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私は虚夢に声を聞く

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rozen-yuri

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──私は虚夢に声を聞く──



 思い出してと貴女が泣く。

 その姿を見ると私はとても悲しくなって。

 普段は絶対泣かない君だから。

 余計に不安になる。

 ねぇ、どうして泣いてるの?

 そう聞くと貴女は辛そうに顔を歪める。

 何かを口にしているが、何も分からない。

 でも、はっきりと一文だけ聞き取れる。

「消えるときは記憶ごと消えてあげるわ」


 『Ⅰ、それはきっと何気ない日常から』 


 ピピッと冷たい電子音で目を覚ますと、ゆっくり瞼を開いた。

 外は少し暗い。しかし、小鳥が囀ずっている。
 少し乱暴に目覚まし時計を止め、涙を袖で拭った。
「また、か──」
 誰に言ったわけでもない呟きは暗闇に消えた。もう慣れっこだ、こういう状況には。
 目の前で少女が泣いている夢。いや、少女なのかもよく分からない。
 そして、言うのだ『消えるときは記憶ごと消えてあげるわ』と。
 全く意味は分からないが、とにかく酷く悲しくて、目覚めたら私も泣いているのだ。
 最初こそは戸惑ったが、今では何とも思わない。それが、日常のように。
「最近、見なかったのに…」
 銀色の長い髪をくしゃりとかきあげ、呟く。幼少時代はよく見ていたのだが、最近は見ない。
 今日でかなり久々に見た気がする。
 時計を見つめると水銀燈はベッドから下り、学校へ行く準備をし始めた。

「おはよう」
「おはよ、です」
 通学途中に背後から声がかかり、振り向いた。
「あら、おはよぉう。珍しいわねぇ、二人揃ってなんてぇ」
 級友の蒼星石と翠星石に明るく声をかけた。
「今日は朝練ないんだ。さすがにこの時期は」
 陸上部所属の蒼星石がそう言った。四月半ばのこの時期は新入生のことでゴタゴタしているからだろう。
「ふぅん、大変なのねぇ」
「そう言えば今日は役選ですよね?」
 役選。つまりクラス毎の委員──クラス委員や文化委員、体育委員等──や係を決める日である。
「クラス委員だけは勘弁です」
「僕は顧問から禁止されてるからね」
「ま、私はないでしょぉ?」
 厳しい体育会系の部活では行事毎に仕事があるクラス委員を予め禁止されていたりする。
「そうですね、水銀燈はないですね」
 クスクスと笑う翠星石をジロリと睨む。
 文武両道、品行方正を掲げるこの学校で、お世辞にも水銀燈が品行方正とは言えない。
 しかし、成績が良いので教師達も黙認しているのだ。
「副会長も選ばれるんだっけ?」
 生徒会長は先生からの推薦で選ばれた数人の生徒達が選挙で決まる。
 しかし、副会長は生徒会長の権限で無条件に決まるのだ。
「どっちにせよ、関係ない話でしょぉ?」
「そう言えば、翠星石のクラスに会長の子いるよね?どんな子?」
「んーと、やっぱり真面目な子ですよ。でもガチガチな子じゃなくて、ふざける時はふざけるみたいな…」
 翠星石は思い出し思い出し話す。
「生徒からも先生からも人望も厚いですし、顔も整って、まさに完璧ですよ」
 翠星石がここまで人を素直に誉めるのも珍しい。よっぽど良い子なのだろう。
「まぁ、顔は私に劣るでしょうけどぉ」
 至極、真面目に言ったつもりであったが、二人から不本意にも爆笑を買った。「その子、何て名前なの?」
「え…と、真紅、ですよ」

 ざわざわと廊下が騒がしい。副会長の者の名前が貼り出されているのだろう。
 どうせ自分には関係ない、と前を通り過ぎようとしたところで雛苺に止められた。
「あ、水銀燈!やったのぉ!」
 いきなり抱き付かれてそう言われてもさっぱり分からない。
「はぁ?何がよぉ」
「水銀燈、副会長なのよ」
「へぇ、…って私ぃ!?」
「そうなのよ!」
 人の垣根を分け入って掲示板を見つめる。
『生徒会副会長は以下の者とする。
 水銀燈(二年)
──生徒会長、真紅』
 水銀燈はしばし目を疑った。こんなことがあるだろうか。
 翠星石は現クラスメイトとしても私は違う。まして真紅という名前さえ知らないのだ。
「雛苺、貴女は真紅って子知ってるのぉ?」
「うん、去年一緒だったのよ」
 あらそう、と生返事しかできなかった。
「副会長、頑張ってね」
 いつもは可愛く感じられる無邪気さが、今日は逆に鬱陶しくあった。

 生徒会室を目の前にして、大きく深呼吸をする。
 生徒会室のドアをコンコンと二回叩くと、中から返事が聞こえた。
 同い年に怖じ気づいてる自分に気付き、堂々と生徒会室のドアを開けた。
「こんにちは」
 ペコリと頭を下げたのは金髪碧眼の少女。愛想良く微笑んで、水銀燈を席へ促した。
「初めまして、真紅よ」
「あ、水銀燈よ」
 差し出された右手に答えるようにぎこちなく差し出し、固く握手する。
「私のことは知ってる?」
「えぇ、翠星石と雛苺から少しだけぇ…」
 そう、と微笑んだが、その表情はどこか寂しげだった。
 それより、何で全く付き合いのない私を副会長に抜擢したのか聞かなければ。
「で、聞きたいんだけどぉ、あら、ありがとう」
 目の前のガラステーブルに置かれた紅茶を飲んで一息吐いた。
「あらぁ、おいしいわね、これ」
「えぇ、紅茶にも入れるコツがあるのよ」
 紅茶の美味しい入れ方はいつの間にか美味しいおでんの作り方に変わっていた。

「やっぱり煮込み時間だと思うわ」
「まぁ、それも一理あるけどぉ、やっぱり材料も…」
 積もり積もった話がようやく途切れ、気付いたら既に五時を回っていた。
「あら、もうこんな時間じゃなぁい」
「あ、本当ね。もう帰りましょう」
 バタバタと慌ただしく、鞄に荷物を詰め込み、帰り支度を整える。
「帰りはどういう風?」
「最奥のT駅までよぉ」
「私はその手前のN駅よ。一緒に行きましょう」
 生徒会室を施錠し、職員室に返却すると、帰路に着いた。
「でぇ、さっきの続きなんだけどぉ」
 結局、帰りも美味しいおでんの作り方からひつまぶしの話に刷り変わった。
「要するにぃ、名古屋のものは美味しいのよぉ」
「あら、でもういろうだけは否定させて頂戴」
「何でよぅ」
 その時、電車内にアナウンスが響きN駅に到着することを示した。
「楽しかったわ。じゃあ、また明日」
「えぇ、またねぇ」
 笑顔でひらひらと手を振って、携帯を開いた。さっき教えてもらったアドレスにメールを書く。
 なかなか感じの良い子だ。少しきつい面もあるが、そのくらいの方がさっぱりして好きだ。
 カチカチとボタンを押しているところでふと気づいた。
「私を選んだ理由聞くの忘れてたぁ!」
 と大きな声で言ってしまい周囲から白い目で見られるはめになってしまった。

2へ続く

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