「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

私案版 第一話

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
「…ハァ…」

もう何度目になるだろうか。
ホイスは小さく息をこぼしながら、モニターに写る人の群れを見つめる。
今月に入って既に3回目となる、反政府デモだ。
この国は貧しい。過去の戦争の傷痕が未だに癒えず、
唯一の産業と言える地熱プラントは政府の管轄下に置かれている。
その事に不満を持つ国民は少なくない。
中には進んでゲリラに協力する者もいると言う。
今回の様なデモにはゲリラが一枚噛んでいる可能性は否定できない。
暴動へと発展する恐れもある為、監視としてMS隊が派遣される事が慣例となっていた。

うんざりとした気分でコクピットに座るホイスに、僚機から秘匿回線が開かれる。
自機と同型の青と白に彩られた細身のシルエット。
ウィンダムR2。CE73のロールアウト以来二度の改修を受け、
半ば旧式化しつつも旧連合圏で広く使用されている機体だ。

「景気の悪い顔をしているな。失恋でもしたか?
情報仕官のアニー少尉は辞めて起きたまえ。あれは手強いぞ?」

軽口と共に、いい加減見飽きた顔がディスプレイに映し出される。
ロッカ曹長。自分と同じく一月前にパイロットになった、同期メンバーだ。

「ああ、知ってるよ。先週誰かさんが玉砕したばかりだからな。…なんだよ?」
「さっきから辛気臭い溜息が聞こえてきてな。…なぁ、この任務にそんなに不満があるのか?」
──不満、か。そうだな…──

軍人の責務は国家と国民を守る事だ。少なくとも自分はそう考えている。
だが、今自分がしている事は何だ?
政府に不満を洩らす国民を威圧する為だけにMSのコクピットに座っている。

「当たり前だろ?武器も持たない市民をMSで威圧するなんて、軍人のやる事じゃない」
「そうか?コクピットに座ってるだけで特別手当が付くんだぜ?俺だったら大歓迎だ」

再び溜息。半ば呆れ顔で呟く。

「軽いヤツだな──お前」
「お前が固すぎるんだよ。俺が軍に入ったのは、軍に居れば飯が食えるからだ。
お前だってそうだろ?」

…確かにそうだ。この国で食いぶちを稼ぐには、それが一番手っ取り早い。

「…そういえば、お前知ってるか?またオーブからお客さんが来たらしいぜ」

唐突に~が話を変える。この話題はコレでお仕舞い、という事だ。

「オーブが?…又主権移譲でも迫ってきたのか?」

戦後、オーブは賛同国と共にオーブ統一連合を設立。
大西洋連合、ユーラシア連邦とも同盟を結び、世界で最も強い勢力を持つに至っている。
現在でも精力的に加盟国を求めており、未加盟国に話を持ちかけている。
…少々強引さが目立つ方法だが。

「どうせここの火力プラントが欲しいんだろ?発電施設を握れば、ユーラシアへの
発言権を今以上に強める事が出来るからな」

その言葉を遮るかのように、郊外から爆音が響く。
モニターを望遠に切り替える。11時方向に微かに黒煙が棚引いていた。

「…爆発?ゲリラか?」
「だろうな。…お人形さんが動いたぜ。俺たちはどうする?」

爆発を感知し、配備されていたPAが一機、黒煙の方向へと移動を開始する。

「次は街中であるかも知れない。俺が調査にでる。お前は待機していてくれ」

そうロッカに伝え、ホイスはウィンダムR2を発進させた。


最初の爆発から2分後、爆発地点から5km北で2度目の爆発が起こる。
爆発に導かれるように、PAは進路を修正、二度目の爆発地点へと機首を向ける。
──喰いついた!──
望遠レンズを覗いていたコニールが、ホバーバイクへと跨る。
後は爆発を餌に、PAを目的地まで誘導すればいい。
バイクを北へ走らせながら、起爆装置の3つ目のスイッチを押し込む。
爆発は…起こらなかった。

「…え?」

もう一度スイッチを押す。やはり反応しない。
思わず後方を振り返る。機影は確実にこちらへと近づきつつあった。

手にしたスティック状の携帯食料を一口齧る。
粘土のような食感と共に、形容しがたい味が口内に広がる。
二度の大戦を経て、地球の食料自給率は大幅に低下した。
食糧難に喘ぐ地球の為に、プラントが製造している安価な栄養補給剤。これがそれだ。
必要な栄養素は摂取できるものの…やはり、余り口にしたい物ではない。
シンは水を口に含み、それを強引に飲み下す。
時間を確認。後10分で目標と接触する。それまではここで息を潜めていればいい。
突然、コクピットに通信が入る。『相棒』からだ。作戦よりも5分以上早い。

「何だ?…普段は時間に五月蝿いくせに。──どうした、コニール?」
『──ン、…ジした!…イに追われてる!…6点に移動中!』

ノイズが酷い。地中に撃ち込まれたNJにより、通信が阻害されるからだ。

「─コニール!どうした、コニール!?」

再び音声が届く。今度は先程よりもはっきりと。

『──トレイに追われてる!N36地点に移動中!』
「あの馬鹿ッ!」

通信を最後まで聞く前に、シンは愛機を飛び立たせる。

後方に迫るPAが、停止と投降を呼びかけてくる。

──誰が!──

胸の中で毒づきながら、コニールはホバーバイクを全速で走らせる。
PAの対人用装備は主に二つ。トリモチ弾と電気銃だ。共に暴徒鎮圧に使用される。
その性質上、有効射程は短い。100mにも満たないだろう。
その一点だけがコニールの頼みの綱だった。
だが、バイクとMSではスピードが違う。PAは見る間に近づいてくる。
2500…2000…1500…1000…

──駄目かな…──

緊張に強張っていたコニールの表情が一転、満面の笑みへと変わる。

「──来たッ!」

少女の頭上を巨大な影が行き過ぎ、PAの眼前へと降り立つ。
着地と同時に地を蹴り、影はPAの右側面に回りこみ右腕からワイヤーを射出する。
ワイヤーがPAを絡め取ると同時に、影は右脚を引き旋回、空中のPAを引き落とす。
体勢を崩し、地に倒れ付すPA。立ち上がろうともがくその動きが、突然停止する。
ワイヤーから注ぎ込まれた電磁パルスが、PAの回路を寸断、機体をダウンさせたのだ。

「─無事か?」

眼前に立つ影。全高18mの巨人。
デュアル・アイとブレードアンテナを持つMS─【ダスト】から聞き馴染んだ声が響く。

「ゴメン、少しドジった。助かったよ」
「いいから早く乗れ」

差し出された巨大な掌に運ばれ、コニールはコクピットへと転がり込む。
シートの後ろに体を潜り込ませる。MSのコクピットは例外なく狭い。
密かにコンプレックスを抱いている肉の薄い体だが、こういう時には便利だ。

「怪我は…無さそうだな」

シートの上からシンが訪ねてくる。
ぶっきらぼうな口調は普段通りだが、声に微かな動揺が混じっている。

「少しね。…何、もしかして心配してくれてたの?」
「…少しな。追撃が来る前にここから離れるぞ」

悪戯めいた笑みを浮かべるコニールに、シンは憮然とした声で答える。

先行していたPAの反応が、不意に途絶える。
直後、その場から離れる熱源が一つ。

「この反応は…MSか?」

どうしたものかと思案を巡らせている所に通信が届く。

『ホイス軍曹。状況を報告しろ。ホイス軍曹。聞こえているか!』

隊長機──ロバート少尉の駆るウィンダムR2からだ。

『PA13号機の反応がN36地点で途絶えました。
直後に北へ移動する熱源を1、確認しています。ゲリラのMSと推測されます』
『…そうか。これより合流して追撃を行う。曹長はその場で待機だ、先走るなよ』

少尉の言葉にホイスは内心、胸を撫で下ろす。
意気込んで偵察に出たものの、彼は単独でMS戦を行うつもりなど無かった。
彼はMSパイロットに転向したばかりで、実戦経験など無かったのだ。

大型のMSトレーラーが一台、乾いた大地に砂塵を立てている。
積まれているのは頓挫したPA。他の機体は見えない。

「大丈夫かな、シンのヤツ…」

後方を振り返りながら、運転席でコニールは一人呟く。
ダストは今、単独で東部へと移動している。追撃を引き付ける為だ。

──アイツは…いつも無茶ばかりして!──

不安と焦燥感に駆られて、コニールは目一杯アクセルを踏み込む。

「この辺りは起伏が激しい。警戒を怠るなよ」

隊長機からの指示を受けて、ホイスとロッカの両名は再度各部モニターに視線を移す。
ユニウス戦役初期、地中に無数に打ち込まれたNJの影響により、
レーダーはその信頼性を大幅に減じていた。自ずと索敵での目視の重要性は増している。

「よう、ホイス軍曹。どっちが獲物を仕留めるか賭けないか?
落としたヤツにディナーを一週間奢るんだ。…どうだ?」

相変わらずのロッカの軽口だが、声に何処と無く緊張がある。

──アイツも怖いんだな──

自分もそうだ。背中にも、スティックを握る手にも汗が噴出している。
「二人ともよく聞け。敵は一機、こちらは3機。数の上ではこちらに分がある。
お前達は後ろで援護していればいい、落ち着いていけ」
隊長機─ロバート少尉からの通信を聞き、ほんの少し緊張が解ける。
そうだ、落ち着いて戦えば勝てる。

巨大な岩盤が幾つも乱立し、大地に複雑な陰影を刻んでいる。
その無数の影の一つに、シンとダストは居た。
敵機の接近に反応し、モニターが自動で望遠へと移行する。

「ウィンダムR2が3機、か。…そろそろ頃合だな」

マシンガンのセーフティを解除。
機体を潜めていた岩陰から飛び出すと同時に、銃口を上空に向ける。
無照準で斉射。この距離だ。当たるはずが無い。
ウィンダムR2がようやくダストに気付く。
ウィンダムR2のライフルがダストを捕捉するより早く、
シンはダストを岩壁の影に潜り込ませる。
この地形では、上空から射線は通らない。
シンの読み通り、ウィンダムR2はこちらへと接近してくる。

「来たな。…いい子だ」

シンは一人呟くと、『罠』を仕掛ける。

機体がオートパイロットで回避運動。マシンガンの弾幕を回避する。
岩陰から飛び出した敵機を追尾するも、敵機は小刻みに跳躍を繰り返し、
照準に機体を捕らえさせない。
敵機が岩陰へと身を隠し、射線が分厚い壁に遮られる。
岩陰から再び、マシンガンの弾幕がばら撒かれる。

「ちぃッ…側面から回り込む!援護しろ!」

ロバートの声に、ホイス、ロッカの二人はジェットストライカー両翼に備えられた
ミサイルを発射、隊長機へと続き、機体を加速させる。
放たれた矢は真直ぐに岩盤へと突き刺さり、爆炎の華を咲かせる。
ロバート機は爆発に紛れながら、岩盤を回り込み、ライフルを構え…動きを止める。

「居ない!?」

そこにあった物は、ワイヤーで固定されたマシンガンだけだった。

──何処だ?──

ロバートの全身に緊張が走る。全方位警戒。背部モニターに、一瞬影が映る。
ロバートは反射的に機体を翻し、銃口を影へと向ける。

ウィンダムR2がこちらに気付く。
機体を翻し、ライフルを構え…
その挙動は、シンには酷く緩慢な動きに思えた。

「遅いッ!」

敵機が銃口を向けるより速く。
ダストは大地を蹴り、矢のようにウィンダムR2へと肉薄、懐へと飛び込む。
左腕でライフルを跳ね上げると同時に、
右腕のアーマーシュナイダーをコクピットへと突き立てる。
非情だが、確実な一撃。搭乗者を失い、敵機は完全に沈黙する。
これで、一つ。
敵機と絡み合ったまま、後方のウィンダムへ向け左腕を一閃する。
投げ放たれた銀光は、そのまま敵機の胴体中央へと吸い込まれる。
直撃。アーマーシュナイダーは、易々とコクピット正面の装甲を貫いていた。
これで、二つ!
ダストは撃破したウィンダムから離れ、残る1機へと標的を移す。

何が起きたのかさえ、判らなかった。
敵機と接触し、僅か数秒。僅か数秒で2機のMSが地に倒れ付している。
正面に映るMSが、その紅い双眼をこちらへと向ける。
二つの眼とV字型のアンテナを持つ頭部。オーブ系列の機体に似たシルエット。

──アストレイ?──

麻痺した頭で、ぼんやりと敵機の名前を想像する。
敵機。そうだ。コイツだ。コイツがロッカを…隊長を…
震える手でコントロール・スティックを握り締める。

「…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

怒りか、それとも恐怖なのか。自分にも判らなかった。
正体の判らない激情に押されて、ホイスは『敵』に向けて引き金を引く。

ウィンダムがライフルを構える。
シンは銃口の向きから一瞬で射線を読み取り、間髪入れず機体を加速させる。
僅かに機体を傾ける。
すぐ脇をビームが通り過ぎ、コクピットのシンの横顔を蒼く染め上げる。

「これで…ッ!」

地を蹴ると同時にスラスターを噴射。既に右腕にはビームサーベルが輝いている。

「終わりだッ!!」

爆発的な加速で敵機へと切り込む。衝撃。
サーベルはウィンダムを貫き、コクピットごとパイロットを蒸発させていった。

スラスターの光忙を煌かせて、ダストは大きく跳躍する。向かう方角は北。
シンの帰るべき場所。

『仲間』の元へと。

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