丘陵の上に霧を纏いながら静かに建つ氷の城。太陽が空を色鮮やかな茜色に染め、西日に照らされた城が幻想的な光を放つ。
現実には到底あり得ぬその城は、見る者の常識を揺さぶり、夢と現世の境界線を妖しく溶かしゆく。
しかし、妖魔の城ももうすぐ崩壊の時が迫ろうとしていた。轟音と共に城が崩壊し芥と化していく。
もうすぐこの下らない御伽噺が終わろうとしている。

城の中央には天まで届くような塔が建ち、頂点には氷でできた鐘がある。
その周囲を塔が取り囲んでいる。そのうちの塔の一つの壁が突如として、周囲に瓦礫片を撒き散らしながら大穴があいた。
城が揺らされ、氷の鐘が空に澄んだ音を鳴らす。どこか遠い、幻想としか思えない音だ。
壁面の穴から男が飛び出し、それを追うようにもう一人が飛び出した。
二人は穴から飛び降りた後、煌びやかな屋根に降り立ち、戦いを繰り広げていた。

一人は警視庁第零課強行班刑事、葛城恭介。一人は血染の蝙蝠幹部、人狼デュオ・バスカヴィル。
彼らの因縁は実のところ薄いと言っていいだろう。
クラスメートを快楽がために悪魔に差し出した氷室帝門と仇を取るべく戦いを挑んだ荒木夢無、葛葉麻耶香。
強き意志を得るがため闘争を撒くアルカディオ・ヘルディオスと父を悪とし打ち倒そうとするルーク・ヘルディオス。
彼らに比べればデュオと恭介の間に因縁はほとんどないと言っていいだろう。
先ほどデュオがだまし討ちし殺した少女も、恭介は好きな音楽も素性も名前さえも知らなかった。
しかし知らない少女だからといえど、彼が戦いをやめる理由にはならなかった。
悲しげな顔をして死んだ少女。彼女をただ自分がためだけに殺した男。
少女を抱きかかえ怒りをあらわにする少年。その光景を見て、恭介は静かに心の内で焔を燃やした。

こいつだけは、こいつだけは許してはならない―――ッ。

雄叫びと共にデュオが氷塊を投げつけようとする。恭介はそれを見て、急傾斜の屋根を滑りとっさに躱す。
先ほどまでいた箇所に爆音が響き巨大な穴が開く。周囲に氷の結晶が夕日を反射しながら舞い散る。
恭介は破片を体に浴びながら屋根飾りをへし折り、手にした氷柱を屋根に突き刺し、滑り落ちる勢いを殺し地面へ落ちるのを回避する。
同時に、鋭利な爪を構えて宙を駆けてきたデュオに向かって発砲する。一発、二発と弾丸が飛ぶ。
デュオは僅かに首を傾けて、頭部に当たろうとしていた弾丸を躱し、恭介の目前まで迫る。
回し蹴りが恭介の脇腹へと突き刺さろうとする。咄嗟に氷柱を盾にして直撃だけは避けるが、蹴りの威力までは殺せず吹き飛ばされる。
塔の外壁へと叩きつけられ、肺の中の空気が全て吐き出される。倒れこみながら血反吐とともに新しい空気を求めて咳き込む。
デュオは恭介の無様な姿を見下ろして、耳元まで裂けた口をさらに大きく歪めまこと厭な笑みを見せた。

「なんだ。大口叩いといて随分みっともないじゃあないか。あのガキの仇を討つんじゃなかったのか。
これじゃあ、お前を信じていったルークやオリヴィアに見せる顔がないなあ。」

デュオが煽るように言葉を投げかける。自分より弱い、そのような奴を見ることがデュオにとって最も心を満たすものであった。

「ヴァン・ヘルシングやペルセウスにでもなれると思っていたのか?笑わせるなあ、お前みたいな貧弱なカスでも
化物退治が出来るとでも勘違いしたのか。俺が息を吹けば吹き飛ばされる藁の家程度の分際でか?」
「…随分と饒舌なことだ。」
「ほお、突っ立ってるだけの案山子かと思ったが、言葉出せる程度の脳みそは持ち合わせていたのか。ええと、お前の名前は何だったかな。俺の記憶の片隅程度にはとどめておいてやるから言ってみろよ。」
「…葛城恭介」

その名前を聞いたとき、葛城という名字に聞き覚えがあったのか、デュオは顎に手を当てて記憶をたどった。

「葛城恭介・・・そういえばお前の妻にも会ったぞ。何やらちんちくりんの鬼娘を連れていたが。
然しお前の妻はどうしようもない役立たずだな!この俺に襲われても反撃一つできないで、連れのガキを戦わせるくらいだもんな!
よくお前はあんな出来損ない女と結婚したな?・・・ああ、そうか。お前も結局のところ屑の下っ端だから気が合ったのか!
こいつはお笑い草だな!」

デュオはお道化るように、言葉を次々と紡いだ。デュオは恭介の性格を見抜いていた。
こいつは、自分自身への侮辱は静かに耐える。だが逆に自分が大切なものへの侮辱は一つとて赦せない性格だ。
最も愚かしく、だが手に取るのも容易い人種の一人だ。

(ほらほら、もっと怒れよ。冷静さをかなぐり捨ててかかって来い。そこを俺はひょいと躱して貴様の首を縊りとり、見下しながら笑ってやるからよ。)

今までデュオは愚直な連中は何度も葬ってきた。こういった奴らにはこうしたやり方が一番効く。
内心嘲笑いながら、恭介が策に陥る姿を見て愉しもうとし、その目論見は見事、

「・・・はぁ、お前の戯言は聞く価値がないな。人を見下して自分のプライドを保っているだけか」
「・・・あ゛?」

恭介の一言が打ち破った。

二人の間に冷たい風が吹く。凍り付いていた空気が一層凍てつきを増す。
太陽も既に沈み、月の淡い光が二人を照らしていた。

「貴様、なんて言った?もう一度ほざいてみろ」

先ほどまでの愉悦に満ちた表情は失われていた。自分を下らないといった男への怒りがデュオから笑みを奪った。

「お前はただ見下ろす役を興じたいだけだろう。人を見下していれば、自分が他者よりも優れていると勘違いしている。
人を馬鹿にしていれば、お前の虚栄に過ぎない矮小な器が満たされる。お前はそんなくだらない、自分が見下されたくないだけの小物にすぎんからな」

ぼきり、とデュオの口から音がした。
怒りゆえ強く歯をかみしめ、激高に耐え切れず歯が砕けたのだ。

―俺より所詮格下のカスが何を言っている。

―俺が爪を振るえば簡単にくたばる程度のクソカスが何を言っている。

―そのクソカスが何、俺を見下すようなこと、言ってやがるんだ―――ッ!?

「てめぇ・・・ぶっ殺してやる!!!」

空をも恐怖に震わす雄叫びと共に、デュオがいきり立ち跳んだ。
しかし、恭介は微塵とひるまず、握りしめた拳銃をデュオに向けた。

(タンカス風情が舐めた真似きかせたらどうなるか、思い知らせてやるッ!てめえが泣こうが謝ろうがもう遅いッ!!!)
「後悔しながら死んでくんだなぁ、三下がァああああああッ!!!」

一瞬にしてデュオの鋭利な爪が恭介の命を刈り取らんと目前まで迫る。
恭介も対抗すべく、引き金を引こうとした時だった。
急に互いの動きが急停止し、どれだけ脳が命令しようと体が反応しなくなった。
二人の間に、新たに一人の女が現れた。

「そこまでです。二人とも戦いをやめてください」
女は、籠絡の魔女。聖女アリッサ・ブルックリン。

「Porca puttana!!俺に向かって逆らいやがってどうなるか理解してるのか!?」

恭介を殺す寸前まで生きながら、寸でのところでよりにもよって自分の下僕が茶々を入れた。
その事実は、地獄の炎よりも燃え盛っていたデュオの心にさらに油を注いだ。

「そのゴミを始末させろクソアマ!それともてめぇからぶっ殺されてぇか!」

大物ぶった仮面をも捨て、今まで隠していた本性を露にしアリッサに向かって吠えた。
だが聖女はその深い憎悪さえも慈しみながら抱きしめ、幼子を諭すように話しかけた。

「いけませんよデュオ。互いの主義主張の違いから争うのは良しとしましょう、しかし命を奪うことはなりません。
この世に許されない罪はありませんが、命は失われてはどうしようもないのです。」
「この売女がぁ、よくもぬけぬけと」
「デュオ、貴方がいかなる罪を背負おうとも、私が共に償いましょう。
…貴方が私を狼と変えたことも、きっと取り返しのつく…いえ、罪とは言えない程度のことです」
「!?…テメェ、いつから気付いて…!」

デュオが罵倒するのも忘れ一瞬理解できないという顔になった。

「私は貴方を救いたかった。貴方が心なき言葉を紡ぐのも、貴方の負った深い心の傷が故でしょう。その傷があなたの道を違えさせてしまった。
幾人と貴方は人を傷つけてきました。それでも、まだ貴方は戻れます。苦しいのなら、痛むのならば、私も傍らで貴方を支えます。
心から償えば、きっと赦されましょう。デュオ…私の手を取って…」

アリッサはデュオに笑いかけた。
きっとこの女は世界全てに嫌われようが、それでも世界を祝福するのだろう。
デュオはほう、と息をつきアリッサの傍により柔らかなその手を、

「ふざけるなよ、カスが」
血にまみれた手で払いのけた。

「言うことかいて救いたいだと。舐めるなよ。救済したいなんぞ同情こいて言いやがって」

俺はこいつが嫌いだ。世界には善人しかいないと思っている偽善者きどりのこの女が大嫌いだ。

「救うてのはなあ、強者が気まぐれに弱者を上から手差し伸べることだろ。ああ、こんな弱い人に手を差し伸べるなんてなんて自分は素晴らしい人間だろうと悦に入って、実際には弱者を見下してやがる。…俺を、見下すな」
「デュオ…仕方有りませんね。私の術で、貴方の悪心ここで…」
「忘れたのか?貴様は所詮、俺の掌でしか動けない犬畜生だということをッ!」

デュオが叫ぶと、アリッサは一瞬のうちに獣と化した。
デュオに噛まれたことで、アリッサは人狼の眷属と化していた。
それでもアリッサだった獣はデュオの膝元でどこか寂し気に啼いたが、デュオは獣の喉笛に蹴りを入れて除けた。
狼は苦しげに呻き縮み困ったが、さらに頭を何度も踏みつけた。
デュオのすかしたズボンの柄がアリッサの血で見えなくなってようやくデュオが口を開いた。

「Testa di cazzo!どいつもこいつも俺を見下しやがって。アリッサ、貴様は家畜以下に働かせてから屠畜してやるよ。
だがなァ、まずはこの糞野郎を殺してからだ!」

デュオはアリッサから恭介へと視線を移した。
瞳は血走り、喉を不気味に鳴らしながら、恭介に近寄った。

「お前は散々この俺に無礼な真似を叩きやがったからな。晒し首だ。塔の頂点からお前の糞まみれの死体つるしてやるよ。
きっとお前の肉便器や、ノータリンのお仲間もうれし涙流すだろうよ。」

鋭い爪を見せつけるように一歩一歩ゆっくりとわざと時間をかけて近づいてくる。
恭介が体を動かそうにも、デュオが眷属のアリッサに命令して精神魔法で恭介の身動きを封じている。
仲間の救援を願おうにも今からではもはや間に合わない。
銀の弾丸も、木の杭も、怪物を討つ武器を恭介は何一つ持っていない。

「死ねぇええええ恭介ェエエエエエエエ!!!!!!!!」

もはや恭介に打つ手なし。デュオの爪は止まることなく、恭介の胸に突き刺さるだろう。
そうデュオは確信していた。
だが爪が胸に当たり、あとほんの少し力を籠めれば心臓を貫けるといった瞬間、恭介の胸ポケットから、光が放たれた。
一瞬光が透けて、幾何学模様の魔法陣が見えた。


言葉が恭介の脳を走る。

―このメモをあげます。きっと恭二さんもあなたを守りたかったはずですから。

デュオが光に呑まれ静止する

―あの人間はお前の話をするときいつも笑っていてな、あの笑顔がなかなか好きだった

アリッサへの命令が解かれ、精神魔法が中断される

―恭二、大好きだよ。

恭介が一歩デュオへと踏み出す

―恭介…もみじの仇を…お願い、します

もがくデュオの爪先が肩口をかすめる

―ルークには私がついていくから…勝つの、信じて待ってるから

血を流しながら体を深く沈め、デュオの下にもぐる

―貴方が泣きそうなときでも、私もいつだって一緒にいますから。

右腕がデュオの肩を捉えしっかりと握りしめる

―俺も…いつかあんたみたいに立派な警察官になって…

「…ッ!!!」

恭介が叫ぶ。円の軌跡を描きながら、デュオの体が浮く。
空を駆ける勢いのままデュオは宙へと投げられた。
一瞬デュオは何が起きているのか理解できていなかった。
瞬きを一度し、自分の体が数十m下の地面へと落ち始めてからようやく理解した。

(や、やばい!!後数秒足らずで地面にたたきつけられてミンチになっちまうッ!は、早く壁に掴まらなくてはッ!)

空中で必死にもがき、手を壁に伸ばす。爪が壁面を掠り傷跡を残す。

(くそっ、もう少しだ、届けッ、俺はこんなところで死ぬ人間じゃないんだ!)

必死に空を掻いて生をつかみ取ろうとする。壁まであと数m、数十cm、数cm。
氷が削れる音がした。最後まで足掻いたおかげでぎりぎりのところで壁に爪が届いた。
まだ生きられる。そうデュオが思った時、空を裂く音がした。
上空から放たれた弾丸がデュオの手を貫き、掴んだはずの生を打ち抜いた。

「なっ…!?」

デュオが真に恐怖したのは、弾丸が放たれた空を見上げた時だった。
銃口をこちらに向けながら、恭介はいつものように静かに佇んでいた。
恭介の眼。その眼はデュオが今まで見たことのない眼であった。

なんだ。なんなんだこいつの眼は。
漫然とエサをむさぼる豚の眼でもない。
恐怖におびえ逃げ惑う羊の眼でもない。
獲物を影から狙い潜む狼の眼でもない。
雑魚を見下し嘲笑う獅子の眼でもない。
こいつの、こいつの、こいつの眼は―――ッ

「俺を…ッその眼で見るなああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

然してその叫びは、地面に肉が潰される音にかき消された。
後には闇色の霧しか残らなかった。


「…終わったか」

地面を見下ろしながら、恭介がつぶやいた。
城の最下層は霧が立ち込め、デュオの姿はまぎれて見えなかった。
だが、決着はついたのだという感覚はあった。
あの少女の仇は討ったが、感慨はどこにもなかった。
清々しいなどという気持ちには到底なれそうになかった。
屋根に腰を下ろし、瞼に手を当て俯いた。

「…デュオを倒したのですね」

背後から声を掛けられた。首を向けると、女が口から血を流しながら立っていた。
先の会話から考えると、この女はデュオとはそう浅くはない関係にあったのだろう。
デュオの邪悪さを知りながらも、それでも救おうとし、結局その望みは果たされなかった。

「確かアリッサさん…だったか。貴女とデュオの関係は想像するしかない。
だがデュオが貴女にとって大事な人だったのなら…貴女には俺を裁く権利がある」

恭介の言葉に、アリッサは静かに首を振ってこたえた。

「いえ…確かに貴女はデュオを殺しました。人殺しは罪なのでしょう。だけれども、貴方には貴方の道理があって殺したのでしょう。
その道理を私の勝手だけで何が言えるのでしょう。それに、人が人を裁くなど、私の身に余るおこがましい行為なのですよ。」

言い終えるとアリッサは階段のある塔に体を向けた。

「どこに行かれるのか」
「デュオが眠る場に。あの人はきっと悪人だったのでしょう。けれども懸命に生きようとしていた人であったことに変わりはありません。
亡くなれればそこに悪も善も境界はありません。あの方が妬みも憎悪もない場所に魂が逝かれるよう、祈りに行きます。」

そしてアリッサは恭介にどこか寂し気に微笑みかけた。

「それに…皆に嫌われて一人きりのまま逝くのでは悲しいではないですか。
世界に居場所がなくても、私だけは彼の居場所でいてあげたいのです。」

そして聖女は恭介に静かに礼をして、塔の向こうに消えていった。

独りきりとなり、恭介はしばらく佇んでいた。

「恭二…お前は俺のように皆を救いたいと言っていたな…」

誰ともなく恭介が呟く。否、呟かずにはいられなかった。

「逆なんだ。救われたのはお前じゃあない。俺の方なんだ」

胸ポケットからグソクムシから託されたメモを取り出す。
一回だけあらゆる攻撃を凌ぐ魔法陣。
しかし効力を発揮した今、メモ用紙は黒く煤け、触れば灰のように崩れていく。

「炎の中から助けた時、絶望に満ちたお前の顔を見て、俺は命は助けられても心は救えないのかと思ったんだ。
だけどお前のあの言葉を聞いて救われたんだ。」

―俺も…いつかあんたみたいに立派な警察官になって…皆を、守りたいんだ。

「ああ、お前は真っ直ぐに生きている。そのことが本当にうれしかったんだ。俺が為したことにも意味があったことに。
そして今も、お前のおかげで生きている。」

メモ用紙が灰になっていく。一筋の風が灰を空へと吹きあげた。
空へと昇る灰を見て、恭二の死が心に湧き上がってきた。
もう二度と恭二には会えないのだ。その事実が酷く悲しかった。

「…俺にはまだやることがある。行かなきゃな…さよならだ、恭二」

恭介は立ち上がり、ゆっくりとだが歩き始めた。
空に散った灰は月明かりに溶けて、やがて…見えなくなった。

【C-3 氷の城・2日目 夜中】
【葛城恭介】
[状態]:肋骨骨折、体力消耗(大)、右肩にかすり傷
[装備]:S&W M686
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
1殺し合いの打破
2オリヴィアたちと合流する

【アリッサ・ブルックリン】
[状態]:全身に打撲
[装備]:マジックロッド
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
1デュオを弔う


氷の城の庭園にひとりの男が血の海に沈んでいた。
まるで動かなかったが、その指先が突然ぴくりと動いた。

「…生きている。俺は生きているぞ…ッ」

デュオが自分が生きていることをかみしめながら言った。
ほんの一瞬、壁に爪をかけた時にスピードが落ちたことで致命傷を僅かに避けていた。
血の海を這いずりながらも、デュオの眼はまだ死んでいなかった。

「おのれ、おのれぇええええ、葛城、恭介…ッ、貴様は絶対に許さん!

煉獄の苛みさえも甘く感じる苦痛を与えてから、殺してくれと嘆願する貴様を嘲笑いながら殺してやるぞッ!」
復讐だ。デュオがそう叫んだ時だった。

「いや無理だな。貴様の復讐が果たされることはない」

復讐に目が血走っていたデュオは背後から近づく気配に気づかなかった。
振り返ったとき、焼けるような痛みがデュオを襲った。

「が、ぁあああああああ!!!なんだ貴様は、何者だ!?」
「知る必要はない。貴様ら蝙蝠はただただ俺の手で切り捨てられ地獄に堕ちて永遠の苦痛を受け続けるだけでいい。
命乞いも神に祈る暇も貴様らには一分たりともくれてはやらん…!」

灰色の髪の男が叫んだ。デュオは必死に逃げようとするも、骨の砕けた脚では逃げようにも逃げられない。
デュオの脳が必死にこの男を殺す方法を考えようとする。
だが幾ら考えようとも、突破口の欠片さえも見えやしなかった。

死ぬ。死ぬ?死ぬ!?
こんなところでこの俺がか!?
嫌だ。俺はまだ死にたくない。
何人も何人も何人も。
騙して殺して蹴落として。
その結末がこれか!?
こんなカスに殺されて俺は終わるのか?
冗談じゃない。俺はまだ何一つ、幸せを得られていないのに―ッ

「う、うわああああああああああ」

破れかぶれに爪を放つが軽くかわされて刀で手首を切り落とされる。
痛みに絶叫しながら転がり、涙さえも流していた。あまりにも惨めなデュオの姿を男は冷たく見下ろしていた。

「ギェアアア!!ぢぐじょうううう!!!俺は!!てめえらカスとは違うんだ!!!お前らより遥か上にたって、幸せになる男なんだ!!!こんなゲロカス風情が見下してんじゃねえぇええええええ!!!!!!!!!!」

デュオが叫び、最後の攻撃を放つ。
しかしその攻撃が届くはずもなく、男の刀が一閃し、デュオの首を切り落とした。
ここに、一人の人狼の御伽噺は終わりを迎えた。
誰よりも幸福を求め、誰よりも人を見下し続けた狼が手にしたものは何一つなかった。
ただ血の海に首が転がっていた。
世界全ての憎悪と怨嗟を顔に残して。
生きているかのような悍ましい形相で。

【C-3 氷の城庭園・2日目 夜中】
【クリフ・シュテイル】
[状態]:体力消耗(中)、全身に切り傷
[装備]:妖刀
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
1血染の蝙蝠の抹殺

【デュオ・バスカヴィル 死亡】
【残り58人】

275:その血の宿命 葛城恭介 298:悲劇的アイロニー
275:その血の宿命 デュオ・バスカヴィル GAME OVER
271:死の結末を君に アリッサ・ブルックリン 300:崩壊の前に
266:祭典の始まり クリフ・シュテイル 300:崩壊の前に

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最終更新:2015年12月14日 21:13