『A』
「…………」
真剣な眼差しで、自分の姿が写る鏡と睨み合う真紅。
周りを見回して、誰もいない事を確認すると、自分の着ていたシャツのボタンを外し始めた。健康的な白い肌が徐々に露になっていく。
「…………はぁ…」
全てのボタンを外し終わると、何故か真紅は大きな溜め息を吐いた。
真紅の溜め息の原因、彼女が見つめる先には、鏡に写るシャツから見えた自分の胸囲。そこにはどれだけ高く見積もっても、「A」のランクと言わざるをえない胸があった。
「…何故…何故なの?水銀燈や翠星石はあんなにボインなのに…!」
真紅の脳裏に浮かぶのは、いつもの意地悪な笑みを浮かべて、真紅の胸の小ささをつつく水銀燈。彼女は「D」のランクという姉妹最強の胸を持っていた。
そしてもう一人。水銀燈には劣るが、実は同じ「D」のランクという胸を持つ翠星石。
「何がいけないのかしら…。まさか…名前の「すい」に秘密が…?」
本気で自分の名前を「すいんく」にしようと思ったその時、ふいに扉をノックする音が聞こえた。
「誰?」
「僕だよ」
姉妹の中で、自分の事を「僕」と言うのはあの子しかいない。そう思い、シャツのボタンを全て閉め、入室を許可した。
「なんか「女性の悩み相談室」って所から荷物届いてるよ。あ、着替えてる途中だった?」
「シャツなのは気にしないで。荷物はそこに置いておいて頂戴」
「分かった。それじゃ」
部屋から出ようとした蒼星石の姿を見て、真紅は目を見開いた。
「ま、待って!!」
「な、何?」
真紅はじっくりと彼女の姿を観察し始めた。そんな真紅の姿に、戸惑いを隠せない蒼星石。
「……ど、どうしたの?」
「……同じ、だわ」
「……は?」
真紅は気付いてしまった。今まで自分一人だけかと思っていた「A」のランクが、こんなにも近くにいたなんて。
「蒼星石…貴方もAなのね!」
「……何が?」
未だに状況は分からない蒼星石に、とりあえず説明を始めた。
―――――
「……つまり、最近元気が無かったのは、胸の事で悩んでたって事?」
「えぇ」
「………後でいいから、本気で心配してた雛苺と金糸雀に謝っておきなよ」
「? 分かったわ」
ある日から全く元気が無い真紅に、とくに雛苺と金糸雀は心配していた。それはもう泣きそうな勢いで。
「それで、何で僕が此処にいるの?」
「同じ「A」ランクとして相談をしようと…」
「……どうせAだよ…」
「あら、それは私も同じよ。二人でいつか水銀燈や翠星石をギャフンと言わせるわよ!」
「一人でやってよ…」
つまり、真紅は仲間が欲しかった。そしてその仲間と共に「D」をギャフンと言わせたいらしい。
「とりあえず、さっき通販で届いた「バストアップへの道」を読んでみましょう」
「……さっきの荷物、それだったんだ……」
先程蒼星石が持ってきてくれた荷物を開け、一冊の本を取り出した。
「……まぁ、一ヶ月続けてこんなに大きく……」
「ほ、本当なのかなぁ…」
「…………貴方…実際、どのくらいなの?」
「! …………」
二人は淡々と部屋の扉、窓、全てに鍵をかけ、カーテンを閉める。
お互いに背を向け、自分が着ていた上着を脱ぎ始めた。
「……せーので振り返るわよ」
「……うん」
「「せーの」」
くるりと、同時にお互いは向かい合った。
「…………小さいわね」
「…………そっちこそ」
誰かの言葉を借りるならドングリの背比べだが、二人には仲間意識ではなく、ライバル意識が芽生えてしまった。
「貴方よりはあると思うけど?」
「君なんかまな板じゃないか」
「っ…言ったわね…!?」
「かかって来なよ…!」
この後、本気モードの喧嘩になってしまい、騒ぎを聞いた姉妹が止めるまで喧嘩は収まらなかった。
ちなみにこの騒動の後、水銀燈が真紅の胸についてつつく回数が減ったという。
end
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