も無かったのだと。
それでも、信じることは出来る。
シャナに最後の言葉を届ける事はできた。
それでもあそこまで無惨に引き裂かれた心を救えた確証など何も無い。
むしろ誰もが思うかも知れない。
命は失われ、魂は穢され、心は砕かれ、何一つ戻りはしなかった。
無惨に引き裂かれたシャナに届く救いなど何も無かったのだと。
それでも、信じることは出来る。
『“約束”は果たされた』
「…………そうか」
「…………そうか」
それが真実となった。
「それで、君達はどうするのかね?
この島で初めて、確固たる実体と共に“無名の庵”に降り立った君達は。
自らの“運命”も“契約者”も無くした君達は、この世界にどう抗う?」
この島で初めて、確固たる実体と共に“無名の庵”に降り立った君達は。
自らの“運命”も“契約者”も無くした君達は、この世界にどう抗う?」
だから神野陰之を前にしても臆することは何も無い。
ベルガーとアラストールは互いにたった一言だけ、意志を交換して。
ベルガーとアラストールは互いにたった一言だけ、意志を交換して。
「アラストール。……出来るか」
『もちろんだ。……ダウゲ・ベルガー』
『もちろんだ。……ダウゲ・ベルガー』
全ての想いを胸に、前へと進む。
【X-?/無名の庵/2日目・00:30頃】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:左肺損傷、右肺機能低下、再生中、不死化(不完全)
[装備]:PSG-1(残弾20)、鈍ら刀、コキュートス
[道具]:携帯電話、黒い卵、単二式精燃槽 三つ
[思考]:往こう。
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:左肺損傷、右肺機能低下、再生中、不死化(不完全)
[装備]:PSG-1(残弾20)、鈍ら刀、コキュートス
[道具]:携帯電話、黒い卵、単二式
[思考]:往こう。
※:ダウゲ・ベルガーは黒い卵の転移効果により現れました。
シャナの名は第四回放送で呼ばれます。
アラストールはこれといって何もしなければすぐに紅世に送還されます。
シャナの名残である存在の力と、砕けたタリスマンの力が周囲に満ちています。
神野陰之が目の前に居ます。
零時になった為、アマワはギーアに阻害された状態に戻り、しばらく出てこれません。
シャナの名は第四回放送で呼ばれます。
アラストールはこれといって何もしなければすぐに紅世に送還されます。
シャナの名残である存在の力と、砕けたタリスマンの力が周囲に満ちています。
神野陰之が目の前に居ます。
零時になった為、アマワはギーアに阻害された状態に戻り、しばらく出てこれません。
- 2007/04/16 修正スレ308-312
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