「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

下積みって大事だよね

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気味が悪いと思われているのが半分。馬鹿にされているのが半分。
 ユウナ=ロマ=セイランに対する周囲からの評価はそんなものだった。

 珍妙な仮面については、先の戦争中に大怪我を負ったためだと知られていた
ため、同情も手伝ってあからさまにはやし立てる者はいない。
 しかしながら過剰に芝居臭い台詞回し、眠るときにはナイトキャップに抱き枕を
手放さず、カスピ海を行く船に乗せてみれば十分と立たずに船酔いに苦しんでしまう。

 こんな彼を見て、誰が彼をオーブ五大氏族の出身だと気付くだろうか。
ユウナ自身が周囲に正体を明かさなかったこともあるが、とりあえずこのレジスタンスに
おけるユウナの存在は、路傍の石より少しマシ、程度なのであった。

 東ユーラシア政府の圧制に耐えかねて、コーカサス独立軍が蜂起を目指したものの、その組織の脆弱さから治安警察に呆気なく鎮圧されて少し経った頃のことである。
 統一連合や現地政府に対する不満は消えておらず、反乱の火種は治安警察介入の以前よりもはるかに高まっている。
レジスタンスを虫けらのように駆逐する治安警察(ひいては統一連合)からも、その介入を跳ね除けられずにレジスタンスばかりに矛先を向ける現地政府からも、人々の心は完全に離れてしまっていた。

 だが、もともと民族や宗教が入り混じり、地理的にも連絡連携の取りにくい土地柄である。抵抗運動はどれも小規模な不満の噴出にとどまり、結局そのたびにあっけなく鎮圧されて終わり、ほとぼりの冷めた頃にまた運動が活発化する。そういったむなしい連鎖ばかりが続いていた。

 この「コーカサスの夜明け」を名乗る集団も、名前こそ立派だが、実態は単なる弱小レジスタンスの一つに過ぎず、たまに治安警察の詰め所を爆破したり、現地政府の悪徳役人宅に銃弾を撃ち込む程度の行動しかしていない。

 唯一の利点はリーダーの交友範囲が広く、過去のコーカサス独立軍主要メンバーのほとんどと連絡をとりあええるということだけだ。
しかしそこで主導権を発揮するようなまでの逸材ではないため、せっかくの利点も埃をかぶっている状態だった。

 そんな「コーカサスの夜明け」が三人の客を迎えたのはつい二ヶ月前のこと。
以前からレジスタンスに資金協力をしてくれている某スポンサーから、ぜひメンバーに加えてやってほしいと推薦を受けたのだ。

 一人は神経質そうな表情の眼鏡の男性だった。彼はサイと名乗り、メカニック関係に非凡な才能を発揮した。今では組織の機械で彼の手が入っていないものはないほどである。
 もう一人は本名が不明の女性。センセイと呼ばれている。
彼女は医師免許を持っているようで、医薬品が常に不足する現状にあって、最大限の治療をしてくれるとレジスタンスのみならず地元住民からも絶大な信頼を集めるにいたっている。
 そして、最後がユウナである。
 彼だけは、前掲の二人とは違い、レジスタンスでの存在意義を認められるにいたっていない。
事情は、すでに述べたとおり。この状況で、信頼を勝ち取るのは無理と言うものであろう。


 果たして、ユウナは何をしていたのか。雑用係に甘んじていたのである。
 昨日は皿洗い、今日は洗濯、明日は多分アジトの掃除であろう。とにかく人の嫌がる仕事を進んでやっていた。
 それも、嫌がるそぶりはまったくない。積極的に、かつとても楽しそうにやっていたのである。

 手際はとても誉められたものではない。はっきり言って、常人の二倍は時間がかかっている。
しかし、まるで初めて手伝いをする子供のように、何もかもが新鮮な体験のごとくしきりに感心をしながら、手を休めることなく熱意を持って雑用をこなしてゆくのだった。
 そのため、仮面のせいで気味悪がられたり、行動の奇妙さのせいで馬鹿にされたりしながらも、ユウナは完全に邪魔者扱いされるまでにはならなかった。
 それで、路傍の石よりはマシ、程度となったわけである。

「おい、ユウナさん、ちょっといいかい?」

 そう声をかけたのは「コーカサスの夜明け」のリーダー氏である。外見は単なる人好きのする中年男性だ。もっともその外見にたがわず、正体も単なる人好きのする中年男性である。
交友範囲の広さと、人当たりの柔らかさのおかげでリーダーに祭り上げられてはいるが、 ほんとうならば町内の自治会長あたりが似つかわしい人物だ。

 本人もそれを自覚してはいるのだが、 弱小レジスタンスでは他にリーダーになり手もいないのが現状なのである。
 リーダーに声をかけられ、ユウナは雑巾をしぼる手を止めた。今日は廊下の雑巾がけをやっていたらしい。

「まあ、こっちに座れや」

 彼は廊下の一隅にあった弾薬の空箱を指差した。ユウナは素直にそこに座る。リーダーもその隣に腰掛けた。

「相変わらず、精が出るな。そんなに掃除が楽しいかい?」

 半分皮肉混じりの台詞だったが、ユウナは表情を崩した。

「ええ、ええ、楽しいですとも。不肖このユウナ、今まで掃除がこれほど楽しいものだとは知らずに人生を過ごしてきました。まったくもって不徳の極み」
 ほうっておくと、世界における掃除の哲学的意義まで語りかねないユウナを制して、リーダーは言う。

「ま、まあ不徳の極みかどうかはいいけどよ」

 ため息をついて、話題を当初の意図したところに戻そうとする。

「普通、レジスタンスに参加する奴は、こんな仕事を嫌がるもんさ。治安警察や政府相手にドンパチやらかしたい血気盛んな奴ばかりだからな。雑用を言いつけると大体、そんなもんは女子供の仕事だと鼻にもかけないのが普通だ。なのに、アンタは嬉々としてその雑用をこなしている。それが不思議でたまらんのだよ」

 心底不思議そうに尋ねるリーダー。それに対して、ユウナが答える。

「ほほう、この仕事が女子供の仕事だと言う者がおりますか。それは不届き千万ですな。 私も故郷にいたころは、そんなものは召使がやるものと思っていましたが、これでなかなか、掃除に炊事に洗濯といった作業は奥深いものですよ」

「そんなに奥深いもんかねえ」

 少しため息混じりに言うリーダーに、ユウナはさらに言い募る。

「ええ、ええ、非常に奥深いですよ。このレジスタンスの構成人員が123人であることも、武装要員が111人に対して後方要員が12人とバランスがやや悪いことも、食料調達は十分でも弾薬の確保に苦慮していることもすべて分かります」

「そうそう、それに俺も苦労しているんだ、って、おい、ちょっと待て!」

 リーダーが血相を変えて立ち上がる。

「ど、どこでそんな情報をつかんだ! それは組織の中でも機密事項にあたる情報だぞ、まさかアンタ!」

ユウナはにらみつけてくるリーダーの視線を、平然と受け止める。普段つけている
仮面がこういうときには、なぜか相手に強い圧迫感を与える。

「なあに、洗濯物の数と種類を注意深く観察していれば、レジスタンスの構成人員などすぐに推測できます。その役割もね。
 掃除をしていれば、食料庫に比べて弾薬庫が空の時が多いことも明白です。料理の内容からも、食料には困っていない事実が分かりますし。雑用などと馬鹿にするものではないですよ。
日常生活では、人は嘘をつきませんから。色々と得られる情報も多いというものです。」

 理路整然と説明するユウナを、リーダーはただ呆然と眺めるだけであった。
 これを契機に、リーダーはユウナと話す機会が多くなり、その見識の広さと判断の正確さに舌を巻くようになる。
 重要な判断をするときには必ずユウナの意見を聞いてから判断するようになった。それが周囲にも徐々に知れ、ユウナはリーダーの参謀役としての地位を固めてゆくのであった。

 ユウナが、東ユーラシア最大のレジスタンス組織「リヴァイヴ」のリーダーとなるまでには、もう少しの時を待たなければならない。
それは、あらためて語る機会もあるだろう。

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