第560話:ペイン(私の人生)(前編) 作:◆eUaeu3dols
最早そこにあったのは痛みだけだった。
何も出来なかった。それが痛みの理由だ。
少女はこの世界の在り方を認めはしなかった。
だから足掻いた。走り、戦い、選び続けた。
それなのにあまりに多くが喪われていった。
それを悔いて選んだ最後の選択さえもたったの三十分で打ち破られた。
シャナはそうやって、死んだ。
少女はこの世界の在り方を認めはしなかった。
だから足掻いた。走り、戦い、選び続けた。
それなのにあまりに多くが喪われていった。
それを悔いて選んだ最後の選択さえもたったの三十分で打ち破られた。
シャナはそうやって、死んだ。
「心なんて無ければ良かった」
心底からそう思う。
そうすればこんな痛みを味わわずに済んだのに。
こんなに苦しまなくて済んだのに。
――思わず嘆いたその言葉を。
声にならないその言葉を、御遣いは確かに聞き取った。
そうすればこんな痛みを味わわずに済んだのに。
こんなに苦しまなくて済んだのに。
――思わず嘆いたその言葉を。
声にならないその言葉を、御遣いは確かに聞き取った。
「君は心の実在を知るものか?」
唐突に響いた声も、シャナに痛み以外をもたらさない物だ。
シャナはその声を知っている。
それは彼女が辿り着けなかった全ての元凶の声だ。
この世界で皆を殺し合わせ、数多の悲劇を、悲哀を、悲痛を、悲壮を生みだした権化。
それなのに憎しみが沸き上がる事すら無かった。
ぶつける事すら出来ない憎しみには何の意味も無いのだから。
憎しみはない。
悲しいだけだ。
あまりにも辛くて、苦しくて、切なくて、痛くて、悲しいだけだ。
引き裂かれた体が痛くてたまらないのに、それ以上に引き裂かれた心が痛いだけだ。
だからただ答えた。
「知っている。わたしは心が在る物だという事を知っている」
それは問うた。
「では問い掛けよう。君はどう答える?
御遣いの言葉になんと答える?
――心の実在を証明せよ」
シャナはその声を知っている。
それは彼女が辿り着けなかった全ての元凶の声だ。
この世界で皆を殺し合わせ、数多の悲劇を、悲哀を、悲痛を、悲壮を生みだした権化。
それなのに憎しみが沸き上がる事すら無かった。
ぶつける事すら出来ない憎しみには何の意味も無いのだから。
憎しみはない。
悲しいだけだ。
あまりにも辛くて、苦しくて、切なくて、痛くて、悲しいだけだ。
引き裂かれた体が痛くてたまらないのに、それ以上に引き裂かれた心が痛いだけだ。
だからただ答えた。
「知っている。わたしは心が在る物だという事を知っている」
それは問うた。
「では問い掛けよう。君はどう答える?
御遣いの言葉になんと答える?
――心の実在を証明せよ」
シャナはしばらく押し黙った。
噛み締めるように。味わうように。
焦れるようにアマワの声が響く。
「必要ならば……一つ問い掛けを許そう。その問いで私を理解せよ」
「うるさい」
聞きたくはなかった。
よりによって坂井悠二の声を借りて明らかに別物として聞こえてくる声を聞きたくなかった。
だから答えは簡潔で感情的な物だった。
「うるさいうるさいうるさい!
もしも心が実在しないというのなら、どうしてわたしはまだ痛いの!?
痛い、痛いよ!
胸も頭も何もかも! 心が無いなら痛みなんて有るわけがないのに!」
「君の体は消し飛んだ。激痛と共に」
「そうだ、そしてわたしは飛ばされた! 薄い空間の向こう側に……ここに」
コミクロンの空間爆砕はシャナを消し飛ばした。
シャナの肉体は確実に滅び命も失われた。
しかしシャナは、依然自らの存在を知覚できる事を認識する。
周囲を知覚している事を認識する。
そこは闇の荒野。
石にも、金属にも、無意味にも、重要にも。如何様にも見えるモノリスが遠方に乱立していた。
ただ荒野という荒れ果てた印象だけが強く焼き付く。
空は暗黒の黒一色。
にも関わらず視界が妨げられる事は無く、遥か遠方の無数のモノリスが、地平線が見えていた。
そこは“無名の庵”だった。
神野の支配する領域であり、アマワもまたそこに現れる。
この殺し合いを開いた黒幕の住処にシャナの魂は在った。
「そう、そして君は飛ばされた。君はまだそこに居る」
「意識が残っていたって体の痛みを感じる道理なんて無い。心が無い限り」
「君が感じる痛みをどうやって証明する」
「わたし自身が痛みなんだ! わたしの魂は痛みで埋め尽くされた!
わたしは……痛みそのものなんだ……」
噛み締めるように。味わうように。
焦れるようにアマワの声が響く。
「必要ならば……一つ問い掛けを許そう。その問いで私を理解せよ」
「うるさい」
聞きたくはなかった。
よりによって坂井悠二の声を借りて明らかに別物として聞こえてくる声を聞きたくなかった。
だから答えは簡潔で感情的な物だった。
「うるさいうるさいうるさい!
もしも心が実在しないというのなら、どうしてわたしはまだ痛いの!?
痛い、痛いよ!
胸も頭も何もかも! 心が無いなら痛みなんて有るわけがないのに!」
「君の体は消し飛んだ。激痛と共に」
「そうだ、そしてわたしは飛ばされた! 薄い空間の向こう側に……ここに」
コミクロンの空間爆砕はシャナを消し飛ばした。
シャナの肉体は確実に滅び命も失われた。
しかしシャナは、依然自らの存在を知覚できる事を認識する。
周囲を知覚している事を認識する。
そこは闇の荒野。
石にも、金属にも、無意味にも、重要にも。如何様にも見えるモノリスが遠方に乱立していた。
ただ荒野という荒れ果てた印象だけが強く焼き付く。
空は暗黒の黒一色。
にも関わらず視界が妨げられる事は無く、遥か遠方の無数のモノリスが、地平線が見えていた。
そこは“無名の庵”だった。
神野の支配する領域であり、アマワもまたそこに現れる。
この殺し合いを開いた黒幕の住処にシャナの魂は在った。
「そう、そして君は飛ばされた。君はまだそこに居る」
「意識が残っていたって体の痛みを感じる道理なんて無い。心が無い限り」
「君が感じる痛みをどうやって証明する」
「わたし自身が痛みなんだ! わたしの魂は痛みで埋め尽くされた!
わたしは……痛みそのものなんだ……」
それは変えようの無い事実。
シャナの魂のカタチは痛みに埋め尽くされた。
有り余る悲劇と不運、齟齬と絶望が強引に詰め込まれ、心はずた袋のようにほつれてしまった。
だからそれは歴然とした現実。
それでも尚。
「ならば君が痛めているものが心である事を証明せよ」
全てに理由を求めるアマワの餓えは満たせない。
どれだけ理屈を並べ、理論の穴を埋めて論理を積み重ねたって隙間が消える事は無い。
それが何故か、シャナにはなんとなく判っていた。
教えられて知っていた。
「千草が……悠二のお母さんが言っていた。
心の問題は客観的な言葉では語れない。
人の主観に基づく曖昧で不確かな経験でしか語れない」
「存在する物は理論で証明出来る」
「それなら心なんて存在しない」
シャナの言葉に僅かな間が惑う。
「おまえの言葉は心の実在を前提にしている」
「そう、心は在る」
その迷い無き言葉に惑いは広がる。
「……おまえの答えは矛盾している」
「心に確かな答えなんて何処にも無い」
在るわけが無い答えをアマワは求めている。
シャナはそれに気づいた。
その事が可笑しく、そんな事が全てを奪っていった事が……悲しかった。
「答えを答えと認められないおまえは永遠に悩み続けるんだ」
それがシャナの答えだった。
坂井千草に教えられて知っていた、彼女を信じるが故に確かな答え。
だけどその答えにアマワは何も応えない。
「…………え……?」
シャナは視界が紅く染まっている事に気づいた。
見慣れた色だ。
それは炎の赤。アラストールの炎とよく似た炎の赤。
その炎は世界を燃やしていた。
(違う、これは炎じゃない。この、炎でない炎は……まさか…………)
よく知っていた。
こんな形で発現するのを見たのは初めてだけれど、それが何かはよく知っていた。
理解しているわけではない。
だけどシャナは、それが何であるかはとてもよく知っていた。
「零時迷子……」
理由は判らない。
シャナは零時迷子に秘められた謎も、それがどうしてここに在るのかも判らない。
シャナが知っている事は二つだけ。
零時迷子は坂井悠二の中に有った事。
それは零時に存在の力を『記録した一定量に戻す』機能を持っている事。
シャナが判る事は一つだけ。
零時迷子がアマワの世界を焼いているという事。
シャナが気づいた事は、一つだけ。
如何なる形かは判らない。
これが坂井悠二の意志で行われた事かも判らない。
それでも感じ、それを信じた。
「…………悠二は、ずっと戦っていたんだね」
それは主観でしかない。
客観に基づかない想いでしかない。
それでも主観の中にしか存在しないシャナの心において、それは確固たる真実に変わる。
「悠二は、ずっとずっと戦っていたんだ。
わたしが悠二の事を捜している間も。
悠二の事ばかり考えていた間も。
誇りを失ってしまった時も。
力も無いのにこの世界の仕組みを、管理者や元凶の事を考えていた。
どうすればこの殺し合いを止められるかずっと考えていた。
死んだ後さえも……悠二の零時迷子が元凶を燃やしている。
ずっと……悠二はずっとずっと戦っていたんだ!!」
シャナの魂のカタチは痛みに埋め尽くされた。
有り余る悲劇と不運、齟齬と絶望が強引に詰め込まれ、心はずた袋のようにほつれてしまった。
だからそれは歴然とした現実。
それでも尚。
「ならば君が痛めているものが心である事を証明せよ」
全てに理由を求めるアマワの餓えは満たせない。
どれだけ理屈を並べ、理論の穴を埋めて論理を積み重ねたって隙間が消える事は無い。
それが何故か、シャナにはなんとなく判っていた。
教えられて知っていた。
「千草が……悠二のお母さんが言っていた。
心の問題は客観的な言葉では語れない。
人の主観に基づく曖昧で不確かな経験でしか語れない」
「存在する物は理論で証明出来る」
「それなら心なんて存在しない」
シャナの言葉に僅かな間が惑う。
「おまえの言葉は心の実在を前提にしている」
「そう、心は在る」
その迷い無き言葉に惑いは広がる。
「……おまえの答えは矛盾している」
「心に確かな答えなんて何処にも無い」
在るわけが無い答えをアマワは求めている。
シャナはそれに気づいた。
その事が可笑しく、そんな事が全てを奪っていった事が……悲しかった。
「答えを答えと認められないおまえは永遠に悩み続けるんだ」
それがシャナの答えだった。
坂井千草に教えられて知っていた、彼女を信じるが故に確かな答え。
だけどその答えにアマワは何も応えない。
「…………え……?」
シャナは視界が紅く染まっている事に気づいた。
見慣れた色だ。
それは炎の赤。アラストールの炎とよく似た炎の赤。
その炎は世界を燃やしていた。
(違う、これは炎じゃない。この、炎でない炎は……まさか…………)
よく知っていた。
こんな形で発現するのを見たのは初めてだけれど、それが何かはよく知っていた。
理解しているわけではない。
だけどシャナは、それが何であるかはとてもよく知っていた。
「零時迷子……」
理由は判らない。
シャナは零時迷子に秘められた謎も、それがどうしてここに在るのかも判らない。
シャナが知っている事は二つだけ。
零時迷子は坂井悠二の中に有った事。
それは零時に存在の力を『記録した一定量に戻す』機能を持っている事。
シャナが判る事は一つだけ。
零時迷子がアマワの世界を焼いているという事。
シャナが気づいた事は、一つだけ。
如何なる形かは判らない。
これが坂井悠二の意志で行われた事かも判らない。
それでも感じ、それを信じた。
「…………悠二は、ずっと戦っていたんだね」
それは主観でしかない。
客観に基づかない想いでしかない。
それでも主観の中にしか存在しないシャナの心において、それは確固たる真実に変わる。
「悠二は、ずっとずっと戦っていたんだ。
わたしが悠二の事を捜している間も。
悠二の事ばかり考えていた間も。
誇りを失ってしまった時も。
力も無いのにこの世界の仕組みを、管理者や元凶の事を考えていた。
どうすればこの殺し合いを止められるかずっと考えていた。
死んだ後さえも……悠二の零時迷子が元凶を燃やしている。
ずっと……悠二はずっとずっと戦っていたんだ!!」
その事さえも痛かった。
シャナの心が痛まずに居られる事はもはや無い。
悠二の遺志への感動さえも、シャナの負い目に突き刺さる。
坂井悠二が成した事が嬉しくて、坂井悠二の為に何も出来なかった負い目が傷となる。
心が有る限り痛みが続く。
シャナの心が痛まずに居られる事はもはや無い。
悠二の遺志への感動さえも、シャナの負い目に突き刺さる。
坂井悠二が成した事が嬉しくて、坂井悠二の為に何も出来なかった負い目が傷となる。
心が有る限り痛みが続く。
「わたしは……一体なにができたんだろう……」
「それが君の望みかね?」
「それが君の望みかね?」
返る声は、炎に焼かれ姿を隠したアマワのものではない。
いつの間にか目の前に漆黒の闇が立っていた。
『彼』は夜の闇であり、人の負の極限たる存在だった。
だから見ただけで判った。
……『彼』もまた、この元凶の一人なのだ。
「『私』は神野陰之。“夜闇の魔王”にして“名付けられし暗黒”」
「………………」
だが、それがどうしたというのだろう。
最早シャナは痛みの中で終わりを待つだけの身なのに。
もう……死んでいるのに。
「その通り、君はもう死んでいる。それでも君はまだ一つの望みを捨てきれない」
「………………」
それも事実だった。
シャナは“知りたかった”。
もうすぐ意識も消えるだろう。だから何の意味も為せはしない。
それでも最期に知りたかった。自らの心を満たしたかった。
悠二と肩を並べて戦いたかった。
悠二はこれだけの事を成し遂げた。それならわたしは……
「わたしは……何を成したんだろう……」
「それが、君の望みかね?」
「…………そうよ」
シャナは答え、問うた。
その問いに神野はくつくつと嗤いだす。
可笑しむように、嘲笑うように。
「そういえば友は君に一つの問い掛けを許していたね。
君はその権利を行使していなかったし、願いを叶えるのは『私』の役目でもある。
その問いの答えは君が影響を与えた参加者の情報なのだから、
本来はこの世界の物語に影響を与えうる事だが、盤面に戻れない君ならば知る事を許される。
君はその問いの答えを知る権利がある。
君が君の知る者達に及ぼした影響を知る権利がある。
本当にその望みが真実ならばね」
「……なにが言いたいの?」
「しかし君はこうも願っている。もう、“痛みたくない”と。
さあ、どちらの望みを叶えるべきだろうね」
「……………っ」
それはシャナに答えの中身を予感させるには十分な物だった。
その問いで答えを開いても、中身は痛みに満ちている。
シャナが坂井悠二のように為せた事なんてきっと何も無いのだ。
いつの間にか目の前に漆黒の闇が立っていた。
『彼』は夜の闇であり、人の負の極限たる存在だった。
だから見ただけで判った。
……『彼』もまた、この元凶の一人なのだ。
「『私』は神野陰之。“夜闇の魔王”にして“名付けられし暗黒”」
「………………」
だが、それがどうしたというのだろう。
最早シャナは痛みの中で終わりを待つだけの身なのに。
もう……死んでいるのに。
「その通り、君はもう死んでいる。それでも君はまだ一つの望みを捨てきれない」
「………………」
それも事実だった。
シャナは“知りたかった”。
もうすぐ意識も消えるだろう。だから何の意味も為せはしない。
それでも最期に知りたかった。自らの心を満たしたかった。
悠二と肩を並べて戦いたかった。
悠二はこれだけの事を成し遂げた。それならわたしは……
「わたしは……何を成したんだろう……」
「それが、君の望みかね?」
「…………そうよ」
シャナは答え、問うた。
その問いに神野はくつくつと嗤いだす。
可笑しむように、嘲笑うように。
「そういえば友は君に一つの問い掛けを許していたね。
君はその権利を行使していなかったし、願いを叶えるのは『私』の役目でもある。
その問いの答えは君が影響を与えた参加者の情報なのだから、
本来はこの世界の物語に影響を与えうる事だが、盤面に戻れない君ならば知る事を許される。
君はその問いの答えを知る権利がある。
君が君の知る者達に及ぼした影響を知る権利がある。
本当にその望みが真実ならばね」
「……なにが言いたいの?」
「しかし君はこうも願っている。もう、“痛みたくない”と。
さあ、どちらの望みを叶えるべきだろうね」
「……………っ」
それはシャナに答えの中身を予感させるには十分な物だった。
その問いで答えを開いても、中身は痛みに満ちている。
シャナが坂井悠二のように為せた事なんてきっと何も無いのだ。
――シャナは何も為せなかった。
それだけでも心が針の筵に包まれる。
もうどう転んでも待っているのは痛みだけだ。
自らの人生の経緯を開き、真実の激痛に打ちのめされるのか。
それとも罪の意識に震え不安と鈍痛に苛まれながら意識が途絶えるのを待つのか。
痛みはどちらにせよ有る。
それならせめて……………………知りたいと、そう思った。
……そう望んでしまった。
もうどう転んでも待っているのは痛みだけだ。
自らの人生の経緯を開き、真実の激痛に打ちのめされるのか。
それとも罪の意識に震え不安と鈍痛に苛まれながら意識が途絶えるのを待つのか。
痛みはどちらにせよ有る。
それならせめて……………………知りたいと、そう思った。
……そう望んでしまった。
「教えて。……………………わたしの……やった事を」
「その望みを歓迎しよう」
「その望みを歓迎しよう」
神野はあまりに歪でおぞましく楽しげな笑みを浮かべて。
――悲劇の詰まった箱を、開いた。
――悲劇の詰まった箱を、開いた。
     * * *
一つ目に、シャナは思い出した。
いや、記憶を掘り返されていた。
それはこの殺し合いが始まった直後のことだった。
自称サムライガールを打ち倒し、トドメを刺さずに放置した。
(そうだ、あの時にわたしは彼女を殺さなかった)
結果として彼女は別の誰か知らない青年を殺してしまい、そして殺された。
それを知ってシャナは感じた。
『殺さなかった事が被害を広げた』、と。
今更にそれを言ってどうにもならないと自分に言い聞かせて、それでも“望んだ”光景は続く。
シャナは思い出していく。
その後の事を、その後の光景を思い出していく。
いや、記憶を掘り返されていた。
それはこの殺し合いが始まった直後のことだった。
自称サムライガールを打ち倒し、トドメを刺さずに放置した。
(そうだ、あの時にわたしは彼女を殺さなかった)
結果として彼女は別の誰か知らない青年を殺してしまい、そして殺された。
それを知ってシャナは感じた。
『殺さなかった事が被害を広げた』、と。
今更にそれを言ってどうにもならないと自分に言い聞かせて、それでも“望んだ”光景は続く。
シャナは思い出していく。
その後の事を、その後の光景を思い出していく。
シャナは走っていた。
幸運にも坂井悠二の存在の力を感じ取る事に成功する。
目指すは城だ。そう決めて脇目も振らずに走り続けた。
走り続けていた。
「…………あっ」
それに気づき全身に鳥肌が立った。
シャナは思い出した。
その途中で出会った青年の事を。
「ま……さか…………」
唐突に目の前に飛び出た青年が、さわやかな笑顔のまま挨拶をして静止を促した。
交渉しようとしたのだろうか。
それをシャナは……有無を言わずに殴り倒した。
彼を気絶させて武器を没収し、放置して走り続けた。
シャナは彼の顔を思い出した。彼の声を思い出した。
彼の場違いな笑みとその姿を思い出した。
シャナはこの時、彼の名前を知らなかった。
古泉一樹という名前も知らなかったし、彼がこの後に何を考えどう進んだのかも判らない。
シャナが知っているのは、彼がダナティアの死に関わった一人という事だけ。
幸運にも坂井悠二の存在の力を感じ取る事に成功する。
目指すは城だ。そう決めて脇目も振らずに走り続けた。
走り続けていた。
「…………あっ」
それに気づき全身に鳥肌が立った。
シャナは思い出した。
その途中で出会った青年の事を。
「ま……さか…………」
唐突に目の前に飛び出た青年が、さわやかな笑顔のまま挨拶をして静止を促した。
交渉しようとしたのだろうか。
それをシャナは……有無を言わずに殴り倒した。
彼を気絶させて武器を没収し、放置して走り続けた。
シャナは彼の顔を思い出した。彼の声を思い出した。
彼の場違いな笑みとその姿を思い出した。
シャナはこの時、彼の名前を知らなかった。
古泉一樹という名前も知らなかったし、彼がこの後に何を考えどう進んだのかも判らない。
シャナが知っているのは、彼がダナティアの死に関わった一人という事だけ。
「……会っていた? 最初から……最初からわたしは会っていたの!?」
パイフウの方だってそうだ。
シャナは城の中で彼女の存在に気づいていた。彼女の危険に気づいていた。
その時に戦えばどうなっていたかは判らない。だけど勝ち目は有ったはずだ。
それなのにシャナは彼女の存在を放置した。ただ坂井悠二を捜す事だけを優先した。
結果……破滅が訪れた。
シャナは城の中で彼女の存在に気づいていた。彼女の危険に気づいていた。
その時に戦えばどうなっていたかは判らない。だけど勝ち目は有ったはずだ。
それなのにシャナは彼女の存在を放置した。ただ坂井悠二を捜す事だけを優先した。
結果……破滅が訪れた。
「やっぱり……わたしが殺していなかったからじゃない!!」
「そう、皮肉にもそれはある側面において正しいのだよ。
君には彼らを害する結果を為した者達を害する機会が有った。
どれもこれも偶然の結果ではあるがね」
「そう、皮肉にもそれはある側面において正しいのだよ。
君には彼らを害する結果を為した者達を害する機会が有った。
どれもこれも偶然の結果ではあるがね」
神野の言葉は更にシャナの記憶を掘り返す。
それは疾走の続きだった。
シャナは城へ向けて走り続けていた。
その途中に居た……奇妙な着ぐるみ。シャナは問答無用でそれを無力化しようとした。
だが、失敗した。
着ぐるみは異様な強度を誇りシャナの打撃を拒み、仕方なく倒そうとしたもう一人の少年に銃撃を受ける。
(そうだ、この時の破片がずっと後までお腹に残っていたんだ……)
その破片は後々までシャナを苦しめ続けた。
それと吹き飛ばされる時に、見えた。
着ぐるみを脱いだ少年が、シャナの落とした、古泉から奪っていた銃を拾い上げるのを。
その二人の少年が共に走って逃げ去ったのを。
「これが……どうしたっていうの……?」
そこまでだ。それで終わりの筈だ。
彼らとは別れて二度と会う事は無かった。
……ずっと、そう思っていた。
「あの戦いがどうしたっていうのよ!?」
だけど全身を包み込むのは、おぞましいまでの恐怖。
言い様のない恐怖の中で記憶は甦る。場面が移る。
それは疾走の続きだった。
シャナは城へ向けて走り続けていた。
その途中に居た……奇妙な着ぐるみ。シャナは問答無用でそれを無力化しようとした。
だが、失敗した。
着ぐるみは異様な強度を誇りシャナの打撃を拒み、仕方なく倒そうとしたもう一人の少年に銃撃を受ける。
(そうだ、この時の破片がずっと後までお腹に残っていたんだ……)
その破片は後々までシャナを苦しめ続けた。
それと吹き飛ばされる時に、見えた。
着ぐるみを脱いだ少年が、シャナの落とした、古泉から奪っていた銃を拾い上げるのを。
その二人の少年が共に走って逃げ去ったのを。
「これが……どうしたっていうの……?」
そこまでだ。それで終わりの筈だ。
彼らとは別れて二度と会う事は無かった。
……ずっと、そう思っていた。
「あの戦いがどうしたっていうのよ!?」
だけど全身を包み込むのは、おぞましいまでの恐怖。
言い様のない恐怖の中で記憶は甦る。場面が移る。
映った場面は携帯電話の保胤達とマンションで合流する為に移動している時間だった。
森を進む中でダナティアは透視をして、彼らを見つけた。
テッサの大切な人であるという相良宗介が、誰かと同行し罠を仕掛けているのを。
それを聞いてテッサは彼らと会うと言い、ダナティアはそれに同行すると言った。
「ダメ……」
シャナが怯える中で記憶は続く。事実は続く。
何も止められないし、変えられない。
「行っちゃダメ、テッサ――!!」
声は過去に届かない。人は未来を知り得ない。
テレサ・テスタロッサは、シャナと永遠に別れた。
その先をシャナは知らない。
何があってテッサが死んだのか、シャナは知らない。
見ていないし聞いていない。
見えなかったし、聞けなかった。
シャナに関わりの無い、関わりようが無い所で死んでしまった。
……ずっと、そう思っていた。
森を進む中でダナティアは透視をして、彼らを見つけた。
テッサの大切な人であるという相良宗介が、誰かと同行し罠を仕掛けているのを。
それを聞いてテッサは彼らと会うと言い、ダナティアはそれに同行すると言った。
「ダメ……」
シャナが怯える中で記憶は続く。事実は続く。
何も止められないし、変えられない。
「行っちゃダメ、テッサ――!!」
声は過去に届かない。人は未来を知り得ない。
テレサ・テスタロッサは、シャナと永遠に別れた。
その先をシャナは知らない。
何があってテッサが死んだのか、シャナは知らない。
見ていないし聞いていない。
見えなかったし、聞けなかった。
シャナに関わりの無い、関わりようが無い所で死んでしまった。
……ずっと、そう思っていた。
「――では君の“望み”に答えよう」
神野の言葉が全ての障害をこじ開ける。
シャナは、見た。見えなかった先の光景を。
シャナは、聞いた。聞こえなかった先の言葉を。
時を超え場所を超えその光景を体験した。
ダナティアが戦っていた。
相良宗介と戦っていた。
それと、シャナの仕留め損ねた少年と戦っていた――!
「………………うそ」
ダナティアは最初は優勢に二人を押した。
魔術で銃を封じ風を操り二人を相手に立ち回った。
それも相手を殺さないように加減してだ。
だがそれでも、銃を持った達人を二人相手にすれば限界は来る。
「うそ……でしょ……」
やがてダナティアは押され……相良宗介を必殺の一撃で迎撃しようとした。
その結果として。
――テレサ・テスタロッサは、死んだ。
「…………う……そ………………だ……………………」
知らないところで死んだと思っていた。
テッサはシャナにはどうしようもない所で死んだと思っていた。
テッサが死んだ事はとても悲しかったけれど、テッサが死んだ責任は自分には無いと思っていた。
ずっとそう思っていた。
これまでは。
(あの時、あいつらを仕留められれば違ったんじゃないの?
戦わずにあいつに銃を渡さなければ違ったんじゃないの?)
シャナは、見た。見えなかった先の光景を。
シャナは、聞いた。聞こえなかった先の言葉を。
時を超え場所を超えその光景を体験した。
ダナティアが戦っていた。
相良宗介と戦っていた。
それと、シャナの仕留め損ねた少年と戦っていた――!
「………………うそ」
ダナティアは最初は優勢に二人を押した。
魔術で銃を封じ風を操り二人を相手に立ち回った。
それも相手を殺さないように加減してだ。
だがそれでも、銃を持った達人を二人相手にすれば限界は来る。
「うそ……でしょ……」
やがてダナティアは押され……相良宗介を必殺の一撃で迎撃しようとした。
その結果として。
――テレサ・テスタロッサは、死んだ。
「…………う……そ………………だ……………………」
知らないところで死んだと思っていた。
テッサはシャナにはどうしようもない所で死んだと思っていた。
テッサが死んだ事はとても悲しかったけれど、テッサが死んだ責任は自分には無いと思っていた。
ずっとそう思っていた。
これまでは。
(あの時、あいつらを仕留められれば違ったんじゃないの?
戦わずにあいつに銃を渡さなければ違ったんじゃないの?)
これからはそれが真実となる。
テッサの死が新たな罪の十字架となって重くのし掛かる。
心を押し潰す痛みに変わる。
(そう、きっと何かが変わっていたんだ。
別の結果が何処かにあった筈なんだ……!)
「う……くぅ…………っ!!」
シャナは表情を歪めて、泣きそうになるのを必死にこらえた。
痛かった。喪失の傷口に擦り込まれる罪悪感と後悔が心に浸みて激痛となった。
それでも……堪えるしかなかった。
泣いても、何の意味も無いのだから。
誰にも助けてもらう権利なんて無いのだから。
だから少女は、いつまでも悪夢の中から抜け出せない。
心を押し潰す痛みに変わる。
(そう、きっと何かが変わっていたんだ。
別の結果が何処かにあった筈なんだ……!)
「う……くぅ…………っ!!」
シャナは表情を歪めて、泣きそうになるのを必死にこらえた。
痛かった。喪失の傷口に擦り込まれる罪悪感と後悔が心に浸みて激痛となった。
それでも……堪えるしかなかった。
泣いても、何の意味も無いのだから。
誰にも助けてもらう権利なんて無いのだから。
だから少女は、いつまでも悪夢の中から抜け出せない。
「では“望み”の履行を続行しよう」
神野の無慈悲な、そしてただ人の“望み”に忠実な言葉が降りかかる。
シャナはハッとなり顔を上げる。
その脳裏に更なる記憶が甦っていた。
――見えたのは、ダナティア達と出会う直前の記憶。
パイフウの居る城を出て、悠二を捜し走り回った時の事だ。
シャナはその時、城の東を探索しその彼らを見つけていた。
それは何か禍々しい気配と、青龍偃月刀を携えた男だ。
悠二が近づくはずが無いと思って彼らを放置し、走り回った末にダナティア達と出会う事になる。
「彼ら、アシュラムと美姫が君の仲間達に直接行った事はそれほど大きなものではないだろう。
君が彼と彼女を打ち倒せたかも怪しいものだ」
神野は愉しげに語りだす。
シャナは罪に怯え、身を震わせてその言葉に耐え続けた。
「アシュラムはパイフウが体力を回復する間の休憩所となった」
「美姫は千鳥かなめを人質にして相良宗介を殺し合いに乗らせた」
「彼らは光明寺茉衣子の心を壊す一因となった」
「美姫は佐藤聖を吸血鬼にした元凶だ」
「そして彼らとダナティア達の出会いは君に辿り着く時間を遅らせた」
神野はくつくつと嗤う。
「だがそれらは彼と彼女が影響をもたらした別の物語が起こした事だ。
それは既に彼と彼女の物語とは言えないだろう。これは君の“望み”からすれば寄り道だ」
「――――――っ」
それでもシャナは思ってしまう。
『なにかが変えられたはずなのに』
その想いは激痛となってシャナの心を刺し穿つ。
有り余る罪がシャナを磔にして抵抗さえも許さない。
激痛の中でシャナはただただ償えない罪に悶えている。
シャナはハッとなり顔を上げる。
その脳裏に更なる記憶が甦っていた。
――見えたのは、ダナティア達と出会う直前の記憶。
パイフウの居る城を出て、悠二を捜し走り回った時の事だ。
シャナはその時、城の東を探索しその彼らを見つけていた。
それは何か禍々しい気配と、青龍偃月刀を携えた男だ。
悠二が近づくはずが無いと思って彼らを放置し、走り回った末にダナティア達と出会う事になる。
「彼ら、アシュラムと美姫が君の仲間達に直接行った事はそれほど大きなものではないだろう。
君が彼と彼女を打ち倒せたかも怪しいものだ」
神野は愉しげに語りだす。
シャナは罪に怯え、身を震わせてその言葉に耐え続けた。
「アシュラムはパイフウが体力を回復する間の休憩所となった」
「美姫は千鳥かなめを人質にして相良宗介を殺し合いに乗らせた」
「彼らは光明寺茉衣子の心を壊す一因となった」
「美姫は佐藤聖を吸血鬼にした元凶だ」
「そして彼らとダナティア達の出会いは君に辿り着く時間を遅らせた」
神野はくつくつと嗤う。
「だがそれらは彼と彼女が影響をもたらした別の物語が起こした事だ。
それは既に彼と彼女の物語とは言えないだろう。これは君の“望み”からすれば寄り道だ」
「――――――っ」
それでもシャナは思ってしまう。
『なにかが変えられたはずなのに』
その想いは激痛となってシャナの心を刺し穿つ。
有り余る罪がシャナを磔にして抵抗さえも許さない。
激痛の中でシャナはただただ償えない罪に悶えている。
「そう、君の“望み”には別の先がある」
(まだ……有るの……?)
泣きそうになるのを必至に堪える。
悲しくて流す涙なんてとっくに枯れたと思っていた。
それなのに心に痛みを感じる度に涙がこぼれてしまいそうになる。
体はもう砕け散り、魂だって幾度引き裂けたと思ったのかも判らない。
それでも砕けたはずの心の悲鳴から逃げられない。
告発から逃げられない。
痛みから逃げられない。
「そう、例えば……『彼』だ」
神野は明確に一人の存在を示した。
シャナの瞳には一人の青年の姿が映し出される。
それはシャナにとって、敵では無いはずの姿。
「……折原臨也……」
「その通り」
シャナが静雄を殺してしまった事に怯え嘆いていた時に現れた、彼の友人。
彼はシャナを赦し、静雄を埋葬してくれた。
シャナは彼にセルティ達の居場所を伝え、行ってくれと頼みすらした。
その頼みに応え、彼はシャナが届けられない言葉の代わりにセルティの元へ向かってくれた。
「強くて優しい人……」
「その認識は正しいとは言えないだろう」
神野の言葉はとても不吉に響いた。
その言葉はシャナの知らない闇の奥底を暗喩して。
「もっとも、『彼』がある種の強さを持っている事は疑いない事だろう。
優しさもある意味では持っているかもしれない。しかしそれは『君』が考える優しさではないだろうね」
「なにが……言いたいの……? まさか、イザヤが殺し合いに乗っていたとでも……」
「彼は別に殺し合いに乗っていたわけではないとも。
彼はただ人間らしく生きているのだよ。
彼はある一人を除く全ての人間が好きで、ある一人を除く全ての人間を愛し、
そして誰よりも自らの為に全てを切り捨てる事が出来る。
彼はそんな人間にすぎないのだからね」
闇の底から煮えたぎる泥の如き真実を汲み上げていく。
「その……その一人って……誰なの?」
神野は嗤った。
口元を吊り上げ、歪め、禍々しいまでに満面の笑みを浮かべて。
おぞましき真実をぶちまけた。
「――平和島静雄」
「――――!!」
シャナの脳裏に甦った優しげな言葉は。
(まだ……有るの……?)
泣きそうになるのを必至に堪える。
悲しくて流す涙なんてとっくに枯れたと思っていた。
それなのに心に痛みを感じる度に涙がこぼれてしまいそうになる。
体はもう砕け散り、魂だって幾度引き裂けたと思ったのかも判らない。
それでも砕けたはずの心の悲鳴から逃げられない。
告発から逃げられない。
痛みから逃げられない。
「そう、例えば……『彼』だ」
神野は明確に一人の存在を示した。
シャナの瞳には一人の青年の姿が映し出される。
それはシャナにとって、敵では無いはずの姿。
「……折原臨也……」
「その通り」
シャナが静雄を殺してしまった事に怯え嘆いていた時に現れた、彼の友人。
彼はシャナを赦し、静雄を埋葬してくれた。
シャナは彼にセルティ達の居場所を伝え、行ってくれと頼みすらした。
その頼みに応え、彼はシャナが届けられない言葉の代わりにセルティの元へ向かってくれた。
「強くて優しい人……」
「その認識は正しいとは言えないだろう」
神野の言葉はとても不吉に響いた。
その言葉はシャナの知らない闇の奥底を暗喩して。
「もっとも、『彼』がある種の強さを持っている事は疑いない事だろう。
優しさもある意味では持っているかもしれない。しかしそれは『君』が考える優しさではないだろうね」
「なにが……言いたいの……? まさか、イザヤが殺し合いに乗っていたとでも……」
「彼は別に殺し合いに乗っていたわけではないとも。
彼はただ人間らしく生きているのだよ。
彼はある一人を除く全ての人間が好きで、ある一人を除く全ての人間を愛し、
そして誰よりも自らの為に全てを切り捨てる事が出来る。
彼はそんな人間にすぎないのだからね」
闇の底から煮えたぎる泥の如き真実を汲み上げていく。
「その……その一人って……誰なの?」
神野は嗤った。
口元を吊り上げ、歪め、禍々しいまでに満面の笑みを浮かべて。
おぞましき真実をぶちまけた。
「――平和島静雄」
「――――!!」
シャナの脳裏に甦った優しげな言葉は。
 「シズちゃんにはさ、俺のほかにもう一人、親友が居るんだ。
セルティって言ってね、見た目はちょっと変わってるんだけど……」
セルティって言ってね、見た目はちょっと変わってるんだけど……」
一瞬で粉砕されて砕け散る。
「折原臨也は君を利用したのだよ。
セルティの居る集団に潜り込んで自らの身を護るためにね。
そして彼は、彼を知るセルティの言葉により警戒されながらもあの集団に入り込む事になる」
セルティの居る集団に潜り込んで自らの身を護るためにね。
そして彼は、彼を知るセルティの言葉により警戒されながらもあの集団に入り込む事になる」
「そ、それでも……静雄を殺したのは……」
「そう、間違いなく君だとも。その罪も苦しみも君のものだ。
折原臨也は彼を死なせない手段を持ちながら、ただ敵が殺されるのを見ていただけなのだよ」
「………………」
臨也に対して怒れる筈がなかった。
結局は静雄を殺したのは自分である事には変わり無いのだから。
ただ罪の意識に、怯えた。
(わたしは……あの人達の所に、一体何者を行かせてしまったの?
それも、自分から頼んで……!)
シャナにはそれが明確な罪なのかは判らない。
臨也がどういう存在なのか理解できない。
「そう、君がした、彼を行かせたという行為の意味を理解するのは難しいだろう」
だから神野は教えた。
「なにせ彼は別にこのゲームに乗っているわけではないのだからね。
積極的に人を殺そうとしているわけでもない。
しかしそれでも彼が危険な存在だという事は間違いのない事だ。
だから君の望む答えの為に……彼と君達の因果をお見せしよう」
「そう、間違いなく君だとも。その罪も苦しみも君のものだ。
折原臨也は彼を死なせない手段を持ちながら、ただ敵が殺されるのを見ていただけなのだよ」
「………………」
臨也に対して怒れる筈がなかった。
結局は静雄を殺したのは自分である事には変わり無いのだから。
ただ罪の意識に、怯えた。
(わたしは……あの人達の所に、一体何者を行かせてしまったの?
それも、自分から頼んで……!)
シャナにはそれが明確な罪なのかは判らない。
臨也がどういう存在なのか理解できない。
「そう、君がした、彼を行かせたという行為の意味を理解するのは難しいだろう」
だから神野は教えた。
「なにせ彼は別にこのゲームに乗っているわけではないのだからね。
積極的に人を殺そうとしているわけでもない。
しかしそれでも彼が危険な存在だという事は間違いのない事だ。
だから君の望む答えの為に……彼と君達の因果をお見せしよう」
そして、情景が爆発した。
ダナティアが、ゲーム開始直後に一人の少年と一人の少女と行動を共にしていた。
いーちゃんという少年と、朝比奈みくるという少女だった
ダナティアが僅かにその場を離れた間にみくるは少しだけ別行動を取って。
――折原臨也に殺された。
いーちゃんという少年と、朝比奈みくるという少女だった
ダナティアが僅かにその場を離れた間にみくるは少しだけ別行動を取って。
――折原臨也に殺された。
一人の知らない女性が学校に居た。
だけど彼女は、仲間達にサラという名前で呼ばれた。……彼女はダナティアの親友なのだ。
そこに折原臨也を連れたマージョリー・ドーが襲撃してきた。
シャナの知る、時折過激な思考に走る事も有る強力なフレイムヘイズだ。
彼女は折原臨也に陽動を行わせてサラと戦った。
マージョリーは強く、しかしサラも強かった。
シャナは驚きつつもそれをすんなりと受け入れる。
彼女が尊敬すらしたダナティアの親友の強さを信じられた。
サラはマージョリーに命を握られつつも彼女に重傷を与え、治療を引き替えに交渉を成功させて。
――折原臨也に撃たれて、死んだ。
だけど彼女は、仲間達にサラという名前で呼ばれた。……彼女はダナティアの親友なのだ。
そこに折原臨也を連れたマージョリー・ドーが襲撃してきた。
シャナの知る、時折過激な思考に走る事も有る強力なフレイムヘイズだ。
彼女は折原臨也に陽動を行わせてサラと戦った。
マージョリーは強く、しかしサラも強かった。
シャナは驚きつつもそれをすんなりと受け入れる。
彼女が尊敬すらしたダナティアの親友の強さを信じられた。
サラはマージョリーに命を握られつつも彼女に重傷を与え、治療を引き替えに交渉を成功させて。
――折原臨也に撃たれて、死んだ。
他にも無数の死が流れさった。
神野が言う通り、臨也はゲームに乗ったとは言えなかった。
朝比奈みくるの殺害は24時間制限の為で、死者が出続ける限りもっと殺すつもりはなかった。
学校の襲撃はマージョリーに引きずられて行った事だった。
サラを殺した理由はマージョリーの同盟に乗ってやっただけ、
間接的にマージョリーを殺したのは足手まといを始末しただけ。
他の無数の死も全て、厳密には殺し合いに乗ったとは言えなかった。
それでも彼の周囲の凄まじい勢いで死んでいく死の数を見て、シャナは理解した。
神野が言う通り、臨也はゲームに乗ったとは言えなかった。
朝比奈みくるの殺害は24時間制限の為で、死者が出続ける限りもっと殺すつもりはなかった。
学校の襲撃はマージョリーに引きずられて行った事だった。
サラを殺した理由はマージョリーの同盟に乗ってやっただけ、
間接的にマージョリーを殺したのは足手まといを始末しただけ。
他の無数の死も全て、厳密には殺し合いに乗ったとは言えなかった。
それでも彼の周囲の凄まじい勢いで死んでいく死の数を見て、シャナは理解した。
――折原臨也とはそういう人間なのだ。
全ての情景は罪へと変わる。
そんな存在をセルティ達の元に送ってしまったシャナの罪にすり替わる。
茉衣子が切り刻んだ志摩子に保胤が不死の酒を飲ませようとして、臨也がそれをすり替えた時。
「……もう、やめて」
とうとうシャナは激痛のあまり悲鳴をあげた。
「もう見たくない……もう、もう見せないで……! もういやああああぁあ!!」
瞬間。
全ての情景は闇へと消える。
全ては夜闇に呑み込まれ、静謐な暗黒だけが世界を埋め尽くす。
(見るんじゃなかった……望むんじゃなかった!
判っていたのに。わたしは何もできなかったって判ってたのに!!
後悔するって判ってたのに、どうしてこんな事を望んだの?
わたしはもう、ほんとうの事にも耐えられないって判っていたのに……!)
「それでもまだ、君の“望み”は終わっていない」
「終わりよ……わたしはもう、真実なんて望まない!」
「いいや、“望んで”いるとも」
神野は嗤う。
そんな存在をセルティ達の元に送ってしまったシャナの罪にすり替わる。
茉衣子が切り刻んだ志摩子に保胤が不死の酒を飲ませようとして、臨也がそれをすり替えた時。
「……もう、やめて」
とうとうシャナは激痛のあまり悲鳴をあげた。
「もう見たくない……もう、もう見せないで……! もういやああああぁあ!!」
瞬間。
全ての情景は闇へと消える。
全ては夜闇に呑み込まれ、静謐な暗黒だけが世界を埋め尽くす。
(見るんじゃなかった……望むんじゃなかった!
判っていたのに。わたしは何もできなかったって判ってたのに!!
後悔するって判ってたのに、どうしてこんな事を望んだの?
わたしはもう、ほんとうの事にも耐えられないって判っていたのに……!)
「それでもまだ、君の“望み”は終わっていない」
「終わりよ……わたしはもう、真実なんて望まない!」
「いいや、“望んで”いるとも」
神野は嗤う。
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