バードクーペの市庁舎、否、『旧』市庁舎と呼ぶべきだろう。
そこは、レジスタンス同盟の臨時司令部となっていた。
司令部とは言うが、実際は戦闘行為だけに限らず市民生活まで受け持ち、さながら臨時行政府と化していた。
そこは、レジスタンス同盟の臨時司令部となっていた。
司令部とは言うが、実際は戦闘行為だけに限らず市民生活まで受け持ち、さながら臨時行政府と化していた。
その市庁舎の一室に設置された作戦司令室において、ローゼンクロイツをはじめとするレジスタンスのメンバーは、いよいよ迫った東ユーラシア政府との交渉に向けての会議で蜂の巣を突付いたような騒ぎになっていた。
ローゼンクロイツ首魁たるベッテンコーファーを筆頭とする「このまま東ユーラシア政府を打倒、若しくは圧迫して統一連合を交渉のテーブルに引き摺り出す」主戦派と、
リヴァイブのリーダーたるロマを筆頭とする「東ユーラシア政府に一部自治を認めさせ、確固たる地盤を構築してから統一連合と粘り強く交渉する」独立派の二派に分かれていたのだ。
だが、不思議な事に熱い論争こそあれ、怒号が飛び交うような修羅場にならなかった。
地熱プラント戦での事実上の統一連合の敗北がレジスタンスを勢いづかせていたのと、更に、東ユーラシア軍が突如戦線を下げた~殆ど退却戦と言って良い規模で~事に依る安堵感、そして、市民の熱狂的な歓迎があったからである。
主戦派といえどこのまま余勢をかって東ユーラシア政府軍を駆逐できるなどと夢想はしていない。
むしろ、レジスタンスの払った犠牲を考えれば、一度体力の回復を待った方が良いくらいである。
だが、こちらが傷を癒せると言うことは相手も同様であり、出来るならばなるべく士気が高い内にレジスタンスから討って出たい所であった。
ローゼンクロイツ首魁たるベッテンコーファーを筆頭とする「このまま東ユーラシア政府を打倒、若しくは圧迫して統一連合を交渉のテーブルに引き摺り出す」主戦派と、
リヴァイブのリーダーたるロマを筆頭とする「東ユーラシア政府に一部自治を認めさせ、確固たる地盤を構築してから統一連合と粘り強く交渉する」独立派の二派に分かれていたのだ。
だが、不思議な事に熱い論争こそあれ、怒号が飛び交うような修羅場にならなかった。
地熱プラント戦での事実上の統一連合の敗北がレジスタンスを勢いづかせていたのと、更に、東ユーラシア軍が突如戦線を下げた~殆ど退却戦と言って良い規模で~事に依る安堵感、そして、市民の熱狂的な歓迎があったからである。
主戦派といえどこのまま余勢をかって東ユーラシア政府軍を駆逐できるなどと夢想はしていない。
むしろ、レジスタンスの払った犠牲を考えれば、一度体力の回復を待った方が良いくらいである。
だが、こちらが傷を癒せると言うことは相手も同様であり、出来るならばなるべく士気が高い内にレジスタンスから討って出たい所であった。
会議がひと段落した頃、ミハエルの元に伝令が訪れた。
「オーブの【セル】からか?」
そう言うと手書きの封筒の口を切る。印刷ではなく一切が手書きの文書は情報伝達媒体としてはなかなか秘匿能力が高い。
『私の家から見える湖から、白鷺が三羽飛び立つのが見えました』
その一文を見た瞬間、ミハエルは手紙を握り潰していた。
「プランを大幅に前倒ししないと間に合わなくなる!」
「オーブの【セル】からか?」
そう言うと手書きの封筒の口を切る。印刷ではなく一切が手書きの文書は情報伝達媒体としてはなかなか秘匿能力が高い。
『私の家から見える湖から、白鷺が三羽飛び立つのが見えました』
その一文を見た瞬間、ミハエルは手紙を握り潰していた。
「プランを大幅に前倒ししないと間に合わなくなる!」
PGの活動の兆候有り。
この情報は作戦司令室に手酷い衝撃を与えた。
「我々がこの情報を掴むことを前提とした、足止めの為のブラフでは?」
「いや、逆に我々と政府軍がぶつかった所で介入するつもりかもしれん」
そんな中、ミハエルは独立派の切り崩しと平行して、脱出ルートの確保をシーグリスに指示しようとしていた。
が、今朝からシーグリスの姿を見たものは誰も居なかった。
この情報は作戦司令室に手酷い衝撃を与えた。
「我々がこの情報を掴むことを前提とした、足止めの為のブラフでは?」
「いや、逆に我々と政府軍がぶつかった所で介入するつもりかもしれん」
そんな中、ミハエルは独立派の切り崩しと平行して、脱出ルートの確保をシーグリスに指示しようとしていた。
が、今朝からシーグリスの姿を見たものは誰も居なかった。
同時刻。シーグリスはフェダーラインの定宿に居た。
突然呼び出しを受けたのである。
「どう言う用件さね?」
「緊急にお願いしたい件が二つほど」
お付のメイドが入れた紅茶には手も付けずにシーグリスに問われ、フェダーラインが応じる。
「色々キナ臭くなって来ましたので、そろそろ本国へ戻ろうかと。で、私の身ひとつならどうとでもなるのですが…」
「研究資料も持ち出したい、と?」
「その通りです」
ふむ、と頷くとシーグリスは頭を振る。
「ま、ムリだね。時期が悪すぎる。…いま使えるのは薔薇(ウチ)で緊急用に確保してるヤツだけでね」
ふう、と溜息を漏らすフェダーライン。
「でしょうねぇ…仕方有りません。最悪資料は破棄しますか」
「で?もう1つの方はどうするんだい?」
紅茶で唇を湿らすとフェダーラインは続けた。
「こちらは是非にお願いしなくてはなりません。ある『モノ』を探し出して欲しいのです」
いぶかしむシーグリス。
「今の話、聞いてたろ?今はソレどころじゃ…」
「いえ、状況は関係ありません。貴方なら必ず知っているはずです、----嬢?」
突然呼び出しを受けたのである。
「どう言う用件さね?」
「緊急にお願いしたい件が二つほど」
お付のメイドが入れた紅茶には手も付けずにシーグリスに問われ、フェダーラインが応じる。
「色々キナ臭くなって来ましたので、そろそろ本国へ戻ろうかと。で、私の身ひとつならどうとでもなるのですが…」
「研究資料も持ち出したい、と?」
「その通りです」
ふむ、と頷くとシーグリスは頭を振る。
「ま、ムリだね。時期が悪すぎる。…いま使えるのは薔薇(ウチ)で緊急用に確保してるヤツだけでね」
ふう、と溜息を漏らすフェダーライン。
「でしょうねぇ…仕方有りません。最悪資料は破棄しますか」
「で?もう1つの方はどうするんだい?」
紅茶で唇を湿らすとフェダーラインは続けた。
「こちらは是非にお願いしなくてはなりません。ある『モノ』を探し出して欲しいのです」
いぶかしむシーグリス。
「今の話、聞いてたろ?今はソレどころじゃ…」
「いえ、状況は関係ありません。貴方なら必ず知っているはずです、----嬢?」
その名を呼ばれた瞬間。シーグリスは胸に氷のナイフを刺されたかのような衝撃と痛みを感じた。
いや、比喩でなしにシーグリスにとってソレは致命傷だったのかもしれない。
再び声を出す瞬間、動揺を抑えて声が震えぬようにするのが精一杯だった。
「…誰だかしらんが、ソイツと私に関係が有ると言うのかい?馬鹿馬鹿しい」
そんなシーグリスを嘲笑うかのようにフェダーラインは続ける。
「いえいえ、とぼけなくて結構。私が貴方へこんな質問している時点で、既に」
にんまりと笑う。そんな表情のフェダーラインをシーグリスは見たことがない。
「貴方の正体について確信を持っていますから」
媚びるような、見下すような。仮面のような微笑が一転し、シーグリスをたまらなく不快にさせる。
「あえなく自殺なさったご両親の形見なのでしょうが…教えて頂けませんかね?『もう1隻の女神の御座艦』の在処を」
シーグリスは派手な音を立ててテーブルを蹴倒すと立ちあがった。
「何時までもアンタの戯言は聞いてられないね。…もうアンタとはコレっきりだろうから最後にアドバイスしてやるよ」
ギラリ、と眼光鋭く、フェダーラインを射殺すような瞳で睨みつける。
「その癇に障る笑いかたは止しな。ロクな死に方をしない」
「ご助言感謝しますよ。で、あの艦の所在は?」
癇に障る笑みを益々深めながら問うフェダーラインを無視して、シーグリスが立ち去ろうとした瞬間。
お付のメイドが滑らかな所作で消音機付の拳銃をシーグリスに付きつけた。
「…どきな」
低く恫喝されるがシーグリスの胸に向けられた銃口は揺るがない。
次の瞬間、抜き打ちのようにシーグリスの右腕が懐に飛び込み、引きぬかれ…
その瞬間、右手首を撃ち抜かれる。
が、半ば千切れかけた右手から零れ落ちたものは、シーグリス以外の二人の予想とは異なっていた。
手榴弾の安全ピン。
自分の懐に入れたまま、手榴弾の安全装置を外したのだ。
飛び込むべきか、下がるべきか。判断に迷い、ほんの微かに反応が遅れ、その一瞬でシーグリスは後ろに倒れ込む。
かちゃり、と音を立てて手榴弾が床に転がり…光と爆音で応接室は満たされた。
スタングレネードである。
窓まで辿りつくに充分過ぎる時間を稼いだシーグリスは、ベルトの簡易降下装置のフックを窓枠に打ち込むと、そのまま窓枠に足をかける。
眼下のホテルのプールを確認し、そのまま飛び降りようとした瞬間。
くぐもった発射音と共にシーグリスの背中に無数の弾痕が穿たれ、血肉を吹き上げる。
フェダーラインの怒声と、無数の足音を飛びかけた意識の片隅で聞きながら、シーグリスは転げ落ちる様に窓枠から飛び降りた。
いや、比喩でなしにシーグリスにとってソレは致命傷だったのかもしれない。
再び声を出す瞬間、動揺を抑えて声が震えぬようにするのが精一杯だった。
「…誰だかしらんが、ソイツと私に関係が有ると言うのかい?馬鹿馬鹿しい」
そんなシーグリスを嘲笑うかのようにフェダーラインは続ける。
「いえいえ、とぼけなくて結構。私が貴方へこんな質問している時点で、既に」
にんまりと笑う。そんな表情のフェダーラインをシーグリスは見たことがない。
「貴方の正体について確信を持っていますから」
媚びるような、見下すような。仮面のような微笑が一転し、シーグリスをたまらなく不快にさせる。
「あえなく自殺なさったご両親の形見なのでしょうが…教えて頂けませんかね?『もう1隻の女神の御座艦』の在処を」
シーグリスは派手な音を立ててテーブルを蹴倒すと立ちあがった。
「何時までもアンタの戯言は聞いてられないね。…もうアンタとはコレっきりだろうから最後にアドバイスしてやるよ」
ギラリ、と眼光鋭く、フェダーラインを射殺すような瞳で睨みつける。
「その癇に障る笑いかたは止しな。ロクな死に方をしない」
「ご助言感謝しますよ。で、あの艦の所在は?」
癇に障る笑みを益々深めながら問うフェダーラインを無視して、シーグリスが立ち去ろうとした瞬間。
お付のメイドが滑らかな所作で消音機付の拳銃をシーグリスに付きつけた。
「…どきな」
低く恫喝されるがシーグリスの胸に向けられた銃口は揺るがない。
次の瞬間、抜き打ちのようにシーグリスの右腕が懐に飛び込み、引きぬかれ…
その瞬間、右手首を撃ち抜かれる。
が、半ば千切れかけた右手から零れ落ちたものは、シーグリス以外の二人の予想とは異なっていた。
手榴弾の安全ピン。
自分の懐に入れたまま、手榴弾の安全装置を外したのだ。
飛び込むべきか、下がるべきか。判断に迷い、ほんの微かに反応が遅れ、その一瞬でシーグリスは後ろに倒れ込む。
かちゃり、と音を立てて手榴弾が床に転がり…光と爆音で応接室は満たされた。
スタングレネードである。
窓まで辿りつくに充分過ぎる時間を稼いだシーグリスは、ベルトの簡易降下装置のフックを窓枠に打ち込むと、そのまま窓枠に足をかける。
眼下のホテルのプールを確認し、そのまま飛び降りようとした瞬間。
くぐもった発射音と共にシーグリスの背中に無数の弾痕が穿たれ、血肉を吹き上げる。
フェダーラインの怒声と、無数の足音を飛びかけた意識の片隅で聞きながら、シーグリスは転げ落ちる様に窓枠から飛び降りた。
フェダーラインが窓に駆け寄ると、シーグリスがボロボロの身体を引きずる様に、ホテルの庭園の植込みに潜り込むのが見えた。
「取逃がしましたね…」
頭をバリバリと掻く。
「追跡しますか?」
つまらなそうに一瞥すると、被っていたカツラを投げ渡す。
「もうおいそれと近付けないでしょう。それに、致命傷を与えた手応えは有るのでしょう?…死体を確認出来ない上に、例の情報が拡散していない保証も取れませんが、やむを得ません」
顔の肉を力任せに引っ張ると、皮膚と肉が千切れ飛ぶ…が、血は全く流れない。
変装用の人造皮膚を毟り取り、タオルで顔を丁寧に拭ったその下にある顔は。
「まいりました…大チョンボですよ。長官になんて言い訳しますかね?」
オスカー・サザーランドであった。
「さて、みなさん。これだけ雁首そろえて肝心の獲物を取逃がしましたが、タイムオーバーです」
腕時計を確認する。
「『ヤタガラス』が屋上に来る頃です。乗り遅れたらPGにこの街諸共灰にされちゃいますよー。ちゃっちゃと後片付けしておうちに帰りましょう」
「取逃がしましたね…」
頭をバリバリと掻く。
「追跡しますか?」
つまらなそうに一瞥すると、被っていたカツラを投げ渡す。
「もうおいそれと近付けないでしょう。それに、致命傷を与えた手応えは有るのでしょう?…死体を確認出来ない上に、例の情報が拡散していない保証も取れませんが、やむを得ません」
顔の肉を力任せに引っ張ると、皮膚と肉が千切れ飛ぶ…が、血は全く流れない。
変装用の人造皮膚を毟り取り、タオルで顔を丁寧に拭ったその下にある顔は。
「まいりました…大チョンボですよ。長官になんて言い訳しますかね?」
オスカー・サザーランドであった。
「さて、みなさん。これだけ雁首そろえて肝心の獲物を取逃がしましたが、タイムオーバーです」
腕時計を確認する。
「『ヤタガラス』が屋上に来る頃です。乗り遅れたらPGにこの街諸共灰にされちゃいますよー。ちゃっちゃと後片付けしておうちに帰りましょう」
背中に焼けるような痛みを感じながら、シーグリスは必死に走った。
いや、走ったと言うのはシーグリスの主観であり、実際は這っているのかもしれなかった。
朦朧とする意識で道路まで出ると、目の前にバイクが走ってくるのを暗い視界に捉えた。
いや、走ったと言うのはシーグリスの主観であり、実際は這っているのかもしれなかった。
朦朧とする意識で道路まで出ると、目の前にバイクが走ってくるのを暗い視界に捉えた。
コニールとしては「いつも安全運転」がモットーである。
ただ問題は、安全の基準が他者とはちょっとだけ違う事で、それは場合によって「お前の運転するバイクには二度と乗らない」と言われてしまうのだが。
だから、突然目の前に女が立ち塞がって急ブレーキさせられても、大してビックリはしなかった。
「あんた…まさか『蛇姫』?!」
全身血塗れのシーグリスを見て、コニールが驚いた。
「面と向かってそう呼ぶヤツも珍しいやね」
シーグリスも苦笑するしかない。
「すまないが…本部まで送ってくれないか?ちょっと体調が悪くてね」
即座にコニールはシーグリスがそこまで持たないとみた。
「乗りな。送ってあげるよ」
「感謝する。助かったよ…」
コニールは上着を脱ぐと、負ぶい紐のようにバイクにまたがったシーグリスを自分に縛りつける。
「飛ばすからね。ちょっぴり揺れるよ!」
ただ問題は、安全の基準が他者とはちょっとだけ違う事で、それは場合によって「お前の運転するバイクには二度と乗らない」と言われてしまうのだが。
だから、突然目の前に女が立ち塞がって急ブレーキさせられても、大してビックリはしなかった。
「あんた…まさか『蛇姫』?!」
全身血塗れのシーグリスを見て、コニールが驚いた。
「面と向かってそう呼ぶヤツも珍しいやね」
シーグリスも苦笑するしかない。
「すまないが…本部まで送ってくれないか?ちょっと体調が悪くてね」
即座にコニールはシーグリスがそこまで持たないとみた。
「乗りな。送ってあげるよ」
「感謝する。助かったよ…」
コニールは上着を脱ぐと、負ぶい紐のようにバイクにまたがったシーグリスを自分に縛りつける。
「飛ばすからね。ちょっぴり揺れるよ!」
リヴァイブの宿舎として宛がわれた民家~市民の間での「是非に来てくれ」と言う綱引きの結果決まった~で、ソラ達はロマの帰還を待ちわびていた。
「PGが来る可能性が高い」~そんな噂話もあいまって、誰もが不安と焦燥感に苛まれていたのだ。
そこへ、ロマを迎えに行ったコニールのバイクが戻って来た。ほっとした空気が流れるが…同乗者がロマではなくシーグリスなのに気付くと一気に空気が張り詰めた。
「センセイ、急患だよ!」
そう言われ、不躾な視線を向けていたメンバーからの圧力が緩む。
「背中に何発か。あと、あちこち擦過傷が…」
「ここは…リヴァイブの宿舎か?私は本部に…」
「アンタ、そのままだと死ぬよ?」
そう言うとコニールは手際良くシーグリスの服を脱がせていく。
「あの、ベッドを用意しましょうか?」
家の主がおずおずと申し出るが、センセイは首を横に振る。
「いえ、緊急手術が必要ですので食堂のテーブルへ運んで下さい。それと、有るだけの灯りを!」
「PGが来る可能性が高い」~そんな噂話もあいまって、誰もが不安と焦燥感に苛まれていたのだ。
そこへ、ロマを迎えに行ったコニールのバイクが戻って来た。ほっとした空気が流れるが…同乗者がロマではなくシーグリスなのに気付くと一気に空気が張り詰めた。
「センセイ、急患だよ!」
そう言われ、不躾な視線を向けていたメンバーからの圧力が緩む。
「背中に何発か。あと、あちこち擦過傷が…」
「ここは…リヴァイブの宿舎か?私は本部に…」
「アンタ、そのままだと死ぬよ?」
そう言うとコニールは手際良くシーグリスの服を脱がせていく。
「あの、ベッドを用意しましょうか?」
家の主がおずおずと申し出るが、センセイは首を横に振る。
「いえ、緊急手術が必要ですので食堂のテーブルへ運んで下さい。それと、有るだけの灯りを!」
「センセイだっけ…ソラって子を呼んでくれないかい?…意識がある前に」
「後にして下さい。いまからオペに入るんですから」
「死ぬかもしれないんでね。言っときたいことがあるのさ…」
「貴方は死にませんよ。私が助けますから」
余りにも毅然とした態度にシーグリスは微笑を浮かべる。
「患者の意思ってヤツをきいちゃくれないかね?」
「後にして下さい。いまからオペに入るんですから」
「死ぬかもしれないんでね。言っときたいことがあるのさ…」
「貴方は死にませんよ。私が助けますから」
余りにも毅然とした態度にシーグリスは微笑を浮かべる。
「患者の意思ってヤツをきいちゃくれないかね?」
「久しぶりだねぇ?」
そう言われてもソラには悪感情しか沸かなかった。それでも、センセイから「安静にさせるように」言われていたから怒鳴りつけるようなマネはしなかった。
「…一体、なんの用なんでしょう?」
声音が冷えきってはいたが。
「まあ、アンタとしちゃ『親友とその恋人、オマケで恋人の弟の仇』だからね。良い気持ちじゃないんだろ?」
無言で拳を握り締めて堪えるソラを見て、シーグリスは続ける。
「アンタは”託された命の証を無駄にするな”っていってたっけね。…アンタにそれを言う資格が有ると思うかい?」
今度こそ明確にソラはシーグリスへ憎悪の視線を向けた。二人の視線がぶつかり合う。
「命の証を託されたんだから無駄にするな。安全圏からならナンボでも言えるさね。でも、”死が意味を産み出す状況”ってのも有るんだよ。『お前達は味方の為に死ね』そう言わなくちゃならない事がね」
「それこそ、あなたにそれを言えるんですか?」
「…私の胸骨の上にチップと電子鍵が埋めてある。もし私が死んだらソコをセンセイに頼んで切開して取り出して貰いな。生きてたら私が自分でやるけどね」
「何を言って…」
「アンタへの贈り物さ。いや、呪いと言った方が良いかもね」
そう言うと手を振って会話の終了をセンセイに継げる。
「一体何があるんですか!?」
そう叫ぶソラをシン達が食堂から引っ張り出すと、入れ違いにセンセイがやって来た。
「ああ、すまないね。我侭言って」
「後でちゃんとソラさんに謝って下さいね。あの子、まだ怒ってますよ」
それには答えずに、シーグリスは静かに目を閉じた。
そう言われてもソラには悪感情しか沸かなかった。それでも、センセイから「安静にさせるように」言われていたから怒鳴りつけるようなマネはしなかった。
「…一体、なんの用なんでしょう?」
声音が冷えきってはいたが。
「まあ、アンタとしちゃ『親友とその恋人、オマケで恋人の弟の仇』だからね。良い気持ちじゃないんだろ?」
無言で拳を握り締めて堪えるソラを見て、シーグリスは続ける。
「アンタは”託された命の証を無駄にするな”っていってたっけね。…アンタにそれを言う資格が有ると思うかい?」
今度こそ明確にソラはシーグリスへ憎悪の視線を向けた。二人の視線がぶつかり合う。
「命の証を託されたんだから無駄にするな。安全圏からならナンボでも言えるさね。でも、”死が意味を産み出す状況”ってのも有るんだよ。『お前達は味方の為に死ね』そう言わなくちゃならない事がね」
「それこそ、あなたにそれを言えるんですか?」
「…私の胸骨の上にチップと電子鍵が埋めてある。もし私が死んだらソコをセンセイに頼んで切開して取り出して貰いな。生きてたら私が自分でやるけどね」
「何を言って…」
「アンタへの贈り物さ。いや、呪いと言った方が良いかもね」
そう言うと手を振って会話の終了をセンセイに継げる。
「一体何があるんですか!?」
そう叫ぶソラをシン達が食堂から引っ張り出すと、入れ違いにセンセイがやって来た。
「ああ、すまないね。我侭言って」
「後でちゃんとソラさんに謝って下さいね。あの子、まだ怒ってますよ」
それには答えずに、シーグリスは静かに目を閉じた。
結局、シーグリスは助からなかった。
手術の成功失敗以前に、出血量が多すぎたのだ。
手術の成功失敗以前に、出血量が多すぎたのだ。
「彼女からの遺言よ」
そう言われてソラは、センセイからきれいに洗浄されたカプセル二つを渡された。
「なんなんでしょうか…コレって…」
カプセルをそっと割ると、中にはオモチャのような鍵と、金属の小さなプレートが入っていた。
「コレは…何かの起動キィね。あと、コッチは…」
『こっちに持ってきてくれ。俺が解析しよう』
ハチに言われてモニターの前に突き出す。
『表面に微細彫刻で文字が刻んであるな。…これは…微天体の公転軌道?』
のちに、旗艦リヴァイブと呼ばれる戦艦とソラの始めての出会いだった。
そう言われてソラは、センセイからきれいに洗浄されたカプセル二つを渡された。
「なんなんでしょうか…コレって…」
カプセルをそっと割ると、中にはオモチャのような鍵と、金属の小さなプレートが入っていた。
「コレは…何かの起動キィね。あと、コッチは…」
『こっちに持ってきてくれ。俺が解析しよう』
ハチに言われてモニターの前に突き出す。
『表面に微細彫刻で文字が刻んであるな。…これは…微天体の公転軌道?』
のちに、旗艦リヴァイブと呼ばれる戦艦とソラの始めての出会いだった。