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なんとももどかしい人の強欲さよ

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集

 今日会うのが恥ずかしかった。前回会ったときにものすごく恥ずかしいことをした。
その割に約束の時間30分前に水銀燈の家に着いてしまった。
入っても構わないのだろうが、なんとなく気まずくてチャイムが押せない。
「時間潰そうかしら」
と呟くと向かいの通りにある喫茶店に入った。
少し小腹が空いたのでトーストとサラダがセットのモーニングを頼み、水銀燈の家を見つめる。
いつも持ち歩いてる文庫を出そうと鞄を探るが、出てこない。どうやら忘れてしまったようだ。
手持ちぶさたで携帯を開くがさして用事もない。
仕方なく携帯を閉じると丁度モーニングが運ばれてきた。
トーストの香ばしいかおりと、紅茶の香り。良い葉を使っているらしい。
一回、紅茶に口をつける。葉の風味が口全体に広がる。
ふと、この間まで水銀燈と喧嘩していたのを思い出した。そういえば、前回の水銀燈も恥ずかしいことを言っていた。
今頃、彼女も気まずい思いをしているのかな、と思うと自然に笑いが込み上げてきた。


──なんとももどかしい人の強欲さよ


「今日も生徒会?」
「えぇ、ごめんなさい。引き継ぎで大変なのよ」
次期生徒会の生徒会長としてポストが決定している私はこの三学期の後半は現会長である先輩から指導をされている。
「そう。まぁ、仕方ないわねぇ。また今度にしましょ」
水銀燈は肩をすくめると、そう言い、別れの言葉を告げた。
それに簡単に応えると、生徒会室へ向かった。
もう断ったのはこれで何回目か分からない。チクリと胸が痛んだが、首を振りそれを振り払うと、生徒会室へ急いだ。
「じゃあ、今日はここまでね」
会長の一声で現生徒会役員と次期生徒会役員が一斉にお疲れ様でした、と揃えた。
本当は校内ではいけないのだが、携帯を開いた。普段と変わらない待ち受け画面。
誰にも分からないように溜め息を吐くと、帰路を急いだ。
家へ着くと再び携帯を開いた。先ほどと変化はない。
「わかっては、いるけどね」
もともと互いにこまめに連絡を取る方ではない。ただ、もうまともに話していない。
クラスも違うので昼食も別。放課後になると水銀燈が来て、私が誘いに断るという一連の流れを繰り返している。
言ってしまえば寂しい。メールを打てばきっと返信をくれる。

しかし、水銀燈は寂しくないのだろうか。そうだとしたらメールは負担になるのではないのだろうか。
そう思ってしまうと、開いた新規メール画面を終了した。
「ごめんなさい…」
「今日も生徒会?いいわよぉ、気にしてないから。また、ね?」
いつも通り立ち去ろうとする水銀燈の背中を見ると、いつもより胸が痛んだ。
「寂しくないの?」
「え?」
知らない内に口から出てしまった言葉に思わず口を塞いだ。
「な、何でもないわ。じゃ、さようならっ」
早口にまくし立て、水銀燈が止めるのも聞かず、早足でその場から逃げるように立ち去った。
「もう話すことはないわ。真紅ちゃんは大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「他の皆は?」
みんな、それぞれ首を頷き、肯定してみせる。
「じゃ、今日で終わりね。明日からゆっくり休んで頂戴」
と、生徒会長が笑って見せた。
いつも生徒会の用事が終わると携帯を開いていたが、なんとなく怖くて開けなかった。
家に帰って恐る恐る開くと一件の新着メールが届いている。
震える手で開くと、やはり水銀燈。
『何であんなこと言ったの?』
いつもの通り、絵文字も顔文字もほとんど使わない淡白なメール。

『何、って言葉の通りよ』
少し考えてからそう送ると、携帯をずっと見ていたのだろうかすぐに返信が来た。
『寂しくないとでも思ったの?』
『だって、貴女いつもすぐに立ち去ろうとするじゃない』
『真紅が忙しいかと思って迷惑になるかもしれないからよ』
全うな理由だ。確かにあそこでぐだぐだ話していたら時間に間に合わない。
それでも、メールを交わす、とか少しでも連絡を取り合うことはできたのに。
それをしようとさえしなかった。
『それにしても淡白すぎない?別に私のこと好きじゃないんでしょ?』
そうメールを返すと、今度は電話がかかってきた。
ビクッと心臓が跳ねたが、ゆっくりと着信ボタンを押した。
「どういうこと?」
声色から物凄く不機嫌なのが取れた。こんなに怒っているのは初めてだ。
「そういう意味よ。メールだって寄越さなかったじゃない」
「貴女が前に『生徒会のある日は疲れてすぐ眠っちゃう』って言ったから迷惑と思っただけよ」
確かに言った。きっと長くメールが続いてしまえば鬱陶しく思ったかもしれない。

「…………」
「それに、メールする余裕があるなら、貴女がしてくれればいいじゃない」
水銀燈の言うことは至極当然のことだった。
でも送るより来てほしい。我が儘な話ではあるのだが。
「黙ってないで何か喋りなさいよ」
そう言われても、もう何も言えなかった。次から次へ溢れる涙を気づかれないように拭うしかなかった。
「もう、いいわ」
そう言って、水銀燈は電話を切った。単調な電子音がすごく怖かった。
その日はなかなか眠れなかった。
翌日の放課後。少し待ってみたが、水銀燈が来ることはなかった。
水銀燈と会わずに一週間たってしまった。明日は終業式、その翌日からは春休み。
ベッドに思いっきり飛び込む。
最悪、休みの間に一度も会えなくなってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
しかし、水銀燈は来ないし、避けられているのも分かる。廊下ですれ違っても目さえ合わせてくれない。
今までの喧嘩は私が悪くても全部、水銀燈が謝るきっかけを作ってくれた。
放課後誘いに来るのも水銀燈だった。私は、と言えば水銀燈が来てくれるから、と何もしなかった。
「バカだわ…私」
何が愛されてないだろう。こんなに色々してくれていたのに。私は彼女に何をしただろう?
「行くしか、ないわ…」
涙を拭い、明日のことを胸に抱きながら、眠りについた。

「水銀燈…」
式が終わってすぐに、私は水銀燈のクラスを訪れた。
水銀燈はチラリとこちらを見ると談笑していた友人に一声かけると、こちらに歩いてくる。
心臓の音がうるさいほど耳にまとわりつく。
「今日、家に行ってもいいかしら?」
「…夕方くらいになら」
「じゃ、六時頃伺うわ」
「はぁい」
それだけ言うと怖くて足早にその場を去った。
大丈夫、頭で何度もシミュレーションしたし、嫌われたら仕方がない。
嫌われたら?
いやいや、と首を振る。大丈夫それはない、と言い聞かせるが不安で仕方ない。
とりあえず決戦は夕方。深呼吸をすると気合いを入れて廊下を歩き、すれ違う生徒を驚かせた。
水銀燈の家を見て深呼吸を大きくして、チャイムを鳴らす。
パタパタと足音が聞こえゆっくりとドアが開く。
いつもならここで、いきなり開けるのは無用心だ、と小言を言うがそんな勇気はない。
「お邪魔します」
「どうぞ」
水銀燈の部屋に通されいつもの定位置のベッドの足元の方に座り、水銀燈も定位置の隣に座った。
顔を見ない方が緊張しずに言えるかもしれない。
大きく息を吸うとゆっくり口を開いた。

「ごめ、んなさい…あんなこと言って」
言いながらもう涙が溢れてきたが、それを拭う余裕もなく嗚咽混じりのまま続ける。
「そんな、つもりは…っく…なかっ、たの…」
シーツを力いっぱい握りしめ、俯いたまま話す。水銀燈の顔を怖くて見れなかった。
「わた、しは…っく…いっぱ、い、いろい、ろ…してもらっ…て」
水銀燈な頭を抱えられ、自然に彼女の肩にもたれかかる姿勢となる。
「うん…」
「な、のに、…わたしは何も…ひっく」
それ以上もう言えなくて両手で顔を覆うと、一気に泣き出してしまった。
「おバカさぁん」
体を引かれ、きついほどに抱き締められ、体が強張る。
「しぃんく」
名前を呼ばれたが顔を上げれなかった。こんな涙でぐしゃぐしゃの顔を見られたくなった。
「顔上げて」
両手で頬を挟まれ、強引に上を向かせられた。すると、予想してなかった表情の水銀燈がいた。
「すいぎ、…」
「私だって、寂しかったわよぉ?」
静かに涙をこぼす姿は美しくさえ、見えた。
私の前髪を優しく鋤き、おでこにキスをされた。

「大好きよ、真紅」
「私も、よ…」
結局その日はお泊まりし、昼までいたが、なんとなく気まずくてギクシャクしてしまった。
「真紅っ!」
窓ガラスを強く叩く音にハッとすると水銀燈がそこにいた。
その時、寝てしまっていたことに気が付いた。
水銀燈が喫茶店の中に入ってきて正面に座る。
「全く…時間になっても来ないし、携帯にも出ないし心配したわ」
謝罪の意を述べると携帯のマナーモードを解除した。メールが三件、着信は二件来ていた。
「そしたら眠ってたんだもの驚いたわぁ」
「ごめんなさい」
自然に会話できたことが嬉しくて、つい微笑んでしまう。
「あ、何笑ってるのよぉ」
「何でもないわ。貴女、朝食は?」
「まだなのよ、ついでに食べちゃおうかしら」
「えぇ、おいしいわ。ここの紅茶は」
「へぇ、あ、すいませぇん」
手をあげてウェイトレスを呼ぶとモーニングを頼む。
「紅茶かコーヒー、どちらにしますか?」
「ヤクルトはないの?」
そう言った水銀燈の顔は至って真面目だった。


終わり

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