「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

今は遠き平和

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「こちらβ1、派手にやってるよー!」

通信機の向こうでは爆発音と喧騒が聞こえる。確かに派手にやっているらしい。楽しそうだな、と皮肉交じりの言葉を口にしかけて思いとどまる。何せ今日は記念日だ。今日くらい無礼講でいきたいものだ。

「こちらα1、了解した。”花火”はもうすぐあがる。あまり張り切りすぎるなよ」
「了解。ご馳走を食べ損ねるわけにはいかないからね」

オーバーの発言が終わると共に通信がきれる。こちらもそろそろ動き出す時間だ。彼らβチームに笑われない為にも集中力を高める。

βチームはあくまで陽動、本命は俺たちαチームだ。今頃彼らは敵MSを爆破し、警備の目を引きつけている最中だろう。失敗すれば彼らの努力も無駄になる。

「こちらα1。αチームに告ぐ、もうすぐ作戦開始だ。タイミングを誤るな、ご馳走が食べられなくなる。オーバー」

報酬効果というものがある。欲しい物の為に頑張れる、とかいうあれだ。ご馳走、というのが今回の報酬に当たるらしい。俺たちレジスタンスにとってご馳走を振舞うということ自体が稀だ。リーダー曰く、記念日にはご馳走が付き物だという考えらしいが・・・俺たちのトップは何を考えているのやら。まぁいいように作用しているようで不問にしよう。
特にコニールには効果覿面だった。オーブ代表の演説が終わり、ファンファーレが鳴り響く。演説の内容などまともに聞いちゃいない。あれに詰まっているのは嘘で、偽善な、戯言だ。何も知らずに生きていればそれも正しく聞こえるんだろうが……。

――そろそろ時間だ。全てをやり遂げる為に熱くなった思考を冷やす。脳内物質が発散され、思考がクリアになる。高鳴る興奮を押さえつけ、一つに束ね、一本の信念に変える。

作戦内容、展示用MSレプリカの爆破及び要人暗殺。標的は――オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハ。

数多の民衆の中からMSレプリカを見上げる。ふと、過去に失った人達を思い出した。

――3…前々回の大戦で失った家族。一緒にいた頃を思い出すと、ただ暖かかったという言葉しか出てこない。思えば生まれて初めて力を欲したのは家族を失った時だったか。

――2 …前回の大戦で失った戦友たち。平和の為にと死力を尽くして数多の戦場を駆けた。戦場で散った友の想いを胸に、今俺はここにいる。

――1…守れなかった恋人たち。不甲斐ない俺を許してくれとは言わない。ただ許されるのなら、ソラの彼方からこれからも俺を見守っていてほしい。

――0! 文字通り派手な”花火”があがる。その場に居合わせた者全てを魅了するそれは、俺たちからアンタたちへの手向けの花。

「さぁ…行こうか」

運命に嫌われた者、運命に弄ばれた者、運命に抗う者。それぞれの想いを胸に――瞬間、黒が爆ぜた。

オーブ代表カガリ・ユラ・アスハの演説がフィナーレを迎えようとしている中、アスラン・ザラのポケットから機械音が鳴り響いた。こんな時に、と悪態をつきながらも通信機に手を伸ばす。

「どうした?」
「こちらD地区!レジスタンスの爆破テロです!」
「爆破テロ!?被害状況は?」
「人的被害はほとんど無いものの、MSの方がやられてしまい…」
「わかった、今出ている機体でなんとかしてくれ。俺もすぐに行く」(ここはオーブ本国だぞ?とても正気とは思えない)

幸い式典の護衛として数機のMSが出ていたため、MS戦になったとしても何とか対応出来るだろう。ただ、ここオーブ本国でテロが起こったことに激しく動揺した。
演説が終わったのか割れんばかりの大歓声が巻き起こる。演説で散々言われた平和という言葉が、今は霞んでしまっていた。

「どうした?怖い顔して」

気がつくと演台を降りたカガリが目の前にいた。いつの間にか顔を覗き込まれていたらしい。背後に流れるのはオーブを、先ほどの演説を称えるように響くファンファーレ。あの表情を見られたのかと思うと自分を罵りたくなる。カガリに余計な心配をかけさせるわけにはいかない。表情から心情まで読まれてなければいいのだが。

「いや、ちょっとな・・・。それより俺は今から・・・」

言い終える間もなく、ファンファーレは爆発音にかき消された。

「なっ!?」

驚きは誰のものだったか、その声も後に続く悲鳴にかき消される。場は騒然とし、式に来ていた民衆が蜘蛛の子のように散っていく。

「危ないっ!」

ふと見上げたのが正解だった。爆破されたのは前回の大戦時に使用されたMSのレプリカ。
落下点は――今自分達がいる場所。カガリを抱えて反射的に飛んだ。着地の衝撃で自然と苦痛の声が漏れる。爆発の音に負けず、無骨な大音量が響く。

「っ…大丈夫か?」
「なんとか、生きてるみたいだ」

体を起こそうとしたその時、ゾクリ、と。突然強烈なプレッシャーに襲われた。
この感覚は大戦中に何度も経験した。MS戦、白兵戦問わずに感じるこの刺すような威圧感。相手が強ければ強いほど感じるそれは真っ直ぐに、隣で苦悶の表情を浮かべている彼女を刺していた。
死角から迫ってくるプレッシャーに本能的に振り向き、拳銃を手に……いや、それでは間に合わない。振り向くまでの僅かの間に目の前に転がっているレプリカの欠片を拾い投げつけた。
振り向くと、そこには黒の男がいた。その手に握られているのは黒い拳銃。タイミングは微かにこちらの方が速かったか、彼女を狙った凶弾は外れ、男の手から拳銃を弾き飛ばした。
戦士の勘というものもあったろう。それ以上に運が良かった、それしか言いようがない。もしあの場にレプリカの欠片が落ちていなかったら、彼女は今頃ただでは済まなかっただろう。
カガリがつられて振り向き、やっとその存在に気づく。改めてこの男を見ると、”黒の男”という表現が実に的を射ている事に気づく。黒い髪に黒いサングラス、服装も一貫して黒。そして頬には古い傷。
こんな奇妙な格好の男、一度会ったら忘れはしないだろう。しかし妙に懐かしい気がするのは何故だろうか。周囲は以前騒がしかったが、この空間だけは時が止まったかのような錯覚に陥った。
瞬きすらせず互いを見つめあう二人と一人。沈黙はどれくらいだったのだろう。一分、三十秒、いやそれとも一秒未満だろうか。永遠とも一瞬ともとれる沈黙を破ったのは、他でもない黒の男だった。

「平和なオーブ、か…」
「えっ?」

不意に放たれた言葉に反応するカガリ。男はそのカガリに顔を向け、この世の怒りを全て込めたかのような言葉を叩きつけた。その時、少しだけずれたサングラスからは――

「さすが、綺麗事はアスハのお家芸だな!」

――怒れる真紅の瞳が鈍く光っていた。

騒ぎに気づき走りよる数名のSP。円を描くように包囲されるその中心で、男は銃を向けられても表情の変化すら見せない。
取り押さえられるのも時間の問題かと思われたその時、逃げ惑う民衆の中から男に向けて”何か”が投げられた。
その”何か”が地に落ちた瞬間、世界は光に包まれた。

「閃光弾!?」

眩しさに目を庇い、苦虫をかみ締めた様な表情を浮かべる。
男はそれを一瞥したかと思うと、突然の閃光に消えていった。
世界が正常に戻る。視界にはもう男の影すら存在しない。

「・・・巡回中のSPに連絡!黒づくめの男を逃がすな!」

気丈に振る舞い何とかSPに指示を下す。悪態をつくが、明らかに狼狽した様子を隠しても隠し切れないだろう。

「お、おい、大丈夫か?」

その様子を心配そうに見つめるカガリ。彼女もまた酷く動揺していた。その彼女に心配されているんだ、今アスラン・ザラは相当酷い顔をしているらしい。
過去に一度、同じ事を言われた覚えがある。あれはいつだったか、そう前回の大戦開始前。とあるZ.A.F.T.軍のパイロットからだ。

「まさか…あいつが?」

男の燃えるような紅い瞳を思い出す。そこにあったのはただ純粋な怒りのみ。呆然と立ち尽くすアスランとカガリ。今はもう、平和という言葉がとても遠くにあるような気がしてならなかった。

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