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『翠星石から真紅へ』

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集


貴女は何故泣いているのですか?
表情だけ変えないで心で泣いている…。
貴女は優しいからそんな素振りを見せてはくれないから。
貴女は不器用だから上手く言葉に表せないですし。
でも皆気づいていますから、そんな貴女が大好きですから
皆が貴女を大切に想っています。

気づいてください。
貴女は独りじゃないです。
たくさんの想いが貴女を取り巻いています。
中には好意ではない想いもあるかもしれない…
想いが重圧になることもあるかもしれない…
私たちには見せたくはない貴女の想いもあるかもしれないです。
だけど気づいて
差し伸べたこの手に気づいてくださいです。
私には何もできないかもしれないけれど
貴女は胸が苦しくて泣き崩れる私をそっと抱きしめて想いを分かち合ってくれました。
だから私も貴女が重いと感じた物を一緒に背負ってあげたい。
あなたの手を曳いて少しずつ歩いていきたい。
貴女が辛いのなら私という1を足して幸せにしてあげたい。
どうか届いて

『翠星石から真紅へ』 

「我ながらよくもまぁこんな乙女ちっくな文が書けたものですぅ…」
 はぁ、と溜め息をついて夕闇に染まろうとしている窓の外を見た。
今この部屋は自分だけの空間となっている。各々が好きな時間を過ごしている時間であった。
だからこそ翠星石は一人、苦手な筆を便箋に走らせていた。
「やっぱり名前は消しておくです…。匿名としておけば真紅も意識しないはずですぅ」
 消しゴムでゴシゴシとこする。うまい力加減で名前を書いていたところだけが綺麗
さっぱりと空白となった。ハッと何かを思い出した翠星石は手紙にそっと付け足す。
「――親愛なる薔薇乙女、真紅様へ」
「名探偵くんくんより」
 納得がいったのか一人手紙を見つめうんうんと頷き、小さな手で手紙を器用にたたみ、
のりに内緒で買ってもらった封筒に入れる。封をくんくんのシールでしっかりすると
次はどこに置いて気づかせるかを思案し始めた。
「どこがいいですかね?鞄に隠しておくとすぐに気づいちゃうですから…」
「なんというかすぐにじゃなくちょっと間が欲しい感じですぅ」
 部屋をキョロキョロ見回しながら真紅に気づいてもらえる箇所を探ってみる。
ヘタに目に付くところにおいて真紅以前に雛苺に発見されても困るし、
かといって複雑に隠して真紅に気づいてもらえなければ意味がない。
「はふぅ…どうしたらいいですか?」
 小さな溜め息と共に虚空を見上げつぶやいた。返事は帰ってくるわけもなく
一人部屋をうろうろと歩き回る。その姿は傍目から見たらつい声を掛けたくなるような
どこか抜けているような愛らしい小動物のようだった。
けれどやはり部屋には一人だけで誰もいない。
だから声を掛けるものなど近くいるわけもなかった。

――ガチャ
不意に部屋のドアが開く。
翠星石はローザミスティカが飛び出してしまうかと思うくらい驚き本棚に後ろとびで突進した。
その衝撃で棚から本が数札落ちてくる。
「あれ?翠星石どうしたのー?」
 ひょっこりと姿を現したのは雛苺だった。
お絵かきを終えてきたのかスケッチブックとクレヨンを手に驚いている翠星石をきょとんと見つめている。
「ななな、なぁ~んでもねーですぅ!そっ、そうです!本を読んでいたですよ!」
 咄嗟に落ちてきた本を開き取り繕ってみせる。
背に隠していた手紙も本に忍ばせるようにして隠した。
「うゆ…翠星石、本が逆さまなの…」
「!?こ、これはですね!最近の流行なのですよ!雛苺ったらおくれてるですぅ~ホホホ」
 雛苺相手だからこんな手も通用するのだろう。真紅が相手だったら「それは私が大事に読んでいる
本よ。返しなさい」と捲くし立てられ手紙も見つかってしまうのであろう。
「さっ、さぁておなかがすいたですぅ!雛苺、今日の夕食はなんですか?」
「今日はね、花まるハンバーグなのよ!」
 真紅の本棚に手紙を挟んだ本を含め落ちた本も綺麗に並べた。ついでに雛苺お絵かきセットも片付けると
背中を押すように1階へと降りていった。
(…まずいことになったですぅ。後でこっそり手紙を回収せねばですぅ)
 本に挟んでしまった手紙に後ろ髪を引かれる思いで食卓へと向かった。

 やはり、咄嗟にあんなところに手紙を隠したのは失敗だったと翠星石は悔やんでいた。
今日は面白いテレビ番組があるわけではなく、かといってくんくんのビデオを見たりするわけでもなかった。
よって食後の今、真紅も雛苺も2階でくつろいでいた。雛苺は夕食前と変わらず、楽しそうに絵を描くことに興じ、
真紅は翠星石と食後の紅茶を楽しんでいた。当の翠星石は紅茶の味を楽しむような余裕もあまりなく、
手紙のことばかりを頭の中でずっと気にしていた。
(このままですと…あっという間に手紙が見つかってしまうですぅ。読んでもらうのはいいですがもう少し猶予が…)
「――今日は良い月夜ね。少し欠けているのが残念だけど」
 ふと真紅がつぶやいた。色々考えていたせいか途中からしか聞こえなかったが、
話の要所はどうやら耳に入っていたようだ。
窓の外に目をやると少し欠いた月が柔らかな光を闇夜に照らしている。
「欠けている割にはなかなかいい月明かりです。大したやつですぅ」

「ふあ…ヒナは先におやすみなのー…」
 最初に脱落したのは予想通り雛苺だった。
「翠星石も休むですぅ…真紅も早く寝るですよ…」
 これも計算のうち、先に鞄に入って様子を伺う気でいる翠星石も寝たふりをするため鞄に入っていった。
「二人ともおやすみなさい。私はもう少し起きているわ」
 窓の外をとても穏やかで優しく見つめていた真紅が二人に声を掛ける。
心なしか声のトーンも優しく二人を包み込んであげるような包容力があった。
(真紅…)
 声を掛けたくなる衝動に駆られたがここはグッとこらえる。
鞄が閉まるギリギリまで穏やかな真紅を見つめていた。
(とりあえず真紅が休むのを待つです。休んだところでこっそり手紙を抜き出して…)
(手紙はどうするですか?……そうですぅ!ぽすとに出しにいけばいいのですぅ!!さすが翠星石です。さえてるですぅ)
(それから…それから…しん…く…に手紙…が…Zzz)

「ん…もう朝ですかぁ?」
 鞄を開けると窓の外から眩しい陽射しが指しているのが目に入った。
今日も天気は快晴で穏やかな一日になるに違いない。よたよたと鞄から出ると身体を一直線に伸ばした。
「うゆ…おはよう…ございます…なの」
「二人ともおはよう、今朝も良い朝なのだわ」
 次いで雛苺、真紅という順で鞄から出てくる。
いつも通りの朝。目指すは1階の食卓である。
今朝もきっとのりがおいしい食事を用意してくれているであろう。
翠星石も一緒になって怪談を下ろうとするが、ふと大切なことを思い出した。
「あ、天気もいいですし窓開けておくですぅ!空気の入れ替えも大切ですから!先に下りていてくださいです」
 などと理由を作って翠星石は部屋へ戻っていく。
真紅と雛苺はその姿をきょとんと見つめていた。
「あ、危ないところだったです。忘れるところでした。」
 綺麗に整えられた棚の前に立って本を取り出す。
数冊あるのでどれに入れ置いたか分からないので手当たり次第だ。
「これでもないですぅ…こっちですか?…あっ、入っていましたですぅ!」
 ホッと胸をなでおろし手紙を回収する。
出した本も綺麗にしまいなおして手紙を自分の鞄へと隠しておいた。

 朝の食事が済んだ後、真紅と雛苺はリビングでくんくん探偵を、
翠星石は2階に上がって作戦を練ることにした。もちろん掃除をするなど理由をつけて
リビングから逃げ出してきたのだ。幸い部屋にはジュンはいない。
図書館で勉強するために朝食後、外出していったからだ。
幸いにも条件が揃ったため翠星石は一人2階の部屋でベッドに腰を下ろした。

 手紙を見つめどのタイミングで家を抜け出すか考えるがなかなかいい案が巡ってこない。
どうするべきかを考えてどうしたいのかを自分に問いただすがどうやらいい答えは出てこなさそうだ。
別に出かけることに理由はいらないのだがなんとなく理由を作って家を出たい気持ちなのだ。
「あ…そうですぅ。鞄に乗ってこのまま出れば問題ないですね。さすが翠星石ですぅ!」
 ふと視線に入った鞄を見てつぶやく。応えは簡単なところにあった。
翠星石は自由気ままに鞄で移動ができるのだ。
「そうと決まればさっそくいくですぅ♪」
 開いている窓からひゅんと飛び出し空を舞う。
穏やかな陽射しが体に染み渡っていく感覚がした。
 自分の心がいつからこんな風に虚空を作り出すようになったのか。
こんなに天気の良い日でもふと思い出してしまうとこんな風に無表情になってしまう。
目の前からいなくなって寂しい思いをしているのは私だけではないはずなのに。
だから真紅に手紙を書こうって思っていたのに。
こういうときに限って頭の中では色々ごちゃごちゃとした疑問や想いが交差してしまうものだ。
弱い自分が嫌になる。だけどこれも自分なんだと納得をしたはずなのに。
何で悩んでいるかさえ分からなくなり、ふと手元の手紙に目をやると何か違和感を感た。
鞄を止めて封筒を凝視する。
「あれ…?シールが」
 封をしていたくんくんのシールが明らかに変わっていた。
確かに自分で貼ったくんくんはいつものくんくんのシールだったのだけれど、
今、封筒に張られているくんくんはウインクをしているのだ。
そっと封を開けてみると便箋も翠星石がのりに買ってもらったものとは別物で
そこには自分の字ではない優しく繊細な文字がしたためられていた。


名探偵様へ

お手紙どうもありがとう。
とても優しいあなたの気持ちが伝わってきたわ。
私が心配事をしていること隠せていなかったようね。
そんなに分かり易かったかしら?
こんなに優しい貴女に心配かけて私は私は悪い妹ね。
けれど私は……こんなにも幸せな貴女の妹…
気づかせてくれてありがとう。
大好きよ…翠星石。
だから貴女も悩みや辛いことがあったら
きっと私や姉妹に言って頂戴。
すべてを癒してあげることなんてできないかもしれない。
でも半分くらい私たちが背負ってあげるから
雛苺も同じことをいっていたわ。
私たち、姉妹ですものね…お姉さま。

追伸、本はきちんと刊行順に並べて仕舞って頂戴。

 便箋はニ枚あった。
一枚目は真紅によって書かれた短いけれどしっかりとした手紙。
もう一枚には雛苺が描いたであろう仲睦まじい姉妹の絵と、
「すいせいせき、あいとー!」
と絵に添えられていた。
ポタポタ落ちる温かい雫が止まらなくて翠星石は暫くそこにとどまっていた。

「ただいま~ですぅ」
 少し目元に赤みを残したまま窓から元気よく翠星石が帰ってくる。
部屋にはくんくんを見終わった真紅と雛苺がくつろいでいた。
二人を発見した翠星石は目を逸らし冷静を装っている。
「あー翠星石おかえりなの」
「あら、お帰りなさい。お散歩かしら?」
 顔だけこちら向けてにっこり笑う雛苺と本から目を逸らさず声を掛けてくる真紅に、
言葉を詰まらせてしまう。真紅は分かっているのよといわんばかりの態度で翠星石に目をやった。
「そそそ、そーですぅ。たまには外の景色を見るのも悪くないですぅ!」
 視線に気づいているが素直になれないのも翠星石のいいところであり悪いところでもあったり。
やせ我慢する癖もあるからつい心配になってしまう性格である。
 あえて真紅は何も言わず、翠星石を見守る行動に出る。
翠星石も成長しなければならない。いつまでも同じままではいられないと分かっている。
そっと雛苺を立たせ、真紅の隣へ座らせそのまま二人を優しく抱きしめた。
「真紅…ちびちび苺…」
「うゆ…?翠星石どうしたの?」
「あら、甘えん坊さんね」
 二人の声が胸を刺激するので少し強めにぎゅっと抱きしめる。
愛しい思いが止められなくて二人の頬に軽くキスをしてあげた
抱きしめられることに苦しそうに、でも心地よさそうな雛苺。
真紅は抱きしめられる腕にそっと両手を添える。
「二人とも…ありがとうですぅ。翠星石はお前たちが大好きですよ。だからお姉ちゃんが絶対護ってやるですぅ」
「フフ…翠星石…お姉ちゃん。ありがとう」
「ヒナもヒナも!翠星石おねーちゃんありがとうなの!!」
 部屋には爽やかな風が吹き込み螺旋を描き、気持ちを落ち着かせてくれる。もう悲しい想いはしない。
させないんだと心に誓いながら翠星石はこれからも愛しい妹を抱きしめ続ける。

おしまい


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