「……あの子、変わってるよねー……」
一人のクラスメイトがそう言う。
「そうそう、変わってる。……子供っぽいっていうのかな?」
もう一人のクラスメイトが肯定する。
「何て言うか、さ。恋愛話にもあんまり乗ってこないし、彼氏が居たって風でもないし。……ショッピングでも、付いてきてはくれるけど、なんかねー……」
「……今風じゃない?」
「それそれ、そうかも。良い子なんだけどねぇ」
一人のクラスメイトがそう言う。
「そうそう、変わってる。……子供っぽいっていうのかな?」
もう一人のクラスメイトが肯定する。
「何て言うか、さ。恋愛話にもあんまり乗ってこないし、彼氏が居たって風でもないし。……ショッピングでも、付いてきてはくれるけど、なんかねー……」
「……今風じゃない?」
「それそれ、そうかも。良い子なんだけどねぇ」
ソラ=ヒダカはその日、学校が終わると真っ直ぐに向かうところがあった。
「ソラねーちゃーん!」
その子達は、ソラを見つけると大声で騒ぎ出す。
「エルクー、サキー、ロイー!……ただいま、元気だった?」
子供達がわあっと、靴を脱いでいたソラにじゃれつく。
「……元気そうだね。……あ、ロイ。ちゃんと手を洗ってないでしょ!?泥だらけじゃない!」
ロイという子は、さっきまで泥遊びをしていたらしい。……他の子供達も似たようなものだが。
「エヘヘ………」
子供達は少しバツが悪そうな顔。とはいえソラにも怒る気は無い。
「ほらほら、まずはその汚れを何とかしないと。……さっさと脱いで、お風呂に入る!」
「ソラねーちゃーん!」
その子達は、ソラを見つけると大声で騒ぎ出す。
「エルクー、サキー、ロイー!……ただいま、元気だった?」
子供達がわあっと、靴を脱いでいたソラにじゃれつく。
「……元気そうだね。……あ、ロイ。ちゃんと手を洗ってないでしょ!?泥だらけじゃない!」
ロイという子は、さっきまで泥遊びをしていたらしい。……他の子供達も似たようなものだが。
「エヘヘ………」
子供達は少しバツが悪そうな顔。とはいえソラにも怒る気は無い。
「ほらほら、まずはその汚れを何とかしないと。……さっさと脱いで、お風呂に入る!」
子供達をお風呂に入れて、その間にソラは子供達の服と自分の制服(子供達が汚れた手のまま触ったから……)を洗濯する。洗剤を流し込み、手慣れた動作で洗濯機を動かす。
(……私の子供の頃から、この洗濯機だもの。大事に使ってるよね……)
ふと、古ぼけた小さな木製の台が目に入った。左右非対称の、おおよそ実用性に欠ける台。……忘れもしない、ソラが創ったものだった。
「捨てないで、取っておいてるんだ。……恥ずかしいなぁ……」
何となく手にとって、撫でてみる。下手な手並みで創られた台は、今見るといっそう情けない。
「これに乗らないと、洗濯機のスイッチに届かなかったんだものね……」
当時のソラは、一生懸命手伝おうとしてはいたが、大抵手伝いにはならなかった。小さな体で懸命に手伝うソラは見る者を喜ばせはしたが、安心感を得るには至らなかった。結局、シスターが脇でやきもきしながらソラの様子を見ている有様だった。
何となく、顔が綻んでくる。……と、そんな時。
「ソラー!石鹸はどこ?」
「ソラー!」
「ソラー!!」
「……いつもの場所に置いたよ!もう……」
感慨にもう少し浸りたかったが、あの小さなギャング団はそれを許さないだろう。
「夕食、早く取りかからないと……」
ソラは気を引き締めると厨房に向かった。
(……私の子供の頃から、この洗濯機だもの。大事に使ってるよね……)
ふと、古ぼけた小さな木製の台が目に入った。左右非対称の、おおよそ実用性に欠ける台。……忘れもしない、ソラが創ったものだった。
「捨てないで、取っておいてるんだ。……恥ずかしいなぁ……」
何となく手にとって、撫でてみる。下手な手並みで創られた台は、今見るといっそう情けない。
「これに乗らないと、洗濯機のスイッチに届かなかったんだものね……」
当時のソラは、一生懸命手伝おうとしてはいたが、大抵手伝いにはならなかった。小さな体で懸命に手伝うソラは見る者を喜ばせはしたが、安心感を得るには至らなかった。結局、シスターが脇でやきもきしながらソラの様子を見ている有様だった。
何となく、顔が綻んでくる。……と、そんな時。
「ソラー!石鹸はどこ?」
「ソラー!」
「ソラー!!」
「……いつもの場所に置いたよ!もう……」
感慨にもう少し浸りたかったが、あの小さなギャング団はそれを許さないだろう。
「夕食、早く取りかからないと……」
ソラは気を引き締めると厨房に向かった。
それは、ちょうど今から一週間前ーーー
「……先生!倒れたって聞いて……!」
ソラは病院のドアをばあんっとすごい勢いで開く。視線の先に、きょとんとした顔の先生を発見すると、ソラはへなへなと崩れ落ちた。
「ピンピンしてるじゃないですか……もう……」
ソラは一呼吸置くと、素知らぬ顔で花瓶に花を飾っていたヤンに向き直る。
「ヤン……?あんた、私に何てメール送ってきたっけ……?」
凄まじい殺気を感じ、ヤンは後ろに立つソラを恐る恐る振り返る。
「いや、まあ……倒れたのは本当だし……」
ヤンはハハハ、と乾いた笑いをするが……ソラは、怒りの鉄槌を遠慮無く振り下ろした。
「……先生!倒れたって聞いて……!」
ソラは病院のドアをばあんっとすごい勢いで開く。視線の先に、きょとんとした顔の先生を発見すると、ソラはへなへなと崩れ落ちた。
「ピンピンしてるじゃないですか……もう……」
ソラは一呼吸置くと、素知らぬ顔で花瓶に花を飾っていたヤンに向き直る。
「ヤン……?あんた、私に何てメール送ってきたっけ……?」
凄まじい殺気を感じ、ヤンは後ろに立つソラを恐る恐る振り返る。
「いや、まあ……倒れたのは本当だし……」
ヤンはハハハ、と乾いた笑いをするが……ソラは、怒りの鉄槌を遠慮無く振り下ろした。
「ヤンを許してあげてね、ソラ。……もう、十分反省している様だし……」
先生はベッドに腰掛けながら朗らかに言う。ソラはリンゴをナイフで剥きながら、
「……まあ、お尻ペンペンで許してあげます」
硬質の声ーーーヤンがそれを聞き、びくっと身を震わせる。
ヤンは他の子供達に比べれば年長の方だ。……とはいえ、やはりまだ子供だ。
はあっと、ソラは一つため息をつくと先生に向き直る。
「……でも、どうなさったんです?2週間も入院なんて……」
「ただの疲労よ。……たいした事じゃないわ」
ソラの剥いたリンゴを食べながら、先生。とはいえ、ソラから見れば確かに顔色が悪い。
「お疲れなんですよ……。今、孤児院は先生だけなんでしょう?」
二度に渡る戦乱―――それは確かにオーブにも疲労を与えていた。
「……でも、あの子達どうしているやら……」
「先生……」
先生にとって、子供達は大事な家族だ。……心配でない訳がない。それは、ソラにはとても理解できることだった。
だから、ソラの次の言葉は必然だったのだろう。
「先生、私が先生のお留守の間、子供達の面倒をみます」
決然と、ソラは先生に宣言した。
先生はベッドに腰掛けながら朗らかに言う。ソラはリンゴをナイフで剥きながら、
「……まあ、お尻ペンペンで許してあげます」
硬質の声ーーーヤンがそれを聞き、びくっと身を震わせる。
ヤンは他の子供達に比べれば年長の方だ。……とはいえ、やはりまだ子供だ。
はあっと、ソラは一つため息をつくと先生に向き直る。
「……でも、どうなさったんです?2週間も入院なんて……」
「ただの疲労よ。……たいした事じゃないわ」
ソラの剥いたリンゴを食べながら、先生。とはいえ、ソラから見れば確かに顔色が悪い。
「お疲れなんですよ……。今、孤児院は先生だけなんでしょう?」
二度に渡る戦乱―――それは確かにオーブにも疲労を与えていた。
「……でも、あの子達どうしているやら……」
「先生……」
先生にとって、子供達は大事な家族だ。……心配でない訳がない。それは、ソラにはとても理解できることだった。
だから、ソラの次の言葉は必然だったのだろう。
「先生、私が先生のお留守の間、子供達の面倒をみます」
決然と、ソラは先生に宣言した。
先生はもちろん反対したが、最終的には折れざるを得なかった。……確かに、先生は疲れていたのだ。
その日からソラは学業の傍ら、孤児院の面倒を見るようになった。
その日からソラは学業の傍ら、孤児院の面倒を見るようになった。
「……は~……」
(……疲れたぁ……)
ちびっ子ギャング達は、ソラの作った夕食をぺろりと平らげると、エネルギー切れの如く眠りについた。……ソラもエネルギー切れになりそうだったが。
「疲労で倒れる訳よね……」
(……私も、そうだったのかな……)
覚えては居ない。……だが、悪戯も勿論していたと思う。……思い出すと恥ずかしい。
子供達は、無邪気な顔で寝ていた。その顔をまじまじと見ていたら、何だか可笑しくなった。
「……私も寝ちゃお……」
どうせ明日は休日だ。ソラは子供達にちゃんと布団を掛けてあげると、自分も一緒に横になった。
(……疲れたぁ……)
ちびっ子ギャング達は、ソラの作った夕食をぺろりと平らげると、エネルギー切れの如く眠りについた。……ソラもエネルギー切れになりそうだったが。
「疲労で倒れる訳よね……」
(……私も、そうだったのかな……)
覚えては居ない。……だが、悪戯も勿論していたと思う。……思い出すと恥ずかしい。
子供達は、無邪気な顔で寝ていた。その顔をまじまじと見ていたら、何だか可笑しくなった。
「……私も寝ちゃお……」
どうせ明日は休日だ。ソラは子供達にちゃんと布団を掛けてあげると、自分も一緒に横になった。
子供達が起き出す前に、ソラは昨日洗った洗濯物を干し出した。
「今日も、良い天気になりそう……!」
見上げた空は、素晴らしく青空。突き抜けるような蒼穹の空だ。
ソラはこうして、空を見上げるのが好きだった。
「今日も、良い天気になりそう……!」
見上げた空は、素晴らしく青空。突き抜けるような蒼穹の空だ。
ソラはこうして、空を見上げるのが好きだった。
―――ソラ。どんな時でも、空を見上げてごらん。辛い時、悲しい時……どんな時でも。きっと空は、ソラの味方。何時もソラを助けてくれるから―――
それは、先生の教え。
その行為に、意味は無いとソラは思う。だけれども……確かに、その行為は心地良い。
辛い事は、たくさんあった。挫折する事も、嫌な事も。
でも、その度に空を見上げ……何故か、勇気が沸いてきた。
それは、先生の教えてくれた不思議な魔法。「どんな時でも元気になれる」魔法。
「……ン……」
風が、心地良い。
とても広くて、大きくて……自分が何処までも小さく感じられる空。
苦しんでも、悲しくても、それは世界の中の小さな小さな点。
そう理解出来る―――教えてくれる。
ソラは、大きく深呼吸すると、もう一度気合いを入れた。
「よぉっし、起きなさい!みんな!もう朝だよー!!」
その行為に、意味は無いとソラは思う。だけれども……確かに、その行為は心地良い。
辛い事は、たくさんあった。挫折する事も、嫌な事も。
でも、その度に空を見上げ……何故か、勇気が沸いてきた。
それは、先生の教えてくれた不思議な魔法。「どんな時でも元気になれる」魔法。
「……ン……」
風が、心地良い。
とても広くて、大きくて……自分が何処までも小さく感じられる空。
苦しんでも、悲しくても、それは世界の中の小さな小さな点。
そう理解出来る―――教えてくれる。
ソラは、大きく深呼吸すると、もう一度気合いを入れた。
「よぉっし、起きなさい!みんな!もう朝だよー!!」
それは小さな小さな、本当に小さな人の営み。
でも、それは同時に世界中を包む事も出来る―――
でも、それは同時に世界中を包む事も出来る―――