「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

狂戦士

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 『狂戦士』

 ………一体誰が、理解してくれるというのだろう。
 僕を………僕という罪深く、救いようの無い存在を………。

 「お疲れ様です!キラ様!!」
 今日も傷一つ無いエターナル=フリーダムから降り立った僕を、スタッフが迎えてくれる。彼らの顔は一様に明るく、朗らかだ。………だが、彼らは僕の本質を見ようとはしない。だから僕は彼らに相づちを打つだけだ。
 「ああ……、ありがとう。」
 少し疲れた顔をして、こう言ってみせる。そうすると決まってスタッフはこう答える。
 「あ…、申し訳ありません。お疲れですよね。」
 本当は、別に疲れている訳でも何でもない。ただ、一人になりたいだけだ。どうせ僕の事を理解してくれる人は、誰も居ないのだから。………ただ一人を除いて。
 コーディネイター。その言葉がどれほど忌まわしく、愚かしく思えることか。
 自分が『最高のコーディネイター』と知らされた時、なんと人間は愚かなことかと。
 ―――こんな僕が、最高傑作だって………?
 僕は、パイロットスーツのヘルメットを外すとスタッフの間をさっさと歩いていった。エターナル=フリーダムを見たくなかった。

 ―――狂戦士。
 “SEEDを持つ者”の別称。それは、高度なコーディネイトを施された者に顕現する特徴。
 狂戦士とは、戦い続ける者。敵も味方も無く、ただ戦うためだけの歪な存在。
 「そんな者が、存在することはおかしいことなんだ………。」
 僕は、鏡に映る自分の姿に呟く。
 キラ=ヤマト。人類最高のコーディネイターと呼ばれる存在。
 ピースガーディアンの象徴であり、最高のエースパイロット。最強のMS、エターナル=フリーダムを駆る者。美辞麗句は数多を数え、賛辞には事欠かない。だが、それらは何一つとして僕を喜ばせはしない。………そんなもの、全て捨てても良いとすら思う。だが、僕はたった一つのために、全てを投げ出せないで居た。
 ふと、僕専用のリラックスルーム(パイロット用の休憩室)に入ってきた者が居た。………考えるまでも無い。この部屋に入れる者は、僕と………世界にもう一人しか居ないのだから。
 「………ラクス。」
 ラクス=クライン。―――僕の伴侶。僕を受け止めてくれる人。………僕を理解することの出来る、唯一の人。
 「相変わらず、一人がお好きですのね。」
 ラクスが茶化すように言う。でも、そういう言い方は僕も嫌いじゃない。
 「長くフリーダムに乗ってるとね、一人になりたくなるんだよ。」
 「あら、まあ………じゃあいっそ、フリーダムを複座にします?」
 わざとらしく大げさな仕草で、ラクス。僕はその仕草に苦笑せざるを得ない。
 「………後ろで吐かれるだけだから、止めようよ………。」
 ラクスと居る時―――それは、僕が唯一僕で居られる時。この時を大事にしたいために………。

 ―――かって、マルキオ導師は僕に言った。
 「コーディネイターは、人の革新。しかし、それ故に人が決して触れてはいけない部分に触れてしまった。コーディネイターの究極とは………貴方という存在は、本来ならば決して生み出してはいけない者だったのですよ……。」
 コーディネイターとは、遺伝子レベルで人を環境に適応させる―――宇宙空間という過酷な生活環境に適応させるために生み出された技術だった。最初は骨格や筋肉等の肉体的な強化―――重力の無い環境なので、どうしても劣化してしまうので―――だけだった。だが、技術の発展は遺伝子レベルでの開発を可能とし“動物が本能的に物事を知っている”ように、機械に対する本質的な知識の刷り込みも行われるようになった。科学者達は、次々に現れる結果に有頂天となり、己の知識を総動員してコーディネイトという作業に埋没していった。………その結果、一人の科学者が『エデンのリンゴ』を囓ってしまったことも知らずに。
 “SEED”。
 そう命名された症状は、コーディネイターと呼ばれた人々の自由意志を奪いかねない物だった。
 “知識を遺伝子にすり込む”事が出来るのなら、“思いを遺伝子にすり込んだらどうなるか?”―――きっかけは、それだった。
 一人の人間に、もう一つの思い―――それは、歪な願い。理論では可能な、理屈では不可能な状態。だが、科学者達は止まる術を見いだせなかった。“刷り込まれる思い”は感情的な判断をしない、あくまでも“知識の集合体”なのだから問題ないだろう―――そう結論づけて。
 意図的に作り出せる二重人格。“SEED”とは、そういう物だった。
 それは、パニック状態や正常な思考が出来ない興奮状態に“無理矢理に正常な思考を執らせる”という目論見の元開発された。『あらゆる環境に対応し、瞬時に最も合理的な対策を立て、実行する』………それが、どんな結果をもたらすか考えもせずに。

 ―――貴方が優しいのは、貴方だからでしょう?
 その言葉が、どれほど救いだったことか。
 戦いの中で、僕は異様に冷静になれる―――自分では、何も考えていないのに。恐ろしく正確で、冷酷で、効率的で―――僕は、何もしていないのに。
 何かが、僕の中に居る―――そう感じたのは、何時だったろう。………心が弾ける度、恐怖で身が竦む度………“アイツ”が現れる。僕ではない、“アイツ”―――“狂戦士”。
 僕は、“アイツ”に勝てない―――“アイツ”の言うことは一々間違いないのだから。
 でも、“アイツ”を認めた時、僕は僕で無くなる………そう、思ってしまう。“アイツ”が敵のコクピットを狙う度、僕は狙いを外す―――僕が、僕であるための最後の抵抗。………ささやかな、それでも確かな願い。………誰も死んで欲しくなんか無い。だけど、僕の中の“アイツ”は………。
 僕は、フリーダムを見る度に思う。こいつによって『自由』を与えられたのは誰なのか、という事を。………こいつによって『自由』を奪われたのは誰なのか、という事を。

 「………どうしました?キラ。」
 気が付くと、ラクスが可愛くしゃがみ込んで、僕を覗き込んでいた。僕はびっくりして、物思いに捕らわれた思考を振り払う。
 「何でもないよ、ちょっとぼうっとしただけだから………。」
 ラクスはマルキオ導師から、僕の事を聞かされている。僕がどんな存在か、という事も。
 だから………ラクスが『何もかも捨てて、二人でどこかで暮らしましょう』と言ってくれた時、本当に嬉しかった。『僕』をちゃんと見てくれた―――僕という存在を知り、理解し、そして………救ってくれた。………ラクス=クライン。この人だけが………。
 僕は、ラクスの手を取ると―――その手に口づけをする。
 「………キ、キラ?」
 ラクスは、突然のことに顔を赤らめた。………それを見て、僕は続ける。
 「僕の愛する、親愛なる女王陛下―――貴方に永遠の忠誠を捧げますよ。」

 それは、他愛の無い子供の遊び。
 だけど、それは僕にとって―――永遠の誓い。
 “アイツ”―――“狂戦士”に全てを奪わせはしない。この命に代えても―――。

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