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暗示とは何か

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匿名ユーザー

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催眠の半分は,暗示で出来ています.と言われるほど,催眠と暗示とは関わりが深いです.しかし,暗示について深く議論される事はあまりありません.何故なら,催眠に興味を持つ誰もが暗示よりも催眠の誘導法の方が気になるからです.けれども,実際の所,暗示は催眠に置いてとても重要な意味を持ちます.この章では,暗示について考えてみたいと思います.

○○に効く暗示は何ですか? と聞かれることがあります.しかし,私はこの質問に答えることが出来ません.暗示は,魔法の呪文ではないです.その言葉を言えば,必ず効くというようなものは存在しません.

少し考えてみればわかるのですが,催眠暗示の文章は普通じゃありません.「あなたはだんだん眠くなる」「あなたは立てなくなる」という暗示を,日常生活でいきなり言ったら,ただの変人だと思われるでしょう.そして,絶対にその暗示は効きません.このことからも,瞬間催眠なんて無いことがわかるのですが…….

では,どうして,普段ならヘンテコな暗示文が効力を発揮するときがあるのでしょう.ある催眠術師は,「催眠状態だからだ」と言いました.そうだとすると,催眠状態にするまでの言葉は催眠暗示ではないのでしょうか.それに,催眠状態という考え方は都合が良すぎて,すべてを説明できてしまいます.それは,とても非科学的なのでここでは,もうちょっと科学的な暗示について考えたいと思います.

言葉の意味とは,どうやって決まるでしょう.辞書に書いてある,と思う人は催眠には向いていないかもしれません.言葉が辞書以外の意味を持つことは,とても当たり前です.例えば,「バカ」という言葉は,辞書で言えば侮蔑の言葉です.しかし,カップルがいちゃつきながらやさしく「バカ」といっていたらどうでしょう.それは,侮蔑ではなく愛情表現になるでしょう.このように,言葉の意味は,その相手との関係やそのときの状況によって変わります.それが催眠の暗示とどう関わってくるでしょう.

実は催眠暗示も先に書いた例と同じように,その言葉の本当の意味ではなく相手に伝わっているのです.つまり「あなたは立てなくなる」という催眠暗示は,催眠者と被催眠者という関係,そして催眠誘導をしているという状況から本来の意味ではなく「あなたは立ってはいけない」という意味になっているのです.

催眠の暗示とは相手との関係,状況によって被催眠者がその言葉をどういう意味に捉えるか,が重要であって言葉自身の文法や言いまわしは,それほど重要ではありません.もちろん,より,相手に自分のさせたいことを理解させるために,暗示文を工夫することは必要ですが,それよりも,関係や状況が普通だとヘンテコな文章を,催眠暗示へと変えているということを理解するほうが,言いまわしを工夫するよりも100倍重要です.

では,どうやって,普通の文章を催眠暗示へと変えていくか具体的には技術の部で書きますが,ここでもいくつか書いておきます.ひとつは,繰り返すということです.「立ってはいけない」では,催眠暗示ではなく命令文です.その命令文を使わずに命令するには,「立てなくなる」を繰り返すことです.繰り返すことによって,相手にとってその言葉は命令になります.催眠術師が何度も暗示を繰り返すのは,こういう理由からだったのです.

ふたつめは,口調です.「バカ」の例の時,カップルは甘い声で「バカ」といいます.その口調によって,これはあなたを侮辱しているのではない,ということを主張してます.催眠暗示を言うときに,普段と同じ口調では,普段どおりの意味として被催眠者に理解されてしまいます.それでは催眠暗示になりません.なので,これは催眠暗示であって,あなたはこの文章の意味を催眠の暗示として理解してください,と口調で表現します.だから,催眠術師は皆ヘンテコな口調で暗示を言うのです.

他にも,様々な要因によって普通の文章が催眠暗示へと代わっていきます.けして,文章にすごい力があるわけではなく,その暗示を話す状況や相手との関係こそに,催眠暗示の力があるのです.

余談ですが,関係や状況によって,人がどのように態度を変えるかについては,催眠なんかよりも社会心理の方がよっぽど先の研究をしています.催眠は古いです.
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