オレンジ色の西日が教室に影を落とす夕暮れ。
巴は、一人黙々とクラス委員のデスクワークをこなしていた。
巴「はぁ…部活行きそびれちゃったなあ」
まぁ、いいか――――そう呟き、再び机の上に目を向ける。
仕事は、まだもうしばらくかかりそうだった。
ふと、廊下からぱたぱたという足音と、息切れした呼吸が聞こえてきた。
がらっ、と教室の扉が開き、その向こうから一人の少女が姿を現した。
巴「由奈…」
由「あ、巴――――」
巴「どうしたの?こんな時間に」
由「ちょっと忘れ物しちゃってね」
へへ、と笑いながら由奈は自分の机から何かを取り出し、肩に掛けた鞄に詰める。
本来の目的を達成すると、由奈は巴のいる机の前に歩み寄る。
由「巴は、クラス委員の仕事?大変だねー」
そうでもないよ、と微笑み返す。
ほんの少しの間、会話が途切れる。
これで会話が終わったのなら、じゃあね、という言葉が由奈の口から出てくるはずなのに…
不思議に思った巴は、由奈の顔を見上げる。
由奈は、まだ何かを言いたそうに、しかし、それを口ごもっているという表情を見せていた。
巴「…どうしたの?」
由「あ、あのさっ」
巴「うん?」
由「さ、最近さ、巴、よく桜田君ちに行ってるんだって?」
一瞬、あ――――という表情を向けた後、続ける。
巴「う、うん…」
由「あ、えっと、り、理由、とか、聞いても、いい、かな…」
巴「まあ、クラス委員の責任、もあるし…それに…幼馴染だから…」
由「仲…いいの…?」
どうかな…――――巴は、言葉を濁した。
(大切――――なんだね…)
由奈の心の中に、確信めいたものが響いていた。
由「巴――――」
由奈の表情が、急に真剣なまなざしに変わった。
巴の顔に、自分の顔を近づける。
次の瞬間には、二人の唇は触れ合っていた。
その、数秒――――
唇が離れても、熱い吐息がそこに残っていた。
巴「え?――――」
由「巴の気持ちは、わかってる…」
由「でも、私の気持ち…」
由「ううん、私のことも、見ていて欲しいの――――」
由奈の瞳には、じわりと涙が浮かんでいた。そんな、気がした。
由「じゃあね。」
くるっ、と踵を返し、由奈は教室から離れていった。
巴は、自分の唇に残った感触を確かめるように指をなぞらせた。
(どうして――――)
どうして、涙があふれてくるのか…巴には分からなかった。
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