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『Ⅱ、恐れないでほら、何も怖くはないんだから』

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rozen-yuri

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 ──私は虚夢に声を聞く──




 想いは、時空を越えて

 想いは、行方を失い

 想いは、だんだん大きくなって

 想いは、──……


 『Ⅱ、恐れないでほら、何も怖くはないんだから』


 バタバタと急ぎ足で生徒会室に向かった。昨日の聞きそびれたことを聞かなければ。
「水銀燈さん!」
 無視したかったが、教師に呼ばれてはそうすることもできず、振り向いた。
「生徒会室行くんでしょう?これ届けてくれない?」
「はぁい…」
 そう言いながらこの教師は直視できない。別に淡い恋心とかそんな甘酸っぱいものではない。
 ただこの女教師、メガネのレンズが異常に大きいのだ。しかも、本人自体は小柄でそのアンバランスさがどうしようもない。
 吹き出しそうになるのを押さえて書類を受けとり、挨拶をしてその場を去る。 些か乱暴に生徒会室のドアを開けると目を真ん丸とさせた真紅がいた。
 そのままの勢いで質問する気であったが真紅の姿を見て、こちらも目を丸くした。
「し、真紅ぅ…貴女っ…」
 真紅はすぐに笑顔を作り、ドアを閉めるように促してきた。
 それを素直に聞き入れると、昨日の定位置に座った。

 くわえていたタバコを口から外すと、にっこりと微笑んだ。
「何か質問でも?」
「あ、いや…」
 仕草、口調、全てが昨日と同じで、何故か私の方が動揺しているらしかった。
「何で、タバコなんかぁ…」
 そう尋ねると意外そうな表情を浮かべた。
「あら、貴女からそんな質問されるなんて思わなかったわ」
 意外そうに目を開くと、煙をフゥッと吐いた。煙を直に受け、ケホッと咳き込んだ。
「どういう意味よぉ」
「この学校一の態度劣等生って聞いたのよ、吸ってないの?」
「あ、当たり前じゃなぁい!タバコの匂いは大嫌いなよぉ」
 思わず机を強く叩きながら、叫んでいた。
「あら、怖い。そう…でもそれはごめんなさいね」
 慣れた手付きで灰皿にタバコを押し付けると、窓を開放した。
 おや。どうやら、根性が悪いわけではないらしい。
 まぁ、タバコは吸ってはいけないが、それを差し引いてもいい子だということは変わらない。
 しかし、吸う理由が分からない。興味本意、というわけではなさそうだし。
「で、何故吸っているか、だったわね」

 定位置に戻ると頬杖を付きながらニコリと笑った。
「見せしめ、かしら」
「……は?」
 頬杖から顎を両手の甲に置く形に変えると、至極、真面目な顔で語った。
「自己主張ってとこかしら」
「はぁ…」
 意味が分からなくてすっとぼけた声を出すと声で笑われた。
「ただの優等生って思われたくなかった。悪いこともできるんだぞ、っていう主張」
 優等生を演じなければいけない、しかしお堅い奴と思われたくないから、誰に見せる訳ではなく、自己暗示だと言う。
「悪いことでもしなけりゃ、優等生なんかやってられないわ」
 欧米でそうするように両手を広げ、肩を竦めた。
 優等生を強制されない、自分で好きなことしたいから成績をキープしている私とは大違いだ。
「そ、うだったの…」
 感覚は分からないが、少なくとも興味本意よりはちゃんとした理由だと思った。
 コメントし辛くて俯いていると、目の前の人物が肩で笑い始めた。
「あはっ…あはははは!」
 爆発したと思うと、もう止まらないと言うように大声で笑い始めた。
 今までの空気とあまりに違いすぎるので目を見開いていると、笑い過ぎで瞳に溜まった涙を拭きながら言った。
「嘘よ」
「……はぁ?」
 全く目の前の人物は短時間にどれだけ私にこのセリフを言わせるのだろう。

「今のは嘘よ。ただの興味本意よ」
 澄ましたように言うその顔に無性に腹が立ってきた。
「っ!先生に言うわよぉ?」
「ふふ…言えばいいじゃない。信じると、でも?」
 勝ち誇った笑みでそう言われ、グッと詰まった。
 確かに、彼女は優等生。方や私は劣等生。教師がどちらを信じるかは明確だ。
 しばらく対峙して黙っていると真紅がにこりと笑った。
「そんなに警戒しないで頂戴。少しひねくれた女の子じゃない。貴女と変わらないわ」
「い、一緒にしないでよぉ!」
「あら、心外だわ。でも気を付けることね」
 そう言いながら私の鼻の先に人差し指でちょんと触れた。
「私の一言で教師からの態度、変わるわよー?」
 どこぞの美少女戦士の決め台詞のような口調とウィンクが投げ掛けられた。
「あ、貴女、そんなキャラだったのぉ…?」
 確かに昨日話していた時もふざけた発言はあったが、こんな子だったのだろうか。
「あら、驚かせたかしら?」
 口に手を当てて、わざとらしく吃驚した表情をしているが、その手を拳に変えて己の頭をコツンと叩いた。
「ごめんなちゃーい」

 時が止まった。これが所謂「引く」というやつだろうか。
「黙らなくても良いじゃない…」
 少し頬を染めている様子を見て照れているのだと悟った。
「て、照れるぐらいならやるんじゃないわよぉ!」
「その場を盛り上げようとしたんですぅ」
 口を尖らせてプクッと頬を膨らませる真紅。
「まぁ、いいわ。これ」
 とさっき教師から預けられた書類を渡す。するとすぐに生徒会長モードに切り替わる。
「メガメガネからね。…あぁ、球技大会の要項だわ」
 真面目くさった顔で数枚の書類に目を通しているが、今何て言った?
「メガメガネ、よ」
 疑問をそうぶつければ、サラリと返された。
「ほら今流行ってるじゃないハンバーガーでメガ○○って。あれ、大きいって意味でしょ?」
 ペラペラと説明してくれるが、視線は書類から話さない。

「メガネが大きいからメガメガネ、よ」
 あぁ、なるほど。だからそんなあだ名なんだ。──いやいやいや!
「あ、貴女まさか…面と向かってぇ」
「言うわけないじゃない。お馬鹿さぁん」
「それは私のセリフよぉ!…って貴女…」
 私は彼女にまだその言葉を発したことはない。なのに何故私の口癖を知っているのだろうか。
 いや、偶然もあり得るが。
「そんなことより。ねぇ、水銀燈」
「何よぉ」
「球技大会って張り切る人?」
「まさかぁ…」
 エスカレータ式のこの学園では行事での盛り上がりが他の比ではない。
 もちろん、成績を重要視するが、行事で手を抜くような子はほとんどいない。
 しかし、私のように無関心だったり、受験を考えている子にとっては煩わしいもの以外なんでもない。
「私ね、お祭り事って大好きなのよ」
 昨日とは全く違うニヤリと笑みを浮かべると書類を机に叩きつけた。
「サボったりフケったり、まして病欠なんか許さないわよ」
「はいはい、副会長だもんねぇ」
「そうじゃないわっ!」
「あいたっ!」
 ピシンとおでこを指で弾かれた。
「全・校・生・徒!全員、休ませないからね」
 クックックッと怪しく笑う背中はとても昨日までの優等生のではなかった。


続く

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