【人物】
「月刊少年エース」にて連載されていた大和田秀樹によるギャグ漫画「警死庁24時」の登場人物。交通安全教室やイベントでのぬいぐるみショー担当などの表の顔に対し、警視庁の手に負えない揉め事を請け負う"警死庁"としての裏の顔を持つ「富士見署交通課四係」の一員である。金髪に黒スーツ、銃器の扱いに長けた危険な性格の男で〈狂犬(マッドドッグ)〉の識別コードを以て知られるが、パンダの着ぐるみを愛用するなどのしまらない一面も持つ。
【本ロワでの動向】
オールジャンルロワにて多くの参加者の血に手を染めながら生還した後より参戦。
元ロワでの記憶はどこかちぐはぐな、忌まわしい頭の痛みを伴うものとして残っており、その齟齬に混乱し悪態をつきながら会場をさまようこととなった。
半ば自暴自棄になりながら歩いていたコーヘイは、やがて同じロワの出身である
斎藤一と出くわす。コーヘイによる犠牲者の一人であり、この手で自らリボルバーの弾丸をぶち込んで殺した男だ。
手負いであることは一目でわかった。そもそも、なぜ死んだはずの奴が生きているのか。…それでも、記憶にない、鋭く研ぎ澄まされた目で己が前に立った斎藤を見つめながら、殺られるな、と何となく悟ったコーヘイは、已む無しと腹を括る。らしくもないが、そもそもが身から出た錆だ。
しかし、腰に提げたリボルバーに手をかけず、諦めきったコーヘイへ、斎藤はお前を斬るつもりはないと述べて背を向けた。
「いずれ不覚悟でおのが腹でも斬ろうと言うところだ。そういうわけにも行かなくなったがな」
問いをまくしたてるコーヘイをうるさげに、恐らくは珍しいのではないかと思われる自嘲に似た表情を浮かべながら、斎藤は言う。その口から、彼の陥った月打と呼ばれる現象や、そこから醒めた顛末などを聞き出すと、コーヘイは主催を倒すまでという条件で彼と一方的な休戦協定を結び、無理やり同行することを決めた。
明治警官と平成の世の警察漢、壬生狼と狂犬。かつてと異なる有り様で道を共にする二人は、互いの腹を探りあうような張り詰めたやり取りを交わしながら、会場を歩く。
と言ってそれはコンビと呼べるようなものではなく、途中、参加者の一人であるジャイアントパンダを見かけ、愛用の着ぐるみを思いだして立ち止まったコーヘイを、斎藤がそのまま置いて行くというような一幕もあった。
傷を気にするでもなく歩く斎藤の背を見つめつつ、コーヘイは腰の銃を意識する。腹の中で炎が燻っていた。……
やがて、聞き込みを続ける二人の前に、黒翼のようなロングコートを翻し、異様に長い刀を月光にぎらめかせた、銀髪の男が現れる。
セフィロス。星に狂える堕ちた英雄。
無論、斎藤もコーヘイも、その名や彼の狂気、彼の振るってきた刃のことなど知るよしもない。しかし、目の前にいる男がどれほどに凄まじい存在であるかは、本能で感じ取れた。
「私は再び進まなければならない…」
黒い炎を放ちながら、ゆっくりと刃を掲げるセフィロス。息を飲み、思わず後ずさる。こいつは化物だ。敵わない。本能が告げていた。
しかし、その時、退こうとするコーヘイの隣で、別種の鬼気が噴き上がった。
見れば……斎藤が、抜き放った白刃を牙の如く、正眼に構えている。
「新撰組隊規第一条、士道ニ背キ間敷事」
「――敵前逃亡は士道不覚悟」
そう呟き、コーヘイなど視界にないかのような変わらぬ不敵さで、眼前の魔人を見据える。その身に負った傷は未だ癒えぬはず、それでも、まるでそれを感じさせぬ構えだった。
コーヘイは、その時、己の中の燻ぶる炎の正体を知る。そして……
「お前と心中なんざ、御免こうむるぜ」
そう吐き捨てると共に、拾い物の支給品であるキメラのつばさ@ドラゴンクエストシリーズ(Ⅰ)を斎藤に投げつける。予想外のコーヘイの行動に、何か言おうとする間もなく、斎藤はつばさの効果によって彼方へ転送された。
まあ、二手に分かれてって奴だ、と、消えた斎藤へ呟きながら、コーヘイはリボルバーを抜き、構えた。
「仲間を逃がすか、下らん……」
笑いながら歩み寄って来るセフィロスへ、馬鹿言うなともう一度忌々しげに吐き捨てると、狂犬の笑顔を浮かべ返し、咆哮と共に引き金を引いた。
全く腹が立つ。ぶっ殺さねえと気が済まねえ。そうだ。俺は、くだらねえ俺自身が……
「“俺”が許せねえからやるんだっ!!」
頭の端にちらりと、『警死庁』の同僚たちの姿を掠めさせながら、コーヘイは燻ぶる炎を吐きだすかのように、銃を撃ち続けた。弾丸の全てをこともなげに切り捌いた魔人の一刀が、黒スーツの身体を袈裟掛けに両断する瞬間まで。
オールジャンルロワにおいては何かに操られるかのように立て続けに手を血に染め、生きて帰った警察漢であったが、このロワにおいては、斎藤の姿から自分自身の意地を思い出し、命と引きかえに我を通して散った。
結果は早期退場であったが、「救済の物語」の一端を体現した一人であると言えるかもしれない。
最終更新:2024年08月08日 20:59