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「鬼【イレギュラー】(前編)」(2009/01/12 (月) 16:35:50) の最新版変更点
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**鬼【イレギュラー】(前編) ◆2Y1mqYSsQ.
「わはははははははははは!!」
あ~るがライドアーマーを駆ってKOS-MOSとラミアに迫る。
構える二人は、直進してくるライドアーマーを横に跳躍した避けた。
「うわ、あ、あ、あ~!!」
間抜けな声をあ~るはあげて、ライドアーマーがこけだした。
ごろごろ転がるライドアーマーは、ラミアとKOS-MOSの二人の進路予想をも裏切った。
「なに! ……こっちにくるだと!?」
ラミアが焦った声が路地に響く。ライドアーマーは転がりながらラミアに迫ったのだ。
ライドアーマーは変わらず転がり続ける。あ~るが奇声をあげたが、ライドアーマーが止まるはずもない。
壁に向かっていき、ラミアが止まった。目が合うが、あ~るの回った目ではラミアを認識しようがない。
「き、きさまぁぁぁぁぁ!!」
「わあ~あ~あ~あ~~!!」
そのままあ~るはラミアを巻き込んで、ライドアーマーをスーパーに突っ込ませた。
チュドン、とコミカルな音が上がってライドアーマーがはじける。半壊した建物の中には、目を回したあ~るとラミアがいた。
その様子を、KOS-MOSは冷静に見ている。
「目標行動停止。これより、確保作業へと入ります」
感情を示さず、KOS-MOSが進む。これがラミアと逆であれば、彼女は呆れを見せただろう。
それほど、シュールな出来事だ。
この出来事で、不幸が一つ起きる。
ラミアが保持していた、バロットのPDAが転がった際に、あ~るの胸元へと落ちていた。
これが、後の惨劇を生んだ。
「う、う~ん」
打ち所がよかったためか、あ~るはあっさりと目を覚ました。
身体を起こして、周囲を見回す。胸元には新しいPDAがあった。
「そのまま動かないでください。抵抗は無駄です」
冷静に告げるKOS-MOSを前に、あ~るは西園寺を思い出した。
怖いから嫌だな~、などとのんきなことを考えているあ~るの髪を、一発の銃弾が掠める。
ハンドガンを構えたKOS-MOSが人を撃ったというのに、表情を変えずもう一度警告をする。
「もう一度告げます。そのまま動かないでください。抵抗は無駄です」
「う~ん、それは困るなー」
あ~るはあくまで、マイペースに告げて悩み顔をする。撃たれてもしもHPが尽きたのなら、自分は下校時間まで死んだふりをしなければならない。
孤島のご飯も炊けている頃だろう。あれを食べるまでは、まだゲームに参加していたい。
悩んでいるとあ~るは、そうだ、と呟いてPDAを手に取った。銃弾が肩を貫通するが、HPが尽きるまでは大丈夫。
あ~るは急いでPDAを操作するが、あるのはファルコンアーマーとか言うアイテムと、杖だけ。
がっかりしたまま杖を取り出した。気がつくと、KOS-MOSが近づいている。
銃弾では死なないと気づいた彼女は、拳で打ち砕くために接近したのだ。あ~るはとっさに杖を構えた。
「うわっ!」
KOS-MOSの拳が、あ~るに届く前に杖の先端からガスが吹き出た。
そのままガスがKOS-MOSにかかる。あ~るは煙幕だと判断して、後退した。
「酸性物質……しかも、対サイボーグ用に調合された物。グノーシスの持つ毒よりも強力……残り推定稼働時間、100時間余り。現戦闘力70%低下。これは……」
その毒は、かつて改造人間タックルを葬り、デルザー軍団の鋼鉄参謀が苦手とした毒、ドクターケイトの毒ガスであった。
確かに、KOS-MOSなら青酸カリや、神経ガスなどでは死に至ることもないだろう。
しかし、KOS-MOSはグノーシスの毒を受ける。グノーシスの毒は特殊であり、人間でなくレアリエン-合成人間や、サイボーグを侵すほど強力だ。
このドクターケイトの毒は、そのグノーシスの毒をもしのぐほど強力だった。
電波人間タックルだけではなく、同じデルザー軍団の改造魔人鋼鉄参謀をも、この毒を苦手とした。
かの毒に、人も改造人間も改造魔人も関係ない。浴びたものに死をもたらす。
その強力な毒を、KOS-MOSはその身に浴びた。
「目標は行動を開始。この場から離れる……警告を無視したと判断します。勝利確率は、現戦力においても83.46%。逃がしません」
毒に侵された身で、KOS-MOSは動く。弱体化したとはいえ、残された時間でシグマを撃退する。
そのため、壊しあいをする者を逃がすわけにはいかなかった。KOS-MOSの拳をあ~るの頭部へと狙いを定めた。
「避けろ!!」
ラミアの忠告が耳に届く。KOS-MOSの視界の端に、強力なエネルギー弾が迫った。
回避は不可能。毒を浴びなければ、そのエネルギー弾に耐えることも、避けることもできた。
今ではそれは叶わない。KOS-MOSはそれ以上の思考を許されず、その光に砕かれた。
□
シャトル発射基地で、アルレッキーノをエックスは待っていたが、一向に戻ってくる気配がなかった。
数部屋探索したが、結果は芳しくない。さすがにもどかしく、周囲の様子を探りたいとエックスは考える。現状、エックスたちは情報が少なすぎるのだ。
「エックスさん。アルレッキーノさんが戻ってくるのを、待つべきでは?」
「ああ、俺もその方がいいと思う。けど、なんだが嫌な予感がするんだ。今動かないと、不幸なことが起きそうな予感が」
虫の知らせ、というものである。他のレプリロイドが聞けば、そんな曖昧なものを、とゼロ以外は嘲笑を浴びせていた。
もっとも、昔の話だが。シグマを三度退けた、英雄であるエックスをそう嘲笑するものはもういない。
これまではその虫の知らせに助けられていた。今度は、いったい何が起きるのか、エックスには予想がつかない。
「それなら、ここにはアルレッキーノさん宛てにメモを残しておきましょう。それでいいですか? エックスさん」
「ああ、それで構わない」
「はい、分かりました。少し待っていてくださいね」
「なるべく早く頼むよ」
いそいそと準備するソルティに、エックスは柔らかく告げる。
内心は不安であったため、柔らかい口調とは逆の言葉が出てしまったが。
(ゼロ、君は今どうしているんだ……? X……君に……)
どう償えばいい、という言葉を打ち消して、親友に想いを馳せる。
エックスはソルティが戻るのを待って、最初の目的地にしたTV局へと向かうことにした。
だから、その光景を見た時にはエックスは目を見張った。
戦闘力のある女性と思わしきレプリロイドが、傷だらけの学生服の少年に殴りかかっていたのを。
「エックスさん!」
ソルティが叫び、頷く。エックスはダッシュで、ソルティはその健脚で一気に近寄ろうとする。
参加者内ではトップクラスのスピードを誇る二人ですら、間に割って入るのは叶わない。
エックスはバスターを構える。ソルティが息を呑むのが分かったが、そのまま銃口を女性型レプリロイドへと向けた。
(あのレプリロイドを倒さないと、あの少年が……!)
サイボーグかもしれない少年だが、放っておくわけには行かない。
エックスバスターがいつもより重く感じる。イレギュラーと化した仲間たちを撃った銃だ。
優しい心を軋ませながらも、エックスは決断する。そして、悲しいことにその決断を背負えるほど、エックスは強かった。
だからこそ、その引き金を引いた。
「避けろ!!」
知らない女性の声が聞こえるが、エックスのエネルギー弾は止められない。
少年を殴ろうとした女性型レプリロイドの頭が吹飛ぶ。その衝撃で転がっていく少年を片手で回収して、ソルティに向いた。
ソルティの悲しい表情が、エックスを責めているように見えた。
(他に手をとりようがなかったんだ!!)
言い訳でもなんでもない、エックスの内心の声。それを飲み込み、冷静な振りをして告げる。
「このままTV局に駆け込む。いいね?」
ソルティが無言のまま頷いた。エックスの胸が抉れるような痛みを生む。
そのままTV局へと、少年を抱えながら駆け込んだ。
□
雷鳴の如く轟く音に、ビルの壁が震えた。影が二つぶつかるたびに、数々のビルの壁にひびが刻まれた。
数トンを超える衝撃が幾度もぶつかった結果だろう。
やがて影は、それぞれ道路へと降り立った。
「やるな……さすがは仮面ライダー!! あの、ZXに先輩と呼ばれただけはある!!」
漆黒の装甲に、稲妻の模様を持つ男、ハカイダーが黒き破壊のボディを持って、威風堂々と告げる。
脳を包む透明フードの下の瞳は、好敵手に出会った喜びに満ちていた。
「……むう」
一方、正義を背負うバッタを模した仮面。赤いマフラーを持つ銀のグローブとブーツを持つ戦士。
仮面ライダー1号は他に懸念するものがあった。
(こいつは強い。簡単に勝てる相手でも、逃げおおせる相手ではない)
ZXを倒したというのは本当だろう。数手交わしただけで、その実力が見て取れた。
仮面の下で歯噛みして、風にその力を蓄える。グズグズしている暇はない。
TV局に戻ると約束して、その時間をだいぶ過ぎてしまった。おのれがいない間に、トラブルが起きていた可能性も高い。
それに何より、嫌な予感がするのだ。本郷の勘は鋭い。
改造されたとき、第六感ともいえる部分も強化されている。仮面ライダー1号はハカイダーを前にじりじりと時間を消耗していくだけだった。
□
フランシーヌ人形は目の前を走るバロットと共に先に進む。
ミクを殺した下手人に容赦する気は、バロットにはない。ガンナックルを持ち、必死に駆ける。
死にさえしなければ、それでいい。いや、死ぬ程度ではあの男には生ぬるい。
ゲジヒト、ミクと言った死者を生んだ償いは是非してもらう。
普段は排気ガスを撒き散らす、自動車が通るであろう道路を駆け抜けた結果、フランシーヌとバロットはあ~るが逃げた先へと向かった。
「バロット!!」
≪分かっている!≫
フランシーヌがバロットに声をかけて、細身のバロットが頷いた。人形のような整った顔立ちが、不安の表情を浮かべる。
三メートル近くはあるロボットの右手と、残骸。そしてスーパーの入り口が破壊されている。
店内にそのまま駆けつけたときには、ラミアが頭の半分が吹飛んだKOS-MOSを抱えていた。
≪KOS-MOS!?≫
「…………バロット……。私の残り活動時間は……数分で…………す。機能……停止……前に伝えることが……あります」
「喋らないでください! もしかしたら……」
「私が……活動復帰できる確率は……0%。このまま……残り稼動時間内に収集した……敵の情報を……伝えます」
機械部分が露出して、回路がショートしながらも、KOS-MOSは話をやめない。
ラミアに伝えた情報は省略すると告げて、続きを話し始めた。
バロットは一言一句聞き逃さない。
敵の外見の特徴をKOS-MOSは伝えて、青い男の方のエネルギー弾は頭部を半分吹き飛ばす高威力だと教えた。
他にも、女の仲間がいたが、能力は不明。そして追いかけていた学生服の男は、カタログスペックは低い、ということだ。
ただし、支給品の杖に機械すらも侵す毒があったため、KOS-MOSのような真似にはならないよう、淡々と忠告してきた。
≪あなた……≫
「そう、悲惨な……声を出さないで……ください。希望はあ…………ります」
バロットを相変わらず、KOS-MOSは無表情で身ながらも、自らの腹に腕を突っ込んだ。
周りが戸惑うが、気にはしない。そのまま、四角い物体をバロットたちに差し出した。
「私の設計…………にはないパーツ……です。おそらく、シグマが……仕込んだ爆発物……だと思われます。
もう……そろそろ……活動時間が終わります…………。私は……イレギュラーの事態によって活動を停止しますが……あなた方は戦い続けてください…………。
それでは…………おやすみ……なさい……」
KOS-MOSの電源が落ちて、動かなくなる。バロットは再び仲間を失ったことを知る。
ゲジヒトも、KOS-MOSも自分が不甲斐ないせいで、死んでいった。もう、容赦はしない。
バロットがスナークでガンナックルを操作し、あ~るが消えた方向へと目を向けた。
「バロット、熱くなってはいけません」
≪うん……分かった≫
今にも怒りが噴出しそうな表情のバロットを、フランシーヌが宥めようとするが、彼女自身怒りを覚えているのだろう。
これ以上何もいえなかった。その彼女たちの目の前に、ラミアが立つ。
「私の注意が足りずに、仲間が一人死んでしまった……」
ラミアの悲哀が込められた声が、バロットたちに届く。その表情は氷のように冷たく、瞳は炎よりも熱かった。
「だから、ここからは私が先頭で行かせてもらおう。これ以上、私は仲間を失いたくないのでな……」
≪分の悪い賭けになる……。一番死ぬ可能性が高いけど、いいの?≫
「分の悪い賭けか……。隊長なら、望んで飛び込むところだ」
ラミアが皮肉の笑みを浮かべ、すぐに消す。目はTV局へと向いていた。
斥候は自分の役目だ。あの少年、KOS-MOSの仇は絶対に討つ。
「それでは、私の後についてきてくれ! 二人とも!!」
≪……後ろは、任せて≫
彼女たちは止まらない。仲間の死を、無駄にしないために。
□
エックスはTV局に入り、ふと追い詰められているのではないか、と疑問に思った。
このままでは逃げ場が入り口に限定されていまう。とはいえ、エックスには三角蹴りがあるため、窓から飛び降りればいいのだが。
ソルティもエックスが見たところ、ここを飛び降りても助かる程度には頑丈だろうと当たりをつけた。
ならば、あの少年を抱えて降りればいい。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
彼女らに追われているだろうから余裕は作れないが、名前を聞く暇くらいはある。
「君、名前は?」
「やあ。R・田中一郎くんだよ」
ピースを作って自己紹介する彼に少し脱力した。緊張感のない人だと、エックスは思う。先ほどまで、殺されかけたというのに。
「田中さんですね。私はソルティ・レヴァントと申します。よろしくお願いします」
「俺はイレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長、エックス。よろしく」
ソルティが先ほどの悲劇を忘れたがるかのように、あ~るに右手を差し出す。
場を和ませようという行動だろう。エックスがホッとしてあ~るに向き直ると、あ~るはなにやら驚いている。
何か自分の紹介が変だったのか、疑問に思う。だが、あ~るの口からは予想外の言葉だった。
「もしかして二人とも、外国人でしたか!?」
思わず間抜けな発言に、ついエックスが足を滑らせる。隣のソルティも似たようなものだった。
なにやら英国の旗と日本の旗をもって飛び跳ねた。
「日米友好。熱烈歓迎!」
「いや、もう国とかそういう問題じゃないから」
あ~るの言葉に、エックスは思わず突っ込む。こういうキャラじゃなかったのにな、と思考しながら。
「国が問題ではない!? むむむ……私は何か粗相をしたのでしょうか?」
「いえ、田中さん。そういうことじゃなくてですね……」
「田中じゃないよ。R・田中一郎君だよ、ソルティさん」
「はい、分かりました。あ~る君」
エックスは一連のやり取りを見て、あ~るが事態を把握しているのか怪しむ。
シグマの説明を聞いていたのか。誰もが、セインが殺された場面を見たはずだ。
疑問に思い、あ~るに声をかけようとする。
「あ~~~!!」
「どうした? あ~る!」
何かまずいことでも起きたか、とエックスが思う。
周囲を警戒して、原因を探るが、それらしい影は見当たらない。
「隊長って……偉いんじゃないですか!? ご無礼の段、ひらにひらにお許しを~!!」
もう、こいつ無視をしようか。エックスが頭を抱えてそう思った。
□
「ライダァァァパァァァンチ!!」
「ぬぅおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
銀と漆黒の拳がぶつかり合い、火花を散らす。衝撃にコンクリートの壁と地面が砕けた。
数瞬拮抗したぶつかり合いを得て、やがては漆黒の拳が突き進む。
弾かれた拳を仮面ライダー1号は見届ける。漆黒の拳が身体に届くのに、一秒もない。
だが、1号には焦りなどなかった。
「ムゥン!」
「なにっ!」
拳のぶつかり合いで発生した反動を利用して、ハカイダーの拳を巻き込んで身体を回転させる。
手首を掴み、己の力を使って回転を加速させ、ハカイダーを投げ飛ばした。
「ぬ…………うぅぅぅぅぅぅ!!」
ハカイダーがエアークラフトを使って態勢を立て直し、隙ができる。
1号はその隙を見逃さず、地面を蹴った。
「トゥ!」
「くっ!」
1号の右ストレートを、左腕で受け止め、衝撃で装甲を軋ませる。
ハカイダーの身体が停滞した瞬間、右足を胴へと向けて放った。
ハカイダーはそのまま胴で1号の右回し蹴りを受け止める。しかし、ハカイダーもただ受けているだけではなかった。
「ゴホッ……」
「グ……」
ハカイダーの膝が、1号の鳩尾に突き刺さっていた。あまりの威力で、1号の右回し蹴りも威力が殺がれた。
1号は後方に跳躍する。ZXが負けたわけだ。ハカイダーは強い。
やはりここは…………。
「フ……やるな。仮面ライダー1号!」
ハカイダーは笑みを浮かべながら、対峙する敵を褒め称える。
最初に出会い、殺しあった仮面ライダーZXと比べると、純粋な力や性能では劣る。
しかし、それを補って余りあるほどの戦闘技術と頭脳がある。ハカイダーは逸らされ、捌かれ、的確に攻撃を叩き込む1号の強さを実感している。
V3も戦闘技術は高かったが、それを目の前の仮面ライダーは遥かに上回っている。
「正義を志す者はそうではなくてはな」
「正義……あいつは、村雨は正義を見せたか」
「ああ! 見せたぞ! 仮面ライダーZXはキカイダーにも負けぬ、正義を示した!!
仮面ライダー1号・本郷猛。我が兄にして、宿敵のキカイダーにも負けぬ正義を見せろ! 正々堂々と、勝負だ!!」
そう、キカイダーはこんなものではなかった。ハカイダーが戦いを挑んでも、死なずに立ち上がり続けた。
人間から後ろ指を指され、周りに理解者がいなくても、立ち上がって悪へと挑み続けた。
それがどんなに困難なことか、ハカイダーは充分に知っている。
だからこそ、今ここに正義を示す仮面ライダーに、ゼロに、凱にハカイダーは敬意を示す。
正々堂々と戦う。これこそがハカイダーにとって、最大の賛辞だ。
戦う以外術を知らない。破壊以外の存在意義を持たない。
だからこそ、戦いながらも破壊されず正義を掲げ続ける、キカイダーや仮面ライダーにハカイダーは魂を燃やす。
ハカイダーに己が存在意義が芽生え、刻まれていた。
(こいつは……)
純粋であると同時に、悪の改造人間としての立場を確固とした立ち位置と受け入れている。
正義と戦うことを求める姿は、まるで自分の後ろに誰かを投影しているように見えた。
話に出ていた、キカイダーの姿を自分を通して見ているのだろう。
しかし、自分はキカイダーではない。彼の唯一の敵ではなく、人類の自由と平和のために戦う仮面ライダーなのだ。
彼が求めているものとは違う。たとえ、キカイダーと出会えたとすれば、同じ志をもてる相手だろうが。
(とりあえず……この場は……)
1号はハカイダーは純粋なまでに強者との戦いを、望むだろうと考える。
弱者……ミクやフランシーヌといったものには、こういう者は興味を示さない。
だからこそ、ここは…………。
(ミクたちの元へ、行かせてもらう!)
決意と共に、地面を踏みしめる。バッタの跳躍力を、その体躯で再現して天へと跳んだ
ハカイダーの身体が覇気で満ちる。
「トゥッ!!」
「むぅ!」
1号は月面返りをして、身体を加速させていく。
ライダーキックの体勢で、ハカイダーへと迫った。
一筋の光の如く、鋭く蹴りが放たれる。その技は、
「ライダー月面キィィィィィィィック!!」
1号のもてる、最大の技であった。とはいえ、ハカイダーもただ立ってるだけではない。
ハカイダーはこの技を受けるのは危険と見て、垂直に飛んで避けた。
構いはしない。
1号のもともとの狙いは、ハカイダーの後方のビル。
五十階建てはあるビルを、仮面ライダー1号の身体が貫いた。
「なにぃ!?」
「…………すまないが、ここは行かせてもらうぞ。君との決着は、仲間を助けてから着けよう」
1号の謝罪がハカイダーの耳に届くことを、ただ祈る。
崩れ落ちる瓦礫の中、ハカイダーから離れて1号はライドチェイサーを呼び寄せた。
エンジンが唸り、瓦礫を次々飛び移っていく。
「1号ライダー!!」
ハカイダーの呼び止める声が聞こえる。罪悪感が僅かに1号の胸に残るが、まずは仲間が優先だ。
1号は脅威の操縦技術から、戦場から離れていった。
*時系列順で読む
Back:[[その身に纏う心の向きは]] Next:[[鬼【イレギュラー】(中編)]]
*投下順で読む
Back:[[その身に纏う心の向きは]] Next:[[鬼【イレギュラー】(中編)]]
|085:[[認めるということ]]|エックス|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|085:[[認めるということ]]|ソルティ|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|KOS-MOS|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|ラミア|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|R・田中一郎|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|フランシーヌ人形|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|バロット|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|本郷猛|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
|100:[[SPIRITS/魂の群れ]]|ハカイダー|[[鬼【イレギュラー】(中編)]]|
**鬼【イレギュラー】(前編) ◆2Y1mqYSsQ.
「わはははははははははは!!」
あ~るがライドアーマーを駆ってKOS-MOSとラミアに迫る。
構える二人は、直進してくるライドアーマーを横に跳躍した避けた。
「うわ、あ、あ、あ~!!」
間抜けな声をあ~るはあげて、ライドアーマーがこけだした。
ごろごろ転がるライドアーマーは、ラミアとKOS-MOSの二人の進路予想をも裏切った。
「なに! ……こっちにくるだと!?」
ラミアが焦った声が路地に響く。ライドアーマーは転がりながらラミアに迫ったのだ。
ライドアーマーは変わらず転がり続ける。あ~るが奇声をあげたが、ライドアーマーが止まるはずもない。
壁に向かっていき、ラミアが止まった。目が合うが、あ~るの回った目ではラミアを認識しようがない。
「き、きさまぁぁぁぁぁ!!」
「わあ~あ~あ~あ~~!!」
そのままあ~るはラミアを巻き込んで、ライドアーマーをスーパーに突っ込ませた。
チュドン、とコミカルな音が上がってライドアーマーがはじける。半壊した建物の中には、目を回したあ~るとラミアがいた。
その様子を、KOS-MOSは冷静に見ている。
「目標行動停止。これより、確保作業へと入ります」
感情を示さず、KOS-MOSが進む。これがラミアと逆であれば、彼女は呆れを見せただろう。
それほど、シュールな出来事だ。
この出来事で、不幸が一つ起きる。
ラミアが保持していた、バロットのPDAが転がった際に、あ~るの胸元へと落ちていた。
これが、後の惨劇を生んだ。
「う、う~ん」
打ち所がよかったためか、あ~るはあっさりと目を覚ました。
身体を起こして、周囲を見回す。胸元には新しいPDAがあった。
「そのまま動かないでください。抵抗は無駄です」
冷静に告げるKOS-MOSを前に、あ~るは西園寺を思い出した。
怖いから嫌だな~、などとのんきなことを考えているあ~るの髪を、一発の銃弾が掠める。
ハンドガンを構えたKOS-MOSが人を撃ったというのに、表情を変えずもう一度警告をする。
「もう一度告げます。そのまま動かないでください。抵抗は無駄です」
「う~ん、それは困るなー」
あ~るはあくまで、マイペースに告げて悩み顔をする。撃たれてもしもHPが尽きたのなら、自分は下校時間まで死んだふりをしなければならない。
孤島のご飯も炊けている頃だろう。あれを食べるまでは、まだゲームに参加していたい。
悩んでいるとあ~るは、そうだ、と呟いてPDAを手に取った。銃弾が肩を貫通するが、HPが尽きるまでは大丈夫。
あ~るは急いでPDAを操作するが、あるのはファルコンアーマーとか言うアイテムと、杖だけ。
がっかりしたまま杖を取り出した。気がつくと、KOS-MOSが近づいている。
銃弾では死なないと気づいた彼女は、拳で打ち砕くために接近したのだ。あ~るはとっさに杖を構えた。
「うわっ!」
KOS-MOSの拳が、あ~るに届く前に杖の先端からガスが吹き出た。
そのままガスがKOS-MOSにかかる。あ~るは煙幕だと判断して、後退した。
「酸性物質……しかも、対サイボーグ用に調合された物。グノーシスの持つ毒よりも強力……残り推定稼働時間、100時間余り。現戦闘力70%低下。これは……」
その毒は、かつて改造人間タックルを葬り、デルザー軍団の鋼鉄参謀が苦手とした毒、ドクターケイトの毒ガスであった。
確かに、KOS-MOSなら青酸カリや、神経ガスなどでは死に至ることもないだろう。
しかし、KOS-MOSはグノーシスの毒を受ける。グノーシスの毒は特殊であり、人間でなくレアリエン-合成人間や、サイボーグを侵すほど強力だ。
このドクターケイトの毒は、そのグノーシスの毒をもしのぐほど強力だった。
電波人間タックルだけではなく、同じデルザー軍団の改造魔人鋼鉄参謀をも、この毒を苦手とした。
かの毒に、人も改造人間も改造魔人も関係ない。浴びたものに死をもたらす。
その強力な毒を、KOS-MOSはその身に浴びた。
「目標は行動を開始。この場から離れる……警告を無視したと判断します。勝利確率は、現戦力においても83.46%。逃がしません」
毒に侵された身で、KOS-MOSは動く。弱体化したとはいえ、残された時間でシグマを撃退する。
そのため、壊しあいをする者を逃がすわけにはいかなかった。KOS-MOSの拳をあ~るの頭部へと狙いを定めた。
「避けろ!!」
ラミアの忠告が耳に届く。KOS-MOSの視界の端に、強力なエネルギー弾が迫った。
回避は不可能。毒を浴びなければ、そのエネルギー弾に耐えることも、避けることもできた。
今ではそれは叶わない。KOS-MOSはそれ以上の思考を許されず、その光に砕かれた。
□
シャトル発射基地で、アルレッキーノをエックスは待っていたが、一向に戻ってくる気配がなかった。
数部屋探索したが、結果は芳しくない。さすがにもどかしく、周囲の様子を探りたいとエックスは考える。現状、エックスたちは情報が少なすぎるのだ。
「エックスさん。アルレッキーノさんが戻ってくるのを、待つべきでは?」
「ああ、俺もその方がいいと思う。けど、なんだが嫌な予感がするんだ。今動かないと、不幸なことが起きそうな予感が」
虫の知らせ、というものである。他のレプリロイドが聞けば、そんな曖昧なものを、とゼロ以外は嘲笑を浴びせていた。
もっとも、昔の話だが。シグマを三度退けた、英雄であるエックスをそう嘲笑するものはもういない。
これまではその虫の知らせに助けられていた。今度は、いったい何が起きるのか、エックスには予想がつかない。
「それなら、ここにはアルレッキーノさん宛てにメモを残しておきましょう。それでいいですか? エックスさん」
「ああ、それで構わない」
「はい、分かりました。少し待っていてくださいね」
「なるべく早く頼むよ」
いそいそと準備するソルティに、エックスは柔らかく告げる。
内心は不安であったため、柔らかい口調とは逆の言葉が出てしまったが。
(ゼロ、君は今どうしているんだ……? X……君に……)
どう償えばいい、という言葉を打ち消して、親友に想いを馳せる。
エックスはソルティが戻るのを待って、最初の目的地にしたTV局へと向かうことにした。
だから、その光景を見た時にはエックスは目を見張った。
戦闘力のある女性と思わしきレプリロイドが、傷だらけの学生服の少年に殴りかかっていたのを。
「エックスさん!」
ソルティが叫び、頷く。エックスはダッシュで、ソルティはその健脚で一気に近寄ろうとする。
参加者内ではトップクラスのスピードを誇る二人ですら、間に割って入るのは叶わない。
エックスはバスターを構える。ソルティが息を呑むのが分かったが、そのまま銃口を女性型レプリロイドへと向けた。
(あのレプリロイドを倒さないと、あの少年が……!)
サイボーグかもしれない少年だが、放っておくわけには行かない。
エックスバスターがいつもより重く感じる。イレギュラーと化した仲間たちを撃った銃だ。
優しい心を軋ませながらも、エックスは決断する。そして、悲しいことにその決断を背負えるほど、エックスは強かった。
だからこそ、その引き金を引いた。
「避けろ!!」
知らない女性の声が聞こえるが、エックスのエネルギー弾は止められない。
少年を殴ろうとした女性型レプリロイドの頭が吹飛ぶ。その衝撃で転がっていく少年を片手で回収して、ソルティに向いた。
ソルティの悲しい表情が、エックスを責めているように見えた。
(他に手をとりようがなかったんだ!!)
言い訳でもなんでもない、エックスの内心の声。それを飲み込み、冷静な振りをして告げる。
「このままTV局に駆け込む。いいね?」
ソルティが無言のまま頷いた。エックスの胸が抉れるような痛みを生む。
そのままTV局へと、少年を抱えながら駆け込んだ。
□
雷鳴の如く轟く音に、ビルの壁が震えた。影が二つぶつかるたびに、数々のビルの壁にひびが刻まれた。
数トンを超える衝撃が幾度もぶつかった結果だろう。
やがて影は、それぞれ道路へと降り立った。
「やるな……さすがは仮面ライダー!! あの、ZXに先輩と呼ばれただけはある!!」
漆黒の装甲に、稲妻の模様を持つ男、ハカイダーが黒き破壊のボディを持って、威風堂々と告げる。
脳を包む透明フードの下の瞳は、好敵手に出会った喜びに満ちていた。
「……むう」
一方、正義を背負うバッタを模した仮面。赤いマフラーを持つ銀のグローブとブーツを持つ戦士。
仮面ライダー1号は他に懸念するものがあった。
(こいつは強い。簡単に勝てる相手でも、逃げおおせる相手ではない)
ZXを倒したというのは本当だろう。数手交わしただけで、その実力が見て取れた。
仮面の下で歯噛みして、風にその力を蓄える。グズグズしている暇はない。
TV局に戻ると約束して、その時間をだいぶ過ぎてしまった。おのれがいない間に、トラブルが起きていた可能性も高い。
それに何より、嫌な予感がするのだ。本郷の勘は鋭い。
改造されたとき、第六感ともいえる部分も強化されている。仮面ライダー1号はハカイダーを前にじりじりと時間を消耗していくだけだった。
□
フランシーヌ人形は目の前を走るバロットと共に先に進む。
ミクを殺した下手人に容赦する気は、バロットにはない。ガンナックルを持ち、必死に駆ける。
死にさえしなければ、それでいい。いや、死ぬ程度ではあの男には生ぬるい。
ゲジヒト、ミクと言った死者を生んだ償いは是非してもらう。
普段は排気ガスを撒き散らす、自動車が通るであろう道路を駆け抜けた結果、フランシーヌとバロットはあ~るが逃げた先へと向かった。
「バロット!!」
≪分かっている!≫
フランシーヌがバロットに声をかけて、細身のバロットが頷いた。人形のような整った顔立ちが、不安の表情を浮かべる。
三メートル近くはあるロボットの右手と、残骸。そしてスーパーの入り口が破壊されている。
店内にそのまま駆けつけたときには、ラミアが頭の半分が吹飛んだKOS-MOSを抱えていた。
≪KOS-MOS!?≫
「…………バロット……。私の残り活動時間は……数分で…………す。機能……停止……前に伝えることが……あります」
「喋らないでください! もしかしたら……」
「私が……活動復帰できる確率は……0%。このまま……残り稼動時間内に収集した……敵の情報を……伝えます」
機械部分が露出して、回路がショートしながらも、KOS-MOSは話をやめない。
ラミアに伝えた情報は省略すると告げて、続きを話し始めた。
バロットは一言一句聞き逃さない。
敵の外見の特徴をKOS-MOSは伝えて、青い男の方のエネルギー弾は頭部を半分吹き飛ばす高威力だと教えた。
他にも、女の仲間がいたが、能力は不明。そして追いかけていた学生服の男は、カタログスペックは低い、ということだ。
ただし、支給品の杖に機械すらも侵す毒があったため、KOS-MOSのような真似にはならないよう、淡々と忠告してきた。
≪あなた……≫
「そう、悲惨な……声を出さないで……ください。希望はあ…………ります」
バロットを相変わらず、KOS-MOSは無表情で身ながらも、自らの腹に腕を突っ込んだ。
周りが戸惑うが、気にはしない。そのまま、四角い物体をバロットたちに差し出した。
「私の設計…………にはないパーツ……です。おそらく、シグマが……仕込んだ爆発物……だと思われます。
もう……そろそろ……活動時間が終わります…………。私は……イレギュラーの事態によって活動を停止しますが……あなた方は戦い続けてください…………。
それでは…………おやすみ……なさい……」
KOS-MOSの電源が落ちて、動かなくなる。バロットは再び仲間を失ったことを知る。
ゲジヒトも、KOS-MOSも自分が不甲斐ないせいで、死んでいった。もう、容赦はしない。
バロットがスナークでガンナックルを操作し、あ~るが消えた方向へと目を向けた。
「バロット、熱くなってはいけません」
≪うん……分かった≫
今にも怒りが噴出しそうな表情のバロットを、フランシーヌが宥めようとするが、彼女自身怒りを覚えているのだろう。
これ以上何もいえなかった。その彼女たちの目の前に、ラミアが立つ。
「私の注意が足りずに、仲間が一人死んでしまった……」
ラミアの悲哀が込められた声が、バロットたちに届く。その表情は氷のように冷たく、瞳は炎よりも熱かった。
「だから、ここからは私が先頭で行かせてもらおう。これ以上、私は仲間を失いたくないのでな……」
≪分の悪い賭けになる……。一番死ぬ可能性が高いけど、いいの?≫
「分の悪い賭けか……。隊長なら、望んで飛び込むところだ」
ラミアが皮肉の笑みを浮かべ、すぐに消す。目はTV局へと向いていた。
斥候は自分の役目だ。あの少年、KOS-MOSの仇は絶対に討つ。
「それでは、私の後についてきてくれ! 二人とも!!」
≪……後ろは、任せて≫
彼女たちは止まらない。仲間の死を、無駄にしないために。
□
エックスはTV局に入り、ふと追い詰められているのではないか、と疑問に思った。
このままでは逃げ場が入り口に限定されていまう。とはいえ、エックスには三角蹴りがあるため、窓から飛び降りればいいのだが。
ソルティもエックスが見たところ、ここを飛び降りても助かる程度には頑丈だろうと当たりをつけた。
ならば、あの少年を抱えて降りればいい。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
彼女らに追われているだろうから余裕は作れないが、名前を聞く暇くらいはある。
「君、名前は?」
「やあ。R・田中一郎くんだよ」
ピースを作って自己紹介する彼に少し脱力した。緊張感のない人だと、エックスは思う。先ほどまで、殺されかけたというのに。
「田中さんですね。私はソルティ・レヴァントと申します。よろしくお願いします」
「俺はイレギュラーハンター第17精鋭部隊隊長、エックス。よろしく」
ソルティが先ほどの悲劇を忘れたがるかのように、あ~るに右手を差し出す。
場を和ませようという行動だろう。エックスがホッとしてあ~るに向き直ると、あ~るはなにやら驚いている。
何か自分の紹介が変だったのか、疑問に思う。だが、あ~るの口からは予想外の言葉だった。
「もしかして二人とも、外国人でしたか!?」
思わず間抜けな発言に、ついエックスが足を滑らせる。隣のソルティも似たようなものだった。
なにやら英国の旗と日本の旗をもって飛び跳ねた。
「日米友好。熱烈歓迎!」
「いや、もう国とかそういう問題じゃないから」
あ~るの言葉に、エックスは思わず突っ込む。こういうキャラじゃなかったのにな、と思考しながら。
「国が問題ではない!? むむむ……私は何か粗相をしたのでしょうか?」
「いえ、田中さん。そういうことじゃなくてですね……」
「田中じゃないよ。R・田中一郎君だよ、ソルティさん」
「はい、分かりました。あ~る君」
エックスは一連のやり取りを見て、あ~るが事態を把握しているのか怪しむ。
シグマの説明を聞いていたのか。誰もが、セインが殺された場面を見たはずだ。
疑問に思い、あ~るに声をかけようとする。
「あ~~~!!」
「どうした? あ~る!」
何かまずいことでも起きたか、とエックスが思う。
周囲を警戒して、原因を探るが、それらしい影は見当たらない。
「隊長って……偉いんじゃないですか!? ご無礼の段、ひらにひらにお許しを~!!」
もう、こいつ無視をしようか。エックスが頭を抱えてそう思った。
□
「ライダァァァパァァァンチ!!」
「ぬぅおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
銀と漆黒の拳がぶつかり合い、火花を散らす。衝撃にコンクリートの壁と地面が砕けた。
数瞬拮抗したぶつかり合いを得て、やがては漆黒の拳が突き進む。
弾かれた拳を仮面ライダー1号は見届ける。漆黒の拳が身体に届くのに、一秒もない。
だが、1号には焦りなどなかった。
「ムゥン!」
「なにっ!」
拳のぶつかり合いで発生した反動を利用して、ハカイダーの拳を巻き込んで身体を回転させる。
手首を掴み、己の力を使って回転を加速させ、ハカイダーを投げ飛ばした。
「ぬ…………うぅぅぅぅぅぅ!!」
ハカイダーがエアークラフトを使って態勢を立て直し、隙ができる。
1号はその隙を見逃さず、地面を蹴った。
「トゥ!」
「くっ!」
1号の右ストレートを、左腕で受け止め、衝撃で装甲を軋ませる。
ハカイダーの身体が停滞した瞬間、右足を胴へと向けて放った。
ハカイダーはそのまま胴で1号の右回し蹴りを受け止める。しかし、ハカイダーもただ受けているだけではなかった。
「ゴホッ……」
「グ……」
ハカイダーの膝が、1号の鳩尾に突き刺さっていた。あまりの威力で、1号の右回し蹴りも威力が殺がれた。
1号は後方に跳躍する。ZXが負けたわけだ。ハカイダーは強い。
やはりここは…………。
「フ……やるな。仮面ライダー1号!」
ハカイダーは笑みを浮かべながら、対峙する敵を褒め称える。
最初に出会い、殺しあった仮面ライダーZXと比べると、純粋な力や性能では劣る。
しかし、それを補って余りあるほどの戦闘技術と頭脳がある。ハカイダーは逸らされ、捌かれ、的確に攻撃を叩き込む1号の強さを実感している。
V3も戦闘技術は高かったが、それを目の前の仮面ライダーは遥かに上回っている。
「正義を志す者はそうではなくてはな」
「正義……あいつは、村雨は正義を見せたか」
「ああ! 見せたぞ! 仮面ライダーZXはキカイダーにも負けぬ、正義を示した!!
仮面ライダー1号・本郷猛。我が兄にして、宿敵のキカイダーにも負けぬ正義を見せろ! 正々堂々と、勝負だ!!」
そう、キカイダーはこんなものではなかった。ハカイダーが戦いを挑んでも、死なずに立ち上がり続けた。
人間から後ろ指を指され、周りに理解者がいなくても、立ち上がって悪へと挑み続けた。
それがどんなに困難なことか、ハカイダーは充分に知っている。
だからこそ、今ここに正義を示す仮面ライダーに、ゼロに、凱にハカイダーは敬意を示す。
正々堂々と戦う。これこそがハカイダーにとって、最大の賛辞だ。
戦う以外術を知らない。破壊以外の存在意義を持たない。
だからこそ、戦いながらも破壊されず正義を掲げ続ける、キカイダーや仮面ライダーにハカイダーは魂を燃やす。
ハカイダーに己が存在意義が芽生え、刻まれていた。
(こいつは……)
純粋であると同時に、悪の改造人間としての立場を確固とした立ち位置と受け入れている。
正義と戦うことを求める姿は、まるで自分の後ろに誰かを投影しているように見えた。
話に出ていた、キカイダーの姿を自分を通して見ているのだろう。
しかし、自分はキカイダーではない。彼の唯一の敵ではなく、人類の自由と平和のために戦う仮面ライダーなのだ。
彼が求めているものとは違う。たとえ、キカイダーと出会えたとすれば、同じ志をもてる相手だろうが。
(とりあえず……この場は……)
1号はハカイダーは純粋なまでに強者との戦いを、望むだろうと考える。
弱者……ミクやフランシーヌといったものには、こういう者は興味を示さない。
だからこそ、ここは…………。
(ミクたちの元へ、行かせてもらう!)
決意と共に、地面を踏みしめる。バッタの跳躍力を、その体躯で再現して天へと跳んだ
ハカイダーの身体が覇気で満ちる。
「トゥッ!!」
「むぅ!」
1号は月面返りをして、身体を加速させていく。
ライダーキックの体勢で、ハカイダーへと迫った。
一筋の光の如く、鋭く蹴りが放たれる。その技は、
「ライダー月面キィィィィィィィック!!」
1号のもてる、最大の技であった。とはいえ、ハカイダーもただ立ってるだけではない。
ハカイダーはこの技を受けるのは危険と見て、垂直に飛んで避けた。
構いはしない。
1号のもともとの狙いは、ハカイダーの後方のビル。
五十階建てはあるビルを、仮面ライダー1号の身体が貫いた。
「なにぃ!?」
「…………すまないが、ここは行かせてもらうぞ。君との決着は、仲間を助けてから着けよう」
1号の謝罪がハカイダーの耳に届くことを、ただ祈る。
崩れ落ちる瓦礫の中、ハカイダーから離れて1号はライドチェイサーを呼び寄せた。
エンジンが唸り、瓦礫を次々飛び移っていく。
「1号ライダー!!」
ハカイダーの呼び止める声が聞こえる。罪悪感が僅かに1号の胸に残るが、まずは仲間が優先だ。
1号は脅威の操縦技術から、戦場から離れていった。
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