荷物をまとめてみると、意外にもそれは鞄一つに収まる程度のものでしかなかった。
何もないものだな……5年をここで過ごしたと言うのに。
改めて見る自分の部屋は、全く持って殺風景なものだった。とても生きている人間の部屋とは思えない。
いや、それは正しい見方なのだろう。この5年間、私は死んだも同然だったのだから。
何もないものだな……5年をここで過ごしたと言うのに。
改めて見る自分の部屋は、全く持って殺風景なものだった。とても生きている人間の部屋とは思えない。
いや、それは正しい見方なのだろう。この5年間、私は死んだも同然だったのだから。
数日前、統一連合政府主席、カガリ・ユラ・アスハに対する暗殺未遂事件があった。政府の発表によれば、それはオセアニア系のテロ組織による犯行だという。事件による混乱は大きく、治安警察は犯行グループの摘発に躍起になっていた。
その事件の直前、私は治安警察に拘束されそうになった。おそらく、治安警察は事前に何らかの情報を掴み、怪しい人間に対する予防拘禁を実施していたのだろう。そして、怪しい人間となれば、私はリストの相当上位に入っていてもおかしくはない。
何しろ、私は5年前の戦争で、アスハはもちろん、ラクス・クラインとキラ・ヤマトの一党に対する撃滅作戦に携わっていたのだから。
その事件の直前、私は治安警察に拘束されそうになった。おそらく、治安警察は事前に何らかの情報を掴み、怪しい人間に対する予防拘禁を実施していたのだろう。そして、怪しい人間となれば、私はリストの相当上位に入っていてもおかしくはない。
何しろ、私は5年前の戦争で、アスハはもちろん、ラクス・クラインとキラ・ヤマトの一党に対する撃滅作戦に携わっていたのだから。
エンジェル・ダウン作戦。あれは私にとって一際大きな悔恨となって残る戦いだった。あれだけの犠牲を払いながら、ラクス・クラインとその一党を打ち倒す事に失敗したのだから。もしあれが成功していれば……絶好の好機にグラディスが情けを見せなければ。
……いや、故人を責めるのはよそう。作戦失敗の責めは私も負わねばならぬ物だ。
エンジェル・ダウン作戦の失敗。あれが我々ザフトが全てを失う端緒だった。見た目には確かに我々の勝利だったが、その実、ラクス一党は深海へと逃れ、逆襲の牙を研いでいたのだ。中途半端な成果に目を取られ、奴らの動きを見逃した結果が、あのメサイア攻防戦の大敗だった。
エンジェル・ダウン作戦の失敗。あれが我々ザフトが全てを失う端緒だった。見た目には確かに我々の勝利だったが、その実、ラクス一党は深海へと逃れ、逆襲の牙を研いでいたのだ。中途半端な成果に目を取られ、奴らの動きを見逃した結果が、あのメサイア攻防戦の大敗だった。
ラクスの演説に惑わされた兵たちの大量離反。悪鬼のごとき【ストライクフリーダム】の猛攻。我が方の最強部隊だったミネルバ隊の壊滅……まるで現実とは思えない、悪夢のような戦い……それでも、私を含めて議長に忠誠を誓う「真のザフト」は戦い続けた。
だが、私たちは敗れた。
メサイアは陥ち、議長は戦死された。祖国はオーブに併合され、異論を唱える事すら許されなかった。
最後まで祖国への忠誠を貫いた私たちは叛逆者の手によって裁かれ、全ての名誉を奪われ放逐された。それはまだ良い。私一人の事であれば我慢も出来る。
最後まで祖国への忠誠を貫いた私たちは叛逆者の手によって裁かれ、全ての名誉を奪われ放逐された。それはまだ良い。私一人の事であれば我慢も出来る。
だが、議長の無念を思えば、ラクス一党の振る舞いは許せなかった。奴らは議長の提唱された「ディスティニープラン」を人々を隷属させるものとして拒んだはずだ。しかし、実際に権力の座に就いた彼らのした事こそ、まさに人々を奴隷の座に貶めるものでしかなかったではないか。
滅びた祖国を見るに偲びず、わざわざ「敵地」とも言うべきオーブに移り住んだ私が見てきたのは、これほどまでに世界を荒廃させたラクス一党の言う事に疑いすら抱かず、精神を彼らに隷属させた人々の姿だった。その異常さを訴える私には、嘲笑と、時には暴力が向けられた。
あの日……数日前に予防拘禁を受けたその時、私はこの世界に絶望しかけていた。飛んでくる拳と足蹴にさらされながら、もう死んでもいいとさえ思っていた。
だが……私は見てしまったのだ。まだ絶望していない者を。抗い続ける者を。
だが……私は見てしまったのだ。まだ絶望していない者を。抗い続ける者を。
シン・アスカ。
エンジェル・ダウン作戦で共に戦った、あの青年が生きていた。彼は戦う事を諦めてはいなかった。赤い瞳の奥に、まだ炎を燃やしつづけていた。
それが、私の心にも火をつけたのだ。
そうだ。私はまだ生きている。生きている間は戦える。私は指揮官だった頃、部下の将兵に「諦めろ」とは命令しなかった。その私が戦う事を諦めては、死んでいった者たちに顔向けできない。
ならば生きよう。戦おう。死ぬならばその後でも遅くはない。
クローゼットの奥から取り出した制服に腕を通す。ずいぶんとサイズが合わなくなっている事に苦笑する。鏡を見れば、あの頃の私よりもずいぶんやつれた姿が、そこにはあった。まだ残る顔の痣や傷とあいまって、まるで地獄の亡者のようにも見える。
まぁ、それも良いだろう。五年前のあの日以来の「死」から蘇った私は、ラクス一党からすればゾンビのようなものだ。撃たれても突かれてもしぶとく食い下がり、ついには犠牲者の喉笛を食い破るあの怪物のように――
必ず、ラクス一党の天下を覆してみせる。
さぁ、行こう。戦いの準備は整った。まずはレジスタンスに渡りをつけねばなるまい。どこへ行けばいいか……この街の地勢と環境、治安警察の動きから見て……
そして、私は歩き出した。
新しい戦場へ向かって――。
新しい戦場へ向かって――。