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第22話「その名はストライクブレード」アバン

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『東ユーラシア軍と統一連合軍による地熱プラント防衛共同作戦における、作戦開始から現時点までの状況報告』

いかにも官僚が作った長々しい題名に顔をしかめながら、ダニエルは報告書に目を通す。
もっとも、内容についてはいまさら読むまでも無く、把握している。これは単なる確認作業に過ぎない。

レジスタンス組織のゲリラ活動に対し、統一連合軍は有効な手を打てていない。対応は常に後手後手に回っている。散発的な攻撃に徐々に戦力を削がれ、遠征してきた兵たちのモチベーションは下がり、ストレスは溜まる一方だ。

なるほど戦力差は大きい。まともにぶつかりあえば、弱小勢力を集めたレジスタンスなどは一蹴されてしまうだろう。それは今でも変わりない。

だが、まともにぶつかりあえる状況を作れていない時点で、統一連合側は不手際を責められても仕方が無いところなのだ。

(それには、俺の責任もあるか)

そう、その状況を作れない最大の原因はダニエル、ひいては東ユーラシア政府の意向にある。

彼は統一連合の司令官と副司令官、マルセイユとジアードの対立を巧妙にあおり方針を一本化させないようにしている。挙句の果てには現地の地理情報すら出し惜しみして、統一連合側に無用の犠牲を強いてもいる。

これは東ユーラシア政府の総意でもあるのだ。

もともとコーカサス地方のプラント開発は東ユーラシア政府が率先して進めていたプロジェクトだった。それが度重なる戦乱による疲弊で資金が底を尽きかけ、プロジェクトが頓挫寸前までになったところを、オーブ資本のエネルギー会社が提携話を持ちかけてきた。

苦しい懐事情につけこまれて、統一連合にプラント運営のイニシアチブを取られてしまっている現状を快く思わぬ人間は多い。そして彼等はできることならば、統一連合の影響力を排除してしまいたいとも考えている。

東ユーラシア政府の理想とするシナリオは、今回の地熱プラント防衛作戦において、統一連合がレジスタンスとぶつかり合った挙句に共倒れしてしまうというものだ。二者が共に疲弊した後に、悠々と自分たちが漁夫の利を得られれば最高の結末と言うものだった。

しかし、いくら普段自分たちが手を焼かされているレジスタンスが相手とは言え、普通に戦えば統一連合の絶対的な有利は揺ぎ無い。

だから、東ユーラシア政府としてはダニエルの手腕に期待するところであった。彼はその期待に違わず、統一連合側の不興を買わないよう、巧妙にその指揮系統を混乱させ、必要な情報を与えず、レジスタンスに思わぬ苦戦を強いられるように仕向けていた。

なお蛇足ではあるが、今回ダニエルがこの任務に就いたことには、彼の有能さだけではなく、その運の無さも大いに手伝っている。彼自身がいくら努力し戦果を挙げても、彼が参加する作戦は何故か不幸な偶然に見舞われて、結局は大敗してしまうことが多く、彼には「疫病神」なる不本意なニックネームが付けられているからだった。

我が軍だけでなく、統一連合にも大いに災厄を振りまいてきてくれ、とは冗談交じりに彼が上官から言われた台詞である。さすがにその台詞にはハスキルも気分を害していた。



(しかし今回はすべてが期待通り、いや、少しばかり期待を超えてしまっていると言うべきかな)

作戦は順調に進みつつあるが、懸念材料が無いわけではない。

思いのほかレジスタンス側が善戦し過ぎていることがハスキルには気にかかっていた。

特にハスキル自身も何度か煮え湯を飲まされているリヴァイブなる組織、彼らの活躍は目を見張るものがあった。

ここ数週間の戦いの中で、戦場を縦横無尽に駆け巡り、幾度と無く統一連合の部隊を撃破し続けている。最近では、鳴り物入りで投入された新型モビルアーマーのドルズガーまで葬り去ってしまった。

統一連合が痛い目を見るのは大歓迎だ。しかしながら、レジスタンスが調子に乗るのもまた、ダニエルの本意ではない。

(ここらで少しばかり、統一連合側にも餌を与えるべきかな)

大切なのはバランスだ。統一連合が負けすぎても勝ちすぎてもいけない。レジスタンスも同様である。現在のところ天秤はレジスタンス側に傾きつつある。ここらで修正を図る必要があるとダニエルは結論付けた。

餌を与えるべき人間は既に選別を済ませていた。条件は三つ。

一つに、リヴァイブと戦えるだけの有能な者。くやしいがリヴァイブの戦闘力は一級品である。生半可な部隊では、せっかくお膳立てをしてやっても返り討ちに会う事だろう。

二つに、マルセイユとジアードのどちらの派閥にも与していないこと。二つの派閥にはこれからも存分に内輪もめをしてもらう必要があるので、ここでどちらかにアドバンテージを与えることは避けたい。

三つに……これは可能であればなのだが、統一連合の新型MSを有している部隊であること。新型MSの性能について少しでも知ることができれば、それは東ユーラシアにとって有利にこそなれ不利になることはない。

幸い、おあつらえ向きの部隊がいた。

まだ若い青年将校ではあるが、不慣れな極寒の地でよく部隊をまとめあげ、現在のところほとんど被害を出していない。しかも新型MSを二機も配備されているときている。

そして一番ダニエルにとって印象深かったのは、彼が地図情報を出し惜しみしていることについて、その青年が公然と非難をしたことだった。

マルセイユにしろジアードにしろ、ダニエルの口車に乗せられ彼に対して好意的な態度を取っている中で、その青年は堂々とダニエルの不実さを糾弾した。結局はマルセイユたちに咎められて口をつぐんだとは言え、その堂々とした態度にむしろダニエルは感服したものだった。

(ああいう活きの良い青年は、俺の部下にもなかなかおらんな。統一連合なぞにいるのは惜しい人間だ)

ダニエルもひねくれた性格で、従順で覇気がない部下よりは、むしろ反抗的だが勢いのアル部下のほうを重用するタイプだった。個人的にかの青年を気に入っていたのも、今回の選択に影響を及ぼさなかったと言えば嘘になる。

ともあれ、ダニエルは資料をキャビネットにしまうと、傍らの内線電話を手に取り、意中の人物に連絡を取った。

イザーク=ジュール中佐その人に。

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