日を跨ぐか跨がないかの頃。あまり繁盛しているとはいえないとあるバーに珍しく女性が訪れた。その女性は、長い銀髪、紅い瞳という異彩の姿をしていたが、何よりも美しく、また女性としての魅力が溢れていた。異彩の髪や瞳も、偶々来ていた客にとっては気にならない程。
女性は着ていたコートを脱ぐと、カウンターに座っていた女性の隣に腰かけ、女性に話しかけた。
女性は着ていたコートを脱ぐと、カウンターに座っていた女性の隣に腰かけ、女性に話しかけた。
「はぁい。久しぶりね、真紅ぅ」
「…変わっていないわね、水銀燈」
「…変わっていないわね、水銀燈」
真紅と呼ばれた女性もまた、一際美しかった。水銀燈よりも長い金髪。瞳は蒼。まるでフランス人形のような姿だった。
「マスター、この子と同じものをお願い」
「かしこまりました」
「かしこまりました」
眉ひとつ動かさずに一言呟くと、マスターと呼ばれた男性はシェイカーを振る。あっという間に薄い紅色のカクテルが出された。
ありがとう、と一言伝えると、それを手に取り軽く傾けた。
ありがとう、と一言伝えると、それを手に取り軽く傾けた。
「……ちょっと酸っぱいわぁ…」
「そうかしら?」
「そうかしら?」
少しだけ顔をしかめる水銀燈とは対照的に、真紅は涼しい顔でグラスを傾けた。
「…それで、五年ぶりに呼び出しておいて何の用かしら?」
「大した用って訳じゃないんだけどねぇ。なんとなく会話したかっただけ」
「……本当に変わってないわね…」
「大した用って訳じゃないんだけどねぇ。なんとなく会話したかっただけ」
「……本当に変わってないわね…」
はぁ、とひとつ溜め息を溢す。
「五年ぽっちじゃそんなに変わらないわよぉ」
「そうね」
「そうね」
二人の間に、小さな笑い声が響いた。五年前に皆と過ごしてきたあの日々のように。
「……大した用じゃないなんて、嘘なの」
「…………」
「本当は……五年前の事……」
「…………二回もふる気?」
「そうじゃないわ…。あの時は隣にあの子がいたから。これから守っていこうと決めた子がいたから。…でも、今は違う」
「…別れたの?」
「…えぇ。言われたのよ。未練の塊みたいな顔してるって」
「…………」
「本当は……五年前の事……」
「…………二回もふる気?」
「そうじゃないわ…。あの時は隣にあの子がいたから。これから守っていこうと決めた子がいたから。…でも、今は違う」
「…別れたの?」
「…えぇ。言われたのよ。未練の塊みたいな顔してるって」
ふふふ、と小さく笑った。と同時に、何処からか氷同士がぶつかる音が響いた。
「それからずっと考えて、漸く分かったの。私の本当の気持ち」
「本当の…気持ち……?」
「本当の…気持ち……?」
水銀燈は体ごと真紅に向き、口を開いた。
「貴方が、好きよぉ」
「…!!」
「自分の気持ちに気付かなくて、五年前に貴方を傷付けたわ。自分勝手だと承知の上。それでも……!」
「…!!」
「自分の気持ちに気付かなくて、五年前に貴方を傷付けたわ。自分勝手だと承知の上。それでも……!」
次の瞬間、ふわり、と自分の知らないシャンプーの香りが鼻を擽った。と同時に、苦しい程強く抱き締められた。
「…ばか…っ…ばか…ばか…!」
「…ごめんねぇ」
「…ごめんねぇ」
赤子をなだめるように、頭を撫でた。あの時から今まで、ずっとずっと好きでいてくれた。そして自分の過ちを許してくれた、愛しい女性。
「う…ひっぐ…っ…」
「あらあら、困ったわねぇ。マスター、二人分のカクテルつけといてくれるぅ?」
「いえ、私の奢りという事で。感動の出会いと素敵な愛を見せて頂きましたからね」
「あらあら、困ったわねぇ。マスター、二人分のカクテルつけといてくれるぅ?」
「いえ、私の奢りという事で。感動の出会いと素敵な愛を見せて頂きましたからね」
兎のような紅い瞳と細い眼鏡が妖しく光る。
「あらぁ、有り難いわね。ありがと」
泣き続ける彼女を抱き締めながら、バーを出た。
―――――
バーを出た後、暫く外を宛てもなく歩き、偶然見つけた小さな公園のベンチに腰かけた。
「………あれから、ずっと泣いてたわ…」
「…………」
「悲しくて、悲しくて、ひたすらずっと泣いてた。……でも、後悔した事はなかったわ」
「……真紅……」
「……好き…」
「…………」
「悲しくて、悲しくて、ひたすらずっと泣いてた。……でも、後悔した事はなかったわ」
「……真紅……」
「……好き…」
真紅の言葉に、水銀燈は無言で抱き締めた。五年前は、代わりに呟いた六文字の言葉。
「…好き…好き…っ…大好き…!!」
「…私もよ」
「…私もよ」
今、守りたいものは、今、自分の腕の中に――。
end