「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第5話「真実と嘘」Aパート

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ぼんやりと椅子に座って天井を眺めている。何をするわけでもなく。
そして時折、小声で何かをつぶやく。言葉に意味はない。自分でも何を言っているか分かっていないのかもしれない。
そうかと思えば、いつの間にかベッドで膝をかかえている。
スカートの裾を弄んでいる。
でも、特にそれでどうしようという訳ではない様だ。
やがて、窓の外の風景を眺める。
しかし、広がるのは延々と連なる岩と砂。
そして山々。
楽しいはずはない。
それでもずっと目を向けている。

《……とまあ、こんな具合なのだが》
「うーん、それで貴方との会話はなし?」
《皆無ではないが少ないな。ここに来た時から、減る一方だ》
「あまり良い状況ではないわね。何とか気分転換をさせてあげたいけど」

リヴァイブ基地の一隅、医務室での会話。
レイの報告を受けていたセンセイは顎に人差し指をあてる。
彼女が考え事をしているときの癖だ。
それまで黙って二人の会話を聞いていたシゲトが手をあげて発言する。

「次の買い出しのついでに、街に連れて行ってあげればいいと思いますけど。俺、エスコートしますよ?」

それにすかさずコニールが駄目出しをする。別にシゲトの下心に気付いたわけではない。

「外出はNG。アジトの外に出ないことが彼女をここに置く条件の一つ。これはこの前の会議で決まったことだよ。秘密保持のためにはかわいそうだけど仕方ない」
「でもさ、こんな所で軟禁じゃ、とても気分転換なんてできないよ」
「分かっているわよ。だからこうして、皆でない知恵絞って考えているんでしょうが」

ソラの監視役を仰せつかったのはレイ、センセイ、コニール、シゲトの四名だった。

いくらシンが巻き込んだとは言え、足手まといにしかならないソラを厄介がるリヴァイブのメンバーは多い。
秘密保持のためということで、剣呑な提案をするような輩もいた。
当然ロマは却下したものの、監視役を付けるというのはそういった声にも配慮してのことだろう。
ただし人選からも分かるように、監視だけでなくソラの生活のケアも目的としている。
その監視の中で、レイからもたらされたのが冒頭の情報であった。
その意味するところは、心理学に明るいセンセイでなくとも明白だった。
ソラは慣れない生活で、ストレスがたまっているのである。

確かに、今まで温暖で豊かなオーブで平和に暮らしていた少女が、いきなり東ユーラシアという過酷な環境に放り込まれたのだ。
おまけに、周囲では日常的にモビルスーツが大砲を撃ち合うような状況である。
心理的な負担がない方がおかしい。
ただ、コニールが言ったように、今のソラに自由な行動を認めるわけにはいかないのも事実。
ソラのことも心配だが、さりとてリヴァイブのメンバーに不満を抱かせるわけにもいかず、四人は頭を悩ませているのだった。

「まあ、すぐに答えの出る問題でもないでしょう。みんな自分の仕事もあるし、お昼が済んでからもう一度集まりましょう

センセイの言葉で、四者会談はお開きとなった。
答えの出なかった苛立ちからか、シゲトが毒を吐く。

「昼飯かあ、そういえば今日の夕食は最悪なんだよな。当番がリーダーと大尉なんだぜ?あの二人の味オンチは筋金入りなんだから。まったく、勘弁してほしいよ」

コニールは苦笑いする。確かにあの二人の作る料理はお世辞にも美味しいとは言えない。
二人とも味覚がちょっとおかしいのでは、と思わせるほどなのだ。
ちなみに、過去にコニールが大尉に得意料理がないかと聞いたとき、真面目な顔をしてこう答えている。

「ジャングルで戦っていたときに、ヘビ料理で飢えをしのいだことがあってな。あれなら自信があるぞ」

食べられるだけ幸せと思わなければいけないのだろうが、やはり食事は美味しい方がいいに決まっている。
今日のコニールは当番が免除の日なので、できれば二人と代わりたいぐらいだが「緊急時でない限り当番を勝手に代わったりしないように」というのがリヴァイブの決まりである。
一応メンバーの仕事状況が把握できないからという立派な理由はあるが、ロマはああ見えて本当に仲間思いな男なので、本音は戦後リヴァイブが解散しても、皆が自立して生活できるようにと考えているのだろう。
……多分。
そこまで考えて、コニールはこの状況を打破する良い考えを思いついた。
夕食をおいしく、そしてソラのガス抜きができる一石二鳥の作戦を。

「みんな、ちょっと待って。アタシ考えたんだけどさあ」

コニールの出したアイデアはこうだ。


○ 作戦の第一段階→とりあえずソラを部屋から連れ出す。よく事情の飲み込めないソラは不審に思うだろうが、それはとりあえず気にしない。

○ 第二段階→食材を前に、今まさに料理にとりかかろうとするリーダーと大尉を厨房から追い出す。「当番交代は禁止ですよお」とリーダーは言うだろうが、無視。それでも何か言うようだったら、「ソラちゃんはうちのメンバーではないので、交代にはなりません」とセンセイがにっこり微笑みながら言う。屁理屈もここに極まれりだが、これでリーダーと大尉は黙る。

○ 第三段階→コニールとソラ。料理を作る。オーブにいる頃は自炊経験があることは、レイが会話の中ですでに聞いている。女の子のすべてが料理好きなわけではないだろうが、部屋の中で鬱々としているよりははるかにマシであろう。


皆、アイデアに賛成した。否定する理由はなかったし、何より「夕食をおいしく食べられる」という所が特に気に入ったようだ。
かくしてソラのストレス解消作戦がはじまった。



夕刻、食堂はまるで葬儀中の様に重苦しい空気に包まれていた。

「俺達も必死に当番をずらす努力をしてきたが、残念ながらこの日を迎える事になった。とりあえず俺から言えることは、食事が終わったらすぐに歯磨き、うがいをしろってことだけだ。ちなみに吐いた奴は大尉からありがたい説教1時間コースがプレゼントされるから楽しみにしとけ」

そう周囲の面々に説いて回る少尉の言葉は冗談にしか聞こえないが、目が笑っていない。
付き合いが長い分、大尉の味音痴は身にしみて分かっているのだろう。
そしてもう一人、大尉との親交が深い中尉。
こちらは少尉とは違って静かにペーパーブックを読んでいるが、よく見ると目が泳いでいる。
それを見たサイが、無理もないとため息を付く。
以前サイはロマから自慢の手料理を振舞われた時の記憶を蘇らせていた。
その時の料理は子羊の香草包み焼きスカンジナビア風味。
サイが子羊と香草とスカンジナビア料理に偏見を持つようになったのはそれからだ。

やがて食事が運ばれてきた。これから起きるであろう惨劇に怯えていたメンバーは、食事当番のリーダーと大尉ではなくコニールとソラが料理を運んできたことにすら気付かない。
食欲をそそる良い匂いがしていたが「匂いで誤魔化されるな、本当の地獄はこれからだ……」という少尉の呟きが、わずかばかりの期待を彼らから奪い去る。

そしてロマの合図とともに、皆スプーンを口に運んだ。



苦痛と思っていた瞬間が喜びに変わったとき、人は叫ばずにはいられないものである。
地獄から天国へ。まさに今のリヴァイブメンバーがそれだった。

「……うおおっ!何だ、これは!」
「うそだ、おかしい、そんなはずはない。でも、美味い、これは美味いぞーっ!」
「ああ、これが夢なら覚めないで!」
「きちんと豆とジャガイモのスープの味がする。奇跡が起こった!」

感激の悲鳴が次々と出てくる。ロマと大尉が何故か複雑な顔をしている他は、食堂にいる面々に歓喜の表情があふれていた。これまでどんな料理を食べさせられてきたのか、想像するのがちょっと怖くなる光景である。
喧騒が多少収まったのを見計らって、センセイが手を叩いて皆の注意を集めた。

「ちょっと聞いてください。みんなも薄々気付いている通り、今日の料理は当番のリーダーと大尉が作ったものではありません」

そして、後ろに隠れるようにして立っていたソラを前に出るように促す。

「この、ソラさんが作ってくれたものです。というわけで、みなさん感謝の気持ちを忘れないように。以上です」

「「「おお~~!!」」」

食堂に集まったメンバー全員が一斉に歓声をあげた。
真っ先に少尉が駆け寄る。
ソラの両手を掴みその目を潤ませながら、ありがとう、ありがとうと何度も何度も繰り返す。
中尉もいつの間にかその横に立ち、深々とソラに頭を下げていた。
サイはソラの肩をたたきながら、君のおかげで救われた、としみじみと言う。
大げさなのになると、「悪夢のような夕食がまとも物になりました。ありがとうございます」と、神に祈りを捧げる輩までいる。
とにかく今までに受けた被害(?)が大きい人間ほど、ソラの料理はありがたかったらしい。
特に古参メンバー達からは盛大な拍手と歓声が沸き起こった程で、リヴァイブの人間の誰もがソラに感謝していた。

厳しい現実から逃避したい気持ちも手伝い、確かにソラは真剣に料理に取り組んだがまさかここまで感謝されるとは思っていなかったのだろう、驚き戸惑っている。
ただ驚きはあるものの、料理を誉められて悪い気持ちはしないうようだ。
ついこぼれたソラの笑みを見て、先生とコニールとシゲトが「作戦成功」とアイコンタクトで語り合った。
その笑みが一気にこわばる。
黙々と食事を続けていたシンが立ち上がったのだ。
そして食堂の出口――すなわちソラたちの方に向かってくる。相変わらずの仏頂面だ。

(こらー、せっかくいい雰囲気になったのに、ぶち壊しに来るんじゃない!)

コニールがあっち行けと手を振るが、シンは躊躇しない。そのまま出口へと歩いていく。

「…………」

ソラとすれ違うとき、シンが何か言った。その声は小さくて、ソラ以外には聞き取れない。そのまま去り行くシン。ソラはその方向を眺めている。ぼんやりと。

「あ、あの、大丈夫?シンの奴、何かひどいこと言った?」

腫れ物に触るような声でシゲトが尋ねる。しかし、ソラの言葉は予想外のものだった。

「ううん……『とても美味しかった、ご馳走様』って」

それを聞いて、もう一度監視役の三人が顔を見合わせた。皆一様に驚いている。
食事は栄養が取れればそれで十分、と普段から言ってはばからないシンが、出された料理を美味しいと誉めるなど、リヴァイブ始まって以来の珍事であったからだった。

ともあれ、ソラの料理は予想外の好評をもって迎え入れられた(最期まで納得のいかない輩が約二名ほどはいたものの)。そしてソラの希望もありこの日から、料理当番の順番表にソラの名前が書き加えられたのであった。

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