むぎゅー
「あ、あの・・翠星石・・・さん?」
反応、無し。
寮室の扉を開けた瞬間、倒れ込むように抱きついてきた双子の姉は、
僕の胸に頭を埋めたまま、離れようとしない。
最初こそ、おかえりなさいの挨拶(新妻風♥)なのかと思ったが、
この様子からすると、どうやら違ったらしい。
「ね、翠星石。どうしたの?」
首に絡み付いてくる腕に触れながらもう一度話しかけると、
解かれると思ったのか、その腕を更に強く巻き付けてきた。
・・・苦しい。正直。
それでも抵抗せずに彼女の言葉を待っていると、翠星石は突然顔をあげ、僕を見上げた。
唇を引き結んで頬を染め、瞳に涙を溜めて。
至近距離に迫っていたその赤い唇に、自分のものを重ねようと、
無意識に彼女を引き寄せる体勢になっていた。
・・・仕方ないよね?だって蝶が蜜に引き寄せられるのは罪ではないのだから。
しかし。
「・・・ッッ!」
僕が身を乗り出す前に翠星石は慌てたように腕を外して、
部屋の奥へと隠れるように逃げてしまった。
訳が分からない僕は、扉を背に立ち尽くすしかなかった。
・・・・・もしかして、嫌われた?
だって今日の翠星石は反則級に可愛いかったから!
それ以前に僕たちは所謂そういう間柄で、キスだって何度もしてきたわけだし!
頭の中でいくつも言い訳を並べ立てる。
ああ!こんなことしてる場合じゃない、謝らなくちゃ。
翠星石を追って奥へと入った僕は、すぐに彼女を見つけた。
一瞬分からなかったが、翠星石は二段ベッドの上段、自分の"陣地"で上掛けに包まっていた。
ベッドに備え付けられている梯子に足を掛け、一段、二段、三段だけ登る。
―――因みに翠星石が梯子を使うのを、僕は数回しか見たことがない。
彼女は、僕が使う二段ベッドの下段に足を掛け、上段に手を掛け、ひょいっと上ってしまうのだ。
勿論、降りるときも猫のように、とんっ、と降りる。
「翠星石?」
猫のように丸くなった彼女は少し身動ぎしただけ。
・・・"それ"が見えたのも一瞬。
「翠星石」
今度は動かない。
だけど僕にはもうはっきりと分かっていた。
彼女が、どうしてこんな態度をとっているのか。
「翠星石・・・・・それ、僕の枕だよね?」
ピクリと肩が跳ねるのを見て、確信。
梯子を上りきって翠星石の肩を掴んで引き、無理矢理向き合わせる。
顔は未だ赤いままで、額にかかった前髪は汗で張り付いてしまっている。
可愛い。思わず抱き締めたくなる衝動をぐっとこらえる。今は、まだ。
「翠星石・・・寂しかったんだね?だから、僕の枕抱いて寝てたんだ?」
「・・・・だって、・・」
わざと意地悪に言うと、そこで初めて翠星石が口を開いた。
声は、掠れていたけど。
「そうせ・・せき、が・・・おいていっちゃ、から・・・」
しゃくりあげながら途切れ途切れに話す様子が、まるで小さな子供みたいで、
僕は苦笑を漏らさずにはいられなかった。
三泊四日の夏合宿。軽い風邪を引いた翠星石を寮母さんに任せて、僕はこっそり寮を出たのだ。
彼女は出発ギリギリまで自分も行くのだと言って聞かなかったから。
「ふふっ、ごめん・・・ごめんね」
「・・・許さない、です」
そう言って再び布団を引っ被ろうとするのを、頬へのキスで止める。
「そんなこと言わないで。僕だって寂しかったんだよ?それに・・・」
こちらに腕を伸ばしてくるのに答えて、その体に腕を回して抱き締める。
・・・僕の姉はこんなに甘えん坊だっただろうか?
「いつもの、言ってくれないの?」
・・・少し間を空けて、彼女は僕の耳元で囁いた。
「おかえりなさいです・・・蒼星石」
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