ふわりと香るエリザリオ。
本来ならば『愛らしい』と評されるだろう顔立ちは、瞳の冷たさとあいまって鋭利な刃物の美しさを思わせる。
本来ならば『愛らしい』と評されるだろう顔立ちは、瞳の冷たさとあいまって鋭利な刃物の美しさを思わせる。
趣味の良い調度品が朝の光に影を落とす。一幅の絵のように美しい廊下に、けれど目もくれない様子でその女性は歩いていた。
乱れ無く整えられ、肩に流されているのは印象的な赤い髪だった。
地球軍総司令官アスラン=ザラの妻にして、『治安警察省の魔女』の異名をとるメイリン=ザラ・・・・身を包む制服からカツカツと音をたてる足元まで、全てが彼女の鎧だった。
地球軍総司令官アスラン=ザラの妻にして、『治安警察省の魔女』の異名をとるメイリン=ザラ・・・・身を包む制服からカツカツと音をたてる足元まで、全てが彼女の鎧だった。
赤い制服を着た姉のもとから去り、更にその死に関わってから、もう五年が経っていた。
その間メイリンは、なにものにも揺るがずただ前だけを見、敵対するものを踏みつけにしてきた。姉との思い出も友と過ごした日々も、いつしか奥底に封印してしまった・・・今はただ、ラクス様の為に正義を行わなければならないのだと。
それが。
先だってのテロ事件とその後の騒動、それらに関与したとされる人物の名前が、全てを揺り起こした。
その間メイリンは、なにものにも揺るがずただ前だけを見、敵対するものを踏みつけにしてきた。姉との思い出も友と過ごした日々も、いつしか奥底に封印してしまった・・・今はただ、ラクス様の為に正義を行わなければならないのだと。
それが。
先だってのテロ事件とその後の騒動、それらに関与したとされる人物の名前が、全てを揺り起こした。
心の奥底、恐怖に身を縮める少女を、五年のうちに培われた鎧で覆い固める。
(・・・・・・ラクス様の、為に)
心はもう、揺るぎはしなかった。
(・・・・・・ラクス様の、為に)
心はもう、揺るぎはしなかった。
玄関ホールには先客がいた。
夫のアスラ=ザラがちょうど帰宅したところだったのだ。
メイリンは表情を変えることなく、吹き抜けの階段を降りていく。
「・・ただいま」
彼女に振りかえり、アスランが優しい声音でそう言った。
優しいその響きがこんなにも空虚に聞こえるようになったのはいつのことだったか、もうメイリンは思い出そうとすらしなかった。
「おかえりなさい、アスラン」
冷たくはない、けれど表情の無い声で応える。ミネルバ時代の愛嬌に溢れる彼女を知る者なら、誰もが驚いただろう・・・・それを日常的に聞いている、アスラン以外は。
アスランは少し寂しげな、傷ついたような表情を浮かべる。
メイリンはそれに気付いたが、心には何も響かなかった。
「出かけるのか?」
「はい」
いつもこれで終わりになる筈の会話が、この日はもう少しだけ続いた。
さっさと玄関口へ向かったメイリンがすれ違いざまに、アスランが呟くように言ったからだった。
夫のアスラ=ザラがちょうど帰宅したところだったのだ。
メイリンは表情を変えることなく、吹き抜けの階段を降りていく。
「・・ただいま」
彼女に振りかえり、アスランが優しい声音でそう言った。
優しいその響きがこんなにも空虚に聞こえるようになったのはいつのことだったか、もうメイリンは思い出そうとすらしなかった。
「おかえりなさい、アスラン」
冷たくはない、けれど表情の無い声で応える。ミネルバ時代の愛嬌に溢れる彼女を知る者なら、誰もが驚いただろう・・・・それを日常的に聞いている、アスラン以外は。
アスランは少し寂しげな、傷ついたような表情を浮かべる。
メイリンはそれに気付いたが、心には何も響かなかった。
「出かけるのか?」
「はい」
いつもこれで終わりになる筈の会話が、この日はもう少しだけ続いた。
さっさと玄関口へ向かったメイリンがすれ違いざまに、アスランが呟くように言ったからだった。
「・・・・・・シンが・・・・・・・・・・・・」
メイリンは足を止めた。
だが振りかえりたくなどなかった。
振りかえり、あの時自分達がやったことは本当に正しかったのかなどと思い悩む夫の肩を抱き、私達は正しかったのだと言って俯いた顔をあげさせる?そんなのは真っ平だった。
だから振り向かず、極力抑えた声で、メイリンは一言ただ『はい』と答えた。
だが振りかえりたくなどなかった。
振りかえり、あの時自分達がやったことは本当に正しかったのかなどと思い悩む夫の肩を抱き、私達は正しかったのだと言って俯いた顔をあげさせる?そんなのは真っ平だった。
だから振り向かず、極力抑えた声で、メイリンは一言ただ『はい』と答えた。
はい、知ってます。
はい、わかってます。
はい、わかってます。
シンが来るということも。
あなたが何を考えているかも。
あなたが何を考えているかも。
裏切りという罪を共有する、一番近くて遠い場所にいる夫に。メイリンは背を向けたまま迎えの車に乗り込んだ。
そして部下からの報告に目を通しつつ、矢継ぎ早に質問をしては情報を確認していく。
「ライヒ長官から、連絡が入っております」
「繋いで」
光に包まれたオーブの地に、今日も魔女が降り立った。
<以下おまけ、アニメとしてのシナリオバージョン>
清潔で豪奢な廊下を、かっちりとした制服を着たフルメイクのメイリン・ザラが歩いてくる。
メイリンとライヒの音声のみ回想でかぶせる
『シン・アスカ・・・君にとっては懐かしい名前ということか?』
『・・はい』
『先日の件についてだが・・・』
『シン・アスカ・・・君にとっては懐かしい名前ということか?』
『・・はい』
『先日の件についてだが・・・』
ハイヒールの足音が近づくのと入れ替えに、フェードアウトしていく音声。
全身から、一度顔(半分)のアップをいれて場面切り替え。
全身から、一度顔(半分)のアップをいれて場面切り替え。
帰宅したばかりのアスランがいる玄関ホールへ、階段を降りてくるメイリン。
アスラン振り返る。
アスラン「ただいま」
アスラン「ただいま」
メイリン(ミネルバ時代からすると冷たい声で)「おかえりなさい、アスラン」
メイリン、階段を降りきる。
メイリン、階段を降りきる。
アスラン「出かけるのか?」
メイリン「はい」
きちんと目を合わせようともせず、素通りするように出て行こうとするメイリン。
メイリン「はい」
きちんと目を合わせようともせず、素通りするように出て行こうとするメイリン。
やや視線をそらし気味のアスラン、俯きながら
アスラン(弱々しい、苦渋に満ちたような声で)「・・・・・・シンが・・・・・・・・・・・・」
アスラン(弱々しい、苦渋に満ちたような声で)「・・・・・・シンが・・・・・・・・・・・・」
メイリン、肩をゆらし立ち止まる。振り向かないままの背中。1~2拍置いて
メイリン(低めの抑えた声で拒絶オーラいっぱいに)「はい」
メイリン(低めの抑えた声で拒絶オーラいっぱいに)「はい」
ぎくりと顔をあげたアスラン、手を伸ばそうとして引っ込める仕草。
アスラン「っ・・・・」
アスラン「っ・・・・」
メイリン、アスランに背を向けたまま車に乗り込む。車の窓越しの、無表情の美しい横顔。
部下(秘書?)からレジスタンス関連の報告を受け、それと同じ位の音量で
部下「ライヒ長官から、連絡が入っております」
メイリン「繋いで」
部下「ライヒ長官から、連絡が入っております」
メイリン「繋いで」
それにかぶせてメイリンモノローグ
『シン・・・・・・・・・・』
『シン・・・・・・・・・・』
レジのほうへでもバトンタッチでシーン終了。