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狂い咲く人間の証明(5) - (2009/04/26 (日) 19:05:11) の1つ前との変更点
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**狂い咲く人間の証明(5) ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
宇宙空間に放置されたエックスとドラス。
真空の影響で、彼等の体内に存在する水分が暴れ回って…………いなかった。
ナタクが腰に巻いた赤く輝く布は、宝貝の一種『混天綾』。
その液体を操作する能力で、ナタクは自分とドラスの体内の液体を通常通りに循環させているのだ。
「はああッ!」
真空ゆえに自分にしか聞こえない声を、ナタクが上げる。
ナタクの肩を貫通する二本一対の刃が上下する――――が、何も起こらない。
先程から数回ナタクは龍を繰り出そうとしているが、この調子なのである。
その理由は、ナタク自身には分かっていた。
まずは疲労。
二度の龍召還により、ナタクが消費した体力は極大。
汗を滅多に分泌しない彼が、大量に流してしまうほどだった。
そして、もう一つは金蛟剪の操作に集中しきれていないこと。
普段なら混天綾を扱うことなど、ナタクには戦闘しながらでも可能だが……
スーパー宝貝を行使するとなれば、混天綾の使用でさえ大きな足枷となる。
かといって、ナタクは混天綾を解除するワケにはいかない。
背に掴まっているドラスが、死んでしまうからだ。
いくら試みても反応しない金蛟剪を諦め、ナタクはPDAを取り出す。
何度かボタンを操作すると、画面に文章が映し出される。
背中に掴まっているドラスに見えるように、ナタクはPDAを掲げる。
『金蛟剪が使えん。乾坤圏と同時に、俺に使ったレーザーを撃て』
文面を確認したドラスは、怪人態となる。
ナタクは乾坤圏を装着した右腕を向け、左腕でパワーアームに転換したカセットアームを構える。
軽い動作を合図として、コロニーの壁に三つの攻撃が直撃する。
分子破壊光線に、地形をも変える宝貝、そして怪人を砕く鉄塊。
それらを受けても、壁には傷一つ付かない。
アイコンタクトでドラスに合図を送るナタク。
もう一度、壁に攻撃を放つ。
さらにもう一度、さらに、さらに、さらに……――――
しかし、壁に穴は開かない。付いた傷もその傍から修復していく。
鋭い視線で立ちはだかる壁を見据えるナタク。
その背中の上で、ドラスは少女の姿に戻る。背負ってもらうには、身体が小さい方が楽だからだ。
『試しに使ってみろ。俺の体内の水分を普段通りに動かせ。お前の水分は俺がやる』
壁を砕けないことに気付いたナタクは、PDAに新たな文章を打って混天綾をドラスに触れさせる。
困惑するドラスに、さらにボタンを弄る。
『お前はさっき乾坤圏を放っていた。混天綾も使えるはずだ。使えると信じ込めば使える』
ドラスは戸惑いながらも、混天綾を掴みながらナタクの体内の水分を操ろうと念じる。
機を見計らって、ナタクが自分自身への液体操作を解除する。
現在ナタクの体内の液体を管理しているのは、ナタクによって体内の液体を操作されているドラス。
そのまま十秒ほど経った時、唐突にナタクの首筋から血が噴出する。
「――っ!?」
肩を掴む力から、ドラスの考えていそうなことは理解したナタク。
何事もないように、PDAを操作する。
『動じるな。集中せねば、宝貝の操作にズレが生じる』
たっぷり数分かけて、やっとドラスが平静を取り戻す。
溢れ出していたナタクの血液が止まる。
そのまま幾らか経過し、ナタクはドラスが混天綾の操作をマスターしたと認定する。
『俺の体内の水分を操作しながら、お前自身の水分も操作しろ。数は増えても、基本は変わらん』
精神を研ぎ澄ませるドラス。
一瞬だけナタクが混天綾から手を離して、再び掴む――何も起こらない。
ナタクが新たな文章をPDAに打ち込み、混天綾を完全に手離す。
『くれてやる』
「ナタク……?」
そう言って、ナタクは混天綾をドラスの肩にかける。身長が低いため、腰布ではなくマントとして。
所持する道具を他人に渡すなど、あまりにナタクらしくない行動。
呆気に取られるドラスをよそに、ナタクは全身に力を篭める。
「はあああああ……!!」
力強く双瞼を見開き、響かない声を張り上げる。
金蛟剪が、それまで以上に大きく動く。
――――が、何も起こらない。
(やはり体力が回復するまで無理……か)
混天綾の長期使用に、乾坤圏の無駄撃ち。
それらによって、ナタクは宇宙に放り出された時点よりも疲弊していた。
そんな状態では、仙人界攻撃力二番目のドラゴンを呼び出せるはずもなかった。
ナタクは、思考を巡らせる。
コロニー内に舞い戻るには、どうすればいいのかについて。
彼が見つけた策は、二つ。
一つは、単純な方法だ。
回復するまでこの場にい続け、体力が戻った途端に金蛟剪を使用する。
しかし金蛟剪を使用できるまで回復するには、どれだけの時間がかかるか不明。
本体が死なないとはいえ、肉体に影響を及ぼしているのは明白だ。
そんな状況で体力が戻るのかも、分からない。
と、なれば――――
(…………もう、あの方法しか思いつかんな)
ナタクは、最後に残った手段を文章としてPDAに映し出す。
それを見たドラスは言葉を詰まらせ、彼もPDAを取り出して文を打つ。
『断る』
ドラスが前に伸ばした腕に掴まれたPDAには、そう記されていた。
■
断る、か。
過去の行動に罪悪感を抱いているお前ならば、そう答えるだろうとは思っていた。
しかし、他に道はない。
『ならば、俺が回復するまでここで待ち続けることになる。
その間に、姉も神敬介もゼロも殺されるかもしれんぞ。あのエックスに』
そう記したPDAを見せたが、返事がない。
俺が言わずとも理解していたのだろう。
その上で、ドラスは俺の提案を拒否しようとしている。
『スバル・ナカジマという方の姉に会って、説得したいのだろう?』
微かにドラスが動いたのを感じる。
弱みに付け込んでいるようで気分が悪いが、そうする他にない。
大乙もいなこの地で、俺が回復するまでにどれだけかかるか分からん。
下手をすれば、やっと戻った時にはドラスの知り合いが全滅している可能性だってある。
だから、俺の提案に乗って――――俺を喰らえ。
麻生という仮面ライダーを吸収して、強大な力を手に入れたと言っていただろう。
仮面ライダーなどより強い俺を取り込んで、その時以上の力を手に入れればいい。
宝貝に触れた人間が乾涸びるのは、ただの人間には宝貝を操るだけの力がないからだ。
お前は宝貝を使えるとはいえ、金蛟剪を取り込めば危険かもしれんが……それを操れるだけのエネルギーを持つ俺を吸収すれば問題ない。
金蛟剪を身体から外せんが、別に取り込んでもエネルギーを吸い尽くされることはないから安心しろ。
『さっき話したように、なぜか他人の肉体を吸収すると取り出せないんだよ……?』
ドラスが伸ばした手に、PDAが握られていた。
そんなこと、もう知っている。
過去の行動を悔いて、スバル・ナカジマの腕を切り離そうとしても不可能だったと聞いた。
知った上で、俺は言っている。
その旨を伝えると、背に奇妙な感触。
掴まっているドラスが、小刻みに痙攣しているらしい。
少し前に泣いていたのに、また泣き出したのか。
落ち着けるべく、PDAを操作する。
『どうした』
『……悔しいんだよ。僕のせいで、ナタクが苦渋の決断をするしかないのが』
…………勘違いさせていたか。
背負っていたドラスを抱えて、眼前に連れてくる。
飛行できないドラスがあらぬ方向へ飛んでいかないように、右手で手を掴んだままPDAを見せる。
『別に、お前が悪いのではない。苦渋の決断でもない。
俺がお前にそうさせたように、俺は俺がやりたいようにしているだけだ』
『何でナタクは、僕のためにそこまでしてくれるの……?
ナタクが掴まってろって言ったのに、僕が手を離したからこんなことになったのに……』
理解ができない。
なぜ、こんなことを悩んでいるのか。
あの場所に母上がいれば、俺だって攻撃をやめてすぐに救助に回った。
それは当然の行動だろうに。
『家族を守ろうとするのは、当たり前だ。悔いることなど、何もない』
大したことを書いたワケでもないのに、ドラスの返事がやたらと遅い。
長い時間をかけて書き上げた文章に何度も目を通し、ようやくPDAを手渡される。
『分からない。全然分からないよ、どうしてナタクがそんなに優しくしてくれるのか……
僕は……適当に回収した金属を寄せ集めて、科学の力で作られた……ネオ生命体なんだよ…………?』
それを見て、やっと気付いた。
俺はアイツに教えられたが、ドラスはまだ知らないのだろう。
アイツはもういない以上……伝えるのは、残された俺の役目だ。
『度重なる強化により如何に醜い姿になろうとも、四肢を奪われても核が無事ならば修理可能な身体でも、肉体が金属で構成されていようとも、何も変わらない』
否定はさせんぞ、馬元。
俺の前でこのことを証明して見せたのは、他ならぬお前なのだからな。
『魂を宿しているのだから、俺達は……お前は――――人間だ』
渡したPDAを見たまま、ドラスの瞳が赤く染まる。
ドラスはそのまま今までよりも激しく痙攣して、右の掌で顔を覆うように隠す。
その指の隙間から雫が漏れ出して、水の塊のまま空中に漂う。
体外に排出された液体までも、ドラスは混天綾で操作していないのだろう。
掌では隠し切れないことに気付いたドラスは、泣き顔を見せまいと思ったのだろうか――俯いてしまう。
ドラスの手を握る方の手にかける力を強くして、左手で髪を撫でてやる。
落ち着けようとしたはずが、さらに激しくなってしまった。
まあいい。最後だからな、許してやろう。
◇ ◇ ◇
** 142話 「狂い咲く人間の証明」
◇ ◇ ◇
『金蛟剪については理解したか』
泣き止んだドラスは、首を上下させて答える。
金蛟剪の説明といっても、『飛べと思えば飛ぶ』『出ろと思えば出る』程度のことなのだが。
それに加えて、集中力を保てというくらいか。
『では、善は急げだ。喰え』
もはや持っていても仕方がないPDAを渡すと、ドラスが原型に戻る。
ドラスの胸が開いくと、話に聞いたとおり激しい光に照らされる。
その中に身体を押し込もうと触れてみると、身体が吸い込まれる感覚。
「ナタク……僕はもう泣かないよ。僕の涙を見るのは、ナタクで最後だ」
ドラスの体内だからだろうか、ちゃんと声が耳に届く。
「ククッ、いい意気だ。その調子で胸を晴れ、シグマ如きにもう弱さを見せるな。
何も恐れることはない。スーパー宝貝を使いこなしたこの俺の力が、お前に上乗せされるんだから――」
先程まで泣いていながら、あんなことを宣言するとはな。
その覚悟を、さらに後押ししてやるとするか。
「お前は死なん」
言い終えた直後に、周囲の光景が一変する。
四方を取り囲むのは、漆黒の闇。
唐突に、眠気が襲い掛かってくる。
消え入りそうな意識の中で、たった二つの……しかしとても大きな心残りを夢想する。
申し訳ない、母上。
生まれた日より、母上をお守りすることだけが生きがいでした。
しかし……そんな俺にも、他にやりたいことができたのです。どうかお許しください。
李靖如きに任せざるを得ないのは心底不安ですが、あの男もアレでやっとそれなりに強い宝貝を手に入れたので安心してください。
幸せな人生を送られることを、祈っています。
すまない、天祥。
約束を破るつもりは、欠片もなかった。帰り次第、お前に俺の無事を知らせたかった。
だが、お前に似た境遇の子供に出会ってしまった。
お前よりも幼く不安定なところがあるため、結構長い間一緒にいなければならないようだ。
そんなヤツでも、もう泣かないと誓ったぞ。だからお前も……もう泣くな。
&color(red){【ナタク@封神演義:吸収確認】}
&color(red){【残り14体】}
■
ナタクを取り込んだことにより、ドラスの中に生命力が溢れる。
疲労は回復し、負傷も目に見える速度で回復した。
それを確認した後、コロニーの壁を破壊しようとドラスは龍を呼び出そうとする。
あえて少女の姿に戻ったのは、ナタクに混天綾の操作方法を教えてもらったのがこの姿だから。
いわゆる、げん担ぎである。
ネオ生命体の能力を使うワケでもないので、デメリットもないと考えたのだ。
集中力を高めて、ドラスが龍の発現を願い――
ドラスが掠れた悲鳴の後に、緑色の血液を吐き出してのた打ち回り始めた。
「ぐ……ぅァぁあア――――っ、っばァアぁァあッ」
ナタクの想定ならば、ナタクの力を手に入れたドラスはすぐさま金蛟剪を使いこなすはずだった。
一般人が宝貝を使用しようとすれば乾涸びるのは、仙人骨より生み出されるエネルギーが存在しないためだ。そのせいで、代わりに生命力を吸い取られてしまう。
常時宝貝を身に付けているナタクには、金蛟剪を使用する毎に途方もないエネルギーを奪われることに気付いていた。
ドラスが乾坤圏を使用したのを見ていたナタクは、冷静に判断した。
どう頑張ったところで、金蛟剪を使用するのは不可能……と。
ドラスのことを仙人骨を持つ宝貝人間と思い込んでいながらも、ナタクはドラスが持つ『宝貝を操るエネルギー』は並の仙人程度と判断した。
並の仙人程度では、スーパー宝貝を即興で操るのは不可能。
太公望のように途方もない時間をかけて修行に勤しまねば、使いこなせるようにはならない。
しかしナタクは、ドラスの中に『スーパー宝貝を使えるだけのエネルギー』を漲らせる方法を見出した。
――――自分のエネルギーを上乗せすればいい。
『宝貝を操るエネルギー』の量に関しては、ナタクは仙人界最強クラスである。
いくら消耗しているとはいえ、並の仙人が持つ『宝貝を操るエネルギー』と合わせれば……金蛟剪を使えるくらいにはなるはずだ。
そして、そのナタクの予想は正解。
現在、ドラスの体内には金蛟剪を操るだけのエネルギーが存在する。
しかし、ドラスは顔を苦痛に歪める。
混天綾の操作だけで手一杯。それすらも粗が出て来かねない、そんな状況だった。
「ガぁあアああァアあッ! ヅ、うゴぁぁあァあ」
――――ここに、ナタクの知らない事実が存在する。
他の宝貝を遥かに退ける性能を秘めた七つの宝貝。
人類が誕生する遥か以前に、地球に降り立った『最初の人』が製造したスーパー宝貝。
それらを使用することは、かの三大仙人でさえ尻込みするのだ。
『スーパー宝貝を使えるだけのエネルギー』を持っているはずの、三大仙人でさえ。
なぜか――理由は、極めて単純にして明快。
『スーパー宝貝を使えるだけのエネルギー』を持っていても、下手に使用すれば危険だから。
たとえ扱うだけの能力を持っていようとも、スーパー宝貝自身に認められなければ使用は不可能。
それどころか、現在のドラスのように強引に生命力を奪い取ろうとする。
それだけならば、まだいいのだ。
真なる問題は、その先にある。
それは、異常に気位が高いスーパー宝貝の――――偏屈なまでの強情さ。
ストイックさ、才能、修行量、思考、人格、高潔さ、単純な強さ、エトセトラ、エトセトラ……
スーパー宝貝が使用者に望む要素は、それこそ星の数ほどある。
全て持ち合わせる必要はなく、どれか一つでも秀でていれば認められることもある。
しかしそれでも、基準があまりにも高すぎる。
スーパー宝貝の一つ『禁鞭』などに至っては、聞仲という男が現れるまで誰一人として使用者に認定しなかったほどだ。
禁鞭ほどのプライドは持ち合わせていないが、金蛟剪はドラスを使用者として認めない。
ある種、皮肉とも言えよう。
一発で金蛟剪に認められたナタクだからこそ、自分の計画の無謀さに気が付かなかったのだ。
「ぅ、ヅぁ、ける…………なあァァ――――!」
金蛟剪の飛行能力も扱えず、体勢を保つことすらできないドラス。
滾る怒りを胸に、声を張り上げる。
怒りの対象など、もはや言うまでもない。
「スーパー宝……貝だかなんだか知らない、けどなっ、僕……の中、にはナタクがいるんだ……
お前、を……従え、てみせた! そ、の……ナタク、の力が! 僕、の中に、漲ってるんだ!!」
無論、周囲に大気はない。
そのために、この怒号じみた演説はドラス本人にしか聞こえない。
そんなことはドラスにだって分かっている。
ドラスは全て理解した上で、かつて嫌った『合理的でない衝動』に身を任せているのだ。
「だってのに、お前、に! たか……が、鋏……なんかに、いまの僕を殺せるかよっ!」
聞いているかとばかりに、ドラスは己の胸に拳を叩き付ける。
ドラスの体内の金蛟剪が、衝撃で揺れ動いた。
「お前、なん……かの力で! 僕、は……死なない!!」
傍から見れば、都合のいい空言にしか聞こえないだろう。
だが、それはドラスにとっては違うのだ。
そのような妄言を、大真面目に言ってのけた男のことを知っているドラスには――!
ドラスが、開けていた目をさらに力強く見開く。
それまで以上に、大きな声で確認を取る。
「そう……なんだろ? なァ…………そうだろォ!! ナタクッ!!!」
生命力を吸い取られる中、全身全霊を篭めた絶叫。
肩にかけた混天綾のおかげで生きていられるドラスにとって、体力を余計に消耗するのは自殺行為。
それでも、ドラスはそれをやった。
『理に適っていない』だとか、『道理に合わない』だとか、そんなことは先刻承知。
その上で、ドラスは行ったのだ。
言葉を聞くはずのない宝貝に、ナタクの存在を知らしめたくて。
時々理屈に合わないことをするのが人間――とは、ドラスが培養液に浸かっていた頃に、望月宏が呟いていたアニメの台詞だっただろうか。
そんなことを思い出したドラスは、生命力が磨耗していく中で――――笑みを浮かべた。
もう一度言おう。
声というものは大気のない宇宙空間では、手を伸ばせば触れることのできる距離にいる相手にさえ届かない。
しかし、ドラス自身には届く。
――――つまりその声は、ドラスの体内には響き渡る。
誇り高き貴族が愛用していた宝貝は、ドラスの強い意志を察して――ついにドラスを使用者の資格があると認めた。
開き直りともいえるドラスの口上に、スーパー宝貝をあそこまで扱き下ろす度胸に、金蛟剪はかつての使用者が愛でた『美しさ』を見た気がしたのだ。
「…………ぇ?」
喪った生命力が、再びドラスの中に満たされる。
自由に移動できなかった空中で、思うままに飛び回ることが可能になる。
(もしかして……?)
根拠のない確信を抱いて、ドラスは龍を呼び出そうと念じた。
されど、金蛟剪はまだ『使用者になる資格がある』と認めただけ。エネルギーで構成された龍の召還まで許可はしない。
触れていても反発はしないし、オマケにすぎない飛行能力は使わせる。
ただ、それだけである。
「……ッ、ダメか…………」
エネルギーこそ出現するも、それが龍の形を作らない。
肩を落としそうになったドラスは、あることに気付く。
(ナタクを取り込んですぐの時よりも、力が溢れている?)
ありえないことだった。
龍を模れなかったとはいえ、エネルギーを排出したのである。
それなのに、ドラスはこれまで以上のパワーを自分から感じ取る。
(まさかナタク、さっきの問いかけに答えてくれてるの……?)
それは、あくまで仮説。
ドラスにとって都合がいい、あくまで幻想でしかない。
ただ確かに……叫ぶ前よりも叫んだ後の方が、ドラスの中に大きな力が満ちていた。
金蛟剪が使用者になる資格を認め、触れている時に奪うエネルギーを軽減させたのかもしれない。
思いを声に出したことで、一種の興奮状態にあるのかもしれない。
それでも、ドラスは己の考える幻想を信じ込んだ。
「僕は、何を諦めかけてたんだ……その前にやることがあるじゃないか!」
宝貝が使えこなせないなら、この漲るパワーをマニキュレーザーに回せばいい。
諦めるのは全ての方法を試してからだ、とドラスは声を張り上げる。
ドラスは、その姿をネオ生命体の姿に変えようとした。
体内に核を持ち、他の物質がその核を覆うことで姿を保つ。
核を破壊されなければ、幾ら損傷を受けても再生可能。
共に優れた科学により生み出された――――宝貝人間とネオ生命体。
あまりに酷似した二種の個体。
それゆえに、ナタクを吸収したドラスには奇妙な事態が生じている。
異なる種族でありながら、エネルギー変換効率がやたらといいのもその一つだ。
そして――ドラスがネオ生命体の姿をとろうとした時に、それは目に見える形で現れた。
全身に力を篭めたドラスの肉体が、かつてネオ生命体第一号を捕食した際と同じように――――!!
赤く輝いていた二つの複眼は、墨汁でも垂らしたように黒ずんだものに。さらに肥大化。
長く伸びていた触角は、短く洗練されたものと変わる。
至る所に生えていた刺々しい突起は消え去り、より人間に近い体躯となった。
そしてくすんだ鉛色の肉体は、血液じみた――――ナタクの毛髪と同じ色に!
「これは…………」
変化した自らの身体に、ドラスは目を丸くする。
しげしげと下半身から上半身まで眺めていき、意を決したように立ちはだかる壁を睨みつける。
力を篭めたことで、左肩の三つの点が光り輝く。
ドラスが手にしているのは、かつてドラスが神の力と呼んだもの。
しかし、現在のドラスにとっては違った。
「見ててよ、ナタク……! 僕とナタクの力を!!」
三つの点より放たれた光が一本のレーザーとなり、コロニーの壁を再び打ち砕いた。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
Back:[[狂い咲く人間の証明(3)]] Next:[[狂い咲く人間の証明(3)]]
|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|ゼロ|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|
|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|ドラス|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|
|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|ナタク|&color(red){GAME OVER}|
|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|ハカイダー|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|
|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|フランシーヌ|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|
|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|エックス|142:[[狂い咲く人間の証明(3)]]|
**狂い咲く人間の証明(5) ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
立ちはだかる壁を破壊し、再びコロニー内に入り込んだドラス。
金蛟剪で地上まで飛行する途中、暴風に攫われたチンクを発見して両手で抱きかかえる。
その直後に、ドラスは気付いた。
チンクの左胸に、風穴が開いてしまっていることに。
ドラスの呼びかけはチンクには届かず、ゆっくり振り向いたチンクに一方的に勘違いをされてしまう。
狭くぼやけた視界の中で、ドラスの顔を見たチンクは――
赤い躯体に、大きな複眼と短い触覚を持つドラスの姿を、ある男と思い込んで声をかけた。
ドラスには、それを否定できなかった。
その名を呼んだ時、ほぼ死人だったチンクがすこしだけ生者に戻ったから。
聡明なドラスは、悟ってしまった。
ドラスには絶対に見せない泣き顔を隠そうとしなかったり、命を削ってまで語りかけてくる姿から。
自分ではなく彼が死を見届けたと思い込んだままの方が、チンクは幸せなのだと。
利口であるがゆえに、ドラスは姉に最後の言葉をかけることができなかった。
言いようもないほど残念だったが、自分の悲しみでチンクが少しでも幸福なまま逝ければそれでよかった。
だから、チンクの心音が停止するまで口を硬く閉ざした。
山ほどあるかけたい言葉を、ドラスは必死で押さえ込んだ。
涙が零れそうになったが、それも一生懸命堪えた。
チンクの死を見届けるべき人物ならば涙は流さないし、何よりそれは誓いだったから。
天井に開いた穴が修復され、吹き荒れていた風がピタリと止まる。
ドラスはサイドマシーンを転送し、サイドカーの方にチンクの遺体を横たわらせる。
抱えたまま戦うのも、地べたに放置するのも、ドラスには願い下げだった。
ドラスは、ほぼ同時に地面に降り立ったエックスに視線を向ける。
逃亡するべく背を向ければ、攻撃を受けるた可能性があるのでエックスは立ちすくしたままだった。独特のチャージ音を響かせながら。
「神さんは、どうしたの」
「死んだ」
「そう」
短い確認を終え、ドラスが腰を落としてファイティングポーズを取る。
淡々としているのは怒りがないからではなく、煮え滾る思いを言葉に変換できる気がしないから。
ナタクと一緒に取り込んだパワーアームと乾坤圏が、ドラスの体外に排出される。
パワーアームを左手に構え、乾坤圏を右手に装着するドラス。
「ぁああッ!」
フリームーブの勢いでエックスは、ドラスに正面から突っ込む。
ドラスの魔法弾と乾坤圏の威力を知るエックスは、得意の遠距離戦をあえて捨てた。
現在のダメージでは、持久戦になれば負けるのは自分だからだ。
ドラスとの距離数十センチのところで、バスターの銃口をドラスに向けるエックス。既にチャージ完了済み。
しかし勝負の決め手となったのは、単純なスペック差。
ダメージの大きいエックスに対し、ナタクを取り込んだドラスはほぼダメージなし。
ショットが放たれるより早く、カウンターの右ストレートがエックスの顔面に捻じ込まれ――
「――――ガッ」
一瞬で終わる悲鳴と共に、エックスは民家に突っ込んだ。
吹き飛んだエックスが落とした七つのPDAを。回収したドラス。
そのまま数分間民家を眺め、無音なのを確認してカセットアームを体内に収納。
少女の姿となって、サイドマシーンに跨った。
アクセルを捻る彼の顔には、勝者の歓喜など一片もなかった。
僅かにサイドカーに身を預けるチンクの遺体に視線を流した後、視線を南方向へ向ける。
涙は、流さない。
◇ ◇ ◇
サイドマシーンを駆っていたドラスは、数分も経たぬうちに北上してくるバイクを見つけた。
そのバイクは、ドラスを見つけた途端停車する。
運転していたのが話に聞いていたハカイダーであり、ドラスはブレーキを握って身構える。
しかし――
「ドラス、無事だったか」
自分の元に駆け寄ってきたゼロを見て、ドラスは警戒を解く。
敬介からハカイダーとフランシーヌについて聞いていたドラスは、停戦状態にあるのだと判断する。
「やはり、何かあったのか…………ッ!」
サイドカーの中で瞳を閉じるチンクを目にして、ゼロが歯噛みする。
本来ならもっと早く到着していたのだが、二度激しい風が吹き荒れて進行を止めざるを得なかったからだ。
ゼロは、否が応にもアレさえなければ……と考えてしまう。
一人生き残ったドラスは、ぽつぽつと何が起こったのかを語り出す。
次第に険しかったゼロの表情が驚愕に、最後には悲しげなものへと変わっていった。
■
エンジン音が少しずつ小さくなっていき、ついに聞こえなくなった。
潜めていた呼吸を正常に戻す。
……何とか生き延びた。
払った犠牲が大きすぎる。
ヘッドパーツは彼の……イレギュラーの攻撃で粉砕。
フットパーツも煙を上げたまま作動しない。
カウンターの衝撃を緩めるために、急に逆方向に負荷をかけたせいか。
X……イレギュラーの自爆で亀裂が入った直後に、酷使すれば当然か。
また、こちらに来させないようにPDAをバラ撒いたので道具はもうない。
救急箱に入っていた膏薬と包帯も、ドラゴンから逃げる際に落としてそのままだ。どこにあるか検討もつかない。
何より、ダメージが尋常じゃない。
ダメージを軽減したはずなのに、首が捻じ切れそうだった。
ヘッドパーツの破片が右目に突き刺さり、まったく視力が利かない。
…………休息が必要だ。
こんな場所まで来る参加者は、そうそういないだろう。このまま休もう。
放送後に、彼……違う! イレギュラーが戻ってきたら危険だが……
この身体じゃ、どうもこうも言っていられない。瞳を閉じるとしよう。
――傍から見ると、悪党はそっちのほうだぜ? 元ヒーロー
そんなことは分かっている。俺はイレギュラーで構わない!
平和をもたらすためなら、何にだってなってやる!!
――ちょこまか逃げてんじゃねえ!
君達の……かつての俺の考え方こそが、逃げなんだ!
結果、誰か救えたのか?
みんながみんな勝手にぶつかって、イレギュラーでない者が死んでいったんだ!
だったら、俺はイレギュラーとなってイレギュラーでない者達を……違う、違う違う!!
――奴と同じことを言いながら、奴と違って目的を見定めることが出来ていないのか。
あなた……君……お前、イレギュラーに何が分かる!
目的を見定めているからこそ、俺は――――!
――貴様は、抱え切れぬ程に大きすぎた目的から逃げ出したのか。
また、それか……俺の行動は、逃げじゃない!
――考えを改めることはできないのか?
じゃあ、他に方法があるのか!?
既に何人も殺した俺に、何か選べ……違う! これは逃げじゃあない!!
――……でも、いま凄くつらそうな顔をしてたよ?
……っ、しているはずがない!
俺はイレギュラーなんだ! イレギュラーに表情があるものか!!
つらいはずなんてないんだ! ……そんな目で、見るなァアアア!!
――考え……をっ、あらためる…………ことはっ、できな……い、か?
何度も同じことを聞くなッ!
もう止まらない! 止めたければ、俺を破壊し――違う、違う違う違う!
止められたいはずがあるものか! 俺は……俺はイレギュラーだ!
――エックス、もうお前は止まっていいんだ
黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れェェッ!
俺が止まれば、俺が破壊したレプリロイ……違う!
イレギュラー達に、どのツラ下げ…………違う、イレギュラーに頭を下げる理由はない。
イレギュラーには謝罪など……だが、俺は止まれない。
止まれば、俺が殺……違う違うッ!!
――バケモノ……め…………
「――――ッ!!」
…………夢、か。
気分が悪い。瞳を閉じるのは止めよう。
気にかけているワケじゃないが、そもそも瞳を閉じるのは無用心だ。
龍に喰いちぎられた肩口を見てみる。
よく生きているものだ。我ながら、嘆息する。
不意に、エンジン音。
数は二つ。
近くに止まり……足音が一つ、こちらに近付いてきている。
民家自体が少ないとはいえ、迷わずここを選んだということは……
――――気付いている。
先にチャージを済ませて、音を響かせずに待機するとしよう。
■
ドラスとゼロ達が合流した地点。
その場所にいるのは、現在は二人だけであった。
掘った穴にチンクを横たわらせて、土を被せているドラス。
そして、彼に目を向けているフランシーヌだ。
ドラスが説明を終えて、少し経った時である。
神妙な顔をしたゼロは、チンクに渡した道具がなくなっていると言って戦場跡に向かった。
ドラスがナタクに返しておくよう頼まれた、サイクロン号を駆って。道具の喪失など虚構であることは、誰も知らない。
暫しゼロの背中を見ていたサブローも、それを追いかけると行ってKATANAのアクセルを捻った。
サブローがフランシーヌを置いていけたのには、理由がある。
ドラスは先の戦いを説明する際に、ナタクを取り込んだことによって手に入れた赤い肉体を曝け出した。
その姿になったドラスから溢れる重圧力から、サブローは秘めた強さを感じ取った。
それゆえに、フランシーヌを任せられると判断したのだ。
何より――――サブローにとっては、鬼気迫る様子のゼロの方がドラスよりも気がかりだった。
「あなたには、心があるのですね……」
チンクを埋葬し終えたドラスは、支給された食料を供える。
両手を合わせて瞳を充血させながらも、涙を流そうとしない彼の姿に、これまで特に喋っていなかったフランシーヌが口を開く。
敬介を含む三人の壊し合いに乗り気でない参加者の死。
放送前の時点で磨り減っていた彼女の精神は、その事実によってさらに削られた。
「うん、お姉ちゃんやお兄ちゃんがね――――」
自分の心に誇りを持つドラスは、手に入れるまでの経緯を説明しようと顔を上げる。
しかしフランシーヌのあまりに悲痛な表情に、ドラスもその胸中を察する。
「どう、した……の?」
自分の軽率さを悔やみながら、ドラスは上目遣いでフランシーヌを見つめる。
その姿がミクを連想させ、フランシーヌを胸を抉り取られるような感覚を襲った。
「私は、あの子が心を手に入れたことも気付かずに……」
ぴくり、とドラスの肩が揺れた。
『子』という言葉に、コアが揺れ動いたかのような衝撃がドラスを走った。
「その話……詳しく聞かせてよ」
初対面のドラスに家族の安否を尋ねた時のナタクに、現在のドラスの表情は似ていた。
【D-1 雪原(南部)/一日目 夜中】
【フランシーヌ人形@からくりサーカス】
[状態]:全身打撲、疲労、足首負傷、ギガアタックのダメージ、右腕修復(ただし、反応と動きが鈍い)、深い悲しみ、強い無力感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式及びPDA:未確認支給品(0~1)
[思考・状況]
基本思考:罪滅ぼしのために、主催者を倒す。
1:ドラスと会話。
2:せっかく笑えたのに、歌えない。
3:本郷たちと合流。
4:私は生命の水に溶けて無くなった筈では……
5:本郷が心配。
6:本郷達に敬介やドラスのことを伝える。
※原作死亡後(25巻第32幕微笑(後編))から参戦。
※コロンビーヌやアルレッキーノと参戦時期が異なることを知りました。
※自分が笑えることに気付きました。
【ドラス@仮面ライダーZO】
[状態]:右腕がスバルのもの、悲しみ、自分が求めていたものが『家族』と自覚、ナタク@封神演義を吸収、疲労小
セインを四、五歳幼くした状態に擬態。ただし、生えている
[装備]:ラトゥーニのゴスロリ服@スーパーロボット大戦OG、メカ沢の学ラン@魁クロマティ高校、オルゴール付き懐中時計@仮面ライダーZO
混天綾@封神演義(マントとして)、乾坤圏@封神演義(左腕の方は修理が必要)、カセットアーム@仮面ライダーSPIRITS(体内)
金蛟剪@封神演義(体内のナタクと付属)、サイドマシーン@人造人間キカイダー(傍らに転送中)
[道具]:PDA(ドラス、マルチ、ノーヴェ、ロボ、アラレ、シュトロハイム、城茂、エックス、あ~る、バロット、チンク、メカ沢、灰原、ロックマン)
荷電磁ナイフ@マルドゥックスクランブル(D-3基地に放置。呼び出し可)
スタームルガー レッドホーク、装弾数0/6@ターミネーター2(D-3基地に放置。呼び出し可)
ぎんのいし@クロノトリガー、液体窒素入りのタンクローリー@ターミネーター2 (D-3基地に放置) タイムストッパー@ロックマン2(メカ沢の胴体部):ロボのPDA
はちゅねミクのネギ@VOCALOID2(E-3道路に放置)メッセージ大砲@ドラえもん(E-3道路に放置) 拡声器@現実(E-3道路に放置):アラレ、及びシュトロハイムのPDA。
転送可能 スモールライト@ドラえもん(残り四回)、テントロー@仮面ライダーSPIRITS:城茂のPDA
クロマティ高校の制服@魁!!クロマティ高校 、グロスフスMG42(予備弾数20%)、 NIKU・Q・マックス@サイボーグクロちゃん、
ナイスなグローブ×2@パワポケシリーズ、ダンボール@メタルギアソリッド、
大型スレッジハンマー@ジョジョの奇妙な冒険、アトロポスのリボン@クロノトリガー、高性能探知機(バッテリー切れ)
[思考・状況]
基本思考:二度と家族を失わない。
1:フランシーヌの話を聞く。
2:スバルをまだ正気に戻したいが……。
3:仲間の死にショック……だが、泣かない。
[備考]
※自分が未完成品、仮面ライダーが完成品だと勘違いしています。
※チンクを姉として強く慕っています。
※無意識の内に罪悪感が芽生えつつあります。
※志郎の言った10人ライダーの中に仮面ライダーZOがいると思い込んでいます。
※他人の肉体を吸収すると取り出せなくなっています。
※金蛟剪@封神演義に『使用者の資格がある』と認められましたが、龍を発現させるまでには至っていません。
※赤ドラスに変身可能になりました。
【道具紹介】
【金蛟剪@封神演義】
『最初の人』が作り出した七つのスーパー宝貝の一つで、仙人界ナンバー2の攻撃力を持つ。
雲霄三姉妹と趙公明の宝貝だったが、『歴史の道標』との最終決戦直前にナタクの体内に移植される。
見た目は、全長一メートルほどの刃を持つ剣×2。
本来は二つを組み合わせて鋏のような形態だが、バラバラの状態でも使用可能。
能力は、身体がエネルギーで出来た龍を召還すること。
この宝貝を手に入れて以降、ナタクが風花輪を使用せずに飛んでいることから、サブに飛行能力もあると思われる。
◇ ◇ ◇
途中でサブローに追いつかれたゼロは併走しながら、ドラスから伝え聞いた民家の前にサイクロン号を停車させる。
サブローに素直に頭を下げて、自分だけで向かわせてくれと頼み込むゼロ。
ゼロを案じて追ってきたものの、そこまでされてはサブローに食い下がる理由はなかった。
カーネルのセイバーを片手に、民家に足を踏み入れたゼロ。
三つ目の扉を開けたゼロの瞳に、知り合いというにはあまりに親しすぎる男が映った。
閉じた右目から血を流して、左腕を喪った――――エックスという名のイレギュラーハンターが。
「ゼ、ロ…………?」
変わり果てた外見でありながら、自分を見た途端に普段と変わらない表情を浮かべるエックス。
その姿に、ゼロはついつい心を許しそうになってしまった。
◇ ◇ ◇
旧知の仲であるゼロに、エックスは自分の考えを全て話した。
損傷の多さから横たわりながらだが、真剣に。
あまりにダメージが大きすぎて途切れ途切れだが、一字一句漏らさず確実に。
イレギュラーとして動くことも、全てが終われば自らの命を絶とうとしていることも。
あとは、ゼロの返答を待つだけ。
頷いてくれと願うエックスの前で、ゼロは表面上は普段と変わらない涼しい顔をして答えた。
「俺は、お前の下らない幻想を否定する」
切り捨てるかのように言い放つと、ゼロはカーネルのセイバーを展開する。
即座に斬ってかからなかったのは、情けでもなんでもなく――ゼロ自身が望んでいるのだろう。
エックスが、今からでも考え方を変えてくれるのを。
「そう、か……」
残った左目を見開いて、暫し呆然としていたエックス。
やけに穏やかに、納得したかのような口調で頭を垂れる。
「だっ、た……ら――――!」
ゆっくりと時間をかけて、エックスが身を起こす。
痙攣する膝に心で鞭を入れて立ち上がったエックス、少しずつ顔面に鬼が宿る。
「消え、ろォッ! イぃぃレギュラァァぁァアあアアアアーーーーーッ!!」
声を張り上げながら、エックスは右腕の銃口をゼロに向ける。
ゼロの視界が捉えるのは、既にチャージ済みであった巨大な光弾。
跳躍すれば回避できるのは確実だが、ゼロはあえてそれをせずにエックスに向かう。
ゼロが放った横凪の一閃が、チャージショットの軌道を変化させる。
完璧にはずらしきれずに、光弾がゼロの右肩を焦がして金の髪を数本落とす。
エックスが放ったチャージなしのショットが、ゼロの胸元で三発爆ぜる。
身体を刺すような痛みが走るが、ゼロは決して止まらずに返しの二閃目。
エックスの首を光の線が走りぬけ――寸刻の後、頭と身体が離れた。
オイルを撒き散らして、床に落ちたエックスだったもの。
床を転がるエックスの頭部を見たゼロは、背を向けて玄関に向かう。
一切振り向かずに、ゼロは吐き捨てる。
「…………ッの、バッカ野郎……ッ」
機能を停止したエックスは、やっと安らかな眠りにつくことができるだろう。
【エックス@ロックマンX:破壊確認】
【残り12体】
※D-1北部の民家内に、首を切断された状態の死体があります。なお、左腕はありません。
◇ ◇ ◇
民家から出てきたゼロを見て、サブローは何があったのかを察する。
完璧に修復されていたボディに、幾つも焦げ目がついていれば当然であろう。
同じ道を歩んだ仲間でありながら、正義に背を向ければ制裁を加える。
目的こそキカイダーと同じだが、キカイダーにゼロと同じことができるだろうか?
ほんの少し考えて、サブローはそれを止めた。
同じ道を歩むことがないだろう自分には、全くもって関係のない話だからだ。
「ハカイダー」
すぐにフランシーヌの元へ戻るものだと思っていたサブローは、サイクロン号に乗らずに声をかけてきたゼロを意外に思う。
そんなことをおくびにも出さず、サブローは用件を尋ねる。
鋭い視線をハカイダーに向けながら、ゼロは切り出す。
「風見志郎と獅子王凱、その二人と誓ったことがある。
都合よく俺達二人になれたからな、その件について付き合ってもらうぞ」
「ほう……」
カーネルのセイバーを展開させながら、凄みを篭めた声で告げるゼロ。
片手間に相手をするようなことではないと察して、サブローはKATANAから降りる。
緊迫したムードの中、ゼロが口を開こうとして――倒れこんだ。
展開させていたセイバーの刀身は消滅して、柄だけのまま転がっていく。
(また……だ…………)
その感覚に襲われるのは、実に二度目。
烈しく波打っているかのような胸を押さえて、ゼロは立ち上がろうとする。
しかし肩膝ついたところで、衝撃が増して再び地面に臥せる。
「ゼロ? どうかしたのか? おい!」
突然のゼロの奇妙な行動に、サブローは当惑する。
何度もサブローが声をかけるが、それはゼロには届いていなかった。
なぜ倒したはずの液体金属の姿が脳裏を掠めるのか、ゼロには分からなかった。
【D-1 雪原(北部)/一日目 夜中】
【ゼロ@ロックマンX】
[状態]:シグマウィルスにより回復、T-800を敵視、シグマウィルス一個に感染、???
[装備]:チャージキックの武器チップ@ロックマンシリーズ、カーネルのセイバー@ロックマンX4、謎の金属片(マルチの残骸から回収)、サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS
[道具]:支給品一式、PDA(ゼロ)、空っぽの平凡なデイバッグ@ゴミ処理場
[思考・状況]
基本:シグマを倒す。イレギュラーに容赦はしない。
0:――――――――――――――――――――
1:凱と風見と誓ったように、ハカイダーを更正。無理ならば全力で破壊。
2:ドラスとフランシーヌの元へ戻る。
2:凱を殺したボブ(T-800)を最大の敵と認識。
3:チームの立て直しのためこのまま基地へ。特にドラスは気をつける。
4:本郷、エックスと合流。ボイルド、メガトロン、グレイ・フォックス、ボブ(T-800)は警戒。
5:シグマ、何を企んでる?
6:左上コロニーまで行き、そこから虱潰しに全エリアを巡る。
[備考]
※ノーヴェたちを生体パーツを使用したレプリロイド(のようなもの)と解釈しました。
※参戦時期はX4のED~X5開始前のようです。
※液体金属が参加者に擬態している可能性に気づきました。
※支給品にゾンダーメタルがある可能性を考えています。
※シグマウィルスに感染しましたが、発症するのにウィルスが足りないのか、それとも潜伏期間に入ったのかは、後続にお任せします。
【ハカイダー@人造人間キカイダー】
[状態]:全身打撲。中ダメージ。エネルギー小消耗。ある程度メンテナンス終了。右肩を負傷(バイクの運転に支障は無い)、激しい憤怒と憎悪
[装備]:スズキ・GSX750S3 KATANA@仮面ライダーSPIRITS 、ゼロバスター@ロックマンX
[道具]:ハカイダーのPDA(支給品一式)、風見志郎のPDA(支給品一式)、バタフライナイフ@現地調達(左足に収納中)
[思考・状況]
基本思考:元の世界へ帰ってキカイダーと決着をつける。
1:ゼロの言う『凱や風見との誓い』とやらに付き合う。
2:メガトロンとコロンビーヌを破壊し、アルレッキーノとラミアの仇を討つ。
3:村雨良の遺言を仮面ライダー全員に伝えた。仮面ライダーに会い、破壊する。
4:参加者を全て破壊する(ただし、女子供、弱者には興味が薄い)
5:青い髪の女(ギンガ)は、敬介に任せる。
6:シグマを破壊する。
7:キカイダーに迫る、戦士に敬意。
※参戦時期は原作死亡後(42話「変身不能!? ハカイダー大反逆!」後)です。
※血液交換が必要のない身体に改造されています。
【備考】
※エックスが使用したギガアタックの影響で、D-1の北部の雪が一部融解しました。
※ナタクが金蛟剪@封神演義を使用したことにより、コロニー全域から観測されるほどの光が二度D-1の北部を照らしました。
※コロニーの天井が破壊されたため、二度コロニー全体に突風が吹き荒れました。
【支給品、アイテムに関する備考】
※哮天犬@封神演義は故障しました。原形は留めていますが、適切な修理をしなければ動きません。
※チンクがデイパック内に保管していた金属片は、宇宙に放り出されました。
※ガトリング砲@サイボーグクロちゃん、ゆうしゃバッジ@クロノトリガーは、作業用のツナギ@現地調達品は、チンクのランブルデトネイターにより消滅しました。
※ファルコンアーマー@ロックマンX5は、完璧に粉砕されました。
※ツバメ@クロノトリガー、五光石@封神演義は、D-1の北部に転がっています。ともに、ドラスの所持するPDAで転送可能。
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