今夜は本当に静かだ。
いつもは賑わうこの街も、今はゴーストタウン状態。街の光が妙に眩しく感じる。
まるでこの世に一人取り残されたかのような錯覚に陥る。
シンとした空気を破るのは、遠くから微かに聞こえる男の人の声とMSの機械音。
あまりいい音ではないけれど、私を現実に引き止めておくにはそれで十分でした。
オーブは現在、避難勧告が出されています。
詳しい原因は知らされていませんが、少し前に耳にしたのはテロリストという単語。
国民は各々の避難所に避難し、そしてその結果がこの街の様子です。
そんな中、私は路地裏を一人で歩いています。
幸い月も明るいせいか、あまり目に苦労はしていません。
いつもは賑わうこの街も、今はゴーストタウン状態。街の光が妙に眩しく感じる。
まるでこの世に一人取り残されたかのような錯覚に陥る。
シンとした空気を破るのは、遠くから微かに聞こえる男の人の声とMSの機械音。
あまりいい音ではないけれど、私を現実に引き止めておくにはそれで十分でした。
オーブは現在、避難勧告が出されています。
詳しい原因は知らされていませんが、少し前に耳にしたのはテロリストという単語。
国民は各々の避難所に避難し、そしてその結果がこの街の様子です。
そんな中、私は路地裏を一人で歩いています。
幸い月も明るいせいか、あまり目に苦労はしていません。
私が非常時にこんなことをしているのは、ある人を見かけたからです。
少し時間を遡る。
広場での一件後、私は仕事場に行っていました。
しかし仕事中にそのことを思い出してあまり集中できませんでした。
その帰り道に突然、街中のディスプレイがカガリ様一色に染まったのです。
「突然の事で申し訳ない。現在オーブにはテロリストが潜伏している。今後の体制を考え、
国民の皆さんには一時的に避難していただきたい」
と、確かこのようなことを仰っていた気がします。
その言葉に従い、人々が流れていく様に移動し始めました。
私もその流れに身を任せようとした時、ふと視界に入ったのは路地裏に消えていく黒の人。
人々が流れていくその中で一人、身動きせずにその人が消えた方向を見つめる。
気がつけば、その人を追うように足を運んでいました。
少し時間を遡る。
広場での一件後、私は仕事場に行っていました。
しかし仕事中にそのことを思い出してあまり集中できませんでした。
その帰り道に突然、街中のディスプレイがカガリ様一色に染まったのです。
「突然の事で申し訳ない。現在オーブにはテロリストが潜伏している。今後の体制を考え、
国民の皆さんには一時的に避難していただきたい」
と、確かこのようなことを仰っていた気がします。
その言葉に従い、人々が流れていく様に移動し始めました。
私もその流れに身を任せようとした時、ふと視界に入ったのは路地裏に消えていく黒の人。
人々が流れていくその中で一人、身動きせずにその人が消えた方向を見つめる。
気がつけば、その人を追うように足を運んでいました。
しかし、いつになっても見つからない。
そろそろ避難所に向かおうか、などと考え始めたところで視線を止めた。
目の前にあるのは……倉庫でしょうか。
視線の先はそれではありません。私の視線は少し古びたそれの扉の下、真新しい赤い染みに向けられていた。
それは決して大きくはなく、取るに足らないものでしたが、血を連想させるにはそれだけで十分でした。
私は引き寄せられるように扉に近づき……何かに操られるようにドアノブに手をかけ……
――自らの意思で扉を開けました。
そろそろ避難所に向かおうか、などと考え始めたところで視線を止めた。
目の前にあるのは……倉庫でしょうか。
視線の先はそれではありません。私の視線は少し古びたそれの扉の下、真新しい赤い染みに向けられていた。
それは決して大きくはなく、取るに足らないものでしたが、血を連想させるにはそれだけで十分でした。
私は引き寄せられるように扉に近づき……何かに操られるようにドアノブに手をかけ……
――自らの意思で扉を開けました。
驚きは両者のもの。突然の来訪者に驚き男の人は銃を向け、俊敏な動きで男の人に銃を向けられ驚く私。
息を呑む。動けない、動けば撃たれる。私の中の本能が警報を鳴らす。
高いところにあるらしい窓からは、街のものか月のものかの光が降り注ぎ、
暗闇の中でもなんとか黒い服を着た男の人の姿を捉えることができた。
「どうしてこんな所にいる?避難勧告は出ていただろう」
男の人は自らを落ち着けるように低い声で問う。
どうして、と聞かれて何と答えればいいのだろうか。
引き寄せられるようにこの人を追った私。正直返答に困る。
答えなければ現状から進まない。なら……今この気持ちを素直に伝えよう。
「け、怪我をしているんでしょう?」
やっと出た声は震えていた。恐怖を感じないといえば、それは嘘だ。
ふと、広場での一件を思い出す。
――大丈夫、この人は私を撃たない。
「怪我をしている人を放っておくなんてできません」
今度は、上手く言えたと思う。
息を呑む。動けない、動けば撃たれる。私の中の本能が警報を鳴らす。
高いところにあるらしい窓からは、街のものか月のものかの光が降り注ぎ、
暗闇の中でもなんとか黒い服を着た男の人の姿を捉えることができた。
「どうしてこんな所にいる?避難勧告は出ていただろう」
男の人は自らを落ち着けるように低い声で問う。
どうして、と聞かれて何と答えればいいのだろうか。
引き寄せられるようにこの人を追った私。正直返答に困る。
答えなければ現状から進まない。なら……今この気持ちを素直に伝えよう。
「け、怪我をしているんでしょう?」
やっと出た声は震えていた。恐怖を感じないといえば、それは嘘だ。
ふと、広場での一件を思い出す。
――大丈夫、この人は私を撃たない。
「怪我をしている人を放っておくなんてできません」
今度は、上手く言えたと思う。
沈黙が続く。互いを見つめる紅と蒼。
彼が拳銃を下ろして近づいてくる。心臓が一層高く鳴るのを感じました。
そして彼は――私の横を通り過ぎ扉を閉め、鍵をかけました。
「全く……」
彼は右手を額に当て、前髪をかき上げる。
そしてポツリと呟きました。
「今日は厄日だ」
彼が拳銃を下ろして近づいてくる。心臓が一層高く鳴るのを感じました。
そして彼は――私の横を通り過ぎ扉を閉め、鍵をかけました。
「全く……」
彼は右手を額に当て、前髪をかき上げる。
そしてポツリと呟きました。
「今日は厄日だ」
「これでよしっ、と」
隣の少女は包帯を巻き終わり安堵の溜め息を吐く。
薬箱を片付ける蒼い瞳の持ち主。
はっきり言ってこの状況の理解に苦しむ。
隣の少女は包帯を巻き終わり安堵の溜め息を吐く。
薬箱を片付ける蒼い瞳の持ち主。
はっきり言ってこの状況の理解に苦しむ。
式典強襲後、俺たちαチームは予想以上の包囲網に苦戦していた。
このままではチーム全体が危うくなる。そこで俺が囮になり、他のメンバーの活路を見出すことにした。
その際左の二の腕に被弾。幸い弾が掠めただけなのでそれほど支障は無い。
そして追っているSPを撒く為に路地裏を利用。後にこの倉庫に辿り着く。
そこまでは良かったのだが、問題が発生した。
……突然現れた少女の存在だ。
不覚にも扉の鍵をかけ忘れていたらしい。
騒がれるのも面倒なので、手当てを終えるまで、との口約束で俺の隣にいる。
一般市民を巻き込みたくはないが仕方ない。
心の中で己の不運を呪い憂さを晴らす。
――話を戻そう。
この倉庫は予めレジスタンスが押さえていた、所謂”拠点”だ。
オーブは島国といえ広い、目の届かない部分も当然出てくる。それに味方はオーブ外部の者のみとは限らない。
倉庫には応急道具や、武器弾薬、バイクが数台用意されている。
無駄に広いそこは独特の雰囲気を醸し出していた。
この施設がこれから脱出するに当たって大きな助けとなるはずだ。
このままではチーム全体が危うくなる。そこで俺が囮になり、他のメンバーの活路を見出すことにした。
その際左の二の腕に被弾。幸い弾が掠めただけなのでそれほど支障は無い。
そして追っているSPを撒く為に路地裏を利用。後にこの倉庫に辿り着く。
そこまでは良かったのだが、問題が発生した。
……突然現れた少女の存在だ。
不覚にも扉の鍵をかけ忘れていたらしい。
騒がれるのも面倒なので、手当てを終えるまで、との口約束で俺の隣にいる。
一般市民を巻き込みたくはないが仕方ない。
心の中で己の不運を呪い憂さを晴らす。
――話を戻そう。
この倉庫は予めレジスタンスが押さえていた、所謂”拠点”だ。
オーブは島国といえ広い、目の届かない部分も当然出てくる。それに味方はオーブ外部の者のみとは限らない。
倉庫には応急道具や、武器弾薬、バイクが数台用意されている。
無駄に広いそこは独特の雰囲気を醸し出していた。
この施設がこれから脱出するに当たって大きな助けとなるはずだ。
「終わったのなら早く出て行け」
ぶっきら棒に言い放つ。一般市民に情を持たれても仕方ない。
「あの……」
帰ってきた返事は今にも消え入りそうだ。
続くのは沈黙。少女は次の言葉を繋げられずに困惑している。
今頃口を開いた事に後悔している、というところだろうか。
少女が口を開かないので変わりに俺が口を開いた。
「一つ聞く。どうして俺がここにいるとわかった?」
俯きかけていた顔が再び上がる。
「扉の前に血の跡が……」
そこまで言わせて口を塞ぐ。間髪入れずに唇に人差し指を当てるジェスチャー。
突然の事態に慌てる少女も、それを見て自身を落ち着かせる。
……囲まれている。耳を澄まし足音の出所を数える。
「……七人前後か」
重い体を起こす。疲労が完全に回復したわけではないが、これだけ休めば十分だろう。
(ここはもう使えないな……)
銃器の入った袋を漁り使えるものを取り出す。
手数は十分だ、弾が足りないということはないはずだ。
機関銃のストラップを肩にかけた時に気づく、少女の存在だ。
これから起こす行動を考えると自己嫌悪する。
少女と正面から向き合う。告げなければ、これからのことを。
「今この場に残れば奴らに誤解されるだけだ。言い訳が通用する状況じゃない」
蒼の瞳を覗き込む。こうなることを予想していたのだろうか、瞳には強い力を感じられる。
「生きたいか?」
少女は少しだけ思案するように顔を曇らせ、強く頷いた。
「ならばついて来い」
仕事が増えたな、と心の中で呟いた。
ぶっきら棒に言い放つ。一般市民に情を持たれても仕方ない。
「あの……」
帰ってきた返事は今にも消え入りそうだ。
続くのは沈黙。少女は次の言葉を繋げられずに困惑している。
今頃口を開いた事に後悔している、というところだろうか。
少女が口を開かないので変わりに俺が口を開いた。
「一つ聞く。どうして俺がここにいるとわかった?」
俯きかけていた顔が再び上がる。
「扉の前に血の跡が……」
そこまで言わせて口を塞ぐ。間髪入れずに唇に人差し指を当てるジェスチャー。
突然の事態に慌てる少女も、それを見て自身を落ち着かせる。
……囲まれている。耳を澄まし足音の出所を数える。
「……七人前後か」
重い体を起こす。疲労が完全に回復したわけではないが、これだけ休めば十分だろう。
(ここはもう使えないな……)
銃器の入った袋を漁り使えるものを取り出す。
手数は十分だ、弾が足りないということはないはずだ。
機関銃のストラップを肩にかけた時に気づく、少女の存在だ。
これから起こす行動を考えると自己嫌悪する。
少女と正面から向き合う。告げなければ、これからのことを。
「今この場に残れば奴らに誤解されるだけだ。言い訳が通用する状況じゃない」
蒼の瞳を覗き込む。こうなることを予想していたのだろうか、瞳には強い力を感じられる。
「生きたいか?」
少女は少しだけ思案するように顔を曇らせ、強く頷いた。
「ならばついて来い」
仕事が増えたな、と心の中で呟いた。
この倉庫の入り口は少女の入ってきた扉と、その上にある小さな窓が一つだけ。ただし少し特殊だ。
扉は路地裏の方に向いている。つまり、通りに背を向けて建っていることになる。
入り口が一箇所しかないのなら、必然的にそちら側の警備が堅くなる。
狙うのはそこだ。
逃走には数台あるバイクの中からサイドカーを選んだ。
不慣れな奴を背中に乗せて走るのは疲れるし危険だ。それに”とっておき”が運べない。
なるべく通り側から離れた位置にサイドカーを運び、側車のシートに少女を座らせる。
彼女の膝の上には弾薬の入った袋と”とっておき”。
壁に爆薬を仕掛ける。火薬の量は問題ない。
少女を一度見る、そして深く深呼吸し、閃光弾を小さな窓に投げ込んだ。
投げ終わると同時にサイドカーに向かって走る。
ガラスの割れる音。閃光弾が着弾すると同時に夜が昼に変わる。慌てふためく男達の声。
シートに跨り、セルを回すと同時に機関銃を爆薬に照準。その間3秒。
警備の目を路地裏に引きつけた最高のタイミングで、俺は引き金を引いた。
扉は路地裏の方に向いている。つまり、通りに背を向けて建っていることになる。
入り口が一箇所しかないのなら、必然的にそちら側の警備が堅くなる。
狙うのはそこだ。
逃走には数台あるバイクの中からサイドカーを選んだ。
不慣れな奴を背中に乗せて走るのは疲れるし危険だ。それに”とっておき”が運べない。
なるべく通り側から離れた位置にサイドカーを運び、側車のシートに少女を座らせる。
彼女の膝の上には弾薬の入った袋と”とっておき”。
壁に爆薬を仕掛ける。火薬の量は問題ない。
少女を一度見る、そして深く深呼吸し、閃光弾を小さな窓に投げ込んだ。
投げ終わると同時にサイドカーに向かって走る。
ガラスの割れる音。閃光弾が着弾すると同時に夜が昼に変わる。慌てふためく男達の声。
シートに跨り、セルを回すと同時に機関銃を爆薬に照準。その間3秒。
警備の目を路地裏に引きつけた最高のタイミングで、俺は引き金を引いた。
無人の夜の街を黒が駆ける。追うのは無機質の巨人、その数二。
夜の風が冷たい。私は今、側車のシートに揺られ後方から迫るモノから逃走中です。
耳を震わす爆発音で、私と彼の逃走劇は始まりました。
周囲を包囲された私たちは、彼の策に翻弄される警備の人を尻目に走り出しました。
その後、警備の人たちのバリケードを突破し、少しだけ進んだところで……MSの襲撃に遭いました。
そのMSは偶に街で見かける機体で、確か名前はピースアストレイ。
治安警備の部隊に配属されるMSで、まさかこれに追われることになるなんて。
まるで悪い夢を見ているみたいです。
夜の風が冷たい。私は今、側車のシートに揺られ後方から迫るモノから逃走中です。
耳を震わす爆発音で、私と彼の逃走劇は始まりました。
周囲を包囲された私たちは、彼の策に翻弄される警備の人を尻目に走り出しました。
その後、警備の人たちのバリケードを突破し、少しだけ進んだところで……MSの襲撃に遭いました。
そのMSは偶に街で見かける機体で、確か名前はピースアストレイ。
治安警備の部隊に配属されるMSで、まさかこれに追われることになるなんて。
まるで悪い夢を見ているみたいです。
「左っ!」
彼が叫ぶ。このサイドカー、実はあまりブレーキをかけられない仕様みたいです。
その分曲がりたい方向に体を倒さなくてはいけないみたいで、私も不慣れながら協力しています。
スライドしながら左へ曲がるサイドカー。しばらくして風を二度切り巨人たちが追跡する。
まるで映画の世界に入ってしまったみたいです。
こんなカーチェイスを生きているうちに何度経験できるだろうか。
そんな不謹慎な事を考えていると、街の郊外に近づいていることに気づきました。
「しっかり掴まっていろ!」
彼がそう言い放った瞬間――世界が回転しました。
彼が叫ぶ。このサイドカー、実はあまりブレーキをかけられない仕様みたいです。
その分曲がりたい方向に体を倒さなくてはいけないみたいで、私も不慣れながら協力しています。
スライドしながら左へ曲がるサイドカー。しばらくして風を二度切り巨人たちが追跡する。
まるで映画の世界に入ってしまったみたいです。
こんなカーチェイスを生きているうちに何度経験できるだろうか。
そんな不謹慎な事を考えていると、街の郊外に近づいていることに気づきました。
「しっかり掴まっていろ!」
彼がそう言い放った瞬間――世界が回転しました。
「左っ!」
俺がそう叫ぶと彼女は言われた方向に体を倒す。
気づいたのは倉庫から出てしばらくしてからだ。このサイドカー、どうやら側輪ブレーキが着いていないらしい。
側輪ブレーキがないと急ブレーキをかけた時に側車が前に出てしまう。
最悪の場合転倒ということにもなりかねない。
ソロのオートバイで後輪ブレーキが使えない状況、と言えば理解してもらえるだろうか。
高速を維持した状態で走りたいこの状況において実に不利な条件だと言える。
通行車両がないのがせめてもの救いか。
俺がそう叫ぶと彼女は言われた方向に体を倒す。
気づいたのは倉庫から出てしばらくしてからだ。このサイドカー、どうやら側輪ブレーキが着いていないらしい。
側輪ブレーキがないと急ブレーキをかけた時に側車が前に出てしまう。
最悪の場合転倒ということにもなりかねない。
ソロのオートバイで後輪ブレーキが使えない状況、と言えば理解してもらえるだろうか。
高速を維持した状態で走りたいこの状況において実に不利な条件だと言える。
通行車両がないのがせめてもの救いか。
曲がりきったところで後方を確認すると、以前追ってくるMSが二機。
一番網の脆い場所を通ったつもりだが、さすがにMSの追尾だけは振り切れない。
こいつらはピースアストレイ、AIを搭載した無人MSの代表格だ。
最初に遭遇したときにお見舞いされた20mmバルカンの他に、火炎放射器、肩部にビームカノンと言った武装がある。
こいつらとの鬼ごっこにかけた時間は決して短くない。
ビルとビルの間を縫うように走ってきたとはいえ、仕掛けてきたのは最初の一度のみ。
どうやら街中ではあまり攻撃しないようにプログラムされているらしい。
本格的に仕掛けてくるのは郊外からか。
一番網の脆い場所を通ったつもりだが、さすがにMSの追尾だけは振り切れない。
こいつらはピースアストレイ、AIを搭載した無人MSの代表格だ。
最初に遭遇したときにお見舞いされた20mmバルカンの他に、火炎放射器、肩部にビームカノンと言った武装がある。
こいつらとの鬼ごっこにかけた時間は決して短くない。
ビルとビルの間を縫うように走ってきたとはいえ、仕掛けてきたのは最初の一度のみ。
どうやら街中ではあまり攻撃しないようにプログラムされているらしい。
本格的に仕掛けてくるのは郊外からか。
もうすぐ郊外だ。相手が仕掛けてくれるのならこちらから仕掛ける。
俺はこいつらに追われてから一貫して行ってきたことがある。
『最近のAIは良く出来ている』
これは俺の”相棒”からの受け売りだ。
何でも最近のAIは極めて人間に近い思考回路を持っているらしい。
そのお陰でMSにAIのみを乗せるといったことが可能になった。
人間に近いということはもちろん間違いも犯す。
俺が一貫して行ってきたこと――それは常に”左”へ曲がってきたこと。その数は十を下らない。
今あいつらの頭の中は”左へ逃げるだろう”という予測でいっぱいのはず。
アイツが言うんだ、まず間違いないだろう。
俺はこいつらに追われてから一貫して行ってきたことがある。
『最近のAIは良く出来ている』
これは俺の”相棒”からの受け売りだ。
何でも最近のAIは極めて人間に近い思考回路を持っているらしい。
そのお陰でMSにAIのみを乗せるといったことが可能になった。
人間に近いということはもちろん間違いも犯す。
俺が一貫して行ってきたこと――それは常に”左”へ曲がってきたこと。その数は十を下らない。
今あいつらの頭の中は”左へ逃げるだろう”という予測でいっぱいのはず。
アイツが言うんだ、まず間違いないだろう。
「しっかり掴まっていろ!」
俺はそう言い放つとハンドルを右に切る。
前輪ブレーキを強く、後輪ブレーキを弱く握り、ハンドルをさらに右へ。
側輪ブレーキが着いていない性質を利用し、クルリと、前輪を中心に車体が百八十度回転した。
静止した場所は街と郊外の境界線とも言える場所、そこに建つ右側のビルの陰。
「貸せ!」
少々刺激が強すぎたのか、呆然としている少女から”とっておき”を奪いそれを構える。
――対MS用RPG。生身の人間がMSに対抗できる数少ない手段の一つだ。
チャンスは一度きり、わずか一発で相手を無力化するのなら狙う場所は決まっている。
近づく騒音。
「耳を塞げ!」
意味を理解しそれに従う少女。
目の前をピースアストレイが通り抜ける。
突然ロストした標的を探すべく振り向いた方向は――左。
俺に背を向ける形になった敵機のうちの一機に標準を合わせる、部位はスラスター。
スラスターさえ失えば奴らは亀同然だ。
必殺を確信しトリガーを引き絞る。続く爆音。
撃ったことを確認した俺は用済みになったそれを捨て、着弾を視認すらせずサイドカーを走らせる。
着弾時の爆発、木々を薙ぎ倒す鈍い音を背に、仲間たちの待つ場所へ急いだ。
俺はそう言い放つとハンドルを右に切る。
前輪ブレーキを強く、後輪ブレーキを弱く握り、ハンドルをさらに右へ。
側輪ブレーキが着いていない性質を利用し、クルリと、前輪を中心に車体が百八十度回転した。
静止した場所は街と郊外の境界線とも言える場所、そこに建つ右側のビルの陰。
「貸せ!」
少々刺激が強すぎたのか、呆然としている少女から”とっておき”を奪いそれを構える。
――対MS用RPG。生身の人間がMSに対抗できる数少ない手段の一つだ。
チャンスは一度きり、わずか一発で相手を無力化するのなら狙う場所は決まっている。
近づく騒音。
「耳を塞げ!」
意味を理解しそれに従う少女。
目の前をピースアストレイが通り抜ける。
突然ロストした標的を探すべく振り向いた方向は――左。
俺に背を向ける形になった敵機のうちの一機に標準を合わせる、部位はスラスター。
スラスターさえ失えば奴らは亀同然だ。
必殺を確信しトリガーを引き絞る。続く爆音。
撃ったことを確認した俺は用済みになったそれを捨て、着弾を視認すらせずサイドカーを走らせる。
着弾時の爆発、木々を薙ぎ倒す鈍い音を背に、仲間たちの待つ場所へ急いだ。
……正直、心臓が飛び出るかと思いました。
彼の一声の後、サイドカーはクルリと回転したのです。
それも凄い勢いで。後輪は確実に浮いていたと思います。
例えるなら、それはまるでジェットコースターに乗っていたかのような、そんな感じです。
呆然としている私から長い鉄の筒を取り上げ、それを突然背を向けたピースアストレイに向けて引き金を引きました。
凄い爆音。手で耳を塞いでいてもビリビリする……。
彼はその筒を捨てると、撃った相手を見向きもせずに走り出しました。
彼の一声の後、サイドカーはクルリと回転したのです。
それも凄い勢いで。後輪は確実に浮いていたと思います。
例えるなら、それはまるでジェットコースターに乗っていたかのような、そんな感じです。
呆然としている私から長い鉄の筒を取り上げ、それを突然背を向けたピースアストレイに向けて引き金を引きました。
凄い爆音。手で耳を塞いでいてもビリビリする……。
彼はその筒を捨てると、撃った相手を見向きもせずに走り出しました。
気になる私は後ろを振り向くと、制御を失ったピースアストレイの一機が林に墜落し、
そしてもう一機は――私たちに向けて銃口を向けているところでした。
肩口が光ったかと思うと、爆発と共に私たちがさっきまで居たところが大きく抉れていました。
巻き上がった砂や小石が車体に当たりパチパチと軽い音を立てる。
アレに当たれば私もあの砂や小石の様に遠くに吹き飛ぶのだろうか。
不安になって彼の顔を覗き見る。
彼の紅い瞳はこの状況においても強い光に満ちていました
そしてもう一機は――私たちに向けて銃口を向けているところでした。
肩口が光ったかと思うと、爆発と共に私たちがさっきまで居たところが大きく抉れていました。
巻き上がった砂や小石が車体に当たりパチパチと軽い音を立てる。
アレに当たれば私もあの砂や小石の様に遠くに吹き飛ぶのだろうか。
不安になって彼の顔を覗き見る。
彼の紅い瞳はこの状況においても強い光に満ちていました
「コニール!客を一機連れてそっちに向かうが歓迎してくれるか?」
彼は風に掻き消されないように声を大きく張る。
コニールというのは多分彼の仲間だろう。名前からすると女の人みたいだけど……。
「おい!」
俯いていた顔を上げる。
「そいつを捨てろ!少しでも軽くしたい!」
時々ガチャガチャと金属音を鳴らしていたその袋を見る。
軽くしたい、という彼の言葉には賛成だ。
この袋、色々入っているようだけど、実は中々の重さなんです。
「よいっ…しょ!」
自分でもどうかと思う声を上げ袋を投げ捨てる。……しつこいようですが、本当に重いんですよ?
ガシャリという音を立てた時には袋は遥か後方にありました。
彼は風に掻き消されないように声を大きく張る。
コニールというのは多分彼の仲間だろう。名前からすると女の人みたいだけど……。
「おい!」
俯いていた顔を上げる。
「そいつを捨てろ!少しでも軽くしたい!」
時々ガチャガチャと金属音を鳴らしていたその袋を見る。
軽くしたい、という彼の言葉には賛成だ。
この袋、色々入っているようだけど、実は中々の重さなんです。
「よいっ…しょ!」
自分でもどうかと思う声を上げ袋を投げ捨てる。……しつこいようですが、本当に重いんですよ?
ガシャリという音を立てた時には袋は遥か後方にありました。
舗装されていない道をひたすら走る。流れる木々。
突然彼が進路を変えたかと思うと、私たちが進むはずだったところが機関銃で撃たれ砂が舞いました。
すぐそこまで迫るピースアストレイ。
一瞬彼の舌打ちが聞こえた気がしましたが、風と機関銃の音の為上手く聞き取れませんでした。
ジグザグに動き機関銃を避ける。手で押さえていた頭を少し上げると、目の前が夜よりも深い黒だと理解しました。
――海だ。
このまま進んで崖から海に落ちるのかと考えたら、何故だか急に幼い頃に亡くした両親に会いたくなった。
背後を見ると銃口をこちらに向けているピースアストレイがすぐそこに。
「目を閉じろ!」
そう言われ、最後の祈りを捧げる為に目を閉じました。
まず誰に祈ろうかと考えた瞬間、私の体は突然軽くなりました。
まだ何も言い残していないのに……と諦めていた私は、ふと違和感に気づきました。
全身が温かい。包むようなそれに驚き目を開ける。
「……えっ?」
私は彼に抱きかかえられ、サイドカーから飛び降りている最中でした。
彼は私を庇って地面に叩きつけられる。そのまま慣性に従いゴロゴロと転がる。
回る視点、本日二度目、やはり慣れるもんじゃないなと思いました。
その回る視点からまるでコマ送りのように世界が動く。
ピースアストレイの銃口から紅蓮の炎が飛び出してさっきまで乗っていたサイドカーを飲み込み、
サイドカーは炎に包まれながらも慣性に従い崖を飛び出し、
それを追うように慣性に従うピースアストレイが――その無防備な背後を無数の弾丸に射抜かれていました。
突然彼が進路を変えたかと思うと、私たちが進むはずだったところが機関銃で撃たれ砂が舞いました。
すぐそこまで迫るピースアストレイ。
一瞬彼の舌打ちが聞こえた気がしましたが、風と機関銃の音の為上手く聞き取れませんでした。
ジグザグに動き機関銃を避ける。手で押さえていた頭を少し上げると、目の前が夜よりも深い黒だと理解しました。
――海だ。
このまま進んで崖から海に落ちるのかと考えたら、何故だか急に幼い頃に亡くした両親に会いたくなった。
背後を見ると銃口をこちらに向けているピースアストレイがすぐそこに。
「目を閉じろ!」
そう言われ、最後の祈りを捧げる為に目を閉じました。
まず誰に祈ろうかと考えた瞬間、私の体は突然軽くなりました。
まだ何も言い残していないのに……と諦めていた私は、ふと違和感に気づきました。
全身が温かい。包むようなそれに驚き目を開ける。
「……えっ?」
私は彼に抱きかかえられ、サイドカーから飛び降りている最中でした。
彼は私を庇って地面に叩きつけられる。そのまま慣性に従いゴロゴロと転がる。
回る視点、本日二度目、やはり慣れるもんじゃないなと思いました。
その回る視点からまるでコマ送りのように世界が動く。
ピースアストレイの銃口から紅蓮の炎が飛び出してさっきまで乗っていたサイドカーを飲み込み、
サイドカーは炎に包まれながらも慣性に従い崖を飛び出し、
それを追うように慣性に従うピースアストレイが――その無防備な背後を無数の弾丸に射抜かれていました。
空を見る。そこにあるのは残酷なほど綺麗な魔性の月。
あの月にどれほどの人が魅了されてきたのでしょうか。
ここはレジスタンスの船の上。一人で空を見上げています。
オーブはもう目視できる距離じゃない。
あの月にどれほどの人が魅了されてきたのでしょうか。
ここはレジスタンスの船の上。一人で空を見上げています。
オーブはもう目視できる距離じゃない。
ほんの少し前、この船に乗るときのことを思い出す。
あの後、私たちはレジスタンスの人たちの助けで休止に一生を得ました。
コニールと呼ばれた人が彼に小言を漏らし、彼はそれを軽く流す、その様子を少し離れた場所から私は見つめていました。
しばらく続く二人のやり取り。それが終わり、彼がこちらにやってきました。
「一応聞いておく。選択肢は二つ。俺たちに着いてくるか、ここに残るか」
正直、困る。
今回は倉庫の時とは状況が違う。彼らに着いていくということはオーブを離れるということです。
断るしか……そう思ったその時、彼の口から信じられない言葉が出た。
「数多くのSPや警備兵に目撃され、さっきのMSにもお前のことは記録されている。顔が割れるのは時間の問題だ。
オーブにいる限り奴らは確実にお前を探し出す。掴まれば尋問をされるだろう。お前は”俺達”の仲間じゃないと訴え
るが、当然奴らはその言葉を信じない。何故か?証拠が無いからだ。なら、その逆はどうだ?」
「言い方ってものがあるだろ、この馬鹿!」
コニールさんが彼を叱りつけるもそれは何のフォローにもならない。
つまり彼は、私が助かる道は一つしかないことを知り、その上で生きるか死ぬかの問いをしたのです。
発言を聞く限り、隣の彼女もそのつもりだったんでしょう。
こんなの……こんなのって……ずるい……。
この人たちは――ずるい人だ。
もう引き返せないことを知った私は、未だそれを信じられず、静かに涙した
あの後、私たちはレジスタンスの人たちの助けで休止に一生を得ました。
コニールと呼ばれた人が彼に小言を漏らし、彼はそれを軽く流す、その様子を少し離れた場所から私は見つめていました。
しばらく続く二人のやり取り。それが終わり、彼がこちらにやってきました。
「一応聞いておく。選択肢は二つ。俺たちに着いてくるか、ここに残るか」
正直、困る。
今回は倉庫の時とは状況が違う。彼らに着いていくということはオーブを離れるということです。
断るしか……そう思ったその時、彼の口から信じられない言葉が出た。
「数多くのSPや警備兵に目撃され、さっきのMSにもお前のことは記録されている。顔が割れるのは時間の問題だ。
オーブにいる限り奴らは確実にお前を探し出す。掴まれば尋問をされるだろう。お前は”俺達”の仲間じゃないと訴え
るが、当然奴らはその言葉を信じない。何故か?証拠が無いからだ。なら、その逆はどうだ?」
「言い方ってものがあるだろ、この馬鹿!」
コニールさんが彼を叱りつけるもそれは何のフォローにもならない。
つまり彼は、私が助かる道は一つしかないことを知り、その上で生きるか死ぬかの問いをしたのです。
発言を聞く限り、隣の彼女もそのつもりだったんでしょう。
こんなの……こんなのって……ずるい……。
この人たちは――ずるい人だ。
もう引き返せないことを知った私は、未だそれを信じられず、静かに涙した
ずるい人がやってくる。その手には缶コーヒーが一本。
無言で差し出されたそれを少し見て、手に取った。
痛いくらいに熱い。どうやら体は相当冷えていたみたいです。
缶を開け、チビチビと中身を飲む。苦味と甘味が入り混じったそれは、今はとても暖かかった。
「月が綺麗だな」
風で掻き消されそうなそれをなんとか拾う。
恨みを込めた瞳で彼の顔を睨み上げる。
月を見上げていたその瞳は……どれほどの悲しみを秘めていたのでしょうか。
それを直視出来ずに目を逸らす。行き場を無くした視線の先は惹かれるように月へ。
この人がわからない。
心の声が漏らす。今日だけで色々な彼を見てきました。
広場で、倉庫で、サイドカーで、そして今この船の上で。
様々な瞳を持つこの人は、ラクス様やカガリ様に反抗するレジスタンスの一員。
どのような考えでそのような行為に及ぶのか、考えても答えは見つかりません。
とても私が理解出来る存在ではないんだと思いました。
この人は――わからない。
無言で差し出されたそれを少し見て、手に取った。
痛いくらいに熱い。どうやら体は相当冷えていたみたいです。
缶を開け、チビチビと中身を飲む。苦味と甘味が入り混じったそれは、今はとても暖かかった。
「月が綺麗だな」
風で掻き消されそうなそれをなんとか拾う。
恨みを込めた瞳で彼の顔を睨み上げる。
月を見上げていたその瞳は……どれほどの悲しみを秘めていたのでしょうか。
それを直視出来ずに目を逸らす。行き場を無くした視線の先は惹かれるように月へ。
この人がわからない。
心の声が漏らす。今日だけで色々な彼を見てきました。
広場で、倉庫で、サイドカーで、そして今この船の上で。
様々な瞳を持つこの人は、ラクス様やカガリ様に反抗するレジスタンスの一員。
どのような考えでそのような行為に及ぶのか、考えても答えは見つかりません。
とても私が理解出来る存在ではないんだと思いました。
この人は――わからない。
黒を掻き分け進む船。月明かりに照らされたそれは、ただ真っ直ぐに夜を進む。
風が冷たい。これからの事を考えると胸が不安で押し潰されそうになる。
寒さと不安から身を守るように、自然と体が自らを抱く形になる。
もう一度彼を盗み見る。依然月に向いている顔は、今はもう無表情。
私は、この人が――ワカラナイ。
風が冷たい。これからの事を考えると胸が不安で押し潰されそうになる。
寒さと不安から身を守るように、自然と体が自らを抱く形になる。
もう一度彼を盗み見る。依然月に向いている顔は、今はもう無表情。
私は、この人が――ワカラナイ。